文部科学省の「廃校施設等活用状況実態調査」によると、2002年度から2020年度までに、県内では267の小・中学校、高校(いずれも公立に限る)が廃校になったという。少子化による児童・生徒数の減少に伴う学校の統廃合はやむを得ない流れだが、使われなくなった校舎の利活用が問題になっている。
永田小を役場庁舎に改築、2つの中学校跡は未使用
文部科学省の「廃校施設等活用状況実態調査」は3年に1回のスパンで実施され、直近では2021年5月1日時点での調査が行われた(結果の公表は2022年3月30日)。それによると、2002年から2020年までに全国で発生した廃校数は8580校(公立の小・中学校、高校、特別支援学校など)。このうち、建物(校舎)が現存するのが7398件で、すでに別の用途などで活用されているのは5481件(約74%、現存するものに対する割合)。
主な用途は、学校関係、社会体育施設、社会教育・文化施設、福祉・医療施設、企業等の施設、創業支援施設、庁舎等、体験交流施設、備蓄倉庫、住宅など。
用途が決まっていない施設の要因としては、「建物が老朽化している」が46・2%で最も多く、「地域からの要望がない」が41・6%、「立地条件が悪い」が18・7%、「財源が確保できない」が14・6%と続く(※複数回答のため、合計が100%を超える)。
なお、国では別表に示した補助メニューを設けている。文部科学省では「〜未来につなごう〜 『みんなの廃校』プロジェクト」として、活用用途を募集している全国の廃校施設情報を集約・発信する取り組みや、イベントの開催、廃校活用事例の紹介などを通じて、廃校施設の活用を推進している。その中で、省庁をまたいで、活用可能な補助メニューを紹介している。
空き校舎の活用に当たり利用可能な補助制度
対象となる施設 | 所管省庁 |
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地域スポーツ施設 | スポーツ庁 |
埋蔵文化財の公開及び整理・収蔵等を行うための設備整備事業 | 文化庁 |
児童福祉施設等(保育所を除く) | こども家庭庁 |
保育所等 | こども家庭庁 |
小規模保育事業所等 | こども家庭庁 |
放課後児童クラブ | こども家庭庁 |
障害者施設等 | 厚生労働省 |
私立認定こども園 | 文部科学省、こども家庭庁 |
地域間交流・地域振興を図るための生産加工施設、農林漁業等体験施設、地域芸能・文化体験施設等(過疎市町村等が実施する過疎地域の廃校舎の遊休施設を改修する費用が対象) | 総務省 |
農業者等を含む地域住民の就業の場の確保、農山漁村における所得の向上や雇用の増大に結びつける取り組みに必要な施設 | 農林水産省 |
交流施設等の公共施設 | 林野庁 |
立地適正化計画に位置付けられた誘導施設(医療施設、社会福祉施設、教育文化施設、子育て支援施設)等 | 国土交通省 |
まちづくりに必要な地域交流センターや観光交流センター等の施設 | 国土交通省 |
空家等対策計画に定められた地区において、居住環境の整備改善に必要となる宿泊施設、交流施設、体験学習施設、創作活動施設、文化施設等 | 国土交通省 |
「地方版創生総合戦略」に位置付けられ、地域再生法に基づく地域再生計画に認定された地方公共団体の自主的・主体的で、先導的な取り組み | 内閣府 |
福島県内では、2002年から2020年までに小学校211校、中学校44校、高校12校の計267校が廃校となった。この数字は北海道(858校)、東京都(322校)、岩手県(311校)、熊本県(304校)、新潟県(290校)、広島県(280校)、青森県(271校)に次いで8番目に多い。
廃校施設の利活用状況について、都道府県別の詳細は示されていない。なお、次回調査は2024年度に実施される予定で、今年度はその谷間になる。
アンケート調査を実施
本誌は10月上旬、県内市町村に対して、当該市町村立の小・中学校の空き校舎の有無と数、すでに再利用がなされている校舎の事例、再利用計画が進行中の事例、計画が策定され、これから改修などに入る事例の有無などについて、アンケート調査を行った。
「空き校舎がある」、「再利用の実例がある」と回答があった中から、今号以降、何回かに分けて、具体的な事例や課題などについて取り上げていきたい。
1回目となる今回は平田村。
同村は、県内で初めて空き校舎を役場庁舎にした。永田小学校が2013年3月に蓬田小学校と統合して閉校となり、空き校舎となった。一方で、役場庁舎は1960年に建てられたもので老朽化していたほか、東日本大震災で外壁に亀裂が入るなどの被害が出ていた。そのため、旧永田小校舎を改修して役場庁舎とし、2015年9月に開庁(移転)した。校庭だったところは、舗装され駐車場になっている。体育館は、館内にもう1つ「箱」が作られたような格好になっており、会議室として使われている。場所は、旧役場から直線距離で北東に600㍍ほどのところにある。
財源は庁舎建設基金と一般財源でまかない、総事業費は約4億2000万円。
別表は、県内で同時期に建設された役場庁舎との比較をまとめたもの。ほかの3町と比べると、延べ床面積が半分ほどのため、純粋な比較は難しいが、少なくとも新築するより安上がりになったのは間違いない。
本誌は常々、立派な役場庁舎ができたところで、住民の日々の生活が豊かになるわけではないから、役場建設に多額の事業費を投じるのは適切ではないと指摘してきた。もちろん、災害時などに役場そのものが大きな被害を受け、災害対策に支障が出るようなことは避けなければならないが、そういった問題がなければ必要最低限でいい。少なくとも立派な庁舎は必要ない。役場に金をかけるくらいなら、何か別の地域振興策に使うべきだ。その点では、新築した他自治体と比べて、安上がりで済ませたのは評価されていい。
肝心の使い勝手だが、ある村民は「最初は、『学校』という感じで違和感がありましたが、慣れてみればこんなものかな、と思います」と話した。ある職員も「もう慣れたんで」と同様の感想を語った。
