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  • 【福島市】厳冬の夜間ホームレス調査

    【福島市】厳冬の夜間ホームレス調査

     路上生活を強いられるホームレスの数を地域住民が夜に自宅周辺を歩いて計測する取り組みが全国に広まっている。「ストリートカウント(ストカン)」と呼ばれ、英米やオーストラリアが先進地だ。日本では2016年に東京で都市空間を研究する大学教員や学生らが中心となって始まった。ホームレスを取り巻く問題を行政機関や福祉の専門家だけに押し付けず、「我がまち」の問題として捉え、ホームレスを排除しない社会を目指す狙いがある。ネットを通じて活動は広がり、全国調査は今年1月に行ったもので3回目。本誌は初参加し、JR福島駅周辺を回った。(小池航) 全国に広がる「東京発住民調査」の輪 終電後のJR福島駅西口  忘新年会シーズンでJR福島駅前を歩く機会が多い。10年前の福島駅は、東西を結ぶ地下通路や高架下でホームレスが荷物を寄せてしゃがみこんでいたり、回収した空き缶をビニール袋に入れて構内を移動する姿をよく見かけた。ホームレスの中には東京電力福島第一原発事故の収束作業や除染作業に従事した後、仕事を失い、帰る場所もなく福島に残って路上生活に陥った人もいた。  現在はどうか。地下通路を歩くと酔っ払いがした小便の臭いが立ち込めるのは相変わらずだが、ホームレスの姿は全然見かけない。  いなくなったわけではない。厚生労働省は「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に基づき、毎年市町村に路上生活者の計測を委託し集計している。直近の2023年1月調査時点によると、福島県内は9人、うち中核市別では福島市4人、郡山市3人、いわき市2人(表参照)。今年1月の数値は取りまとめ中で未公表だ。全国の統計を見ると東京、大阪など大都市に多い。 ホームレスの数が多い上位5都府県(厚生労働省集計) 単位(人)2019年2020年2021年2022年2023年大阪府10641038990966888東京都1126889862770661神奈川県899719687536454福岡県250260268248213愛知県180181157136136 福島県と県内中核市のホームレス人数 単位(人)2019年2020年2021年2022年2023年福島県17141069福島市66324郡山市85323いわき市33422  福島市生活福祉課によると、毎年1月中に職員が市民や警察から寄せられるホームレスの滞在情報を基に、昼と夜の2回に分けて調査する。今年は11日に行った。人数は「厚労省の発表を待ってほしい」と言及を控えたが、存在は確認したという。調査をする際には当事者からの相談も受け付けている。過去には住宅支援や就労支援につなげたこともある。  福島市内のホームレスは減少傾向だが、同課に要因を聞くと「一概には言えない」とした上で、滞在場所が不定のため行き先をたどれなかったり、警察から死亡の報告を受けたケースがあったと話した。  郡山市保健福祉総務課によると、今年は1月中旬までの間に昼と夜の2回に分けて実施。福島市と同じく「詳しい人数は厚労省の発表を待ってほしい」というが今年もホームレスを確認したという。同じく減少傾向にあるが「生活困窮者の窓口につなげたり、亡くなってしまったりで様々な要因があるので一概には言えない」という。  全国で路上生活者は減っている。福島市で10年前に見かけたが最近は見かけないという体感は正しい。新たに住居や職を得ていれば良いが、中には高齢となり病気で死亡している人がいる可能性は否めない。  本誌は県庁所在地福島市の現況を把握しようとJR福島駅前のホームレス目視調査を行った。ホームレスの実態を調査する東京の市民団体「ARCH」(アーチ)が1月19、20日の夜間に全国で開催した「私のまちで東京ストリートカウント」に参加した。  団体名ARCHはAdvocacy and Research Centre for Homelessnessの略称で、都市空間を研究する東京工業大学の教員、学生を母体にホームレス支援団体、市民が加わり2015年から活動を始めた。事務局の杉田早苗さん(岩手大学農学部准教授)が設立経緯を振り返る。  「設立メンバーは英・ロンドンやオーストラリア・シドニーを対象に海外のホームレス支援策を研究してきました。設立の直接のきっかけは東京五輪の開催が決まったことでした。巨大イベントを前にすると、行政は都市公園や競技場付近のホームレスを排除する傾向があります。米・アトランタ五輪では開催期間中にバスの乗車券を渡してホームレスの方を遠ざける施策が取られました。他方、オーストラリアはシドニー五輪を契機に『公共空間にホームレスがいる権利』を議定書に明記しました。東京五輪を控え、排除を進めるのではなく、ホームレスの方を取り巻く問題に目を向け、環境改善につなげたかった」 居住地に帰る夜間に調査 駅に向かう人々(JR福島駅東口)  ARCHメンバーは東京のホームレス支援団体に話を聞き、都市空間の研究者として力になれることを考えた。  支援団体が問題にしていたのが、「東京都はホームレスの実数を正確に把握していないのではないか」という疑念だった。都は職員が目視で人数を把握しているが調査は昼間。ホームレスは、日中は廃品回収などに従事し所在が決まっていないことを考えると、正確な数を把握するには寝床に帰る夜間が適切だ。  支援団体は相談業務や住宅確保・就労支援など目の前の活動に精一杯で、調査まで手が回らない。だが、ホームレスを取り巻く問題は支援団体だけが向き合うのではなく、その地域に住む人も目を向けるべきものだ。海外では地域住民が夜間にホームレスの数を調査する先例があり、米・ニューヨークでは2000人規模の調査員で正確な数値を弾き出していることを知った。  ARCHは2016年夏に東京都渋谷区、新宿区、豊島区の駅前で初めて調査を行った。一般市民の協力を得て年々規模を拡大し、2021年からは全国に参加を呼び掛け、これまで1021人(延べ1910人)が調査に加わった。  調査範囲が東京から全国に広がったのは新型コロナ禍が契機だった。感染が拡大した2020年春以降は感染対策のためにARCHの発足母体である東工大の研究者、学生などに参加者を絞って実施したが、1人当たりが回る範囲が広くなり負担が増した。一般参加を制限したため、市民参加という当初の理念からも遠のいてしまった。  市民同士が無理なく共同調査できる形を模索し、2021年夏にネットを介して自分が住む地域の調査結果を報告・集計する形に改めた。住宅地や郊外の駅・公園が巡回地に加わったことで、「ホームレスがいるのは都心」という一面的な見方を脱し、参加者は自分が住むまちとホームレスを取り巻く問題を関連づけて考えるようになった。  「大切なのは、深夜に自分が住むまちを見つめることで生まれる『地域を見守る感覚』です。ストリートカウントはホームレスの方の人数把握が第一の目的ですが、それ以上に地域住民がホームレスの方を取り巻く問題に気づき、誰もが排除されず暮らしやすいまちにするためにはどうしたらよいかを考えるきっかけになります」(杉田さん)  実際、参加者からは「夏の暑い中や冬の凍える中、ホームレスの方が過ごす屋外を歩き、自分事としてリアルに捉えられた」との感想が多く寄せられるという。調査チームは2人から結成でき、各自終電後の時間帯を最低1時間程度回る。バラバラの行動ではあるが、ネット上の回答フォームに出会ったホームレスや帰る場所がなさそうな人の人数を記入して本部に報告。感想を共有して、参加者同士がゆるやかなつながりを形成している。  参加者の一人、東京工業大学大学院修士1年の松永怜志さんは都市空間のデザインと市民参加の関わりを研究する中で、様々な事情でホームレスとなった人を包摂するまちの役割に興味が湧いた。支援団体に所属し、炊き出しをしたり、個別訪問を行うなど現場に出ている。  「世間話をする中で『自分たちはいらない人間なのではないか』と打ち明けられることがあります。ストリートカウントができるのは、まちで出会った人々を見守り、関心を寄せることまでですが、活動が多くの人に広まれば、排除ではなく助け合いの心につながるのではないでしょうか」(松永さん) 路上生活者は潜在化 福島駅地下道の注意書き  今年1月に行った全国調査への参加者は1日目の19日が62人、2日目の20日が30人、別日に1人が行い、延べ93人が行った。13都道府県から参加があり、北海道、秋田、岩手、福島、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、福岡、熊本の諸都市を回った。福島県内からは本誌のみが参加した。全国の参加者が出会ったホームレスの人数は1日目が103人、2日目が111人だった。  本誌は19日の深夜11時から1時間かけて、スタッフ2人で福島駅周辺を回った。ホームレスには出会わなかった。福島市の調査では昨年1月に4人確認し、今年も存在を確認したというから本誌が見かけなかっただけと考えるのが自然だ。  深夜に駅前にたたずんでいる人はほとんどが家族の送迎の車を待つ人だった。ただ、駅から離れた人通りの少ないトイレ前のベンチで、ヘッドホン(防寒耳あて?)をつけてスマホを操作している人がいた。風貌からホームレスではなく、長時間滞在している様子もなかったが、帰る場所がない人の可能性があり「居場所がなさそうな人」にカウントした。  地下道や高架下にも足を運んだがそこで夜を明かそうとする人の姿は見かけなかった。かつてホームレスを見かけた地下道には、福島市が立てた「居住、長時間滞在・荷物存置、勧誘、物品販売等を禁止します」との看板があった。場所を追われたホームレスたちはどこに行ったのか。より目立たない場所に追いやられ、潜在化しているのかもしれない。  駅南側に進むと、市の子育て支援施設「こむこむ」の窓ガラスの前では、窓を鏡にしてダンスを練習する若者がいた。昼間に車で通ったり、飲み会に足を運ぶだけでは見かけない光景で、自然発生した文化を感じる。文化と言えば、以前週末によく見かけた路上ライブは、ネットでの動画配信が主流のいまは流行らないのか出会わなかった。  福島駅の東口は再開発事業の工事中で、賑わいが以前よりも減り、寒さも相まって物寂しさが漂う。福島市は車社会のため、駅前は車で通りすぎる場所になっている。ましてや夜中に足を運ぶことはめったにない。終電後の1時間程度の観察だったが、自分が住む「まち」に関する解像度が上がった。本誌では、行政の調査を補完するため今後も郡山市やいわき市に足を延ばし、独自にストリートカウントを行う予定だ。

