磐梯町と猪苗代町にまたがる林地で建設が進められている太陽光発電施設(メガソーラー)で、施工業者間による工事代金未払いトラブルが起きている。被害を訴える業者は損害賠償を求めて提訴する準備を進めているが、この業者によると、そもそも建設地は地層や土質の調査が不十分にもかかわらず県が林地開発許可を出したという。建設地でどのような調査が行われ、県の許可に問題はなかったのか検証する。
専門業者が県の林地開発許可を疑問視
JR磐越西線翁島駅から南西に約2㌔、線路と磐越自動車道に挟まれた広大な林地で今、メガソーラーの建設が進められている。
敷地は磐梯町と一部猪苗代町にまたがっており、面積約34・7㌶。記者は8月上旬に一度建設地を訪れたが、起伏のある土地に沿って無数のパネルが並び、遠くではこれからパネルが張られようとしている場所で重機が動いているのが確認できた。
不動産登記簿によると、一帯は主に都内の再エネ会社と奈良市在住の個人が所有しており、都内の再エネコンサル会社と投資会社が権利者として名前を連ねている。
開示された県の公文書によると、メガソーラーの正式名称は磐梯猪苗代太陽光発電所(設備容量28・0㍋㍗)、事業者は合同会社NRE―41インベストメント(東京都港区、以下、NRE―41と略。代表社員=日本再生可能エネルギー㈱、職務執行者=ニティン・アプテ氏)。同社は建設地に2019年12月から35年間の地上権を設定し、土地所有者の再エネ会社を債務者とする10億円の抵当権を設定している。
調べると、NRE―41と代表社員の日本再生可能エネルギーは同じ住所。さらにその住所には日本再生可能エネルギーの親会社であるヴィーナ・エナジー・ジャパン㈱が本社を構えている。
ヴィーナ・エナジーはアジア太平洋地域最大級の独立系再生可能エネルギー発電事業者で、シンガポールに本社、各国に現地法人を置く。日本では2013年から事業を開始し、日本法人のヴィーナ・エナジー・ジャパン(以下、ヴィーナ社と略)は国内29カ所でメガソーラーを稼働する。県内には国見町(運転開始16年2月、設備容量13・0㍋㍗)、二本松市(同17年8月、同29・5㍋㍗)、小野町(同20年8月、35・0㍋㍗)に施設がある。
ヴィーナ社にとって磐梯猪苗代太陽光発電所は県内4カ所目の施設となるが、実は前記3カ所もNRE―03インベストメント、同06、同39という合同会社がそれぞれ事業者になっている。合同会社は新会社法に基づく会社形態で、設立時の手間やコストを省ける一方、代表社員は出資額以上のリスクを負わされず(ちなみにNRE―41の資本金は10万円)、投資家と事業者で共同事業を行う際、定款で定めれば出資比率に関係なく平等の立場で利益を配分できるといった特徴がある。
そのため合同会社は、外資が手掛けるメガソーラーの事業者として登場する頻度が高い。ヴィーナ社にとっては、発電を終え利益を確定させたら撤退し、リスクが生じたら責任を負わせて切り捨てる、という使い勝手の良さが透けて見える。
そんな建設地で今、施工業者間によるトラブルが起きている。
「私は下請けとして2019年11月から現場に入ったが、元請けが適正な工事代金を払わず、再三抗議しても応じないため、やむなく現場から手を引いた」
こう話すのは、小川工業㈱(郡山市)の小川正克社長だ。
同社はヴィーナ社の元請けである㈱小又建設(青森県七戸町)から造成工事などを受注したが、地中から大量の転石が発生し、その処理に多大な労力を要した。当然、工事代金は当初予定よりかさんだが「小又建設はいくら言っても石にかかった工事代金を払わなかった」(同)。未払い金は5億円に上るという。
「こちらで転石の数量をきちんと把握し、一覧にして請求しても払ってくれないので青森の本社に行って小又進会長に直談判した。しかし、小又会長は『そんなに石が出るはずがない』と言うばかりで」(同)
小川社長は仕事を任せた作業員に迷惑をかけられないと、立て替え払いをしながら「石の工事代金を払ってほしい」と求め続けたという。
「小又建設の現場監督に『工事を止めないでほしい』と言われ、支払いがあると信じて工事を続けたが、状況は変わらなかった」(同)
