喜多方市熱塩加納町の古刹・示現寺で、寺から墓を引き払って「墓じまい」する檀家が増えている。人口減少・少子高齢化が理由とされているが、「高圧的な態度の住職への不満も一因となっている」と指摘する声もある。(志賀)
素行不良の“ブチ切れ”住職に不満続出
護法山示現寺は喜多方市熱塩加納町にある熱塩温泉の最奥部に位置する。もともとは平安時代初期に空海が建立した真言宗寺院で、永和元(1375)年、殺生石伝説で知られる禅僧・源扇心昭が曹洞宗寺院として再興した。境内には源扇和尚の墓もある。
戦国時代に会津領を治めた芦名氏などから寄進を受け、会津地方屈指の大きな寺となった。国指定重要文化財椿彫木彩漆笈のほか、中世・近世に記された貴重な文書(慈現寺文書)、源扇和尚にまつわる寺宝などが所蔵されている。境内の観音堂には千手観音立像が収められており、会津三十三観音五番札所にもなっている。熱塩温泉出身で、〝日本のナイチンゲール〟と呼ばれる瓜生岩子のの坐像などもある。
熱塩温泉は源扇和尚が示現寺を再興した際に発見したと伝えられており、明治・昭和初期は湯治場としてにぎわったという。元湯の権利はいまも示現寺が所有し、周辺の広大な山林の所有者にもなっているようだ。
会津地方を代表する名刹の一つであり、遠方からの観光客も訪れる。そういう意味では公益性が高い寺院と言えるが、近年は「離檀」する檀家が増えているようだ。ある総代によると、檀家数はかつて約170戸だったが現在は約150戸まで減ったという。
「この地区は人口減少・少子高齢化が深刻で、空き家が増えている。熱塩温泉の温泉街もいまは旅館が1軒(山形屋旅館)残るのみです。子どもが都市部で暮らしており、墓参りの際の負担の軽減などの理由で、檀家から離れて〝墓じまい〟する家が増えているのです」(ある総代)
同市熱塩加納町に限らず、会津地方では人口減少と少子高齢化により檀家・住職の後継者不足が深刻で、〝空き寺〟が増加している。一方で、寺院と関わる機会が少ない都市部では仏教自体への関心が衰え、葬式の際も葬祭ホールを使ったり、通夜・告別式を行わず火葬のみ行う〝直葬〟が増えている。要するに「仏教離れ」が進む中で、檀家減少が続いている、と。
もっとも、喜多方市内の寺院事情に詳しい事情通はこのように話す。
「表向きは人口減少・少子高齢化の影響と言われていますが、実際のところ、住職・斎藤威夫氏の言動に閉口して離れていく人も少なくないと聞いています」
複数の檀家の話を統合すると、斎藤氏は昭和28(1953)年生まれ。喜多方商業高校卒。大学の仏教学部を卒業したかどうかは不明。父親の智兼さんが住職を務めていたつながりで、示現寺の住職を務めるようになったという。
県私学・法人課が公表している宗教法人名簿によると、示現寺のほか、喜多方市内の能満寺(岩月町大都)、威徳寺(松山町鳥見山)、大用寺(上三宮町三谷)、常繁寺(熱塩加納町熱塩)、長徳寺(熱塩加納町米岡)、久山寺(同)、万勝寺(同)の代表役員を務めている。
前述の通り、示現寺の檀家数は約150戸とのことだが、その他の寺院は檀家が少なく、「主だったところを合わせても200~300戸ぐらいではないか」(斎藤氏が管理する寺院の檀家)。小規模の無住職寺院の管理を一手に引き受け、各寺院の檀家の葬儀・法事に1人で対応しているようだ。
「そうした事情もあってか葬儀・法事に来ても、檀家とろくに話もせず、すぐ帰ってしまうのです。試しに時間を計ったら、お経を読んで帰るまで、ちょうど10分でした。お経を読みながら時計をちらちら見て、弔辞が長いことに腹を立て帰ってしまったこともある。司会の女性に名前を間違えて紹介されただけで怒って帰ったとも聞いている。ああいう対応では故人も浮かばれないし、お布施を払って住職を支えようという気分にはなれません。普段は別の場所に住んでいるためか、示現寺の境内は手入れが行き届いていない状態で、『観光客が来るのに……』と心配している檀家も多いです」(同)
グーグルで示現寺の口コミを確認したところ、「風情がある」と評価する意見がある一方で、「朽ち果てそうで、手入れがされていないのかと思うお寺でした」とも書き込まれていた。寺院の内部はモノが散乱しているという話も聞かれる。