  • 【福男福女競走】恒例イベントとして定着【福島市信夫山】

    【福男福女競走】恒例イベントとして定着【福島市信夫山】

     福島市の信夫山にある羽黒神社の例祭「信夫三山暁まいり」が毎年2月10、11日に開催される。それに合わせて、2013年から「暁まいり 福男福女競走」が開催され、今年で10回目を迎える。当初は「どこかの真似事のイベントなんて……」といった雰囲気もあったが、気付けば節目の10回目。いまでは一定程度の認知を得たと言っていいだろう。同イベントはどのように育てられてきたのか。 10回目の節目開催を前に振り返る 羽黒神社 奉納された大わらじ  福島市のシンボル「信夫山」。そこに鎮座する羽黒神社の例祭「信夫三山暁まいり」は、江戸時代から400年にわたって受け継がれているという。羽黒神社に仁王門があり、安置されていた仁王様の足の大きさにあった大わらじを作って奉納したことが由来とされ、長さ12㍍、幅1・4㍍、重さ2㌧にも及ぶ日本一の大わらじが奉納される。五穀豊穣、家内安全、身体強健などを祈願し、足腰が丈夫になるほか、縁結びの神とも言われ、3年続けてお参りすると、恋愛成就するとの言い伝えもあるという。  なお、毎年8月に行われる「福島わらじまつり」は、暁まいりで奉納された大わらじと対になる大わらじが奉納される。この2つが揃って一足(両足)分になる。日本一の大わらじの伝統を守り、郷土意識の高揚と東北の短い夏を楽しみ、市民の憩いの場を提供するまつりとして実施されているほか、より一層の健脚を祈願する意味も込められている。  「暁まいり 福男福女競走」は、2月10日に行われる「信夫三山暁まいり」に合わせて、2013年から開催されている。企画・主催は福島青年会議所で、同会議所まつり委員会が事務局となっている。  このイベントは、信夫山山麓大鳥居から羽黒神社までの約1・3㌔を駆け登り順位を競う。男女の1位から3位までが表彰され、「福男」「福女」の称号のほか、副賞(景品)が贈られる。  このほか、「カップル」、「親子」、「コスプレ」の各賞もある。カップルは「縁結びの神」にちなんだもので、男女ペアで参加し、最初に手を繋いでゴールしたペアがカップル賞となる。親子は、原則として小学生以下の子どもとその保護者が対象で、最初に手を繋いでゴールしたペアに親子賞が贈られる。コスプレ賞は、わらじまつりや暁まいり、信夫山に由来したコスプレをした人の中で一番パフォーマンスが高い参加者が表彰される。それぞれ1組(1人)に副賞が贈られる。  1月中旬、記者は競走コースを歩いてみた(走ってはいない)。登りが続くので、のんびりと歩くだけでも相当な運動になる。特に、羽黒神社に向かう最後の参道は、舗装されておらず、かなりの急勾配になっているため、1㌔以上を走ってきた参加者にとっては〝最後の難関〟になるだろう。それを克服して、より早くゴールした人が「福男」、「福女」になれるのだ。  ちなみに、主催者(福島青年会議所まつり委員会)によると、「福男福女競走のスタート位置は、抽選で決定する」とのこと。いい位置(最前列)からスタートできるのか、そうでないのか、その時点ですでに「福(運)」が試されることになる。 参加者数は増加傾向 スタート地点の信夫山山麓大鳥居  ところで、「福男」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは西宮神社(兵庫県西宮市)の「福男選び」ではないか。以下は、にしのみや観光協会のホームページに掲載された「福男選び」の紹介文より。    ×  ×  ×  ×  開門神事と福男選び 昨年の福男福女競走(福島青年会議所まつり委員会提供)  1月10日の午前6時に大太鼓が鳴り響き、通称「赤門(あかもん)」と呼ばれる表大門(おもてだいもん)が開かれると同時に本殿を目指して走り出す参拝者たち。テレビや新聞でも報道される迫力あるシーンです。  この神事は開門神事・福男選びと呼ばれており、西宮神社独特の行事として、江戸時代頃から自然発生的に起こってきたといわれています。  当日は、本えびすの10日午前0時にすべての門が閉ざされ、神職は居籠りし午前4時からの大祭が厳かに執り行われます。午前6時に赤門が開放され、230㍍離れた本殿へ「走り参り」をし、本殿へ早く到着した順に1番から3番までがその年の「福男」に認定されます。  先頭に並ぶ108人とその後ろの150人は先着1500人の中から抽選して決められますが、その後ろは一般参加で並んで入れます。また先着5000名には開門神事参拝証が配られます。ちなみに、「福男」とはいえ、女性でも参加できます。    ×  ×  ×  ×  古くから神事として行われていた「福男選び」だが、テレビのニュースなどで報じられ、一気に有名になった。  「暁まいり 福男福女競走」は、これを参考にしたもので、暁まいりをより盛り上げることや、福島市のシンボルである信夫山のPRなどのほか、東日本大震災・福島第一原発事故からの復興祈願や復興PR、風評払拭などの目的もあって実施されるようになった。  ただ、当初は「どこかの真似事のようなイベントなんて……」といった雰囲気もあったのは否めない。それでも、気付けば今年で節目の10回目を迎える。いまでは恒例イベントとして定着していると言っていい。  その証拠に、参加者数は年々増えていった(次頁別表参照)。なお、今年でイベント開始から12年目になるが、2021年、2022年は新型コロナウイルスの感染拡大のため中止となった。昨年は、コロナ禍に伴う制限などがあったため、コロナ禍前と比べると少ないが、そうした特殊事情を除けば、恒例イベントとして順調に育っている、と言っていいのではないか。なお、今年は本稿締め切りの1月25日時点で、360人がエントリーしているという。  主催者によると、参加者は福島市内の人が多いそうだが、市外、県外の人もいる。高校の陸上部に所属している選手が、練習の一環として参加したり、国内各地の同様のイベントに参加している人などもいるようだ。最大の懸念は、事故・怪我などだが、これまで大きな事故・怪我がないのは幸い。  〝本家〟の西宮神社は、約230㍍の競走だが、「暁まいり 福男福女競走」は約1・3㌔で、登りが続くため、より走力・持久力が問われることになる。  ちなみに、同様のイベントはほかにもある。その1つが岩手県釜石市の「韋駄天競走」。「暁まいり 福男福女競走」が始まった翌年の2014年から行われている。同市の寺院「仙壽院」の節分行事の一環で、東日本大震災では寺院のふもとに津波が押し寄せ、避難が遅れた多くの人が犠牲になったことから、その時の教訓をもとに避難の大切さを1000年先まで伝えようと始まった。  昨年で10回目を迎え、「暁まいり 福男福女競走」はコロナ禍で二度中止しているのに対し、「韋駄天競走」は、2021年は市内在住者や市内通勤・通学者に限定し、2022年は競走をしない任意参加の避難訓練として行われたため、開始年は「暁まいり 福男福女競走」より遅いが、開催数は多い。市中心部から高台にある仙壽院までの約290㍍を競走し、性別・年代別の1位が「福男」、「福女」などとして認定される。  昨年は、全部門合計で41人が参加し、コロナ禍前は100人以上が参加していたという。同時期にスタートしたイベントだが、参加者数は「暁まいり 福男福女競走」の方がだいぶ多い。 佐々木健太まつり委員長に聞く ポスターを手にPRする佐々木健太まつり委員長  暁まいりの事務局を担う福島市商工観光部商工業振興課によると、「暁まいりの入り込み数は、震災前は約6000人前後で推移していました。そこから数年は、天候等(降雪・積雪の有無)によって、(6000人ベースから)1000人前後の上下があり、2015年以降は約1万人で、ほぼ横ばいです」という。  福男福女競走の開催に合わせて、暁まいりの入り込み数も増えたことがうかがえる。  こうした新規イベントは、まず立ち上げにかなりのエネルギーが必要になる。一方で、それを継続させ、認知度を高めていくことも、立ち上げと同等か、あるいはそれ以上に重要になってくる。  この点について、福男福女競走の主催者である福島青年会議所まつり委員会の佐々木健太委員長に見解を聞くと、次のように述べた。  「青年会議所の性質上、役員は1期(1年)で変わっていきます。まつり委員会も当然そうです。そんな中で、前年からの引き継ぎはもちろんしっかりとしますが、毎年、(イベント主催者の)メンバーが変わるので、常に新たな視点で、開催に当たれたことが良かったのかもしれません」  当然、佐々木委員長も今年が初めてで、来年はまた別の人にまつり委員長を引き継ぐことになる。そうして、毎年、新しいメンバー、新しい視点で取り組んできたのが良かったのではないか、ということだ。 今年から婚活イベントも追加 昨年の表彰式の様子(福島青年会議所まつり委員会提供) 昨年の表彰式の様子(福島青年会議所まつり委員会提供)  新たな試みという点では、今年から「暁まいり福男福女競走de暁まいりコン」というイベントが追加された。福男福女競走と合わせて行われる婚活支援イベントで、男女各10人が福男福女競走のコースを、対話をしたり、途中で軽食を取ったりしながら歩く。  要項を見ると、「ニックネーム参加」、「前に出ての告白タイムなし」、「カップルになってもお披露目なし」、「カップルになったら自由交際」といったゆるい感じになっており、比較的、気軽に参加できそう。  「羽黒神社は、縁結びの神様と言われ、恋愛成就を祈願する人も多いので、今年から新たな試みとして、この企画を加えてみました」(佐々木委員長)  こうした企画も、来年のまつり委員会のメンバーが新たな視点で改良を加えるべきところは改良を加えながら、進化させていくことになるのだろう。  県外の人や移住者に福島県(県民)の印象を聞くと、「福島県はいいところがたくさんあるのに、そのポテンシャルを生かせていない」、「アピール下手」ということを挙げる人が多い。本誌でも、行政、教育、文化、スポーツなど、さまざまな面で福島県は他県に遅れをとっており、県内の事例がモデルとなり、県外、日本全国に波及したケースはほとんどない、と指摘したことがある。  今回のイベントは、「自前で創造したもの」ではないかもしれないが、いまでは恒例イベントとして定着したほか、伝統行事(暁まいり)の盛り上げ、信夫山のPRなど、もともとあったものの認知度アップ、ポテンシャルを生かすということに一役買っているのは間違いない。

