【福島県】衆議院区割り改定に翻弄される若手議員

【福島県】衆院区割り改定に翻弄される若手議員

 衆院小選挙区定数「10増10減」を反映し、1票の格差を2倍未満とする改正公職選挙法が12月28日に施行された。これを受け、福島県の小選挙区定数は5から4に減った。新たな区割りは次の衆院選から適用される。今後の焦点は与野党の候補者調整だが、ベテラン議員が早くから立候補したい選挙区を匂わせているのに対し、若手議員は意中の選挙区があっても「先輩」への遠慮から口籠っている。若手議員はこのまま本音を言えず、時の流れに身を任せるしかないのか。与野党2人の若手議員の今後に迫った。(佐藤仁)

ベテランに遠慮し口籠る上杉氏と馬場氏

【福島県】衆議院区割り改定の地図
福島県四つの区切りの地図

 新区割りは以下の市町村構成になる。▽新1区=現1区の福島市、伊達市、伊達郡と現2区の二本松市、本宮市、安達郡。▽新2区=現2区の郡山市と現3区の須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡。▽新3区=現3区の白河市、西白河郡、東白川郡と現4区全域(会津地方、西白河郡西郷村)。▽新4区=現5区全域(いわき市、双葉郡)と現1区の相馬市、南相馬市、相馬郡。

 中央メディアの記者は、自民党選対筋の話として「5月に開かれるG7広島サミット終了後、岸田文雄首相が解散総選挙に打って出るのではないか」という見方を示している。

 解散権は首相の専権事項なので、選挙の時期は岸田首相のみぞ知ることだが、いつ選挙になってもいいように候補者調整を急がなければならないのは与野党とも同じだ。

 現在、県内には与野党合わせて9人の衆院議員がいる。根本匠(71、9期)、吉野正芳(74、8期)、亀岡偉民(67、5期)、菅家一郎(67、4期)、上杉謙太郎(47、2期)=以上、自民党。玄葉光一郎(58、10期)、小熊慎司(54、4期)、金子恵美(57、3期)、馬場雄基(1期、30)=以上、立憲民主党。このうち本誌が注目するのは両党の2人の若手議員、上杉氏と馬場氏だ。

 上杉氏はこれまで3回の選挙を経験し、いずれも現3区から立候補してきた。最初の選挙は厳しい結果に終わったが、前々回、前回は比例復活当選。玄葉光一郎氏を相手に小選挙区では及ばないが、着実に票差を縮めており、支持者の間では「次の選挙は(小選挙区で)勝てる」が合言葉になっていた。それだけに、今回の区割り改定に支持者は大きく落胆している。

 現3区は区割り改定で最もあおりを受けた。福島市がある現1区、郡山市がある現2区、会津若松市がある現4区、いわき市がある現5区は新区割りでも一定の原形をとどめたが、現3区は真っ二つに分断・消失する。他選挙区のように「母体となる市」がなかったことが影響した。

 現3区は、北側(須賀川市、田村市、岩瀬郡、石川郡、田村郡)が新2区、南側(白河市、西白河郡、東白川郡)が新3区に組み込まれた。そうなると上杉氏はどちらかの選挙区から立候補するのが自然だが、現実はそう簡単ではない。新2区では根本氏、新3区では菅家氏が立候補に意欲を示しているからだ。

 「先輩」に手を挙げられては、年齢が若く期数も少ない上杉氏は遠慮するしかない。しかし立候補する選挙区がなくなれば、自身の政治生命が危ぶまれる。要するに、今の上杉氏は「ここから立候補したい」という意中の選挙区があっても、積極的に口にしづらい立場にあるのだ。

 もっとも、上杉氏が「先輩」に気を使ったとしても、上杉氏を熱心に応援してきた支持者は納得がいかないだろう。

 上杉氏が家族とともに暮らす白河市の支持者もこのように語る。

 「上杉氏が大臣経験のある根本氏を押し退け、新2区から出ることはあり得ない。残る選択肢は新3区になるが、菅家氏と上杉氏のどちらを候補者にするかは、期数ではなく選挙実績を重視すべきだ」

 この支持者が選挙実績を持ち出したのは、もちろん理由がある。

 前述の通り上杉氏は小選挙区で玄葉氏に連敗しているが、着実に票差を縮めている。これに対し菅家氏は現4区で小熊慎司氏を相手に勝ち負けを繰り返している。前回は小選挙区で敗れ、比例復活に救われた。

 「最大の疑問は菅家氏が会津若松で小熊氏に負けていることです。会津若松市長を3期も務めた人がなぜ得票できないのか。地元で不人気な人が候補者にふさわしいとは思えない」(同)

選考は長期化の見通し

過去の【福島県】衆議院現3区の結果
【福島県】第49回衆院選の結果

 前回の結果を見ると、会津若松市の得票数は小熊氏2万9650票、菅家氏2万8107票で菅家氏の負け。同市の得票数に限ってさかのぼると、2014年と12年の衆院選も菅家氏は負けている。唯一、17年の衆院選は勝ったものの、両氏以外に立候補した野党系2氏の得票分を小熊氏に上乗せすると、菅家氏は実質負けているのだ。

