会津坂下町のアパート大家が「2月に部屋を出た男性が未だに退去費用を払ってくれず困っている」と嘆いている。
男性は大家が所有するアパートに35年暮らした。部屋の間取りは2Kで、家族で生活し、子どもが成人したあとも夫婦で暮らしていた。2月に退去後は、町内に新築した自宅に引っ越した。
大家によると、退去費用は159万円。正直、退去費用としては目にしたことがない高額だが、これには理由があるという。
「部屋中のクロスが黒カビだらけで、ドアも一度外して取り付けたのかかなり歪んでいた。トイレの床も水浸しでふにゃふにゃだし、浴室の床も毛染め液のせいか薄黒くなっていた。壁も穴だらけで、とにかく酷い状態だった」(大家)
業者に修繕費の見積もりを出してもらったところ▽トイレ等の修復・原状回復に99万6000円、▽クロスの張り替えに35万2000円、▽障子や襖等の修復に10万3000円、▽ハウスクリーニングに6万円――計151万1000円かかることが判明した。
11月上旬、筆者も部屋に入ってみたが「定期的に空気の入れ替えをして黒カビはだいぶマシになった」(大家)ものの、部屋中傷みが激しく、独特の臭いも漂っていた。

大家は2月下旬、クロスの張り替えにかかる費用を半額に値引きした上で、延長分日割り家賃と家賃保証(賃料2カ月分)を加えた141万5000円を1カ月以内に支払うよう男性に文書で通知した。しかし、それから9カ月経った現在も支払われていないという。
「金額の交渉や分割払いを求めてくるなら分かるが、こちらからの通知に全く連絡をよこさないのは不誠実ではないか」
と憤るのは大家の妻だ。
「納得がいかないのは、男性が町内で会社を経営していることです。社長ならそれなりの収入があるはずだし、男性の会社が公の仕事を請け負っていることを踏まえると、社会的責任を有していることにもなる。そういう立場の人が、退去費用を踏み倒すようなことをするのはいかがなものか」
これを受け大家は11月、弁護士を通じ、男性に文書で「原状回復費用の請求」を行った。
男性にも、経営する会社の事務所を訪問し話を聞いた。
「私は払わないとは一言も言っていない。大家から請求された額が高すぎるので『正当な額』を払いたいだけです」
2月の退去後、大家からの通知に連絡しなかったのは、
「請求から1カ月以内に払えと通知しておいて、私が払わなかったら9カ月も音沙汰がなかった。私としては、次の通知に書かれている内容を見て、その上でどう対応するか考えようとしていただけで、踏み倒すつもりは一切ありません」(同)
男性はこの間、国民生活センターや弁護士に、請求された退去費用の妥当性を相談したが、口を揃えて「高すぎると思う」と言われたという。ただ「いくらなら妥当だと思うか」と尋ねても、明確な金額は答えてもらえなかった。
「弁護士を介して大家と協議し、私なりの『正当な額』を導き出した上で(退去費用を)払いたいと考えています。一方、私は他のアパートで暮らしたことがないので、あの請求額が一般的に妥当というなら払います」(男性)
今回のケースは「アパートに35年居住」という特殊事情が、数年程度の居住では起こらない部屋の傷みを招き、妥当な退去費用を導き出しづらい状況を生んでいるようだ。果たして、折り合いはつくのか。