  • 福島市役所【農業振興課】で陰湿パワハラ

    福島市役所【農業振興課】で陰湿パワハラ

     福島市役所に勤めていた会計年度任用職員の男性が、上司から大声で怒鳴られるなどの対応を取られたことで精神的ストレスを抱え、任期を迎える前に自主退職した。男性は「同市役所のパワハラ対策には欠陥がある」と訴える。 救済策で差を付けられる非正規職員  福島市で上司からパワハラを受けたと訴えるのは三条徹さん(仮名、44)。奥羽大卒。民間企業を経て、警察官を目指したものの叶わなかったため、国や県の非正規職員として働いてきた。福島市には2年前に会計年度任用職員として採用され、農業振興課生産振興係で勤務していた。  仕事内容は正規職員の事務補助。1年目に課長から頼まれてチラシの新しい整理方法を導入したところ、市長賞を受賞しやりがいを感じた。食堂、売店などが整備されていて働きやすかった。そのため2年目も継続して働くことにした。  ところが、その直後から、直属の上司である係長の態度が急変した。  他の職員とは冗談を言いながら話すときもあるのに、三条さん相手となると、不機嫌そうな表情を浮かべる。仕事の報告・面談時間の確認に対し、「そんなこと俺知らねえし」、「面談でも何でも結構でございますけどー」などと返された。  毎年実施している作業や、他の正規職員から頼まれた作業に従事しているときも、「なぜそんな無駄なことをやっているのか」、「そんな作業は他に仕事がないときにやってください!」と三条さんだけ怒鳴られた。次第に三条さんは係長と話すことに恐怖心を抱くようになった。  「私の仕事ぶりがダメで、つい注意してしまうというなら、いっそ1年目が終わった時点で契約を打ち切ってほしかった」(三条さん)  この係長は特定の職員に厳しく当たる癖があり、前年まで三条さんはその姿を他人事のように見ていた。  例えば別部署に異動した後も残務処理のため、たびたび農業振興課に訪れていた職員がいた。係長は顔を合わせるたび「まずあんたのことが信用できない。どうやったら私に信用してもらえるか考えないと」と繰り返し注意していた。「それだけ言われるということは仕事が遅い人なのだな。ダメな人だな」と思っていた。  しばらくすると、別の若手職員が連日注意されるようになった。「何でやってないの!? 君の言うことは信用できないし、聞くに値しない!」と怒鳴る声が、部署の端にいる三条さんにも聞こえて来た。若手職員は新年度、別の部署に異動していった。「大変だな」と見ていたが、まさか次は自分が厳しく言われる側に回るとは考えていなかった。  「自分が至らないから係長にこれだけ怒られるのだ」と言い聞かせて仕事を続けていた三条さんだったが、昨年12月ごろになると、毎日のように理不尽な理由で怒られるようになった。精神的に限界を迎えた三条さんは人事課に駆け込み相談した。改善につながることを期待したが、そうしている間に、三条さんにとって決定的な出来事が起きた。  三条さんの始業時間は9時15分。毎朝、始業時間の少し前に出勤し、カウンターをアルコールで拭き、鉢植えの花に水をあげ、周りを雑巾で拭いてから、新聞のスクラップをするのがルーチンワークだった。  ところが、その日に限って係長が始業時間前に三条さんを呼び止め、「新聞のスクラップは終わったのか!?」と尋ねた。「私の始業時間は9時15分からでは……」と恐る恐る答えると、嫌みを込めたトーンで「それは大変申し訳ありませんでした」と言われた。  勤怠状況を管理しているのは係長で、始業時間を知らないはずはない。連日さまざまな理由で怒鳴られていたが、ついに始業開始前から始まるルーチンワークにまでイチャモンを付けられるようになったのか――。心が折れた三条さんは課長に抗議の意味を込めて辞表を提出した。  当初、課長は係長のパワハラについて「気付かなかった」として、「有休を使って休んでいる間に考えよう」と退職を考え直すよう言ってくれた。だが、1月に入ると態度を一変。「辞表は受理してしまったし、気に入らないことがあると辞表を出す人間だと課に知れ渡ってしまった。課のみんなもどう接していいか分からない」と突き放された。  やむなく正式に退職の事務手続きを進めるため、人事課を訪ねると、前回相談した職員が顔を出し、「すみません、あの後、コロナになっちゃって」と謝ってきた。精神的に限界を迎えて相談したにもかかわらず、他の職員への引き継ぎも行われず、放置されたままになっていたのだ。  「せめて一言連絡しようとは考えなかったのか、不思議でなりません」(三条さん)  あらためて同市の形式にのっとった辞表を提出するよう求められ、人事課職員に言われた通り、退職理由を「一身上の都合により」と書いて提出。結局、1月末で退職した。  離職後、失業保険の手続きや転職先探しのためにハローワークに行った三条さんは退職理由の詳細を聞かれて、素直に「パワハラを受けたから」と答えた。退職理由を書き換えるための申立書を渡されたので、係長にパワハラを受けたこと、人事課に相談に乗ってもらえなかったことを書いて市に送った。市からの返事は、所属長である農業振興課長による「パワハラではなく『指導』の範囲内だった」というものだった。  「パワハラについて『気付かなかった』と話していた課長がなぜ『指導の範囲内だった』と言えるのでしょうか。辞表提出後、課長は『今回の件で俺の評定も下がっただろう』とも話していたが、『指導の範囲内』なら評定が下がるわけがありませんよね。いろいろ矛盾しているんです」(三条さん) 周知不足の相談窓口 福島市役所  実は福島市役所内にはパワハラなどのハラスメントの被害に遭った職員の相談を受ける窓口があった。  一つは公平委員会。地方公務員法第7条に基づき、職員の利益保護と公正な人事権の行使を保護するための第三者機関として設置されている。主な業務は①勤務条件に関する措置の要求、②不利益処分についての審査請求、③苦情相談。福島市の場合、総務課が担当課になっている。苦情を申し立てれば、双方に事情を聞くなどの対応を取ってもらえたはずだ。  だが、三条さんは在職時に公平委員会の存在を知らず、人事課の担当者に相談した際も紹介されることはなかった。  市では3年ほど前から、パワハラ被害などに悩む市職員に、弁護士を紹介する取り組みも始めている。ところが、ポスターなどで周知されているわけではなく、正規職員に支給されるパソコンでのみ表示される仕組みになっていた。会計年度任用職員には、個別のパソコンを支給されていない。そのため、三条さんはそんな制度があることすら知らなかった。退職後に制度を利用させてほしいと頼んだが、「もう職員じゃないので難しい」と断られた。  福島市役所職員労働組合は正規職員により構成されているが、会計年度任用職員からの相談も受け付けている。ただ、三条さんは市職労に相談しようと思いつきもしなかった。  パワハラ自体の問題に加え、相談窓口が十分に周知されていない問題もあることが分かる。  「このままでは自分と同じような目に遭う職員が出る」。三条さんは木幡浩市長宛てに再発防止策を講じるよう手紙を出したほか、市総務課に公益通報したが、何の回答もなかった。労働基準監督署や県労働委員会に行って、「もし福島市職員からパワハラ相談があったら、相談窓口があることを教えてください」と伝えた。マスコミにもメールで情報提供したが、動きは鈍かった。 木幡浩市長  ちなみに本誌にもメールを送ったそうだが、システムのトラブルなのかメールは届いていなかった。唯一月刊タクティクス7月号で報じられたが、大きな話題になることはなく、あらためて本誌に情報提供したという経緯だった。  元会計年度任用職員の訴えを市はどう受け止めるのか。人事課の担当者はこのように話す。  「当事者(三条さん)から相談を受けた後、所属長である農業振興課長が係長に聞き取りしたが、本人は発言の内容をはっきり覚えていませんでした。多少大きな声で指導したのかもしれませんが、捉え方は人によって異なるし、それが果たしてパワハラに当たるのかどうか。人事課では農業振興課長と面談し対策を講じようとしていたが、(三条さんが)辞表を提出した。展開が早くて、弁護士の制度を紹介したり、パワハラの有無を調査する間もなかった、というのが正直なところです。パワハラがあったかどうかは、市としても顧問弁護士などと相談して検討する話。双方にしっかり話を聞くなど、調査を行わずに断言はできません」  パワハラの事実を認めないばかりか、人事課で相談を放置していたことを棚に上げ、「調査する前に退職したのでパワハラの有無は分からない」と主張しているわけ。  ちなみに人事課への相談が放置されていた件に関しては「人事に関する相談はデリケートな問題なので、一つの案件を一人で継続して担当するようにしている。そうした中でうまく引き継ぐことができなかった」と他人事のように話した。 「誰にでも大声を出していた」  一方でこの担当者はこのようにも説明した。  「農業振興課長の報告によると、係長は興奮すると誰にでも大きな声を出して熱くなることがあった。その人だけに嫌がらせをしていたわけではないという意味で、パワハラと言い切れるのだろうか、と。そういう点からも、市としては、『一連の対応はパワハラではなく業務上の範囲内だった』という認識ですが、態度によってはパワハラと受け取られる可能性があるということで、あらためて農業振興課長が係長に指導を行いました」  三条さんだけでなく、誰にでも大声で怒鳴ることがある職員だったのでパワハラには当たらない、というのだ。厚生労働省によると、パワハラの定義は「職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」。市の解釈だと、特定の人物に対してでなければ、どれだけ精神的苦痛を与えてもパワハラには当てはまらないことになる。  人事課担当者は「管理職を対象としたハラスメント研修を定期的に実施している」と話すが、この間のやり取りを踏まえると、正しい知識のもとで行われているか疑問だ。  気になったのは、人事課の担当者が、三条さんが退職した経緯についてこのように述べたことだ。  「(三条さんは)係長への抗議的な意味合いで辞表を出したようですが、同じ部署で働きづらい部分もあるし、もうやめるしかないんじゃないか、という流れで退職に至ったと聞いています」  前述の通り、三条さんは課長から「辞表は受理してしまったし、気に入らないことがあると辞表を出す人間だと課に知れ渡ってしまった」と言われ、退職を促された、と主張していた。三条さんの見解とは違う形で報告されていることが分かる。  ちなみに課長、係長はともに今春の人事異動で農業振興課から異動になっており、どちらも降格などにはなっていなかった。  三条さんがいなくなった後の農業振興課ではどんなことが起きていたか共有され、再発防止策は講じられているのか。4月に赴任した長島晴司課長に確認したところ、「当然共有されています。ああいったことがあると、職場の雰囲気は悪くなるし、係の職員も疲弊する。そうした雰囲気の改善に努めており、併せてパワハラと受け取られるような指導はしないようにあらためて気を付けています」と話した。 厚労省指針は守られているのか  地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、「厚労省の指針では職場におけるハラスメントに関する相談窓口を設置して労働者に周知するよう定められている」という。  上林特任教授が執筆を担当した『コンシェルジュデスク地方公務員法』では公務員のハラスメント対策について、次のように記されている。  《部下は、パワーハラスメントを受けていても、上司に対してパワーハラスメントであることを伝えることは難しい。とりわけ、非正規職員のような有期雇用職員は、次年度以降の雇用の任命権者が直属の上司の場合が多いため、なおさら相談しにくい。したがって、上司以外の信頼できる職場の同僚、知人等の身近な人やより上位の人事当局、相談窓口等に相談することが必須となる》  《相談窓口・相談機関は、事業主の雇用管理上講ずべき措置の内容の中では重要な位置取りをしめ、厚生労働省のパワハラ防止指針では、相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知することとし、相談窓口担当者は、①相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること、②相談窓口については、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じているだけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすることが求められているとしている》  昨年、市が公表した「福島市人事行政の運営等の状況について」という文書によると、2021年度における公平委員会の業務状況は、不利益処分に関する不服申立1件、職員の苦情の申立1件のみ。  職員からの苦情がない快適な職場なのか、それとも公平委員会の存在自体を知らない人が多いだけか。いずれにしても厚労省通知に定められている労働者への周知が行われているとは言い難い印象を受ける。  もっというと、会計年度任用職員にはパソコンが支給されていなかったので、弁護士相談制度に触れられなかったというのは、結果的に正規職員と非正規職員で相談窓口の案内に差が出た形になる。同じ中核市である郡山市、いわき市にも確認したが、そのような差はなかった。すぐに解消すべきではないか。  現在は福島市内の別の場所で働いている三条さん。「私のような思いをする人がこれ以上出てほしくない。いまさら謝罪や責任追及を求めているわけではない。市役所は閉鎖的でおそらく自浄作用はない。だからこそ、報道を通していかに福島市のパワハラ対応がダメか、多くの人に知ってもらい、少しでも体制改善につながればと思っている」と訴えた。福島市はまずパワハラ対策の周知から始めるべきだ。

