小原寺と言えば、郡山市を代表する名刹だが、檀家や葬祭業者からの評判は芳しくない。原因はクセが強い前住職の存在だ。ただでさえ仏教離れの傾向が強まっている中、その存在が〝墓じまい〟を加速させている――という指摘すらある。いったいどんな人物なのか。
〝上から目線〟の運営で離檀者続出!?
大邦寺神竜院小原寺は郡山市図景にある曹洞宗の寺院だ。近くには郡山健康科学専門学校や郡山警察署がある。かつてはその名が示す通り、同市小原田にあった。
天文年間(1532年~)に廃絶した久徳寺を、永禄3(1560)年、二本松市・龍泉寺6世の実山存貞和尚が再興し、曹洞宗小原寺としたのがはじまりとされる。戦乱を経て延宝4(1676)年に再建。材料に阿武隈川の埋もれ木を掘り出したものが使われ「奥州・安積の埋もれ木寺」として、名所の一つに数えられた。天明3(1783)年、失火により全焼したが、寛政5(1793)年に古材を集めて仮本堂が建立された。
その仮本堂がつい10年前まで本堂として使用されていたが、震災で全壊判定を受け、2014年3月に解体撤去。約500㍍離れた現在の場所に、広大な駐車場を備えた近代的建築の本堂・庫裏を再建。同年8月に落慶法要が執り行われた。
安積三十三観音霊場第六番札所となっているほか、「巡拝郡山の御本尊様」の会が実施している御朱印企画では第一番札所となっている。
檀家は約1000軒あるとされるが、「現在は800軒ほどに減ったのではないか」と指摘する檀家もいる。いずれにしても、郡山市を代表する古刹であり、高い公共性を有する施設だ。
現在の住職は安倍元輝氏だが、市内で有名なのは、父親で東堂(曹洞宗における前住職の呼称)の安倍元雄氏だ。元高校教師で、郡山青年会議所理事長も務めていた。宗教法人小原寺の代表役員である元輝住職は心身のバランスを崩し一時期活動を控えていたとのことで、83歳の元雄氏がいまも同寺院を代表する存在として活動している。
ところが、その元雄氏に対する不満の声が各所でくすぶっている。
檀家の年配男性は「一番の原因はお布施の高さですよ」と説明する。
「葬儀のお布施が周辺の寺院と比べて高い。戒名が院号(寺への貢献者・信仰心の厚い信者に付けられる称号)の家で100万円超、軒号(院号よりランクが落ちる称号)の家でも70~80万円支払うことになる。親の葬儀で『大金を支払えないので戒名の位を下げてほしい』とお願いする人もいました」
代々檀家になっているという男性も「知り合いが、仲の良い墓石業者に相談して安く墓を立てる算段をしていたが、元雄氏に一応伝えると特定の業者を使うよう指定された。あれやこれやと条件を付けられ、結局200万円以上の金額に跳ね上がって泣いていましたよ」と語る。
檀家の中には、親が亡くなったのを機に〝墓じまい〟して、市営東山霊園に墓を移す人もいる。近年は仏教離れが進んでいることもあって、その傾向が強まっているが、同寺院ではその際も30~40万円の〝離檀料〟を支払うよう求めているという。
曹洞宗宗務庁はホームページ上で「宗門公式としての離檀料に関する取り決めはないし、指導も行っていない」とする見解を表明しているが、同寺院では「離檀を申し込むと、金額を提示される。半ば支払いを強制されているような感じ」(前出・檀家の年配男性)だとか。
小原田地区の住民によると、過去には元雄氏の独断が過ぎるとして、紛糾したこともあった。
「震災で本堂が全壊判定を受け、現在の場所に新築移転することになったが、檀家が計画の全容を知ったのは、どんな本堂にするか設計や見積もりが終わり、銀行と建築費用の融資計画まで打ち合わせした後だった。そのため、説明を受けた檀家から『これを負担するのはわれわれだ。なぜ事前に相談がないのか』と物言いが入ったのです。そのため、当初の計画は一旦見直されることになりました」
複数の檀家によると、新築された本堂・庫裏は当初、左翼側に葬儀・法事などを執り行える葬祭会館が併設される計画で、檀家には「総事業費数億円に上る」と説明していた。だが、葬祭会館建設は見直されることになり、左右非対称の造りとなった。このほか、正確な時期は不明だが、総代が元雄氏と対立し全員退任したこともあったという。
檀家に十分な説明が行われない状況は現在も続いているようで、小原寺の墓地の近くに住む檀家の男性は「現在の総代が誰なのかも知らないし、総代会が開かれているのかも報告されていないので分からない。法要のときは足を運ぶし、『寄付してくれ』と頼まれたら協力しますが、それ以上のコミュニケーションはありません」と語った。