本誌も少し見て回ったが、「もともと学校だった」という潜在意識があるためか、多少の違和感はあったものの、少なくとも「不便」には感じなかった。音楽室や調理実習室などの特別教室は、うまく活用すれば職員の福利厚生などに使えそうだが、調理実習室は執務室になり、音楽室は議場になっているという。その辺はもう少し工夫があっても面白かったか。
一方で、役場を小学校跡地に移転したとなると、今度は逆に、旧役場跡地の利活用の問題が出てくる。旧役場は解体され、跡地は幼保連携型認定こども園「村立ひらたこども園」として整備された。同園は2020年に開園した。
その他の空き校舎
役場庁舎の開庁時、澤村和明村長は「閉校した校舎の利活用のモデルケースになる」とあいさつしていたが、村内にはほかにも空き校舎がある。永田小学校と同時に閉校となった西山小学校については、今年7月の村長選で、澤村村長が5選を果たした際、「入浴施設として活用することを考えている」と明かしていた。
このほか、2016年に蓬田、小平両中学校が統合され、ひらた清風中学校が開校した。これに伴い、両中学校が空き校舎になっている。この2つに関しては、いまのところ何の案も出ていないという。
「建物は残っていますが、耐震の問題もありますし、一番は配管が使える状態なのか、ということもあります。やはり、使われていないと、そこ(配管)の劣化が出てきますからね」(村企画商工課)
校舎の利活用はなされていないが、グラウンドや体育館はスポーツ少年団などで活用しているという。付属施設が使われているだけに、校舎だけを別の用途に、というのは余計に難しいのかもしれない。
旧小平中学校の近隣住民はこう話す。
「当然、住民としては学校に対して思い入れがあります。この村は1955年に、いわゆる『昭和の大合併』で、小平村と蓬田村が合併して誕生しました。そうした中、片方の地区だけに投資をするのは憚られるといった空気があります。そうなると、小平中、蓬田中のどちらも、住民が納得するような形で、あまり時間を置かずに進めなければならない。そういった難しさもあると思います。仲間内で話している分には、『村はどう考えているんだ』という話になりますが、小さな村ですからなかなか面と向かって村(村長)に意見しにくい、という側面もあります。潤沢にお金が使えるということであれば話は別ですが、そういうわけにもいきませんから、学校の跡地利用は簡単ではないでしょうね」
一方で、別の住民はこう話した。
「学校がなくなる(統合される)ということは、地域から人がいなくなっているということです。この地域(小平地区)でも、高齢者の夫婦だけの世帯、あるいは1人暮らしが増えています。その人たちが亡くなったら、その家には誰も住まなくなります。中学校だけでなく、駐在所もなくなりましたし、郵便局やJAも業務範囲を縮小しています。小平小学校も、60年くらい前、われわれのころは全校生徒が約800人いましたが、われわれの子どもが通っていた30年くらい前は約300人、いまは約100人ですから、いずれは統合という話になっていくでしょう。そういう状況ですから、空き校舎を使って何か地域振興策を、とは思いますが、現実的には相当難しいと思います」
住民の思い入れが強い
平田村と同時期に役場庁舎を建設した町村の構造・事業費など
町村名 | 竣工年 | 構 造 | 延べ床面積 | 事業費 |
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平田村 | 2015年 | 鉄筋コンクリート2階建て | 2055平方㍍ | 約4・2億円 |
国見町 | 2015年 | 鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造地上3階、地下1階 | 4833平方㍍ | 約17億円 |
川俣町 | 2016年 | プレキャスト・プレストレストコンクリート造 地上3階建 | 4324平方㍍ | 約27億円 |
南会津町 | 2017年 | 鉄骨造、地上4階、地下1階建て | 4763平方㍍ | 約26億円 |
人が少なくなったから閉校になった→今後人口減少がさらに加速すると思われる→そういった地域にどんな投資をすればいいか、というのは確かに難しい問題だ。地方における最大の課題と言っていいだろう。
前述したように、さまざまな補助メニューは用意されているが、なかなか「コレ」といったものがないのが現状だ。
加えて、学校に対する地域住民の思い入れは強い。いまの少子化、児童・生徒数の減少に伴う学校の統廃合はやむを得ない流れだが、かつて自分たちが通った学校がどうなるかは、住民の関心が高い。
前段で文部科学省の調査結果を紹介したが、用途が決まっていない施設の要因として、「地域からの要望がない」が41・6%を占めていた。行政は「学校は地域住民の思い入れが強いから、住民がどうしたいかを大切にしたい」といった姿勢であることがうかがえる。裏を返すと、下手な案を提示しようものなら、住民の猛反発を受けかねない。一方、住民側は「そもそも、住民レベルではどんな可能性があるのかが分からない。だから、まずは行政が案を示してくれないことには、良いも悪いも判断しようがない」といった思いを抱いているように感じる。こうしたことも、利活用が進まない要因だろう。
最後に。今回の本誌のアンケートでは、市町村立の小・中学校の空き校舎の有無、利活用状況を聞いたものだが、同村には県立(県管理)の小野高校平田校があった。同校は2019年に閉校となった。
県教委によると、現在進めている県立高校改革では、廃校舎については、まず当該市町村に跡地利用を考えているか等の意見を聞き、市町村で利活用策がある場合は無償譲渡するという。市町村で利活用策を考えていない場合は、県のルールに基づき財産処分することになる。
小野高校平田校は事情が違い、同校がある土地は、もともと村の所有地で、現在解体工事を行っており、完了後に村に返却するという。つまり、村ではその土地をどうするかということも今後の課題になる。