「保管クリーニング」の落とし穴

「保管クリーニング」の落とし穴

 一般的に6月は衣替えの季節。もっとも、近年は4、5月に夏日・真夏日になる日もあるため、実際には冬物の衣類の出番はもっと早くに終わるだろうが。いずれにしても、冬物は自宅での洗濯が難しいうえ、嵩張るため保管場所に困る、という人も多いと思われる。そんな中、春から夏前にかけて、冬物をクリーニングに出し、そのまま晩秋まで預かってくれる「保管クリーニング」というサービスがある。言わば、クリーニング業者が「洗濯」と「タンス」の両方を担うサービスだが、この保管クリーニングには落とし穴もあるという。この問題について、NPO法人「クリーニング・カスタマーズサポート」の鈴木和幸理事長に解説してもらった。

業界のNPO法人代表が解説

鈴木和幸理事長
鈴木和幸理事長

 NPO法人「クリーニング・カスタマーズサポート」はクリーニング業界の健全化を目的に、2014年に設立され、今年10周年を迎えた。理事長の鈴木和幸氏は、須賀川市でクリーニング業「セルクル」を経営しており、須賀川商工会議所副会頭も務めている。

 鈴木理事長は「保管クリーニング」についてこう話す。

 「春にクリーニング業者が冬物衣料を預かり、洗って保管ルームで保管し、11月ごろに返す『保管クリーニング』というサービスが登場したのは、私が知る限りでは1980年代のこと。ただ、最初のころは、富裕層から礼装や有名ブランド衣類などを預かる、ごく限られた客を相手にするサービスでした」

 それが少しずつ広がっていったわけだが、同時にある問題も出てきた。

 「1990年代ごろから、春に預かったものをいつまでも洗わずに置いておく行為が出てきたようです。もっとも、そのころはまだそれが表面化はしていませんでしたが、業界に詳しい識者によると、そのころからそういった行為が行われるようになった、と」

 2000年代に入ると、宅配クリーニング業者が保管クリーニングを行うようになり、それが好調と知ると、2010年代には既存の大手クリーニング業者が保管クリーニングに参入した。

 「ただ、そのほぼ100%が、夏ごろまで放置されている状況です」

 鈴木理事長によると、クリーニング業界は、4、5月は繁忙期で、依頼が殺到するという。保管クリーニングもその時期に預かるわけだが、すぐにはクリーニングしない。逆に8、9月は閑散期になるため、その時期にようやく夏前に預かったものを洗う。

 つまり、業界的には閑散期対策として保管クリーニングは魅力的な仕事と言えるが、「客にそれ(すぐに洗わないこと)が告知されていないことと、預かってから実際にクリーニングするまでの保管のあり方が問題なのです。保管状況にもよりますが、すぐに洗わないとカビが生えたり、シワが出たりしますから」と、鈴木理事長は言う。

 徐々にそうした実態が知られるようになり、実際にトラブルも発生するようになった。

トラブルの事例

 2017年には、朝日新聞(同年11月8日付)が「保管クリーニング すぐには洗わず?」との見出しで、この問題を報じた。発端は、ある業者が預かった衣類の返還の際、遅配トラブルを起こしたことだが、《取材を進めると、預かった衣類を長期間洗わないことが常態化している実態が見えてきた》(同記事より)として、その実態を伝えている。

 2020年には、クリーニング・カスタマーズサポートに、関西の保管クリーニング利用者から相談があった。内容は、「保管クリーニングを利用していたが、急に転勤になって衣料品を受け取ろうと連絡したところ、その場合は解約金が必要と言われた」というもの。そこで、クリーニング・カスタマーズサポートで確認したところ、その時点でまだ洗っていなかったことが判明したという。

 すぐの引き取り(返還)を諦めてもらうため、あるいは客からの解約申請後にクリーニングするための時間稼ぎが目的だったのかは分からないが、業者側の対応はそういったものだった。そこで、クリーニング・カスタマーズサポートが間に入り話をして、解約金なしで返還に至ったという。

 昨年9月には「AERA dot」が「『保管クリーニング』は洗わず放置されている? 『カビ』が生え『シワ』だらけの実態を業者が告発」と報じた。以下は同9月12日配信記事より。

   ×  ×  ×  ×

 クリーニングに出した服を、そのまま店舗で一定期間預かってくれる「保管クリーニング」。近年、首都圏を中心に人気を集めており、「家に収納スペースがない」「次のシーズンまで服を管理するのは面倒」という人には、もってこいのサービスだ。しかし、業者によっては、服を預かってから半年間も洗たくせず、汗や皮脂がついたまま放置しているケースがあるようだ。保管クリーニング商品の洗たくを下請けした経験のある業者たちが、口々にその実態を明かした。