  • 遅すぎた福島市メガソーラー抑制宣言

    遅すぎた福島市メガソーラー抑制宣言

     福島市西部の住民から「先達山の周辺がメガソーラー開発のためにハゲ山と化した。景色が一変してしまった」という嘆きの声が聞かれている。市は山地でのメガソーラー開発抑制に動き出したが、すでに進められている計画を止めることはできず、遅きに失した感が否めない。  福島市は周囲を山に囲まれた盆地にあり、市西部には複数の山々からなる吾妻山(吾妻連峰)が広がる。その一角の先達山で、大規模メガソーラーの開発工事が進められている。  正式名称は「高湯温泉太陽光発電所」。事業者は外資系のAC7合同会社(東京都)。区域面積345㌶、発電出力40メ  ガ㍗。県の環境評価を経て、2021年11月22日に着工、今年3月27日に対象事業工事着手届が提出された。  今年に入ってから周辺の山林伐採が本格化。雪が解け始めた今年の春先には、山肌があらわになった状態となっていた。その様子は市街地からも肉眼で確認できる。  吾妻山を定点観測している年配男性は「この間森林伐採が進む様子に心を痛めていた。あんなところに太陽光パネルを設置されたら、たまったもんじゃない」と語る。  福島市環境課にも同じような市民からの問い合わせが多く寄せられた。そのため、市は8月31日の定例記者会見で、山地へのメガソーラー発電施設の設置をこれ以上望まない方針を示す「ノーモア メガソーラー宣言」を発表した。  木幡浩市長は会見で、景観悪化に加え、法面崩落や豪雨による土砂流出のリスクがあることを指摘。市では事業者に対し法令順守、地域住民等との調和を求める独自のガイドラインを設けていたが、法に基づいて進められた事業を覆すことはできない。そのため、市としての意思を示し、事業者に入口の段階であきらめてもらう狙いがある。条例で規制するより効果が大きいと判断したという。もし設置計画が出てきた際には、市民と連携し、実現しないよう強く働きかけていく。  もっとも、県から林地開発許可を得るなど、必要な手続きを経て進行している建設を止めることは難しいため、現在進行中のメガソーラーの開発中止は求めない方針だ。すなわち、先達山での開発はそのまま続けられることになる。  先達山の開発予定地のすぐ西側には別荘地・高湯平がある。2019年には計画の中止を求め、住民ら約1400人による署名が提出されるなどの反対運動が展開されていた。ただ、結局手続きが粛々と進められ、工事はスタート。今年の春先に高湯平の住民を訪ねた際は「結局押し切られてしまった。こうなったらもう止められないでしょ」とあきらめムードが漂っていたが、時間差で反対ムードに火が付いた。  前出の年配男性は「建設許可を取る際、こういう景観になると予想図を示したはず。自然破壊を予測できなかったとしたら怠慢であり、行政の責任を問うべき」と訴える。こうした意見に対し、県や福島市の担当者は「法に基づき進められた計画を覆すのは正直難しい」と答えた。  福島市以外でも、メガソーラー用地として山林伐採が進み、見慣れた山々の風景が一変してギョッとすることが多い。景観・自然を破壊しないように開発計画を抑制しながら、再生可能エネルギー普及も進めていかなければならない。各市町村には難しい舵取りが求められている。 森林が伐採された先達山

  • 【福島市】選挙漫遊(県議選)

    【福島市】選挙漫遊(県議選)

    マスコミが伝えない候補者の人柄 月刊「政経東北」11月号に、本誌に連載していただいている畠山理仁さんの映画「NO選挙,NO LIFE」公開を記念したインタビュー記事を掲載した。畠山さん、前田亜紀監督、大島新プロデューサーに映画の見どころや選挙の魅力について語ってもらったもの。 詳細は誌面で読んでいただきたいが、選挙取材にかける畠山さんの情熱に触れて、本誌記者は居ても立っても居られなくなり、このたび新たな企画に挑戦することになった。 その名も「勝手に連動企画『政経東北』でも選挙漫遊をやってみた」。 11月2日告示、12日投開票の福島県議選。福島市、郡山市、いわき市、会津若松市各選挙区の立候補者39人を本誌スタッフ総出で取材し、選挙漫遊(街頭演説などに足を運んで選挙を積極的に楽しむ)を実践しようというもの。 11月5日(日)、6日(月)の2日間、街頭演説会場に足を運び、その様子を写真と動画で記録。併せてインタビュー取材も実施した。現職には「県政・県土の課題は?」、新人には「立候補した理由は?」などについて質問した。立候補者はどのような選挙活動を展開し、どんな事を話したのか。 担当 佐藤大 補佐 佐々木 福島県議選【福島市】編 https://youtu.be/H3LrOAB1K0E?t=597 【福島県議選】投票前日!【選挙漫遊】総括 投票の判断材料に!福島・郡山・いわき・会津若松福島市の解説は9:57~ 定数8 立候補者9 告示日:2023年11月2日 投票日:2023年11月12日 立候補届出状況↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601554.pdf 選挙公報↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601651.pdf 届け出順、敬称略。 あわせて読みたい 【会津若松市】選挙漫遊(県議選) 【いわき市】選挙漫遊(県議選) 【郡山市】選挙漫遊(県議選) 誉田憲孝 https://www.youtube.com/watch?v=mRf88TnrX5o  ――県政、県土の課題は?  「回っていて一番言われるのはやっぱり物価高です。家計のやりくりが厳しくなっているという方が現実的に多いですね。家庭の収入を上げていくためには、中小企業へのテコ入れが必要でしょう。  農業についても、いろんな資材費用などが高くなっているので、それをいかに価格に乗せていくかが課題だと思います。 ほかにも、『今年はリンゴの色づきがすごく悪い』などの話も聞きました。そういった気候変動に対する農業の手当なども大事になってくると思います」  ――立候補した理由は?  「市議を8年務め、いろんな政策を立案してきましたが、市の財政状況が厳しいという現実があり、市議会だけではどうしようもない部分がありました。そういったものを解決していくためには、予算なども含め県のテコ入れが必要だろうと感じていたので、自分が市と県の繋ぎ役になりたいと考えました」 一言メモ 街頭演説の場所も相まってか「アットホーム」を感じる選挙活動に思えた。4年前の雪辱を晴らすため、新人ならではの「必死さ」も感じ取れ、取材にも快く応じていただき、好印象だった。事務所から取材を終えて帰るときに「お見送り」までする徹底っぷり。 根っからの明るさや笑顔がひしひしと伝わってきたので、「人前に出るってことは、こういうことを自然にできる人」なんだなと感じた。(佐藤大) 佐藤雅裕 https://www.youtube.com/watch?v=SICPZdOyuhk  ――県政・県土の課題は。  「街頭演説でも話した通り、人口減少に尽きます。①事業者の人手不足、後継者不足、②地域活動の担い手不足、③マーケットの縮小などの影響が出ると考えられ、進行すれば地域が維持できなくなるので、早急に対策を講じる必要があります。地域の魅力づくり、産業振興など、総合的に底上げしていかないと解決しない問題だと思うので、たとえ商工業についての質問・意見を出す際も、必ず人口減少を踏まえた形で行うようにしています」  ――令和3年2月議会で、相馬福島道路霊山インターチェンジと福島市中心部のアクセスを良くするため、県道山口渡利線を整備すべき、と質問していました。その後、整備状況に変化はありましたか。   「実現するとなれば、県単独ではなく、福島市や地元経済界、国も巻き込んだ大きな事業になります。県の担当職員などとやり取りする中で質問したもので、整備に向けたコンセンサスは形成されつつあると思います」 一言メモ 選挙スタッフに取材をお願いし、「忙しいところ申し訳ないが、取材可否の折り返しの電話をいただきたい」と伝えたが、折り返しがなかった。 翌日、「取材の件はどうなりましたか?」と選挙スタッフに問い合わせをすると、選挙スタッフが「あれ? 奥様から折り返しの電話いってないですか?」と言われ、私は「来てません」と伝えた。 その後、街頭演説の写真と動画の撮影をしに行った際、佐藤候補に直接「2,3分、取材をよろしいでしょうか」と尋ねると、佐藤候補は「すぐ出るから、申し訳ないけど、、」と言われたので、私が「そうですよね、忙しいところすみません。明日は事務所にいる時間ありますでしょうか?」と尋ねたら、佐藤候補が「選挙中だから」と言って立ち去った。 その後、選挙スタッフに電話をして、「ほかの候補者が取材を受けている中、2,3分の時間もとれないんですか」と伝えて電話を切った。 それから2日後、選挙スタッフから「今日の夜の8時だったら時間をとれます」と言われたので、私は「伺います」と伝えたが、もうすでに気持ちが冷めていたので、記者の志賀に取材を託した。 これが畠山さんだったら、新聞社だったら、取材をすんなり受けたか受けていないか。 故・佐藤剛男衆院議員の娘婿として県議になりたてのころは「謙虚さ」がみられたが、4期目を目指すともなるとこうも変わるのだろうか。 佐藤候補は、目の前の1票を捨てた。政経東北が福島市に会社があり、スタッフの多くが福島市の有権者だということも想定できないのだろうか。 「絶対に投票しない唯一の1人」確定となった。(佐藤大) 記者の志賀が取材を終えて↓ 「スケジュールが詰まっていて2、3分取るのも難しい。こういう取材をしたいなら事前に言ってもらわないと。今日は何とか時間を確保した」。陣営ごとの〝塩対応〟〝神対応〟を体験できるのも選挙漫遊の魅力だ。(志賀) 大場秀樹 https://www.youtube.com/watch?v=rfJWeMjUUx8  ――県政、県土の課題についてどう認識しているか。    「短期的課題としては原発の処理水放出問題。農水産物や観光業に風評被害の影響がまだ顕著にはなっていないが、それをどう防いでいくか。長期的課題としては超少子高齢化社会の中でいかに地域を守っていくか、また高齢者が安心した生活が送れるかが大きな問題と認識しています」    ――その課題解決に向け、どのような議会活動や取り組みを展開してきたか。  