 「菅家氏が小選挙区で連勝し、会津若松市の得票数も引き離していれば、私たちも『新3区からは菅家氏が出るべき』と潔くあきらめた。しかし、地元で不人気という現実を見ると、新たに県南に来て得票できるかは怪しい」(同)

 ちなみに前回の衆院選で、西白河郡の西郷村は現3区から現4区に編入されたが、同村の得票数は小熊氏4430票、菅家氏4299票とここでも菅家氏は競り負けている。

 「とはいえ、菅家氏が県南で得票できるか分からないのと同じく、上杉氏も会津で戦えるかは未知数。正直、あれだけ広いエリアをどうやって回るかも想像がつかない」(同)

 そんな両氏を救う方法は二つ考えられる。

 一つはどちらかが比例単独に回ること。ただし、当選することはできても地盤は失われるので、これまで小選挙区で戦ってきた両氏には受け入れ難い救済案だろう。確実に当選できるならまだしも、名簿順位で上位が確約されなければ落選リスクにもさらされる。

 もう一つはどちらかが小選挙区、どちらかが比例区に回り、次の選挙では入れ替わって立候補するコスタリカ方式を採用すること。ただし、この救済案もどちらが先に小選挙区に回るかで揉めると思われる。最初に比例区に回れば、小選挙区の有権者に自分の名前を書いてもらう機会を逸し、次の選挙で自分が小選挙区に回った際、名前を書いてもらえる保証がないからだ。

 さらに同方式の危うさとして、小選挙区の候補者が落選し比例区の候補者が当選したら、両陣営の間に溝が生じ、次の選挙では選挙協力が成立しづらい点も挙げられる。

 田村地方の自民党員はこう話す。

 「私たちはこの先、上杉氏を直接応援することはできないが、本人には『もし菅家氏とコスタリカを組むなら絶対に比例区に回るな』とはアドバイスしました」

 そもそも現3区の自民党員は同方式に良いイメージを持っていない。中選挙区制の時代、県南・田村地方には穂積良行と荒井広幸、2人の自民党議員がいたが、小選挙区比例代表並立制への移行を受け両氏は現3区で同方式を組んだ。最初の選挙は荒井氏が小選挙区、穂積氏が比例区に回り、荒井氏が玄葉氏を破って両氏とも当選したが、次の選挙は小選挙区に回った穂積氏が玄葉氏に敗れ政界引退。荒井氏は比例単独で当選したものの、次の選挙は小選挙区で玄葉氏に大差負けした。名前を書いてもらえない比例区に回ったことと両者の選挙協力が機能しなかったことが、小選挙区での大敗を招いた典型例と言える。

 「上杉氏はかつて荒井氏の秘書をしていたので、コスタリカが上手くいかないことはよく分かっているはずです」(同)

 果たして上杉氏は、区割り改定を受けてどのようなアクションを起こそうとしているのか。衆院議員会館の上杉事務所に取材を申し込むと、

 「上杉本人とも話しましたが、これから決まっていく事案について、いろいろ申し上げるのは控えさせてほしい」(事務所担当者)

 この翌日(12月15日)、自民党県連は選挙対策委員会を開き、次期衆院選公認候補となる選挙区支部長に新1区が亀岡氏、新2区が根本氏、新4区が吉野氏に内定したと発表した。新3区は菅家氏と上杉氏、双方の地元(総支部)から「オラがセンセイ」を強く推す意見が出され、結論は持ち越された。今後、党本部や両氏の所属派閥(清和政策研究会)で調整が行われるが、党本部は比例復活で複数回当選している議員の支部長就任は慎重に検討するという方針も示しており、上杉氏(2回)、菅家氏(2回)とも該当するため、選考は長期化する見通しだ。

 県連はどちらが選挙区支部長に内定しても「現職5人を引き続き国政に送ることが大前提」として、比例代表の1枠を優先的に配分するよう党本部に求めていくとしている。菅家氏と上杉氏はともに早稲田大学卒業。「先輩」に面と向かって本音を言いづらい上杉氏に代わり、地元支持者の熱意と、前述した菅家氏への物足りなさが候補者調整にどう影響するのか注目される。

組織力を持たない馬場氏

 立憲民主党の若手、馬場雄基氏も上杉氏と同様、辛い立場にある。

 前回、現2区から立候補した馬場氏は根本匠氏に及ばなかったが比例復活で初当選した。当時20代で初登院後は「平成生まれ初の衆院議員」としてマスコミの注目を集めた。爽やかなルックスで「馬場氏の演説には引き込まれるものがある」と同党県連内の評価もまずまず。国会がない週末は選挙区内を回り、自民党支持者が多く集まる場所にも臆せず顔を出すなどフットワークの軽さものぞかせる。

 現2区は、中核を成す郡山市が現3区の北側と一緒になり新2区に移行。これに伴い馬場氏も新2区からの立候補を目指すとみられるが、ここに早くから踏み入るのが、現3区が地盤の玄葉光一郎氏だ。