このままでは会社が持ちこたえられないと判断した小川社長は2021年1月に現場から撤退。現在、小又建設を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こす準備を進めている。
これに対し、小又進会長は本誌の電話取材にこう反論する。
「石に関する工事代金は数回に分けて払い全額支払い済みだ。手元には小川工業からの請求書もあるし支払調書もある。うちは建設業法違反になるようなことはやらない」
小川社長と小又会長は自身の言い分を詳細に話してくれたが、もし裁判になった場合、記事中のコメントが訴訟の行方に影響を与える恐れもあるので、これ以上詳報するのは控えたい。ただ、これとは別に小川社長が問題提起するのが、NRE―41が県に行った林地開発許可申請だ。
NRE―41は2019年7月に県会津農林事務所に林地開発許可申請書を提出。同年8月に森林法の規定に基づき、県から林地開発を許可された。その申請に当たり同社は建設地でボーリング調査を行い、県に調査結果を提出しているが、小川社長は「書類が不備だらけ」と指摘するのだ。
不備だらけの書類
「NRE―41は建設地の3カ所でボーリング調査を行っているが、その結果が書かれた3枚のボーリング柱状図を見ると2枚は調査個所を示す北緯と東経が空欄になっていた。同社が提出したボーリング調査位置図には三つの赤い点で調査個所が示されているが、北緯と東経が不明では本当に赤い点の個所で調査が行われたのか疑わしい」(同)
記者も3枚のボーリング柱状図を見たが、そのうちの2枚は確かに北緯と東経が空欄になっていた。
「不可解なのは、ボーリング柱状図は3枚あるのに、コア(ボーリング調査で採取された石や土が棒状になった試料。これにより現場の地層や土質が把握できる)の写真は2枚しかないことです。また、調査の様子や看板の写真も1枚もない。こんな不備だらけの書類を、県はなぜ受理したのか不思議でならない」(同)
この3カ所以外に、NRE―41は別の3カ所でもボーリング調査を行
っているが、そちらはボーリング柱状図に空欄はなく、コアの写真も3枚あり、調査の様子や看板の写真も一式揃っていた。
「そもそも34・7㌶もの林地を開発するのに、ボーリング調査をたった6カ所でしか行っていないのは少なすぎる。しかも6カ所は建設地の中央ではなく、すべて外側や境界線あたり。これで一帯の正確な地層や土質が把握できるのか」(同)
ならば、建設地中央の地層や土質はどうやって調査したのか。
「NRE―41は簡易動的コーン貫入試験で土質調査を済ませていた。調査位置図や調査結果書を見ると、建設地の主要18カ所で同試験が行われていた」
しかし、ボーリング調査が深度10~15㍍の地層まで把握できるのに対し、コーン貫入試験は3㍍未満の地層しか把握できず、正確な地層や土質を調べることはできない。
小川社長は「だから、造成工事をしたら大量に石が出てきたんだと思う」と指摘する。
「きちんとボーリング調査をしていれば一帯が石だらけなのは分かったはず。それをコーン貫入試験で済ませたから、表層は把握できても深層までは把握できなかった。ただ地元の人なら、昔起きた磐梯山の噴火で一帯に大量の石が埋まっていることは想像できる。ヴィーナ社は外資で、小又建設は青森だから分からなかったんだと思う」(同)
「私なら受理しない」
本誌はあるボーリング調査会社社長にNRE―41の書類一式を見てもらったが、開口一番発したのは「本当にこれで県は受理したんですか」という疑問だった。
「まずコアの写真がないのはおかしい。普通はコアの写真があってボ
ーリング柱状図が作成され、調査の様子や看板の写真などと一緒に県に提出するからです。コアは役人が立ち会い、実物を確認したりもする大事なものなので、その写真がないのは明らかにおかしい」(同)
こうした調査結果に基づいて設計図がつくられ、造成工事はその設計図に沿って行われるため「調査が不正確だと設計図も誤ったものになり造成工事は成り立たなくなる」(同)という。