不満の声は檀家のみでなく葬祭業者からも聞かれる。原因は「『うちの檀家の葬儀は白い花でそろえないとダメだ』などと細かい注文が入るうえ、とにかく話が長くて予定がめちゃくちゃになる」(ある葬祭業関係者)。葬儀終了後に元雄氏が数十分かけて〝ダメ出し〟する姿もたびたび目撃されており、ある業者とは深刻なトラブルに発展したようだ。複数の業者の現場担当者に声をかけたが、元雄氏がどんな人物か把握していたので、業界内ではおなじみの存在なのだろう。
元雄氏のクセの強さは経済界でも有名なようで、「郡山青年会議所OBの会合で簡単なあいさつを依頼されたのに30分以上話し続け、3人がかりで止めに入ったが、それでもまだ話し続けた」(市内の経済人)ことは〝伝説〟となっている。
元雄氏を直撃
これだけ不満の声が出ていることを本人はどう受け止めているのか。同寺院に取材を申し込んだところ、元雄氏が対応し「葬儀続きで話すのは難しい」と渋られたが、10分程度でも構わないと伝え、何とか直接会う約束を取り付けた。
11月下旬、同寺院を訪ねると、元雄氏が杖をつきながら登場し、本堂を案内した後、御本尊である釈迦三尊像の説明や釈迦(ブッダ)が生まれたころの背景を20分にわたり話し続けた。「この後予定がある」と言いながら話し続けそうな雰囲気だったので、途中で遮って本題に入った。
――本堂の新築移転をめぐり、檀家から不満の声が上がったと聞いた。
「本堂新築移転は震災で旧本堂が全壊となり、総代会で満場一致で決められたものです。檀家がお参りできる場所を作るのが私の務め。近代的な建物にした理由は、皆さんに親しまれるように、いまの時代に合った本堂を立てるべきだと考えたからです。具体的な建設費用は伏せますが、総代をはじめ、檀家の皆さんに『先祖の供養の場を作ってほしい』と寄付していただいた。私も個人で3000万円借りて寄付しました」
――檀家は「総代長が誰かも分からないし、総代会がいつ開かれたのかも報告がないから分からない」と嘆いていた。コミュニケーションが不足しているのではないか。
「総代は住職などを含め5人います(※宗教法人の役員のことだと思われる)。総代会はその都度開かれているが、そのことはほかの檀家には連絡はしていませんね」
――お布施の金額や、離檀料についても不満の声が聞かれた。
「お布施はできるだけ安くすることを心がけているし、納めるべき金額は檀家にはっきり公表している。不満の声がウワサとなって広まっている背景には、他の寺の住職のねたみも含まれているのではないか。住職に知識や考えがなければ長く喋りたくても喋られない。でも、俺が喋ると内容は豊富だし、間違ったことは言ってないので『ごもっとも』となる。離檀料は長い間お世話になった気持ちを込めて菩提寺に寄付したいという方もいるので設定しているが、決して強制ではない」
――葬祭業者にも敬遠されている。注文・ダメ出しの多さと話の長さが原因のようだが、心当たりは。
「小原寺の葬儀のやり方というのが明確に決まっている。どうすればスムーズに進行できるか、担当者に教えることがあります。でも、『指摘してくれてありがとう』と言われることもあるし、そんなにトラブルみたいなことにはなってないよ」
――こうした不満が出たことをどう受け止めるか。
「まあ、『出る杭は打たれる』ということなんでしょう」
取材には真摯に対応してもらったものの、本堂新築移転をはじめ、檀家や葬祭業者から上がっている不満の声を素直に受け止めず、「他の寺の住職のねたみが背景にあるのではないか」、「出る杭は打たれるということ」と話す始末。コミュニケーション不足を指摘してもピンと来ていない様子で、再度質しても明確な回答はなかった。これでは檀家・葬祭業者との溝を埋めるのは難しい。
本堂新築移転にいくらかかったのか、明確な金額は明かそうとしなかったが、今年11月時点での寄付一覧を見せてくれた。本堂の建設を手掛けた業者や県内の寺院が寄付していたが、寄付金額を合計しても1億円にも満たない。残りは宗教法人として銀行融資を返済しているという。つまり、最終的には檀家が負担することになる。
総代長を務める年配女性を訪ね、元雄氏について質問しようとしたが「私は全然そういうの分からないの」とドアを閉められた。現代表役員の元輝氏の存在感はなく、同寺院に取材を申し込んだ際も、こちらが特に指定していないのに元雄氏が対応した。厳密に言えば寺の本堂は宗教法人のものだが、元雄氏の判断ですべてが決まる体制ということだろう。
寺院経営のボーダーライン
人口減少により経営が厳しくなっている寺院が増えているとされているが、そうした中で、1000軒以上の檀家を抱える同寺院はかなり余裕があると言える。寺院の事情について詳しい東洋大学国際学部の藤本典嗣教授は「寺院経営が成り立つボーダーラインは一般的に約300軒と言われている」と説明する。
