会計監査法人の「EY Japan」と、一般財団法人「水の安全保障戦略機構」事務局は4月24日、「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2024年版)」という共同調査・研究の報告書を公表した。それによると、22年後に鏡石町の水道料金が全国一高くなる——との調査・研究結果が示されている。その背景を探っている過程で思わぬ波紋に遭遇した。
フジテレビ『ホンマでっか!?TV』に翻弄された関係者
同調査・研究は、全国の自治体(水道事業体)で現在の水道サービスを維持していく際、2046年までに想定される水道料金改定率を、最新の公表統計データを基に自治体(事業体)別に整理したもの。2015年、2018年、2021年に続き、4回目となる。
なお、水道事業は自治体単独のところもあれば、複数自治体で一部事務組合(水道企業団など)を設立し、担っているところもある。
同調査・研究の報告書の序段には次のように記されている。
× × × ×
我が国の水道インフラは、本格的な人口減少社会が到来し、老朽化した浄水場及び水道管も増加する中で、その持続性が危惧されるようになっています。また、昨今の物価上昇の影響を受け、水道インフラを運営するコストも値上がりしており、経営が危ぶまれる状況になっています。
(中略)そのような中、2019年には水道法が改正され、水道事業の目的が新規整備から基盤強化へ変更になり、水道料金の水準も、「健全な経営を確保することができる」ものである必要性が新たに記載されました。また、施設の更新に要する費用を含むその事業に係る収支の見通しを作成し、これを公表するよう努めなければならないとされ、水道事業体に対し、長期的な経営の見える化と利用者とのコミュニケーションの促進が求められています。
さらに、2023年に「生活衛生等関係行政の機能強化のための関係法律の整備に関する法律」が制定され、水道法等による権限を厚生労働大臣から国土交通大臣に移管することが決定されました。その背景には「社会資本整備や災害対応に関する専門的な能力・知見を有する国交省」が所管することで、「下水道等の他の社会資本と一体的な整備等を進める」ことにより、「水道施設の老朽化や耐震化への対応」、「災害発生時の断水対応」などの機能強化を図ることが期待されています。
このような状況において、我が国の水道インフラが人々の生活基盤を支え続けるためには、水道事業体の経営や水道料金の実態を正しく理解し、水道事業経営の悪化に伴う費用負担の増大等によるツケを将来世代へ回さないようにしなければなりません。
一方、水道料金を負担する住民(利用者)においては、昨今の物価上昇による経済的な負担感が増しています。市町村経営が原則であり、水道料金収入を主たる財源とする水道事業としては、経営が年々厳しくなる中で住民(利用者)に更なる負担を求めるべきか、難しい判断を迫られています。
本改訂版では、最新の統計データを使って、各水道事業体の将来の水道料金の値上げ率を再推計しています。
ここで示された問題が水道インフラの抱える全ての問題ではありません。本研究結果を端緒に、広域化や民間活力の活用も含めた各地域における今後の水道事業経営のあり方について、事業者、住民(利用者)、そして住民の代表である議会の間において、個別事業体の実態を踏まえた健全かつ活発な議論が前進していくことを期待します。
× × × ×
「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?」の報告書
近年は自然災害が頻発しており、その際、断水などの影響を受けた経験を持つ人は少なくないと思われる。その度に、蛇口をひねれば水が出るという当たり前のことが、いかにありがたいかを実感したことだろう。
一方で、その「当たり前のこと」を維持するのは容易でなくなっている。人口減少に伴い、水道使用量は減っているが、水道供給に伴う維持・管理・施設修繕などの費用は変わらないか、設備更新などで増えることもあるからだ。
かといって、例えば特産品のPRのように「どんどんお買い求めください」というわけにはいかない。むしろ、水道については「必要なときに必要な分だけ利用してください」というのが基本で、場合によっては節水を求めなければならないこともある。
そうした中、いまの水道事業を維持するには、2046年度までにどのような料金改定が必要になるかをまとめたのが同調査・研究である。同報告書によると、水道料金の値上げが必要な自治体(事業体)は全体の96%に上り、平均48%の値上げ率になるという。
