泥沼化する大熊町議と住民のトラブル

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 本誌昨年5月号に「裁判に発展した大熊町議と住民のトラブル」という記事を掲載した。問題の経過はこうだ。

 ○2019年に、大熊町から茨城県に避難しているAさんが、佐藤照彦議員と、避難指示解除後の帰還についての問答の中で、「あんたら、県外にいる人間に言われる筋合いはない」との暴言を浴びせられた。

 ○Aさんは「県外に避難している町民を蔑ろにしていることが浮き彫りになった排他的発言で許しがたい」として議会に懲罰要求した。

 ○議会は佐藤議員に聞き取りなどを行い、Aさんに「議会活動内のことではないため、議会として懲罰等にはかけられない。本人には自分の発言には責任を持って対応するように、と注意を促した」と回答した。

 ○佐藤議員は、当時の本誌取材に「(Aさんに対して)『あなたは、県外に住宅をお求めになったのかどうかは知りませんが、あなたとは帰る・帰らないの議論は差し控えたい』ということを伝えた。(Aさんは)『県外避難者に対する侮辱だ』と言っているが、私は議員に立候補した際、『町外避難者の支援の充実』を公約に掲げており、そんなこと(県外避難者を侮辱するようなこと)はあり得ない」とコメントした。

 ○その後、Aさんが佐藤議員に謝罪を求めたところ、2020年5月14日付で、佐藤議員の代理人弁護士からAさんに文書が届き、最終的には佐藤議員がAさんに対し「面談強要禁止」を求める訴訟を起こした。

 ○同訴訟の判決は2022年10月4日にあり、「面談強要禁止」を認める判決を下した。Aさんは一審判決を不服として控訴した。控訴審判決は、昨年3月14日に言い渡され、一審判決を支持し、Aさんの請求を棄却した。

 以上が大まかな経過である。

 こうして、思わぬ方向に動いたこの問題だが、実は、今度はAさんが佐藤議員を相手取り、裁判(昨年5月12日付、福島地裁いわき支部)を起こしたことが分かった。

 請求の趣旨は、「佐藤議員は、大熊町議会・委員会で、『Aさんが虚偽を述べている』旨の答弁をしたほか、虚偽の内容証明書、裁判陳述等によって名誉毀損、畏怖・威迫・プライバシー侵害等の人格権侵害を受けた」として、160万円の損害賠償を求めるもの。

 要は、Aさんが佐藤議員から、「あんたら、県外にいる人間に言われる筋合いはない」との暴言を吐かれ、議会に懲罰要求した際、佐藤議員は議会・委員会などで「(Aさんは)私に嫌がらせをするため、排他的発言をしたとして事実を歪曲している」旨の発言をしたほか、「弁護士を介して、民事・刑事の提訴予告等の畏怖・威迫行為を記載する内容証明書を送付した」として、損害賠償を求めたのである。

 泥沼化するこの問題がどんな結末を迎えるのかは分からないが、本誌昨年5月号で指摘したように、背景には「宙ぶらりんな避難住民の在り方」が関係している。原発事故の避難指示区域の住民は強制的に域外への避難を余儀なくされた。原発賠償の事務的な問題などもあって、「住民票がある自治体」と「実際に住んでいる自治体」が異なる事態になった。わずかな期間ならまだしも、10年以上もそうした状況が続いているのだ。本来なら、原発避難区域の特殊事情を鑑みた特別立法等の措置を講じる必要があったのに、それをしなかった。その結果、今回のようなトラブルを生み出していると言っても過言ではない。

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