「処理水放出問題としては、SNSやテレビCM等による安全性について首都圏のみならず関西圏も含めて積極的に訴えていくべきと議会で発言しています。あわせて超少子高齢化問題については、交通弱者対策の一環であるバス路線の維持、不登校児童に対する積極的な支援についても訴えかけています」    ――県執行部の動きはいかがですか。  「風評被害対策については、補正予算を組むなど積極的に向き合っていると感じていますし、評価しています。また、不登校児童やさまざまな事情を抱える子ども達に対しても、NPO法人との連携強化、相談体制の充実を図ってきており、さらに進めていくべきと考えます」    ――県議会においては、令和5年6月議会にて「フルーツラインの整備状況」について質問されました。その後の県執行部の反応はいかがですか。  「福島市にはすばらしい温泉、自慢できる果物など魅力にあふれていますが、『点』の観光のままなのは残念。フルーツラインは『点』と『点』を『線』で結び、ひいては面的な観光振興における重要な道路です。ハード面としては、通行に難がある『天戸橋(あまとばし)』の整備について、議会ではしつこく質問しています。この間、予算の執行など目に見えて動きが進んでいると感じます」 一言メモ 聴衆の大半は男性高齢者であったがみな真剣に演説を聞いていた印象。一方でそれなりの熱気は感じた。(佐々木) 高橋秀樹 https://www.youtube.com/watch?v=cDO9Ommjau8  ――県政、県土の課題は?  「物価高と燃料費高騰というのは喫緊の課題だと思っています」  ――その課題を解決するためにどのように行動しましたか?  「経済支援について、県独自の施策について要望を知事の方にさせていただきましたが、多少なりともその要望に対して実現した部分はありました。  また今、国の方では所得税の軽減についても議論されているようですが、やはりそれだければ賄いきれないだろうところがありますので、さらなる要請もしていきたいですし、県独自の新たな政策を、経済状況を見ながら、求めていきたいなと思ってます」  ――令和5年2月の代表質問で「移住定住に向けテレワーク導入に対する施策を要望」していますが。  「もうひとつの課題は人口減少です。また、それに伴う労働人口の減少が課題です。県も二地域居住などを、移住促進計画として提唱していますが、さらにメスを入れていって改善できればと考えています。相談窓口を東京の日本橋に設けて、そういった取り組みに関して厚みが出てきているとは感じています」 一言メモ 朝早い中、快く取材に応じていただき、かなり好印象。時間と場所を決めた街頭演説を予定せず、30分毎ほどに立ち止まって遊説するスタイルが印象的だった。事務所スタッフの方々も丁寧に対応してくれて、そこも好印象。いくら候補者がよくても事務所スタッフの質が微妙だと、うまくいく選挙もうまくいかないと感じた。(佐藤大) 宮本しづえ https://www.youtube.com/watch?v=E_OWLVbFn_A ――県政、県土の課題は?  「この物価高ですから、どう政治がきちんと対策をとっていくのかってことが最大の課題だと思います。  例えば、物価高で何やるかって言ったときに真っ先にやるべきなのは消費税の減税です。しかし、県の執行部は『国が決めることです』としか答えません。国が決めることだったら『国で決めてくれ』と働きかけることが大事だと思うんです。  『今の県民の暮らしどうすんのよ』っていうのはなかなか具体的には見えてこないですね」 ――令和5年9月の統括審査会の質問で「ALPS処理水について、県漁連と国・東電との約束が破られていないと県が判断した理由」を尋ねていますが。  「約束が守られないということは、民主主義に関わる重要な問題です。一つ一つの約束事が破られていったら、廃炉の安全性に対する信頼そのものに関わる問題になります。  約束事を守らせるということをしっかりやらせないと、県民が安心して暮らせるかどうかっていうことにも関わってきます」 一言メモ 聴衆のほとんどが女性だったのが印象的だった。写真撮影をするスタッフもおり、共産党というのは組織的に動ける集団なんだなと感じた。 選挙カーについて。ほかの候補者のほとんどがボックスカーをレンタカーしている中、宮本候補は共産党が自前でもっている車を使用しているのも印象に残った。 政策は給食費無料というパンチ力と分かりやすさ。 宮本候補はJR福島駅西口のイトーヨーカドー福島店前の道路で演説をしたのだが、その後、東口のこむこむで伊藤達也候補の大観衆を見たこともあり、公明党と共産党の「力の差」をまざまざと見せつけられたことが印象的だった。 取材での宮本候補の印象はとても温和な方で話しやすかった。 (佐藤大) 半沢雄助 https://www.youtube.com/watch?v=aYqbfb6CN2g  ――県議選立候補を決意した理由。  「先ほどの決意表明でお示しした通り。この間、医療従事者として勤務するとともに、労働組合活動にも注力してきた。このたび紺野長人県議の後継者に指名され、重責ではあるが責任を果たすべく、地盤(議席)をしっかり守ることが私の使命と考える」  ――県政、県土の課題について。  「人口流出問題が大きな課題と考える。解決に向け克服すべき点は多岐にわたるが、本県の維持・発展のためにも人口流出を防いでいる自治体を参考にしながら鋭意取り組む必要がある。また、医療従事者の経験から、また子を持つ親として『命と暮らし』を守りながら、次世代が住んで良かったと思えるような地域づくりや政策が重要と考える」 聴衆の大半は高齢者であったが、女性の割合が多い印象だった。新人候補ということもあり半沢候補者の初々しさもときおり感じた。(佐々木) 伊藤達也 https://www.youtube.com/watch?v=x4EDhiMTiyI  ――県政、県土の課題は? 「喫緊の課題は人口減少です。また経済面では、航空宇宙産業のモノづくり人材の育成を推進していきます。開発企業と連携して『下町ロケット』ようになっていければと思っています」  ――令和5年9月の一般質問で「公衆衛生獣医師の確保」について質問していますが。 「動物愛護施策を進める上で、獣医師の確保はとても重要です。ただ、全国的に獣医師不足で取り合いとなっており、本県も職員が不足しています。動物愛護だけではなく産業用の獣医師も必要ですし、鳥インフルなどの脅威も踏まえて、県としての獣医師確保が課題となっております。 私が県に働きかけたことで、修学資金の新しい制度をつくらせていただき、獣医学生研修として『福島県家保研修』と『獣医学生福島体験』を実施しています。引き続き県への働きかけを進めていきます」 一言メモ 30分前に会場に着いたのだが、公明党の山口代表も応援に駆けつけることもあってか、既に警察が40人ほど、公明党スタッフが30人ほど居た。メディアも毎日新聞、共同通信、福島テレビ、ほかにも居た。 聴衆がいなかったので「聴衆よりも多かったスタッフと警察」というタイトルや筋書きを考えたが、開始前に聴衆があっという間に150人ほどとなり、「公明党のネットワーク力恐るべし」と感じた。 伊藤候補の政策も「ワンイシュー」に目を向けており、動物愛護の「アニマル伊藤」、航空宇宙産業に強い「スカイ伊藤」と、わかりやすかった。 私は創価学会員ではないが、公明党のように何か物事を遂行していくためにはパワーやネットワークが必要なのかもしれないと感じた。佐藤優氏の著書『創価学会と平和主義』を読んでいたこともあり、創価学会への偏見が薄れていたのも大きい。(佐藤大) 渡辺哲也 https://www.youtube.com/watch?v=8lMxuSzHznA  ――県政、県土の課題は?  「人口減が喫緊の課題だと思っています。子育て支援や教育に注力しながら、20年、30年のスパンで、シニアの方にも元気で活躍してもらうような『まちづくり』をすすめて、次の世代につなげていくことが大事です。  高齢者の方々が元気に働ける環境を作っていくことが、人口減対策につながると思っています」  ――令和4年2月の一般質問で「市町村における犯罪被害者等支援条例制定に向け、どのように支援するか」質問しましたが。  「闇バイト事件を含めて、いつ誰がどこで巻き込まれるかわからない、そういった時代じゃないですか。  県には『安全で安心な県づくりの推進に関する条例』というものがあります。犯罪被害者支援についての文言が一文だけあったんですが、先進県や先進市町村では、見舞金の支給や加害者に代わって被害者にお金を寄付するような仕組みもあり、県は遅れをとっていました。県に『このまま何もしなければ、最後になりますよ』と訴えたら、改善に向けて動き始めました。県が動いたことで、市町村もそれに続いてくれており、要望したことが実現している実感があります」 一言メモ 飯坂温泉駅での街頭演説ということもあって、誉田候補と同様「アットホーム感」があった。 取材で事務所を訪れると、多くのスタッフが和やかにしており、雰囲気も良かった。 取材を受ける受けないでひと悶着あったのもあり、渡辺候補を勝手に「気難しい人」と決めつけていたが、会ってみるととても気さくで接しやすい方で、思い込みはいけないと感じた次第。 政策に関しても県議1期目らしい「ワンイシュー」に目を向けており、人口減や物価高などの大きな課題よりも現実的に見えて、よい印象を受けた。(佐藤大) 西山尚利 https://www.youtube.com/watch?v=jB8cE0t0Oww  ――県政、県土の課題は? 「令和5年2月の代表質問で『入札の地域の守り手育成型方式』について質問しました。入札不正の一方で、地元の建設業に災害対策をしてもらわなければなりません。あらゆるものに対する備えと発信が必要だと思っています」   一言メモ 取材を受ける受けないで事務所スタッフと揉めたが、走行ルートの集合場所に行って西山候補に話を振ると「今ここで話すよ」と気さくに応じてくれた。人柄的に「飾らず、オープン」という感じで話しやすかった。街頭演説はせず選挙カーを走らせるだけのスタイルのため、動画が短くなっている。 取材の可否のほか、走行ルートを選挙スタッフに尋ねたが、間違った情報を伝えられた。ボランティアで働いている人もいるのだろうから、企業並みの対応を期待するのは間違っているのかもしれないが、「なんだかな」と感じた。(佐藤大)