鏡石町の事情
鏡石浄水場
別表は同報告書の資料「全国水道料金推計一覧」から、県内自治体を抜き出し、整理したもの。
県内水道事業体別の水道料金と将来予測値
事業主体名 | 2021年度料金(20㎥使用時) | 2046年度予測値(20㎥使用時) | 給水普及率(2021年度) | 総人口減少率 |
福島市 | 3718円 | 4713円 | 99.20% | -21% |
会津若松市 | 3652円 | 4633円 | 95.90% | -30% |
郡山市 | 3212円 | 3872円 | 99.70% | -18% |
白河市 | 2343円 | 3565円 | 96.80% | -27% |
須賀川市 | 3896円 | 6670円 | 92.00% | -23% |
喜多方市 | 4268円 | 5511円 | 90.40% | -38% |
二本松市 | 2662円 | 3035円 | 99.50% | -34% |
田村市 | 4532円 | 5947円 | 79.60% | -42% |
伊達市 | 4950円 | 5757円 | 93.80% | -36% |
本宮市 | 2640円 | 3606円 | 97.50% | -20% |
桑折町 | 4818円 | 5184円 | 99.40% | -35% |
国見町 | 4603円 | 7400円 | 99.60% | -45% |
川俣町 | 4125円 | 5711円 | 99.60% | -51% |
大玉村 | 3410円 | 4413円 | 99.20% | -8% |
鏡石町 | 4627円 | 2万5837円 | 99.20% | -20% |
天栄村 | 4087円 | 5908円 | 97.80% | -39% |
西郷村 | 2640円 | 4162円 | 97.10% | -9% |
泉崎村 | 3685円 | 4095円 | 85.80% | -27% |
矢吹町 | 3850円 | 4488円 | 93.30% | -22% |
棚倉町 | 4468円 | 8112円 | 98.90% | -35% |
矢祭町 | 2541円 | 7203円 | 93.90% | -38% |
塙 町 | 3080円 | 4648円 | 91.60% | -41% |
石川町 | 3881円 | 3985円 | 93.00% | -44% |
玉川村 | 3780円 | 1万1019円 | 84.50% | -34% |
浅川町 | 3575円 | 5552円 | 98.80% | -38% |
三春町 | 3850円 | 3850円 | 98.00% | -33% |
小野町 | 4510円 | 6448円 | 77.10% | -43% |
西会津町 | 4378円 | 7302円 | 86.60% | -48% |
猪苗代町 | 3080円 | 4704円 | 99.10% | -44% |
会津坂下町 | 4574円 | 5558円 | 95.00% | -36% |
会津美里町 | 4818円 | 6374円 | 90.00% | -44% |
南会津町 | 4400円 | 7456円 | 99.30% | -49% |
なお、推計に当たっては、公益社団法人日本水道協会発行「水道統計」(2019年度版、2020年度版、2021年度版)、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」(2020年〜2050年までの人口増減)などを使用しているが、浜通りは個別の人口増減推計データが存在していないことから調査対象から除外されている。そのほか、水道統計で損益データなどがないところや、推計に必要な家庭用料金単価などのデータがないところも調査対象外とされている。そのため、県内の調査対象は32事業体となっている。
これを見ると、鏡石町の2046年度の料金予測値が高いことが目に付く。他都道府県の個別データと見比べると、同町の推計値20立方㍍当たり2万5837円というのは、全国最高額だった。つまり、同調査・研究によると、2046年度に鏡石町の水道料金は全国一高くなると予測されたのだ。
なぜ、そのような推計になったのか。鏡石町上下水道課に問い合わせたところ、おおむね次のような説明だった。
○同町では1965年から使っていた旭町浄水場が老朽化していたため、2019年度から2022年度までの4年間の事業として、新たに鏡石浄水場を整備した。事業費は30億円で、均すと年間7・5億円の事業費増になる。