「地方の寺院では収入が年間約900万円あれば、諸経費、維持管理費、宗費(本山に納める費用)など諸々を差し引いても、住職の所得として360万円程度確保でき、生活を維持できるとされています。主な収入は葬儀、法要、供養などで入るお布施。住職1人で運営できるラインは300軒程度とも言われているので、1軒当たり平均年3万円のお布施を支払ってもらえれば、専業で寺院経営が成り立つ計算です」
藤本教授によると、寺院によってお布施の金額は異なるが、公表されている論文や書籍などのデータを大雑把にまとめると、葬儀の相場は10万~100万円、法事の相場は3000~5万円とのこと。寺院、戒名によってその金額は異なるが、「福島市の福島大学に勤めていた頃の感覚では、中心市街地のお寺での葬儀のお布施は20~50万円でした」(藤本教授)。小原寺の金額が高めであることが分かるだろう。
檀家数が300軒を下回ると、住職の業務は少なくなって負担は軽減されるが、収入も減るので別の仕事をする必要がある。かつて郡部の寺では、地元で働き続けられる公務員や教員、農協などの仕事を檀家から紹介され、兼業しながら寺院運営する住職が多かったという。SNS情報によると、現在は介護業界で働く人が多いようだ。
小原寺では元雄氏と元輝氏のほかにも僧侶の姿を見かけた。それだけ経営的に余裕があるということで、だからこそ檀家に強気な姿勢で臨めるのかもしれない。しかし、そうした環境にあぐらをかいていれば、離檀していく人も増えるのではないか。
「うちは代々檀家になっているので付き合い続けているが、そうでない人は『住職との折り合いが悪いから』とためらいなく離檀していく。実際、周辺にそういう人がいました」(前出・檀家の年配男性)
本誌10月号で、喜多方市熱塩加納町の古刹・示現寺で〝墓じまい〟が相次いでいる背景を取材した。檀家らの声を聞いた結果、人口減少・少子高齢化の影響に加え、高圧的な態度の住職に対する不満も一因となっていた様子が分かった。ほかにも、会津美里町・会津薬師寺、伊達市霊山町・三乗院など、寺院をめぐるトラブルを取り上げている。本誌10月号記事では、これらのトラブルに共通するのは、①「一方的で説明不足」など住職に檀家が不信感を抱いている、②「本堂新築」、「平成の大修理」など寄付を要する大規模な事業を行おうとしている点と指摘した。
藤本教授は「寺院の大規模事業に関しては、かつては多額の寄付をできる人に依存し、一般の檀家の寄付額は少額という傾向にあったが、時代の流れにより全体で負担する方向に変わりつつあります。計画がしっかりしている寺院では、総代を中心に話し合い、マンションでいう〝修繕費〟を積み立てています。逆に言えば、そのような計画がしっかりしていない寺院は不満が一気に噴出しやすいのです」と解説する。
そのうえで「住職、総代、檀家のコミュニケーションがうまくいってない場合、トラブルが起こりがち。3者で定期的に話し合いの場を持ち、コミュニケーションを取っていれば問題は起こりにくいはずです」と話す。小原寺に関しても当てはまる指摘ではないか。
いかに寺が檀家に寄り添えるか
市内のある寺院関係者は元雄氏について次のように語る。
「以前は周りが年配者ばかりだったが、檀家も住職も年下が増えてきたこともあって、自己中心的な言動がとにかく目立つようになった。都市部だが、旧小原田村を象徴する寺なので、住職も檀家もそれぞれプライドを持っている。だから、不満が溜まるのでしょう。仏教離れ、少子高齢化が進み、物価高騰で家計も大変な中、何より大事なのはいかに寺(住職)が檀家に寄り添えるか。一方的に旧態依然とした考え方を押し付けるスタンスでは、今後も離檀する檀家は増える一方でしょう」
元雄氏自身は自覚がないようだが、檀家の話を聞く限りコミュニケーション不足は否めない。中には知識量や宗教者としての姿勢を認め、リスペクトを込めて話す人もいたが、だからと言って一方的な〝上から目線〟の寺院運営を続けていれば檀家は離れていく。
同寺院は前述の通り、公共性が高い古刹であり、宗教法人は周知の通り、その公益性の高さから境内や寺院建造物の固定資産税が免除され、お布施などの収入は非課税となっている。元雄氏はその寺院を代表する立場にいるのだから、周りから不満の声が出ていることを素直に受け止め、自身の対応を見直すべきだ。
元輝氏はこの間仏像彫刻の寺小屋イベントを実施しているという。さらに立派な本堂と広大な駐車場を活用した祭り・イベントを計画し、寺に足を運びやすい雰囲気を作ることから考えてみてはどうだろうか。