福島県教委は人口減少・少子化などを受け、県立高校の統合・再編を進めている。その1つに、船引高校(田村市)と小野高校(小野町)の統合計画があり、統合後は船引高校の校舎を使い、小野町からは高校がなくなってしまう。そのため、同町では町、議会、同窓会などが存続に向けた活動を行ってきたが、2022年9月議会で村上昭正町長が「存続断念」を表明した。
福島県教育委員会の統合計画は既定路線
県教委は、人口減少・少子化の進行、高等学校教育を取り巻く状況の変化、生徒の学習ニーズの多様化、学校の小規模化(3学級以下の高校の増加)などの教育環境の変化を背景に、2018年5月に「県立高等学校改革基本計画」を策定した。同計画では2019年度からの10年間を対象に、さまざまな取り組み内容が示されているが、その1つに県立高校の統合・再編がある。
同計画は、前期実施計画(2019〜2023年度)と後期実施計画(2024〜2028年度)に分かれ、前期は25校を13校に、後期は8校を4校に統合・再編することにしている。
今年度までに須賀川創英館(須賀川・長沼統合校)や会津西陵(大沼・坂下統合校)、相馬総合(相馬東・新地統合校)など7つの統合高校が開校しており、来年度に伊達高校(保原・梁川統合校)や二本松実業(二本松工業・安達東統合校)など5校が開校して前期計画は終了となる。
後期計画では、8校を4校に統合・再編する予定だが、その1つに船引高校(田村市)と小野高校(小野町)の統合がある。船引・小野統合校は、2026年4月開校予定で、校舎は船引高校を使う。
表①、②は、両校の募集定員と入学者の推移(過去5年間)をまとめたもの。船引高校の入学者数は横ばいから微減、小野高校は2021年度から募集人員が減ったこともあるが、大きく減っており、直近の充足率は50%を割っている。さらに、今後、小野町内の中学卒業者数が増える見込みもない(表③)。
こうした事情から、船引高校と小野高校の統合計画が示され、統合後は総合学科、定員160人(4学級)となり、前述したように校舎は船引高校を使うため、小野高校は事実上の廃校になる。ちなみに、両校は直線距離で20㌔ほど離れている。
県教委によると、現在の小野高校在学生の約42%が町内から通っているという。この数字をどのように捉えるかは判断が難しいところだが、少なくとも、前述したように、今後、同町内の中学校卒業者数が増える見込みはない。
町ぐるみで存続運動
この統合案に、小野町内では「人口・人材の流出が顕著になる」、「地域の活力が失われる」として、反対の意見が噴出した。町、議会、教育委員会、同窓会などが中心となり、県教委に統合見直しを求める要望活動などを展開してきた(表④=次頁=参照)。
今年6月には、船引・小野統合校に関する「第1回県立高等学校改革懇談会」が開催され、県教育長、県立高校改革室長らと、村上昭正小野町長、有賀仁一小野町教育長、小野高校同窓会役員、地元有識者らの話し合いが行われた。
その席で、小野町・小野高校の関係者(出席者)からは「少子化が進む中で高校の統合・再編は仕方がない」と状況は察しつつも、「住民の交流や文化の拠点となる場所がなくなる」、「町にとって高校の存在は、非常に大きなもので、『なくす』のではなく、『どうしたら存続できるか』を考えるべき」、「『人が減ったから学校も減らす』というのは、『地方創生』に逆行しているのではないか」、「船引高校に統合されたら、親も勤め先が、船引になってしまうかもしれない」といった意見が出された。このほか、町長や教育長などとの懇談だけでなく、「住民への説明も行うべき」といった指摘もあった。
この間、同町では小野高校を地域密着型高校として発展させるべく、「小野高校を考える連携協議会」を発足させ、地域行事に積極的に参加したり、同校家庭クラブと連携して、地域資源を活用した6次化商品を開発したり、農業クラブと町内の草花の手入れを一緒にやったりと、さまざまな取り組みを進めていた。同校家庭クラブが考案したメニューが高校生の料理コンテスト「うまいもん甲子園」で好成績を収めるなどの成果も出ていた。それだけに、何とか存続させてほしい、といった思いが強いようだ。
一方、県教委は「少子化、社会環境の変化が急速に進んでいる状況を捉えると、県教育委員会としては、船引高校と小野高校の統合を行い、この地域や田村郡、県内全域の教育環境を整えていくために、どうすればいいのかを考え、改革計画を示した」、「今回の意見は真摯に受け止める。地域住民に統合の方向性や内容について、しっかり理解していただくために、住民向けの説明会についても、町と協議して対応していく」と返答した。