○同調査・研究は、2019年度から2021年度の水道統計を試算材料にしており、その期間は同町が浄水場を整備していた期間と重なっている。
○そのため、年間7・5億円の事業費増が今後も続く、という想定に基づく試算になっている。
こうしたことから、いまのサービスを維持するためには、2046年度までに20立方㍍当たり2万5837円という全国最高額の値上げが必要になる、といった試算がなされたというのだ。
「この間の施設修繕費・工事費は数千万円単位でしたが、ちょうど、(同調査・研究の)試算材料になった年度と、鏡石浄水場を整備した年度がまるまる被ったため、年間7・5億円の工事費が上乗せされた状態が今後も続くという想定になり、その結果、このような試算になったものと思われます。ただ、鏡石浄水場の整備が完了した2023年度以降も、10億円近い工事費がずっと続くわけではありません。この間、使用量は減っているのに対して、維持・管理費は上がっているのは確かで、いずれは(同報告書で示された)全国平均並みの値上げが必要になる可能性はありますが、少なくとも『2046年度までに20立方㍍当たり2万5837円になる』ということはあり得ません」(同町上下水道課)
担当者に、「今回の調査・研究報告書の公表後、大幅な値上げを心配した町民から問い合わせはあったか」と尋ねると、「町民から1、2件、報道機関から数件あった」とのことだった。
本誌が確認したところ、調査・研究に基づく報道で、「2046年度に鏡石町の水道料金が全国一高くなる」ということが明記されていたのは、東京新聞(6月27日付)のみだった。普段、県内(鏡石町)で東京新聞を読んでいる人はほとんどいないと思われるが、ネットニュースでも取り上げられたことから、数件の問い合わせがあったようだ。
なお、東京新聞では、前段で触れたような調査・研究の概要、全国的な傾向を示したうえで、次のように報じている。
《全国最高値は福島県鏡石町で、1カ月の料金が2046年度に2万5837円になると推計。最安値1266円(静岡県長泉町)の約20倍で、2021年度時点の8倍と比べ格差が大きく広がった》
その一方で、こうも伝えている。
《2021~2046年度の期間、赤字転落した年に1度だけ値上げする想定で、累積赤字が出ない値上げ幅になるよう試算した。ただ直近に大規模工事をした団体では料金が大きく上振れするため、調査内容が現状を反映しない場合がある》
鏡石町のケースはまさにこれに該当する。同調査・研究は、あくまでも1つの指標でしかないということである。
テレビ番組の影響
ところで、本誌が同町を取材したのは8月7日の午前だったが、ちょうどその日の夜21時放送のフジテレビ『ホンマでっか!?TV』で、「水にはダイエット効果があった!? 水とカラダの秘密SP」と題して、水に関するさまざまな説が取り上げられた。その中で、パネラーの1人が同調査・研究報告に基づき、「福島県鏡石町は2046年度までに20立方㍍当たり2万5837円の全国最高額になる」旨のコメントをした。
前段で、「この件に関する町民からの問い合わせは1、2件」との上下水道課担当者のコメントを紹介したが、その翌日以降、計10件弱の問い合わせがあったという。
「(くだんの)テレビ番組放送以降、10件に満たない程度ですが、心配した町民の方から問い合わせがありました。その方には、以前『政経東北』さんに説明したのと同様のことを伝えて、理解していただきました」(上下水道課)
そのほか、ある議員も「私はテレビ番組を見ていなかったですが、複数町民から『ホンマでっか!?TVで鏡石町の水道料金が全国一高くなると言っていたが、本当なのか』といった問い合わせがありました」と証言する。
同町は、直近では2016年に20%の水道料金値上げを実施した。その際、住民(町政)懇談会の中で説明をしたが、やはり不満も出たという。そんな中での今回の件が出てきて、「どういうことなのか」と説明を求める動きがあったのだ。
こうした事態を受け、8月21日に開かれた議会全員協議会で、町当局が議員にこの件について説明する一幕があった。以降は、議員に問い合わせがあっても、事情を説明し、それが町民に広がるといったサイクルができた。
調査・研究報告書が公表された際や、東京新聞の報道があった際は、見ている人が少なかったこともあり、反響は少なかったが、テレビとなると、それなりに見ている人も多い。結果、ちょっとした〝騒ぎ〟になり、関係者は翻弄された格好だが、真相はここで述べた通りだ。