「そもそも最初のボーリング調査がたった3カ所というのは少なすぎる。普通は建設地の対角線上に一定の距離を置きながらボーリング調査をしていく。その調査個所をつないでいけば一帯の地層や土質が見えてくるし、さらに詳細に調べるなら物理探査を行って地中の様子を面的に見たりもする」(同)
調査会社社長は、今回のように広大な建設地を造成する場合はどれだけの強さの土がどれくらいあるか知っておくべきとして「地質断面図があればなおいい」と指摘したが、書類一式を見てもそれはなかった。
「建設地の中央をコーン貫入試験で済ませていては一帯の地層や土質を把握するのは無理。同試験では表土は分かっても地層は分からない。コーンを貫入して礫や転石に当たったら、それ以上は貫入不可能だからです。だいいち同試験は表層滑りのリスクがあるかどうかを調べるために行うので、NRE―41が行った同試験にどんな意味があるのか分からない。正直、こういう調査でよく設計図が書けたなと思う」(同)
その上で調査会社社長は「自分が県職員だったら、コーン貫入試験ではボーリング調査の〝代役〟にはならず、一帯の地層や土質は把握できないのでボーリング調査をやり直すよう命じる。もちろん申請書は受理しない」と断言する。
「理由は災害のリスクがあるからです。一帯の地層や土質が分からずに開発し、結果、災害が起きたら周囲に深刻な被害をもたらす恐れがある。だから、災害が起こらないようにボーリング調査を行い、調査結果に基づいて設計図をつくるのです。ボーリング調査も設計図も不正確では安全性を担保できない。もし災害が起きたら開発業者に責任があるのは言うまでもないが、私は許可を出した県の責任も問われてしかるべきだと思う」(同)
専門業者も疑問視する中、県はなぜ許可を出したのか。申請書を受理した会津農林事務所森林林業部の眞壁晴美副部長は次のように話す。
「森林法第10条には『知事は林地開発の申請があった時、災害や水害を発生させる恐れがないこと、水の確保や環境の保全に心配がないことが認められれば許可しなければならない』とある。これに基づき、NRE―41の申請は要件を満たしていたため許可を出した」
ボーリング調査も全体的に行う必要はないという。
「計画では敷地内に防災調節池を8カ所つくることになっており、そのうち6カ所は掘り込み式の調節池だが、残り2カ所は築堤する設計で基礎地盤を把握しなければならないため、NRE―41は一つの調節池につき3カ所、計6カ所のボーリング調査を行った。コーン貫入試験は太陽光パネルの足場を組むため現場の土質を調べたもので、許可申請とは何の関係もない」(同)
前出・小川社長が指摘する「書類の不備」(ボーリング柱状図に北緯と東経が載っていない、コアの写真がない、調査の様子や看板の写真一式がない)については、
「NRE―41が調査を依頼した調査会社に県が聞き取りを行い、事情を把握するとともに、欠けていた書類をあとから提出してもらった。北緯と東経が空欄になっているなどの不備があったのは、調査途中でも新しく分かったことがあれば記入してどんどん提出してほしいと県が要請したので、その時に未記入の書類が提出され、それが開示請求によって公開されたのではないか。県の手元には北緯と東経が書かれたボーリング柱状図がある」
県が調査未了でも書類の提出を求め、それが開示請求によって公開されるなんてことがあるのだろうか。
筆者が「造成工事を行った結果、設計図と実際の地層、土質が違っていた場合はどうなるのか」と質問すると、
「悪質な場合は県が行政指導を行い、計画の見直しや新たな書類を提出してもらうこともあるが、基本的には事業者自らの判断で林地開発計画変更届出書を提出し、必要な変更措置をしてもらう」(同)
ちなみにNRE―41はこの間、造成工事の遅れや計画の一部変更を理由に県に何度か変更届出書を提出している。直近では今年8月31日までとしていた造成工事期間を12月5日まで延長する変更届出書を提出しているが、行政指導を受けて変更届出書を提出したことがあるかどうか尋ねると「それは言えない」(同)。また、建設地で災害が起きた場合の対策は「森林法に基づき必要書類を提出させている」(同)とのこと。
〝ザル法〟の森林法