  • 【福島市】「王道ラーメンと変わり種ラーメン」【髙橋わな美】

    【福島市】王道ラーメンと変わり種ラーメン【髙橋わな美】

     食欲を満たすだけでなく、日々進化しその多様性を楽しませてくれる国民食「ラーメン」。「擬人化キャラクター企画」という一風変わった視点でラーメン店を探求するイラストレーター髙橋わな美氏は、美味い店には店主の背景や経歴が重要な要素として影響していると語る。髙橋氏が推薦する福島市の人気店を取り上げ、各店の王道メニューと異色メニュー、そしてそれらの起源にまつわる店舗のストーリーについて紹介してもらった。 髙橋わな美 福島県伊達市出身のフリーランスイラストレーター。イラストの他にもロゴマークなどラーメン店のデザインを幅広く手掛ける。 〝ラーメン店擬人化〟プロジェクト福島ラーメン組っ!【髙橋わな美】が紹介する  福島県のラーメンと言えば喜多方・白河のご当地ラーメンの2枚看板が有名だが、実は県庁所在地である福島市もラーメン消費量が全国でも指折りの都市である事はご存知だろうか。総務省の家計調査による、全国県庁所在地「中華そばの支出額ランキング」では毎回指折りの順位に位置しており、2022年には全国ランキング6位を獲得している。  そのような大変ラーメン熱の高い都市なので、市内には老舗から新興店まで、多種多様の店舗とラーメンが存在する。その多様性に光を当て、ラーメン店の個性を「擬人化キャラクターデザイン」というアプローチで発信し続けているのが「福島ラーメン組っ!」である。運営代表でありイラストレーターの髙橋わな美氏は、震災後の風評被害の逆境にも負けず逞しく運営するラーメン店の姿に感銘を受け、2013年にこのプロジェクトを立ち上げた。  キャラクターデザインの際は必ず実店舗に足を運び、綿密な取材を重ねる。デザインには各ラーメンの特徴はもちろん、店主のポリシーやお客様の傾向、また店舗の立地やご当地要素にもアイデアが及ぶ。これらの要素が可愛らしいビジュアルやストーリーとして投影され、生み出されたキャラクター達がSNSや全国のアニメ系イベント、コミックマーケットなどを中心に広まり、福島のラーメン店のPRに一役買っている。現在協力店舗は福島県内だけにとどまらず宮城・関東、台湾にも及び約60店舗にも達している。  髙橋氏は実食の経験をもとにキャラクターデザインを行うためラーメンに対しても造詣が深く、大手ラーメン専門誌「ラーメンWalker福島」(KADOKAWA)では全国から選ばれたラーメン精通者「エリア百麺人」の福島県担当を務め、毎年コラボ企画や解説を手掛けている。  そんな髙橋氏だが、ラーメンの味と魅力は店舗により千差万別、それには店主のポリシーや経歴、開店の経緯など、それらストーリーがラーメンの味にも深く投影されており、そしてそれを理解した上で味わうのが楽しみだと語る。  今回は、髙橋氏が推薦する個性豊かな福島市のラーメン店に焦点を当て、それぞれの店の背後にあるストーリー、そしてそこから展開されている各店のラーメンを万人におすすめできる王道メニュー、そして裏テーマとして変わり種の珍しいメニューという2つのテーマで構成し、紹介いただいた。 二階堂 二階堂「如月まどか」。鉢巻や匕首を装備した対魔師。 日本料理出身店主の二面性が光る  新旧の店が多く点在するラーメン激戦区の福島市の矢野目・笹谷エリアにて、王道の支那そばをメインに提供し連日人気を博しているのが「二階堂」だ。しょうゆ・塩・味噌など味が勢揃いの支那そばの他、季節に合わせたつけ麺・坦々麺など限定麺も提供、手の込んだ盛り付けのチャーシュー丼などサイドメニューも光る一店である。平日から多くの客が集うが、丁寧な接客やオペレーションで快適に食事を楽しむことができるのも魅力的な一店だ。  そんな二階堂の店主だが、前職ではなんと日本料理で腕をふるっていた。しかしある時「ラーメン」の世界を知る。料理のアイデアや腕前に多くの人が集い列をなす、とても純粋で熱狂的な世界。それに衝撃を受け、一念発起して転向したという経歴を持つ。  メインメニューの「支那そば(しょうゆ)」は、一口すすれば淡麗ながら出汁の分厚く複雑な味わいがガツンと舌を突く。その旨味たっぷりのスープを低加水の細縮れ麺がよく吸い、口に運んでくれる。和食出身ならではの経験を活かし、丁寧にじっくりと作り込まれた絶妙なバランスが感じられる一品だ。また、初めて食べる方に店からもオススメしているのがトッピングの煮玉子。こちらは柔らかな黄身にしっかりと旨味が通っており、奥深い滋味を楽しめる。 二階堂〝支那そば(しょうゆ+煮玉子)〟  さらに同店の変わり種メニューとしておすすめしたいのが「赤そば」。こちらは店舗自家製のラー油を使用し、その名の通り真っ赤なスープが特徴で、タップリのひき肉と共に激しい辛さを楽しむ。「支那そば」とはまさに対極のラーメンだ。しかし辛さと共に、深い旨味を感じられるギリギリの調整で、こちらも店主の料理技術の高さを実感できるだろう。こちらのトッピングには「豚バラ軟骨」をオススメしたい。丼を覆う巨大なバラ肉はトロトロに煮込まれた濃厚な味わいで、その奥にある軟骨は独特の食感が楽める。 二階堂〝赤そば+豚バラ軟骨〟  「当店は何事も〝まじめ〟がモットー。しかしラーメンの世界に転向したからこそできる事、ラーメンでお客様を楽しませたり驚かせる、そんなメニューも作ってみたかった」と語る店主。2023年には開店21周年を迎えたが、日々のブラッシュアップやお客様を楽しませる展開にも余念がない。ますます多くの人に愛され、福島市の名店として活躍している。 フユツキユキト フユツキユキト「クロエ・フユツキ」。戦争とウイルスが蔓延る異世界からきた。 コロナの逆境を乗り越えて  こちらは2022年開店の新店。「麺や うから家から」の店内を夜の部時間限定で間借りで営業するというとても珍しいスタイルで営業している。店主は「冬月雪兎」のハンドルネームでSNSにて数多くのラーメン店を紹介し、その経験から自分の店を開く夢を持つようになった。しかしコロナ禍で新規出店が難しい状況で、ベテラン「うから家から」から、営業終了後の夜の部での営業の提案を受けた。「うから家から」としても、冬月氏の夢の応援、またコロナ禍で苦しむ夜の街の活性化の思いもあったそうだ。そのような経緯で「フユツキユキト」は開店、福島では目新しい都会的なラーメンや、アヴァンギャルドな限定麺も定期的に提供、ラーメン通はもちろん若者や夜の飲み客の間でも話題となり、すぐに人気店の仲間入りを果たした。  メインメニュー「ショウユ」は力強い醤油の味わいが特徴で、特製麺「麦の香」の歯ごたえも際立つ逸品。また特筆すべきは掃湯(サオタン)という中華の技法で作り出された豚清湯スープだ。豚のゲンコツと背ガラを強火で短時間で炊き上げるもので、これが抜群のコクと旨味を提供する。 フユツキユキト〝ショウユ〟  この「掃湯」は県内のラーメン店でも珍しい手法である。理想の味作りを求める中、間借り営業という特殊な条件下で短時間で仕込みを行う必要があり、偶然にもこの方法にたどり着いたと言う。店主の逆境から成功を得る才能が素晴らしい。  一方変わり種として紹介したいのが「シン・ショウユ」。オレンジ色のスープが高インパクトで、スパイシーな香りを放つ創作メニューだ。スープは濃厚で、カレーに似つつも異なる不思議な風味である。店主によれば、スープには東南アジア系の香辛料のほか、和の醤油、そしてトマトペーストを使用したイタリア風の味わいも組み合わさっているとの事で、食べれば納得、「エキゾチック」と一言で言い表わせない唯一無二の複雑な魅力に溢れている。多くのラーメンを食べ歩いてきた店主ならではの大変ユニークな一品である。 フユツキユキト〝シン・ショウユ〟 麺や うから家から 麺やうから家から「金谷川涼子」。元暴走族の養護教諭。 素材本来の旨味を探求しつづける  次に「麺や うから家から」についてご紹介したい。この店はラーメン作りにおいて「完全無添加」に徹底的にこだわる。いわゆる「うまみ調味料」を使用しないだけでなく、丼に入る全てのもの、例えばスープのタレに使用する醤油などに至るまで、原料から見定めた天然素材にこだわるのだ。そのようなとてもストイックな製法に至ったのは店主の波乱の経歴に瑞を発する。  店主は以前居酒屋を経営しており、そこで料理の傍提供していたラーメンがきっかけで専門店に転向した。店の開店当初は無添加にこだわる意識は特になかったが、ある日脳梗塞にて倒れるという出来事が起こる。闘病からの回復後、店の再開後はお客様にも健康に配慮したラーメンを提供したいという思いを抱くようになった。その頃とある東京の有名店との出会いから完全無添加のラーメン作りを知る。それに理想を見出した店主は、病気の影響で不自由が残った体を引きずりつつも素材一つ一つを探求し続け、自分の目指した完全無添加のラーメンを作り上げた。精巧に作り込まれたラーメンはそのコンセプトと共に多くの人に受け入れられた。  メインメニューの「しょうゆらーめん」は鶏と魚介の香り立つ一品。麺は3種もの国産小麦から作られた特注麺を手揉みしたもので、小麦の芳醇な香りと弾力がたまらない。分厚いチャーシューは低温調理仕立てで柔らかく、ジューシーで極上の味わいだ。スープに使うカエシを構成しているのは無添加由来の生きた「菌」であり、すなわち生物なので必ずしもコンディションが一定しない。そこを一杯一杯調整するのが難しくも、面白さでもあるという。 麺やうから家から〝しょうゆ(生姜)らーめん〟  一方変わり種として紹介したいのは、「特もやしらーめん」。ニンニクと大盛りヤサイが載ったガッツリメニュー、いわゆる「二郎系」だ。こういったラーメンの「うまみ調味料」由来の中毒性は魅力の一つだが、変わり種として特筆したい点はこちらも店の信念に漏れず完全無添加のラーメンである事だ。キレのある醤油タレとパワフルな麺、また一杯一杯丁寧に茹で上げた野菜はジャキジャキとした食感。科学調味料に頼らずとも、素材本来の旨味を目一杯に楽しめる非常に満足度の高い一杯となっている。野菜マシにも対応。ガッツリ好きにも応える、お店の懐の広さに魅了される一品だ。 麺やうから家から〝特もやしらーめん〟 らぁめん たけや たけや「竹子舞」。月から来た伝説の不良。尺八が趣味。 店を人々の思い出と出会いの場へ  最後にご紹介するのは「らぁめんたけや」。訪れればまずは小さながらも古めかしい外観、生活感に溢れた戦後の古民家のような内装に驚かされるだろう。店主はリーゼントで髪型を固め、一見ストイックな店に感じるが、地域福祉を大切にする非常にハートフルな側面があり、店の経営の傍、同志と共に福島振興のNPO法人を立ち上げるなど多彩な活動を行っている。  店主の高校時代の話に遡る。ラーメン一杯を200円で楽しめた時代、地元の老舗ラーメン店に通い、店主がそこで仲間と作った思い出がその後のルーツとなる。時が経ち、道に迷いつつもラーメンの道を志した店主だがその中で東日本大震災が発生する。当時店主は他県におり、その地で強烈な福島差別に直面したという。福島からきた家族や土産品まで激しく非難され、忌避された。心から悲しみ、そして憤慨した。「故郷を守り抜く」。この時店主は地元に戻り自分のラーメン店を開くことを固く決意した。  選んだ物件は相当な年代物だが、人が集うイメージを強烈に感じたという。店名は「竹の根のように地に広く根差す」という希望と、自分の名前から一部とり「たけや」。自分がかつて高校時代に通っていた老舗のような、福島の人々の思い出作りや出会いの場を目指し、徹底的な店づくりを行った。   高品質なラーメンと、アットホームな接客が評判になり、たけやは瞬く間に人気店となった。開店から10年が経ちさまざまな人との出会いを紡ぐうち、今は怒りも笑い話に変わったという店主。店づくりの思いは店を飛び越え、地域振興の思いとなった。幼稚園や老人ホームでラーメンを振る舞うチャリティー、地元食材を利用したコラボ商品の開発など、ラーメンを生かした様々な活動を行っている。  たけやの看板メニューはその名もストレートに「らぁめん」。6~7時間じっくり出汁を取ったスープは透明で爽やかな味わいで、鶏のコクがしっかり感じられる。丼を覆い尽くすチャーシューは食べごたえはもちろん、柔らかな口当たりに驚かされる。こちらは学生にはワンコインで提供しており、店主の学生時代の思いの投影を感じられる。 らぁめんたけや〝らぁめん〟  そして変わり種として紹介したいのが一日限定10食の「特製ちゃあしゅうらぁめん」だ。増量され丼からはみ出したチャーシューは食べ応えだけでなく、スープにどっしりとした肉の旨味を加味する。麺が見えないほどびっしりと敷き詰められたネギ・小ネギは、店名の由来でもある竹林をイメージしているとの事。また驚くべきは、これら野菜は店が独自に開墾した地元の農場で自家栽培されたものを使用されているそうだ。店主の尽きない引き出しにつくづく感服である。 らぁめんたけや〝特製ちゃあしゅうらぁめん〟 月刊「政経東北」編集部 髙橋氏の運営する福島ラーメン組っ!の公式HPには今回紹介した4店舗の他にもさまざまなラーメン店がキャラクターと共に紹介されている。ラーメンの味を楽しむだけでなく、その店のルーツを探ることで、味の独自性をさらに楽しむことができるのではないだろうか。現在は多くの店主がSNSなどで自身のルーツについて発信しており、そこから貴重な情報を得ることができる。一歩踏み込んだラーメン体験を通じ、新たな楽しみを見つけてみてはいかがだろうか。 https://twitter.com/wa_nami