 当選10回。民主党政権時には外務大臣、国家戦略担当大臣、同党政調会長などの要職を歴任。岳父は佐藤栄佐久元知事。言わずと知れた福島県を代表する政治家の一人だ。

 玄葉氏は、現3区の南側が組み入れられた新3区ではなく、新2区からの立候補を模索している。背景には▽郡山市には昔から自分を支持してくれる経済人らが多数いること、▽同市内の安積高校を卒業していること、▽同市内に栄佐久氏の人脈が存在すること、等々の理由が挙げられる。「現3区で上杉氏が票差を詰めている」と書いたが、北側(須賀川市や田村市)では一定の票差で勝っていることも新2区を選んだ一因になっているようだ。

 馬場氏にとっては年齢も期数も実績も「大先輩」の玄葉氏が新2区からの立候補に意欲を示せば、面と向かって「それは困る」「自分も立候補したい」とは言いにくいだろう。

 もっとも玄葉氏と馬場氏を天秤にかければ、本人が辞退しない限り玄葉氏が候補者になることは誰の目にも明らかだ。理由は馬場氏より期数や実績が上回っているから、ということだけではない。

 両氏の明らかな差は組織力だ。政治家歴30年以上の玄葉氏と、2年にも満たない馬場氏では比べ物にならない。例えば、郡山駅前で街頭演説を行うことが急きょ決まり「動員をかけろ」となったら、玄葉氏は支持者を集めることができても、組織力を持たない馬場氏は難しいだろう。

 「馬場氏は青空集会を定期的に開いて多くの有権者と触れ合ったり、SNSを使って積極的に発信している点は評価できる。馬場氏がマイクを握ると聴衆が聞き入るように、演説も相当長けている。しかし、辻立ちや挨拶回り、名簿集めといった基本的な行動は物足りない」(同党の関係者)

 馬場氏の普段の政治活動は、若者や無党派層が多い都市部では支持が広がり易いが、高齢者が多く地縁血縁が幅を利かす地方では、この関係者が言う「基本的な行動」を疎かにすると票に結び付かないのだ。

「簡単には決められない」

 立憲民主党の県議に新区割りを受けて馬場氏の今後がどうなるか意見を求めたが、言葉を濁した。

 「現1区で当選した金子氏が新1区、現4区で当選した小熊氏が新3区に決まれば残るは二つだが、だからと言って新2区が玄葉氏、現5区時代から候補者不在の新4区が馬場氏、という単純な振り分けにはならない。両氏の支持者を思うと、簡単にあっちに行け、こっちに行けとは言えませんよ」

 加えて県議が挙げたのは、同党単独では決めづらい事情だ。

 「私たちはこの間、野党共闘で選挙を戦っており、他党の候補者との調整や、ここに来て距離を縮めている日本維新の党との関係にも配慮しなければならない。こうなると県連での判断は難しく、党本部が調整しないと決まらないでしょうね」(同)

 同党県連幹事長の高橋秀樹県議もかなり頭を悩ませている様子。

 「もし全員が新人なら、あなたはあっち、あなたはこっちと振り分けられたかもしれないが、現選挙区に長く根ざし、そこには大勢の支持者がいることを考えると、パズルのピーズを埋めるような決め方はできない。党本部からは年内に一定の方向性を示すよう言われているが『他県はできるかもしれないが、福島は無理』と伝えています。他県は現職の人数が少なかったり、2人の現職が一つの選挙区に重なるケースがほとんどないため、すんなり候補者が決まるかもしれないが、現職の人数が多い福島では簡単に決められない。ただ、目標は現職4人を再び国政に送ることなので、4人と直接協議しながら党本部も交えて調整していきたい」(高橋幹事長)

 当の馬場氏は今後どのように活動していくつもりなのか。衆院議員会館の馬場事務所に尋ねると、馬場氏から次のような返答があった。(丸カッコ内は本誌注釈)

 「(候補者調整について)現時点において、特段決まっていることはございません。しっかりと自分の思いを県連や党本部に伝えているところでもあり、その決定に従いたいと考えています。その思いとは、私が今ここに平成初の国会議員として活動できているのも、地盤看板鞄の何一つ持ち合わせていない中から育ててくださり、ゼロから一緒につくりあげてくださり、今なお大きく支えてくださっている郡山市・二本松市・本宮市・大玉村の皆さまのおかげです。いただいた負託に応えられるように全力を尽くすのみです」

 現2区への強い思いをにじませつつ、県連や党本部の決定には従うとしている。

 中途半端な状態に長く置き続けるのは本人にも支持者にも気の毒。それは馬場氏に限った話ではない。丁寧に協議を進めつつ、早期決着を図り、次の選挙に向けた新体制を構築することが賢明だ。(文中一部敬称略)

佐藤 仁

さとう・じん

1972(昭和47)年生まれ。栃木県出身。
新卒で東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
ゼビオ「本社移転」の波紋
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