こうして、町では小野高校存続に向けた活動を行ってきたが、今年9月議会で村上町長は「存続活動に一区切りをつける」と明かし、事実上の「存続断念」を表明した。村上町長にその真意、県教委とのやりとりのどういったところから、「計画を見直す考えはない」と感じたのかを聞いた。
村上町長に聞く
――町では、県の統合方針に「反対」の立場から、要望等を行ってきたが、その意図と経緯。
「地域から学校がなくなることで地域活力や教育力の低下を招き、何より地域の人材育成の場が失われることは、地方創生に逆行するものと考え、全県下同一基準による県立高等学校改革を改め、それぞれの地域の実情に合った魅力ある教育環境づくりを推進するため、地域の意見等を十分に聴き取ったうえで、それらを反映させた後期実施計画へと見直しを行うことを要望してきた」
――小野高校が統合され、実質、小野町から高校がなくなることで考えられる町内への影響。
「人口減少が加速する中、人材育成や地域振興などの役割を担う過疎・中山間地域の学校である小野高校が都市部の学校と同一の基準のもと後期実施計画通り統合すれば、地域活力や教育力の低下と人材育成の場が失われることになり、地方創生の取り組みに影響を受ける」
――9月議会で「存続要望を断念する」旨を表明したが、その真意。県教委のやり取りの中、どういったことから、「存続は難しい」「方針を変える考えはない」と感じたのか。
「小野高校の存続に向けた各種要望活動に対し、県教育委員会には計画再考など、方針を転換する考えがなく、最終的には、8月に県教育長が来訪した際、終始一貫した『地域全体を考え、子どもたちにとってより良い環境づくりのため後期実施計画を進める』との具体的発言から存続を断念した」
――そうした方針を示したことに対する町内の反応。
「これまでの経過や今後の取り組み方針等について、町広報紙を通じて町民へ周知を行ったが、町民から担当部署へは、意見や問い合わせはないのが現状である。ただ、小野高校について考える連携協議会(町民等から小野高校に関する意見等をいただく機関)を開催した際に委員からは以下のような意見等をいただいた。『町の方針転換はやむを得ないが残念である。また、県教育委員会のやり方は納得できない。手順も間違っており、地域の声を全く聞かず配慮不足であるが、地域にとってよりよい方向(利活用)になるように、県と綿密に連携していってほしい』『統合に向けて、町(地域)として農業が大切であるため、施設の有効活用を求めていくことや通学支援も考えていく必要があると思うので、県と交渉していくことが大事である。あわせて校舎方式(入学と卒業が同じ校舎)にするべき』」
――統合を受け入れるとして、マイナス影響や町民の不安・不満等を解消するため、今後、町としてどのような取り組みをするか。
「苦渋の決断ながら、将来を担う子どもたちにとって、より良い教育環境づくりへの道筋をつける必要があるため、これまで町が行ってきた『小野高校の存続要望活動』に区切りをつけ、『小野高校の存続ありき』から『小野高校の存続を前提とせず』、小野町の高校生を地域全体で支え、支援することで教育環境を充実させるとともに、町民との協働による地域活性化に積極的に取り組んでいく。加えて、統合するまで残り4年間、引き続き小野高校の支援を行っていきたい」
県教委に求められること
県教委の進め方などに不満を持ちつつも、「方針を変える考えはない」と感じていたようだ。最終的には、8月に県教育長が来訪した際の発言を受け、「存続を断念した」という。今後は、統合後のことを考え、町内にマイナス影響が出ないような方策・取り組みが求められる。
一方で、県教委によると、小野高校の年間運営費は約5400万円(2019年度)という。現在の人口減少・少子化の流れや、地方自治法で規定されている「地方公共団体は、(中略)住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」(地方自治法2条14)という原則を考えたら、統合・再編はやむを得ない面はあるだろう。とはいえ、地元住民などへの丁寧な説明と理解醸成のための取り組みは今後も継続しなければならない。