寺の運営は檀家が支払う護持会費や葬儀・法事の際のお布施で賄われている。そこから維持費や修繕費などを差し引き、残った分が住職の給料となる。運営が成り立つ檀家数の基準は300戸と言われているが、斎藤氏が住職を務める寺院は合計でギリギリ満たす程度とみられる。そのためか、斎藤氏は檀家に経営・金銭面の話をすることが多いようで、「お布施の中身を見て金額が少ないとばかり戻されることもあったようだ」、「カネの話ばかりでうんざりする」という声も聞かれた。それだけ寺院運営が厳しいのか、他にカネを必要とする事情があるのか。
なお示現寺では、本堂や庫裏の屋根のふき替え工事を行っているところで、それぞれ2000万円ずつかかるため、宗教法人と護持会で半額ずつ負担し、10年かけて支払うことになったという。檀家は護持会費の支払い以外に、年間2万円程度の寄付を求められている。
斎藤住職を直撃
斎藤氏が住職を兼務する寺院のある檀家は「盆礼、年始、野菜、コメ……1年中何かを納めている。正直大変ですよ」とボヤいた。
「ここ数年は少し落ち着いたようだが、かつては飲食店街で派手に飲み歩き、外国人の女性の店を好んで利用していたことで知られていた。子どものときから変わった性格だった。この辺では〝王様〟なので、誰も何も言えません。あなたも取材に行ってあれこれ質問すると怒られちゃうと思うよ」(同)
斎藤氏が住職を務める寺院の護持会役員の男性はこう明かす。
「離檀する家にその理由を尋ねると、『つながりが希薄な菩提寺のために、お布施を払い続けるのが厳しくなってきた』という意見が多く、『そもそも話す機会が少なく、態度も良くない住職に金を払うのはちょっと……』という思いも聞いていた。さすがにこうした声は住職本人に伝えていません」
一部の総代から擁護する声もあったが、大半は不満の声だった。
寺院に関しては、その公益性の高さから境内や寺院建造物の固定資産税が免除され、宗教法人の収入も非課税とされている。その代表役員を務める住職としてふさわしいのか、檀家から厳しい視線が注がれている。
檀家のこうした声を斎藤氏はどう受け止めるのか。9月中旬、威徳寺の庫裏にいた斎藤氏に話を聞いた。
× × × ×
――政経東北です。
「そういう文書関係はうち、出さなくていいよ。何、どういうことを聞きたいわけ?」
――この辺の寺院で檀家が減っていると聞いて取材していました。
「極端に変化したわけではないが、都市部に家を移す人がいるので、少しずつ減ってはいる。ただ、ごそっと減ったわけではないね」
――その要因は。
「少子高齢化と、(会津地方に多い)農業従事者の後継者がいなくなっていること。日本全体で産業構造が変わりつつあり、人口が都市部に集中している」
――斎藤氏が住職を務める寺の檀家からは「お経を上げたらすぐ帰る」、「カネの話ばかりする」という住職への不満の声も聞きました。離檀の一因にもなっていると思うのですが、どう受け止めますか。
「いまの時代、檀家が住職についてこない。それに寺院は住職のものではなく、宗教法人のもの。古くなればお金を出し合って改修しないといけない。寄付を取られる、取られないという問題ではないんです。和尚は大変なんだよ。お布施も安い。郡山市は50万円とか70万円でやっているでしょう。この辺は15~20万円なんだから。こうした中身を知らないで喋って歩くのは良くないよ!」
――檀家の皆さんから話を聞いたので、確認まで取材にお邪魔したということです。
「何もあんたが確認することないじゃないの! 檀家の人と喋ったってダメだって。信仰がないもの」
――複数の寺の住職を兼務しているようですね。
「小さいお寺だと年間の護持会費3000円とかですよ。それでどうやってやってくんだよ。(檀家には)あんたみたいに偉そうに喋る人しかいないんだよ。ちょっとはへりくだって喋れよ! 知らない相手に対してはまずハイハイと話を聞くものであって、分かった風にして話を聞くのは失礼でしょう」
――飲食店街でずいぶん飲み歩いていたという話も聞いたが。
「最近は出てないよ。だって、街に行かなきゃ人いないじゃないの。付き合いがないんだよ。無尽も2つやっていたが、1つはやめちゃった。……いや、こんな嫌な思いするなら喋りたくないです。ガセネタで歩いているわけだから」
――実際に檀家さんから聞いた話を確認しているだけです。
「個人的に攻撃するような質問ばかりして、何が目的なんだよ。『周りがこう言っている』なんて恫喝するような話をするというのは失礼でしょう!」
近くの願成寺でもトラブル
――檀家の皆さんからそういう話が出たのは事実です。
