石川町が発注した工事を巡り、官製談合防止法違反などの罪に問われた前町長の塩田金次郎氏(77)に11月18日、地裁郡山支部は懲役2年6月、執行猶予5年、受け取った賄賂に相当する追徴金約42万円(求刑懲役2年6月、追徴金約42万円)の判決を言い渡した。汚職事件は一区切りを迎え、町は入札制度を検証した後、再発防止策を発表して再出発を図る。だが、裁判では塩田氏がわざわざ職員を呼び出し非公開の設計金額=入札予定価格を聞く不審な行為をしていたことが判明。再発防止策には職員が不審な行動を見過ごさず、報告を義務化する仕組みが不可欠だ。
塩田氏は町内の業者に非公開の設計金額を教え、さらに謝礼を受け取ったとして官製談合防止法違反、公契約関係競売入札妨害罪、収賄罪に問われた。公職にある者が収賄罪を犯した場合は公選法の規定により、刑の執行期間とその後の5年間(執行猶予の場合は猶予期間中)は公民権、すなわち選挙権・被選挙権が停止される。刑が確定すれば、塩田氏は執行猶予期間中の5年間、立候補も投票もできないことになる。
町内の事情通は「公選法違反で有罪確定後に再選し、さらに収賄罪で有罪になった後、2022年の町長選に挑み、塩田氏に716票差まで迫った西牧立博元町長の例もある」と汚職に寛容な(!?)石川町特有の事情を話す。ただ「さすがに町民もクリーンさを求めている。塩田氏は影響力を失い、本人も政界に復帰するつもりはないだろう」。
塩田氏は法廷で「隠居して静かに暮らしたい」と話した。控訴しなければ、本人の望み通り「5年間の政治的隠居」が確定する。
塩田氏の有罪判決で町民たちは汚職事件を過去のものにしたいようだが、塩田氏一人に責任を負わせるだけでは、町は高みを目指せない。法廷では、塩田氏がわざわざ都市建設課長を呼び出して設計金額を聞き出す不審な行動をしていたことが明かされた。従った課長は疑念を抱かなかったのか。
別の自治体で入札を担当していた元職員は、「首長は非公開の入札情報を知る権限はあるが、だからと言って個別の設計金額を聞く必要はない。職員を呼び出してわざわざ聞く時点でおかしい。昨今は、事業者が担当職員に入札予定価格を聞くのはさすがに怪しまれるので、清濁併せ持った政治家出身の首長から情報を抜こうとする。塩田氏に設計金額を聞かれて教えた都市建設課長は、業者に漏洩していると感づいていたに違いない」と推測する。
塩田氏は町議、県議を歴任した。2018年9月に町長に就任し、2期目の今年4月に汚職事件で逮捕されたのを受けて5月17日付で辞職した。塩田氏が町長時代に都市建設課長を務めたのは2人。1人目は18、19年度に、2人目は20年度から現在まで務める。
前出の元職員は「課長は町長から事業者へ情報が漏れていると知っていたはず」と指摘する一方で「立場が下の職員が町長に『何のために使うのか』と聞けないのは痛いほど分かる」と課長をおもんぱかった。
そもそも悪いのは、設計金額を露骨に聞いていた塩田氏だ。加えて、課長がその要求に疑念を抱かずに、或いは抱いたとしても見過ごしてきたために現職町長の逮捕という石川町最大の汚点になった。
直接ただすことはできなくとも、警察沙汰になる前に職員間で共有して副町長が諫めたり、監査委員や議会に公益通報するなど役場内で対策は取れたはずだ。町の再発防止策には権限ある者の不当・不審な要求を公益的視点に立ってかわすことと、通報した者を報復から守る仕組みを盛り込む必要がある。