  • 福島市【さくらゼミ】閉鎖の内幕

    福島市【さくらゼミ】閉鎖の内幕

     福島市本町にある学習塾「さくらゼミ」が5月上旬に突如閉鎖し、受験の天王山である夏を前に塾生たちは行き場を失った。1年分の受講料を既に払った塾生もおり、返済が必要な額は500万円にのぼる。運営会社社長は保護者への「謝罪の会」で時期は明言しなかったが全額返金する方針を示した。業界関係者は、塾生を集める算段が付かず経営難に陥り、従業員も見切りを付けたのでは、と話す。 「社会保険未加入」で去っていった講師たち  福島市の学習塾「さくらゼミ」の閉鎖は6月16日付の福島民報が最初に報じた。 《福島市中心部の学習塾が年間受講料などを徴収しながら5月上旬以降、受講生に告知せず授業を中断していることが15日までの関係者への取材で分かった。保護者は受講料返還を求める集団訴訟なども視野に、法的手続きを検討している》 さくらゼミのことだ。同記事によると、塾には小中高生約30人が在籍し、多くは1年分の受講料を一括で納めて今年度の授業を受ける予定だった。4月中はオンラインも交えて授業があったが、5月の大型連休明けから大方の生徒に事情が説明されないまま授業が打ち切られたという。 さくらゼミの元従業員Aさんが語る。 「さくらゼミは仙台市を拠点にする学習塾で教えていた佐藤団氏の個人事業として始まりました。3年前に会社組織を立ち上げ、運営がスタートしました」 法人登記簿によると、さくらゼミを運営するのは「株式会社SAKURA BLACKS」。2020年1月29日設立。事業目的には、①学習塾の経営、②速読、読解力向上の為の学習指導、③語学、資格取得に関する学習指導、④教材用図書の出版がある。代表取締役は佐藤団氏。 佐藤氏は市内で保護者向けに説明会を開いた。6月25日付の福島民友が詳しい。 《福島市の学習塾が受講料を徴収後、説明や返金もないまま事業を停止している問題で、経営者の男性は24日、同市で説明会を開き、受講料の返済が必要な人が約40人おり、総額が約500万円に上ると明らかにした》 男性とは佐藤氏のこと。同記事によると、佐藤氏は弁護士を通じて全額返金する意向を示したが、具体的な時期は明言しなかったという。佐藤氏の話として、塾は昨年12月の段階で経営難だったと伝えている。 前出のAさんが続ける。 「経営に関し、おかしいと思う部分はありました。私は従業員として授業を教えていましたが、一切、社会保険には入れてもらえなかった。佐藤氏は『お金がない』の一点張りでした。最盛期はアルバイトも含めると最大10人くらいいましたが、徐々に辞めていきましたね。私は以前、佐藤氏と一緒の塾に勤めていた同僚で、佐藤氏から『新しい塾をつくろう』と誘われてさくらゼミに参加しました。そういう事情もあって塾生たちに責任を感じ、限界まで残るつもりでしたが、昨年の夏にもう付いていけないと辞めることを決めました。高校受験生に悪影響が及ばないよう、今年2月まで授業を続け退職しました」 現在、さくらゼミのホームページの講師紹介は、佐藤氏の顔写真しか載っていない。過去のホームページをたどると、佐藤氏の担当教科は国語、英語、社会。Aさんによると、塾の従業員がAさん1人になった後は、佐藤氏が算数・数学と理科も教え、状況によっては配信授業を活用する予定だったという。 学習塾業界関係者Bさんの話。 「塾関係者の間では、佐藤氏よりもAさんの方がベテラン講師として実績があり、児童・生徒、保護者から人気がありました。さくらゼミのロゴである桜の花びらのデザインはAさんが以前経営していた学習塾のものと同じで、ノウハウも業界関係者から見れば類似点が多い。Aさんは今春から福島市内で新たに学習塾を開いています。Aさんはさくらゼミでは一従業員の立場に過ぎなかったのかもしれないが、関係性の深さを見ていくと『責任はなかった』では済まされない気がします」 筆者はAさんにこの話を伝え「業界関係者の中にはAさんが佐藤氏を表に立て、裏でさくらゼミを仕切っていたのではないかと疑う人がいるようだ」と問うたが、Aさんは「それはありません」と否定した。 「佐藤氏と一緒にさくらゼミを始めたメンバーは私以外にもいます。仕切るどころか、社会保険に入れてもらえないなどのトラブルがあり、結局全員辞めてしまいましたが」(Aさん) そして、疲れた声でこう続けた。 「むしろ私は、佐藤氏に悪者に仕立て上げられ困っているんです」 どういうことか。 「佐藤氏は私が辞める際、『塾生には何も言わず黙って辞めてくれ』と言い、私はそれに従いました。保護者から後で聞いた話ですが、佐藤氏は保護者・塾生との面談で『Aは勝手に辞めていった』と言ったそうです」(同) どのような意図があったのか。実は、Aさんはさくらゼミを辞める時点で新しい塾を開く予定だった。そのため「佐藤氏は塾生を取られることを恐れ、私が勝手に辞めたと事実と異なる説明をして、塾生に『Aに裏切られた』と思わせる狙いがあったのではないか」(同)。 佐藤氏は配信授業を活用するなどして塾生が1人になっても事業を継続する意向だったが、5月上旬に突如閉鎖して以降は再開した様子はない。7月下旬、筆者は福島市本町にあるさくらゼミが入居していたビルを訪れたが、看板が残っているだけだった。新しいテナントも入っていない。 佐藤氏はさくらゼミの閉鎖から1カ月以上経った6月24日、保護者向けに「謝罪の会」を開いたが、開催は保護者に執拗にせがまれてのことだったという。佐藤氏は保護者に、健康状態の悪化や資金繰りに困っていたことから閉鎖の連絡が遅れてしまったと釈明した。 塾生確保が困難か  前出のBさんが語る。 「佐藤氏が教えられるのは英語などの文系科目だけだったという時点で、他の講師が辞めたら閉鎖は避けられませんでした。受験の天王山と言われる夏を控える中、説明もなく突如閉鎖し、在籍していた塾生の引き受け先も確保しなかったため問題となりました。福島県は大学進学率が低いことから、学習塾にとっては高校受験を控える中学3年生が主な顧客です。塾は2月に現中学2年生の人数を見て、次年度の計画を立てます。毎年、新中学3年生の獲得に力を入れなければならない。次年度の経営状況は春には予想がつくと言っていい。報道によると、閉鎖時に小中高生が30~40人在籍していたとあったが、さくらゼミの規模だと60~70人はいないと黒字にならない。Aさんたち講師陣は、かねてから社会保険を未加入にされていた上、塾生の確保も難しいとあきらめ、見切りを付けたのではないか」 授業が行えず、塾生を集められない以上、さくらゼミの運営会社は、塾生たちに先に徴収した授業料を返還したうえで破産するのが現実的だろう。 佐藤氏はいま何を思うのか。筆者は7月平日の昼に福島市内にある自宅を訪ねたが、車はなく、家族によると「不在」とのこと。債権者への責任を果たすため、金策に走っていることを願う。 あわせて読みたい 【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者

  • 【福島市】メガソーラー事業者の素顔

    【福島市】メガソーラー事業者の素顔

     福島市西部で進むメガソーラー計画の関係者が、思わぬ形で週刊誌に取り上げられた。中国系企業「上海電力日本」が発電所を整備する際、必ず関わっている人物なのだという。予定地の周辺住民は不安を口にしている。 週刊新潮が報じた「上海電力」との関係  本誌昨年12月号で「福島市西部で進むメガソーラー計画の余波」という記事を掲載した。同市西部の福島西工業団地近くの土地を太陽光発電事業者が狙っているというもの。 最初に浮上したのは、福島先達山太陽光発電事業の事業者による変電所計画。しばらくして立ち消えになったが、別の発電事業者がすぐそばの民有地を取得し、開閉所の設置を予定していることが分かった。 《発電事業者は合同会社開発72号(東京都)で、福島市桜本地区であづま小富士第2太陽光発電事業を進めている。営農事業者は営農法人マルナカファーム(=丸中建設の関連会社、二本松市)。開閉所を含む発電設備の建設、運転期間中の保守・維持管理はシャープエネルギーソリューション(=シャープの関連会社、大阪府八尾市)が請け負う。 発電所の敷地面積は約70㌶で、営農型太陽光発電を行う。最大出力約4万6000㌔㍗。今年7月に着工し、2024年3月に完工予定となっている。事業期間は約16年。 開閉所は20㍍×15㍍の敷地に建設される。変圧器や昇圧器は併設しないため、恒常的に音が出続けるようなことはないという。発電所から開閉所までは特別高圧送電線のケーブルを地下埋設してつなぐ》(本誌昨年12月号記事より) ところが、これらの計画について発電事業者側がおざなりな説明で一方的に進めようとしたため、周辺住民が反発。 開閉所につなぐ送電線は直前で地下から地上に出し、近くにある鉄塔から農地をまたぐ電線に接続する計画となっている。そのため、生活空間への影響を懸念する地権者や住民が計画変更を求めたが、開発72号は一度計画変更すると固定価格買い取り制度(FIT)の権利が失われることから応じなかった。 そこで、地元町内会は資源エネルギー庁に対し、3月28日付で、発電事業者への指導を求める125人分の要望署名を提出した。 そうした中で、さらに住民の不信感を増幅させる出来事があった。発電事業者である開発72号の代表者・戸谷英之氏と執行社員・石川公大氏が、『週刊新潮』が掲載した「上海電力」関連記事の中で繰り返し登場していたのだ。 上海電力(正式名称・上海電力股份有限公司)は、中国の国有発電会社「国家電力投資集団」の傘下企業で、石炭火力発電を中心にガス、風力、太陽光発電を手掛けている。 日本法人の上海電力日本(東京都千代田区、施伯红代表)は2013年9月に設立され、日本でのグリーンエネルギー(太陽光・太陽熱、風力、水力等)発電事業への投資、開発、建設、運営、メンテナンス、管理、電気の供給及び販売に関する事業を展開している。中国資本企業ではあるが、2015年8月に経団連に加入している。 『週刊新潮』の記事は、上海電力日本の子会社によるメガソーラーが山口県岩国市の海上自衛隊岩国航空基地の近くに整備されていることに触れたうえで、中国政府に近い企業に基幹インフラ事業を任せる危うさを指摘する内容だった(『週刊新潮』10月27日号)。 『週刊新潮』の記事  上海電力が進出する際の手口は、「合同会社」の転売を繰り返すというものだが、そこに出てくるのが前出・戸谷氏だ。 不動産登記簿によると、2020年12月28日、SBI証券が同発電所の土地に根抵当権を設定した。債務者はRSM清和コンサルティング内に事務所を構える合同会社開発77号。この会社の代表社員が戸谷英之氏だ。記事によると、RSM清和監査法人の代表社員である戸谷英之氏と同姓同名だという。 メガソーラー発電事業者・合同会社東日本ソーラー13には当初、一般社団法人開発77号(合同会社77号の親会社)が加入していたが、同年9月9日、合同会社SMW九州が合同会社東日本ソーラーに加入し、入れ替わるように一般社団法人77号が退社した。この合同会社SMW九州の現在の代表者は施伯红氏。上海電力日本の代表取締役だ。 要するに、戸谷氏の会社が、上海電力日本の進出の手引き役になっていると指摘しているわけ。 『週刊新潮』今年5月18日号では、北海道の航空自衛隊当別分屯基地に近い石狩市厚田区で進められている風力発電計画においても、全く同じスキームが採用されていることが報じられており、戸谷氏のほか、石川氏の名前も出てくる。 本誌2021年4月号で、宮城県丸森耕野地区でメガソーラー計画に対する反対運動が展開されたことをリポートした。用地交渉担当の事業統括会社社長が住民の賛同を広げるため行政区長に金を渡そうとしたとして、贈賄容疑で逮捕された経緯があったが、ここで事業者となっている合同会社開発65号の代表者も戸谷氏だった。 今年に入ってからは宮城県登米市に建設が予定されていたバイオガス発電所計画をめぐり、事業者が経産省に提出していた食品メーカーとの覚書を偽造していたことが発覚し、計画中止となった。事業者・合同会社開発73号の代表者は戸谷氏だ。 根強い地元住民の不信感 開閉所予定地  これらの会社の電話番号はアール・エス・アセットマネジメント(東京都)というエネルギーファンドの資産運用管理会社と同じ番号で、関連会社だと思われる。上海電力日本との関係は判然としないが、ずさんな計画に関わっていたのは確かだ。 たたでさえ、地元住民はメガソーラーやその関連設備が整備されることで、自然環境維持や防災などの面で影響を受けないか、不安視しているのに、投機目的丸出しのペーパーカンパニーでは不安が募るばかり。だからこそ、福島市桜本地区の住民も反対しているのだ。 地元住民が反対していることについてどう受け止めているのか、開発72号に連絡したが、期日までに返答はなかった。 地元町内会の代表者は「発電事業所は10年ほど前に権利を取得し、1㌔㍗36円という高い金額で売電できるので、住民の反対を押し切ってでも期限のうちに計画を進めたいのだと思います。そうした意向を受けてか、発電設備の建設を担うシャープエネルギーソリューションも地元住民の反対を押し切り、すでに工事に着手している。彼らは『地元住民に話をすればそれで了承を得た』と思っている節があります。農地への地上権設定にあっさり許可を出した市(木幡浩市長)にも、住民として協力できない意向を示す反対署名を提出する予定です」と語る。 地元住民の不信感は相当強い状況。過去の事例のように開発72号は上海電力日本など他社に売却する狙いがあるのか。同地区の住民ならず、その動向を注視しておく必要がある。