正直、現場の正確な地層や土質が分からないまま、簡易な構造物(太陽光パネル)を設置するだけとはいえ広大な林地を開発させてしまって大丈夫なのか心配になる。たとえそれが法的に問題なくても、である。
前出・調査会社社長も驚いた様子でこう話す。
「林地開発が〝ザル法〟の森林法で許可されてしまうことがよく分かった。現場の地層や土質が分からないまま、もしメガソーラーで災害が起きたら、第一義的な責任は事業者にあるが、私は許可した県の責任も問われてしかるべきだと思う。もっとも県は『法律上問題なかった』と言い逃れするんでしょうけどね」
実はこれに関連して、前出・小又進会長が気になる発言をしていた。
「設計はヴィーナ社で行い、石の大量発生についてはうちでも払ってほしいとお願いしたが、ヴィーナ社は予算がないの一点張りだった」
つまり小又建設も、小川建設と同様に転石の工事代金を払ってもらえずにいたのだ。
筆者が「ヴィーナ社がきちんと調査していればこんな事態にはならなかったのではないか」と尋ねると、小又会長は請負業者としての難しい立場を明かした。
「その時点でうちはヴィーナ社の工事を3カ所請け負っていた。業者は『請け負け』の立場。正直、発注者には言いづらい面がある」(同)
ある意味、小又建設も被害者なのかもしれないが「青森では十数億円の現場を2カ所世話になった」(同)とも言うから、ヴィーナ社とは持ちつ持たれつの関係なのだろう。逆に言うと、小又建設がヴィーナ社から正当な転石の工事代金を受け取っていれば、小川建設にもきちんと支払いが行き届いていたのではないか。
ヴィーナ社に取材を申し込むと、子会社の日本再生可能エネルギーから「回答するので時間がほしい」とメールで連絡があったが、その後、締め切りまでに返答はなかった。
前出・小川社長は「県はNRE―41の許可申請を受理すべきではなかった。そうすれば林地開発は行われず、私も被害を受けずに済んだ」と嘆くが、森林法が〝ザル法〟であることが明らかな以上、必要な是正をしないと、あちこちの林地で稼働するメガソーラーで災害が起きた時、対応する法律がない事態に直面するのではないか。
【その後】磐梯猪苗代メガソーラー発電事業者から回答
(2023.11月号より)
先月号に「トラブル相次ぐ磐梯猪苗代メガソーラー」という記事を掲載した。
磐梯町と猪苗代町にまたがる林地で建設が進むメガソーラーで、施工業者間による工事代金未払いトラブルが起きていることや、建設地の地層や土質の調査が不十分にもかかわらず、県(会津農林事務所)が林地開発許可を出したことを専門業者の解説を交えながら報じた。
メガソーラーの事業者は「合同会社NRE―41インベストメント」という会社だが、実質的にはアジア太平洋地域最大級の独立系再生可能エネルギー発電事業者「ヴィーナ・エナジー」が指揮している。本誌は同社に取材を申し込んだが、子会社である「日本再生可能エネルギー」の大久保麻子氏から「回答するので時間がほしい」というメールは届いたものの、結局、締め切りまでに返答はなかった。
その後、10月18日に「記事掲載後とはなりますが、弊社見解をご送付させていただきます」として、同じ大久保氏でも今回は「ヴィーナ・エナジー・ジャパン広報」という立場で以下の回答を寄せた。
「当社は、県の指示に基づき、適法に開発を行っております。また、個別の契約についてはお答え致しかねます」
期限はとっくに過ぎているが、回答していただいたことには素直に感謝したい。ただ、先月号で取材に応じた〝被害者〟の小川正克氏(小川工業社長)は
「あそこに関わる人たちは時にはヴィーナ・エナジー、時には日本再生可能エネルギー、時にはNRE―41とコロコロ立場を変えるんです。いろいろな都合に合わせて所属先の会社を使い分けるのは、仕事を請け負う側からすると心配になる。もし問題が起きた時、責任を問おうとしても『それはヴィーナ・エナジーとは関係ない』、『日本再生可能エネルギーはタッチしていない』と言い逃れされる恐れがあるからです」
と話していたから、今回、大久保氏の所属先が変わっていたのを見て合点がいった次第。
小川氏によると「10月号発売後、県とヴィーナ社の間で折衝が続いている模様」というから、林地開発や工事をめぐって何らかのやりとりが行われているとみられる。