(2021年3月号)
本誌2018年2月号に「二本松市岩代地区でメガソーラー計画が浮上」という記事を掲載した。二本松市岩代地区で民間事業者によるメガソーラー計画が浮上しており、その詳細をリポートしたもの。その後、同事業ではすでに工事が始まっているが、かなりの大規模開発になるため、地元住民からは「大雨が降ったら大丈夫か」と心配する声が出ている。
令和元年東日本台風を経て地元民感情に変化
2018年当時、地元住民に話を聞いたところ、「この一帯でメガソーラーをやりたいということで、事業者がこの辺りの地権者を回っている」とのことだった。
さらにある地権者によると、計画地は二本松市岩代地区の上長折字加藤木地内の山林・農地で、市役所岩代支所から国道459号沿いに3㌔ほど東に行った辺り。用地交渉に来ているのは栃木県の会社で、同社から「買収を想定しているのは約150㌶」「送電鉄塔が近くにあるため、メガソーラー用地として適しており、ぜひここでやりたいから協力(用地売却)してほしい」と説明・協力要請されたのだという。
この地権者は当時の本誌取材に次のように述べていた。
「計画地の大部分は山林や農地で、私の所有地は農地ですが、いまは耕作していません。その近隣も遊休農地が少なくないため、売ってもいいという人は多いのではないかと思います。おおよそですが、地権者は20〜30人くらいになると思われ、そのうちの何人かに聞いてみたのですが、多くは売ってもいいと考えているほか、すでに土地を売った人もいます。ただ、最初に事業者が私のところに来たのは、確かいま(記事掲載時の2018年)から2年ほど前だったと思いますが、その後も近隣の地権者を回っている様子はうかがえるものの、進展が見られません」
そこで、事業者に電話で問い合わせたところ、次のように明かした。
「当社は企画を担当しており、現在は地元地権者に協力を求めている状況ですが、実際の発電事業者は別な会社になるため、そちらにも相談してみないとお答えできないこともあります」
ただ、少なくとも「計画自体が進行中なのは間違いありません」とのことだった。
そのほか、同社への取材で、その時点で用地の約8割がまとまっていること、地権者との交渉と並行して周辺の測量などを進めていること、環境影響評価などの開発行為に関する手続きの準備・協議を管轄行政と進めていること――等々が明らかになった。
なお、同社は「近く、発電事業者との打ち合わせがあるので、取材の問い合わせがあったことは伝えておきます。そのうえで、あらためてお伝えできることがあればお伝えします」とも述べていたが、その後、同社から前述したこと以外の説明はなかった。
それから3年ほどが経った2021年1月、当時本誌にコメントしていた地権者から、こんな情報が寄せられた。
「同計画では、すでに工事が始まっていますが、予定地の山林が丸裸にされており、大雨が降ったら大丈夫なのかと不安になってきました。最初は、私も(同計画に対して)『どうせ、使っていない(耕作していない)土地だし、まあいいだろう』と思って、用地買収に応じましたが、それはあの災害の前でしたし、実際に山林が剥かれた現場を見ると、やっぱり大丈夫なのかなとの思いは拭えません」
コロナで説明の場もナシ
この地権者が言う「あの災害」とは、令和元年東日本台風を指している。この災害で同市では2人の死者が出たほか、住宅、農地、道路など、さまざまな部分で大きな被害を受けた。とりわけ、同市東和地区、岩代地区での被害が大きかったという。
そうした大きな災害があった後だけに、当初こそメガソーラー計画に賛意を示したものの、「これだけの大規模開発が行われ、山林が丸裸になった現場を見ると、大丈夫なのかとの思いを抱かずにはいられない」というのだ。加えて、同地区では、令和元年東日本台風の数年前にも大きな水害に見舞われたことがあり、「何年かに一度はそういったことがあり、特に近年は自然災害が増えているから余計に不安になります」(前出の地権者)という。
開発対象の森林面積は全体で約38㌶に上り、そのうち実際に開発が行われるのは約18㌶というから、かなりの大規模開発であることがうかがえる。
「当然、事業者もその辺(水害対策)は考えているだろうと思いますし、環境影響評価や開発許可などの手続きも踏んでいます。何らかの違反・違法行為をしているわけではありませんから、表立って『抗議』や『非難』をできる状況ではないと思いますが、やっぱり心配です」(同)
この地権者に、そういった不安を抱かせた背景には、「新型コロナウイルスの影響」も関係している。
その理由はこうだ。
「以前は何か動きがあると、事業者から詳細説明がありました。ただ、新型コロナウイルスの問題が浮上してからは、そういうことがなくなりました。一応、経過説明などの文書が回ってくることはありますが、それだけではよく分からないこともありますし、疑問に思ったことがあっても、なかなか質問しにくい状況になっています。だから、余計に心配なのです」(同)
以前は、関係者を集めて説明する、あるいは地権者・近隣住民宅を訪問して説明する、といったことがあったようだが、コロナ禍でそうしたことが省略されているというのだ。一応、事業者から経過説明などの文書が届くことはあるようだが、それだけではよく分からないこともあるほか、疑問に思ったことを質問することもできない、と。
その結果、これだけの大規模開発を行い、山を丸裸にして治水対策などは本当に大丈夫なのか、といった不安を募らせることになったわけ。
用地買収に当たった事業者と、実際の発電事業者が別なこともあり、事業者の正確な動きはつかめていないが、いずれにしても、地元住民の不安が解消されるような対策・説明が求められる。