「皆さんってどの辺の皆さんだよ。それを言えないなら話にならない」
――檀家の皆さんも直接住職には言いづらいのだと思います。
「そういう話だったら何も話したくないですね。帰ってください。警察に電話してもいいよ、いま」
――通常の取材活動の一環なので、もし警察が来たらそれを説明するだけです。
「取材じゃなくて、個人的批判じゃないか! じゃあ、あんたは飲みに出ないんだな!?」
――実際、ほとんど出てないですね。編集部の人間もそんなに飲み歩くことはないと思います。
「ああそうかよ……。あんた話し方下手だね。初対面の人にそんな失礼なことばっかり言ってたんじゃ仕事にならないんじゃないの?」
――単刀直入に聞かないと分からないこともあるので。あらためて檀家数を確認したいのですが……。
「もういいです。そういうことなら帰ってください」
× × × ×
斎藤氏は記者の対応を問題視していたが、初対面の記者を「あんた」呼ばわりするなど、一貫して高圧的な対応だった。檀家への対応は推して知るべし。
飲食店街の話題を出したあたりからほぼ怒声になり、「飲みに出かけて何が悪いんだ」と繰り返し反論された。こちらとしては檀家から出た話を事実確認したまでだが、そのこと自体を批判されたと感じたようだ。それとも、何か後ろめたいことでもあるのだろうか。
斎藤氏は、檀家の減少は少子高齢化と農業従事者の後継者不足、信仰心の低下が原因と分析。一方の檀家からは、つながりが希薄な寺院のために金を払うことへの是非を問う声や斎藤氏個人への不満が聞かれた。主張がかみ合っていないのだから、相互に信頼関係を築けるはずがない。
喜多方市の寺院の離檀をめぐっては、2015年8月号で「喜多方・願成寺で集団離檀騒動」という記事を掲載した。
会津大仏こと国指定重要文化財「木造阿弥陀如来坐像及両脇侍坐像」で知られる古刹・叶山三宝院願成寺。この寺で2014年ごろ、檀家が一斉に抜ける騒動が起きた。
きっかけは、震災で損壊した本堂や山門などの修繕工事を行うため、同寺院が檀家に多額の寄付を要請したこと。戒名の種類に合わせて寄付金額が設定された。院・庵号(11文字)の場合、通常の護持費年1万8000円に加え、年間4万円×15年といった具合だ。
津田俊良住職(当時)は以前から住職としての資質を疑問視される言動が目立ち、一部の檀家の間で不満が溜まっていた。そこに高額な寄付要求が重なったため、集団離檀を招くことになった。
本誌取材に対し津田住職は「1年近くかけて地区ごとに説明会を開催しており、一方的に決めたわけではない。まともに対話しようとせずに離檀する方が一方的だ」と反論したが、檀家が津田住職個人への不満を募らせていたことには全く考えが及んでいない様子だった。今回の示現寺と同じ構図と言える。
逆に言えば、会津地方ではこうしたことが話題になるぐらい寺院が住民にとって身近な存在だとも言える。
檀家の声に耳を傾けるべき
本誌では、同記事以外にも、会津美里町・会津薬師寺の集団離檀騒動(2009年4月号)、伊達市霊山町・三乗院の本堂新築寄付騒動(2010年5月号)、福島市・宝勝寺「檀信徒会館」計画騒動(2015年6月号)、須賀川市・無量寺の屋根葺き替え工事トラブル(2022年10月号)など、過去何度も寺院をめぐるトラブルを取り上げている。
共通しているのは、①「一方的で説明不足」など住職に対し檀家が不信感を抱いている、②「本堂新築」、「平成の大修理」など檀家の寄付を要する大規模な事業を行おうとしている――という2点だ。要するに、「信頼できない住職のために、なぜ檀家が負担を強いられなければならないのか」ということに尽きる。
寺院にとって苦難の時代。そうした中で、斎藤氏が8つの寺院の住職を兼務し、時間的・財政的に苦しい中で奮闘していること自体は評価できるものだ。檀家にとってもありがたい存在だろう。しかし、だからといって「檀家が寺を支えるのは当然」と高圧的な対応を続け、コミュニケーションを怠るようでは、檀家も代替わりした機会などに離れていく。
例えば示現寺の手入れ・管理などは、檀家と手分けしてできることもあるはず。公益性の高い寺院の住職として、まずは自らの言動に不満の声が出ていることを真摯に受け止め、檀家の声に耳を傾ける時間を作る。それが信頼関係回復への近道ではないか。
それともこうした意見すらも「個人的攻撃」、「恫喝」と受け取られてしまうのだろうか。