 「7~8割の服に、フワフワと白や緑のカビが生えていました」

 そう振り返るのは、関東地方でクリーニング業を営むヤマダさん(仮名)。一昨年秋、業界大手の「宅配クリーニングのX」(仮名)から、保管クリーニング商品500~600点を洗たくしてほしいと依頼があった。しかし、店に届いた服を見ると、カビだらけ。預かり伝票を見ると、客からは半年前の春先に受け取ったものだった。

 「汚れたまま、温度や湿度が管理されていない密閉状態で保管したことで、カビが広がったんだと思います」と、ヤマダさん。社員は「これ、大丈夫なんですかね?」と困惑していたが、結局カビをきれいに洗い落として、期日までに納品した。だがヤマダさんは、「職業倫理的に、お客さんから預かった商品をこんなふうに扱う会社とはもう関わりたくない」と話す。

 数年前の秋、同じくXから保管クリーニング商品を引き受けたタナカさん(仮名)は、「カビが生えていただけでなく、くっきりシワがついていた」と証言する。

 「4㌧トラックで、コートなどの冬物がどかんと1500点ほど届いたんですけど、袋にぎゅうぎゅう詰めで。洗った後になかなかシワが伸びなくて、厳しかったです。プロが見れば、袋に詰められたまま、長期間置きっぱなしにされていたんだろうとわかりますよ」

 (中略)

 同じく、Xから衣類を引き受けたことのあるサトウさん(仮名)も、「預かってから数カ月以上洗わないなんて、さすがにないですよ!」とあきれ返る。

 サトウさんは自身の店でも保管クリーニングを提供している。衣類は、保管状態が悪いとカビが生えて落ちなくなったり、虫食いのリスクが高くなったりするため、預かったら1カ月以内には洗たく・仕上げの作業をし、ハンガーにかけてエアコン完備の部屋に保管しているという。

 2年ほど前、サトウさんの店で、Xが約4カ月保管していた衣類を引き受けたところ、やはりカビが生えていたそうだ。Xの担当者に報告すると、そのまま洗うように指示されたという。サトウさんは、こう苦言を呈す。

 「もしカビが残っていることに気づかずにお客さんに返してしまったら大問題になるので、返却前の検品作業にすごく手間がかかった。商品管理について信用できない企業の仕事は、もう受けません」

 (後略)

   ×  ×  ×  ×

 鈴木理事長は同記事でもコメントしており、ここまで本誌に語ったような問題点を指摘している。

厚労省に問題点を指摘

 鈴木理事長は昨年6月、知人からある国会議員(県外選出)を紹介され、保管クリーニングの問題点について話したところ、厚生労働省の担当者につないでくれたという。昨年6月26日に、生活衛生課課長補佐、同指導係長と会い、保管クリーニングの問題を指摘した。その際の厚労省担当者の回答は次のようなものだったという。

 ①保管クリーニングに関しては、「クリーニング連合会」(おそらく、「全国クリーニング生活衛生同業組合連合会」を指していると思われる)からそのような存在を聞いている。

 ②連合会からは、「すぐに洗わない実態があることは把握しているが、洗濯物の状況に応じて、すぐに洗うものと、後回しにするものを判断しているようだ」との報告を受けている。

 ③すぐに洗わない際も「保管場所や保管環境には配慮しているようだ」と聞いている。

 ④機械の稼働率の関係で、どうしても閑散期があるので、ある程度はすぐに洗わない実態もやむを得ないのではないか。

 ⑤洗わず放置しているものについても、それぞれの洗濯物を確認して、汚れの少ないものなど、緊急性の低いものを後回しにしているようだ。

 鈴木理事長は「これには私も呆れてしまった」とのことだが、再度問題点を指摘し、あらためて回答してほしいと伝えた。

 その後、明確な回答はないそうだが、業界への指導要領の一部改変があったようだ。内容は次のとおり。

 「配送による洗濯物の受付を行う場合は、営業者は受け取り後速やかに洗濯物を点検し、クリーニングを行うに当たり、洗濯物の処理方法等について特に説明を要する場合や、洗濯物に異常が確認された場合は、利用者にその旨を伝えること。なお、洗濯物の受け取り時期、洗濯物の点検等により、受け取り後に一定の期間が経過してからクリーニングを実施する場合など、クリーニングを行うに当たり特に説明を要す場合については、利用者にその旨を説明し了解を得るとともに、適切な衛生環境下で保管すること」

 要するに、預かった後、すぐに洗わない場合は、客にそれを告知し、了承を得ること、というのが加えられたわけ。これでどれだけトラブル回避につながるかは不透明で、鈴木理事長も「十分な対応とは言えない」と指摘する。

 保管クリーニングは便利な半面、こうした問題点があることも知っておいてほしい。

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