  • 土湯温泉「向瀧」新経営者が明かす〝勝算〟

     2021年2月の福島県沖地震で損壊した福島市・土湯温泉の「ホテル向瀧」が新ホテルを建設する。前身の「向瀧」から数えて創業100年になる同ホテルは、20年8月に経営者が代わり再スタートを切った。厳しい経済状況の中、コロナ禍の影響を大きく受けたホテル業界に進出し、新施設まで建設する経営者とはどのような人物なのか。(佐藤仁) 巨額借入で高級ホテルを建設 ホテル向瀧の建設予定地  新型コロナの感染拡大でここ数年、閑散としていた土湯温泉。だが、今年の大型連休は違った。 「どの旅館・ホテルも5月5日くらいまで満館でした。様相は明らかに変わったと思います」(土湯温泉観光協会の職員) 職員によると、今年は例年より暖かくなるのが早かったこともあってか、3月ごろから目に見えて人出が増えていたという。 国の全国旅行支援に加え、新型コロナが徐々に落ち着き、5月8日からは感染症法上の位置付けが2類相当から5類に引き下げられた。行動制限があった昨年までと違い、今年の大型連休はどの観光地も大勢の人で賑わいをみせた。 そうした中、土湯温泉では今、新しいホテルの建設が始まろうとしている。筆者が現地を訪ねた5月9日にはまだ着工していなかったが、今号が店頭に並ぶころには資機材が運び込まれ、作業員や重機の動く様子が見られるはずだ。 4月13日付の地元紙には、現地で行われた地鎮祭を報じる記事が掲載された。以下は福島民報より。 《福島市の土湯温泉ホテル向瀧の地鎮祭は12日、現地で行われ、関係者が工事の安全を祈願した。2021(令和3)年2月の本県沖地震で被災したため建て替える。2024年3月末の完成、同年の大型連休前の開業を目指す。 新ホテルは2022年にオープン予定だったが、世界的な資材不足の影響などで開業計画と建物の設計変更を余儀なくされた。新設計は鉄骨造り5階建て、延べ床面積は2071平方㍍。客室は9部屋で、全室に源泉かけ流しの露天風呂を完備する。向瀧グループが運営する。 式には約20人が出席した。神事を行い、向瀧グループホテル向瀧・ワールドサポート代表の菅藤真利さんがくわ入れした》 現地に立つ看板によると「ホテル向瀧」は当初、敷地面積2730平方㍍、建築面積720平方㍍、延べ面積3520平方㍍、7階建て、高さ33㍍だったが、民報の記事中にある「設計変更」で実際の建物はこれより一回り小さくなる模様。設計は㈲フォルム設計(福島市)、施工は金田建設㈱(郡山市)が請け負う。 ホテル向瀧は、もともと「向瀧」という名称で営業していた。法人の㈱向瀧旅館は1923年創業、61年法人化の老舗だが、2011年の東日本大震災で建物が大規模半壊、1年8カ月にわたり休館したことに加え、原発事故の風評被害で経営危機に陥った。その後、インバウンドで福島空港のチャーター便が増加すると、タイからの観光客受け入れルートを確立。ところが、回復しつつあった矢先に新型コロナに見舞われ、外国人観光客は途絶えた。 向瀧旅館の佐久間智啓社長は、震災被害は国のグループ補助金を活用したり、金融機関の協力を得るなどして乗り越えた。だが、新型コロナに襲われると、収束時期が不透明で売り上げ回復も見通せないとして、更に借金を重ねる気力を持てなかった。コロナ前に起きた令和元年東日本台風による被害と消費税増税も、佐久間社長の再建への気持ちを萎えさせた。 向瀧旅館の業績 売上高当期純利益2015年4億円――2016年4億8900万円▲100万円2017年4億5900万円2900万円2018年4億6800万円1600万円2019年4億6500万円――※決算期は3月。―は不明。▲は赤字。  今から3年前、向瀧は「2020年3月31日から5月1日までの間、休館と致します」とホームページ等で発表すると、5月2日以降も営業を再開しなかった。 そんな向瀧に転機が訪れたのは同年8月。福島市のワールドサポート合同会社が経営を引き継ぎ、「ホテル向瀧」と名称を変えて営業を再開させたのだ。 法人登記簿によると、ワールドサポートは2015年設立。資本金10万円。代表社員は菅藤真利氏。主な事業目的は①ホテル事業、②レストラン事業、③輸出入貿易業、輸入商品の販売並びに仲介業、④電子製品の製造、販売および輸出入並びに仲介業、⑤企業の海外事業進出に関するコンサルタント業、⑥機器校正メンテナンス業、⑦測定器の研究、開発、製造および販売――等々、多岐に渡る。 ワールドサポートの業績 売上高当期純利益2018年400万円――2019年700万円4万円2020年2700万円▲1400万円2021年1億0600万円――2022年2000万円――※決算期は3月。―は不明。▲は赤字。  創業100年の老舗旅館を、設立10年にも満たない会社が引き継いだのは興味深い。ワールドサポートとはどんな会社で、代表の菅藤氏とは何者なのか。 好調な中国のレストラン イラストはイメージ  菅藤氏はホテル業や運送業、保険業などに携わった後、中国で起業したが、その直後に東日本大震災が起こり、2011年9月、福島市内に放射線測定器を扱う会社を興した。だが、同社が県から委託されて設置したモニタリングポストに不具合が生じたとして、県は契約を解除。一方、別会社が菅藤氏の会社から測定器を納入し、県生活環境部が行う入札に参加を申し込んだところ、測定器が規定を満たしていないとして入札に参加できなかったが、県保健福祉部が行った入札では問題ないとして落札できた。そのため、この会社と菅藤氏は「測定器の性能に問題はなかった」と県の第三者委員会に苦情を申し立てた経緯があった。 その後、菅藤氏は測定器の会社を辞め、親族と共に中国・大連市に出店した日本食レストラン(3店)の経営に専念。このころ、父親を代表社員とするワールドサポートを設立し、レストラン経営に対するコンサルタント料として同社に年数百万円を支払っていた。 2019年にはワールドサポートでも飲食店経営に乗り出し、福島市内に洋食店を出店した。ところが翌年、新型コロナが発生し、洋食店はオープン数カ月で休業を余儀なくされた。ただ、中国の日本食レストランはコロナ禍でも100人近い従業員を雇うなど、黒字経営で推移していたようだ。 菅藤氏の知人はこう話す。 「菅藤氏の日本食レストランは中国のハイクラス層をターゲットにしており、新型コロナの影響に左右されることなく着実に売り上げを上げていました。あるきっかけで店を訪れたモンゴル大使館の関係者は『とても素晴らしい店だ』と気に入り、菅藤氏に『同じタイプのレストランをモンゴルに出したいので手伝ってほしい』と依頼。菅藤氏はコンサルとして出店に協力しています」 ワールドサポートに「向瀧の経営を引き継がないか」という話が持ち込まれたのは洋食店が休業に入るころだった。もともとホテル経営に関心を持っていた菅藤氏に、前出・向瀧旅館の佐久間社長と代理人弁護士が打診した。 この知人によると、法人(ワールドサポート)としてはホテル経営の実績はなかったが、菅藤氏は元ホテルマンで、休業していた洋食店の従業員にも元ホテルマンが多く、個々にホテル経営のノウハウを持ち合わせていたという。実際、同社がホテル向瀧として2020年8月から営業を再開させた際、総支配人に据えたのは、2019年に閉館したホテル辰巳屋で支配人・社長を務めた佐久間真一氏だった。 本誌は3年前、ワールドサポートに経営が切り替わるタイミングでホテル幹部を取材したが、向瀧旅館から引き継ぐ条件として▽負債は佐久間社長が負う、▽不動産に付いている金融機関の担保も佐久間社長の責任で外す、▽身綺麗になった後、運営会社を向瀧旅館からワールドサポートに切り替える、▽それまではワールドサポートが向瀧旅館から不動産を賃借して運営する――等々がまとまったため、営業を再開したことを明かしてくれた。 ワールドサポートは向瀧旅館の従業員を再雇用することにもこだわった。現場を知る人が一人でも多い方が再開後の運営はスムーズだし、コロナ禍で景気が冷え込む中では、従業員にとっても失業を回避できるのはありがたい。希望する従業員は全員再雇用した。ただし早期再建を図るため、給料は再雇用前よりカットすることで納得してもらった。従業員に給料カットを強いる以上は、役員報酬も大幅カットした。 また、休業していた洋食店は撤退を決め、新たにホテル向瀧のラウンジに入居させて再スタートを切った。 不動産登記簿を見ると、向瀧旅館の佐久間社長はワールドサポートとの約束を着実に履行した形跡がうかがえる。 ホテル向瀧の土地建物には別掲の担保が設定されていたが(債務者は全て向瀧旅館)、これらは2021年3月末までに解除された。 根抵当権1980年12月設定極度額6000万円、根抵当権者・福島信金根抵当権1990年5月設定極度額13億円、根抵当権者・みずほ銀行根抵当権1994年5月設定極度額1億5000万円、根抵当権者・みずほ銀行根抵当権1994年5月設定極度額1億2000万円、根抵当権者・みずほ銀行根抵当権1994年5月設定極度額1億2000万円、根抵当権者・福島信金抵当権1994年6月設定債権額3億円、抵当権者・日本政策金融公庫抵当権1998年3月設定債権額1億円、抵当権者・日本政策金融公庫抵当権2013年9月設定債権額8100万円、抵当権者・福島県産業振興センター※上記担保は2021年3月末までに全て解除されている。  同年6月、向瀧旅館は商号を㈱MT企画に変更。3カ月後の同年9月1日、5億6800万円の負債を抱え、福島地裁から破産手続き開始決定を受けた。同社はワールドサポートから家賃収入を得ていたが、全ての担保が解除されたと同時に土地建物をワールドサポートに売却した。 20億円の借り入れ  この時点でMT企画・佐久間社長はホテル向瀧とは一切関係がなくなったが、その後も「何らかのつながりがあるのではないか」と見る向きがあったのか、ワールドサポートでは同ホテルのHPで次のような注意喚起を行っていた。 《ホテル向瀧は、株式会社向瀧旅館・土湯温泉向瀧旅館および株式会社MT企画とは一切関係ありませんので、ご注意下さいますようお願いいたします》 そんなワールドサポートも順風な経営とはいかなかった。土地建物が自社名義になる直前の2021年2月に福島県沖地震が発生。震災に続きホテルは大規模半壊し、休館せざるを得なかった。 菅藤氏は建て替えを決断し、金策に奔走した。その結果、2022年3月に三井住友銀行をアレンジャー兼エージェント、福島銀行、足利銀行、商工中金を参加者とする20億3500万円のシンジケートローンが締結された。だが、冒頭・民報の記事にもあるように、世界的な資材不足の影響で計画・設計の変更を迫られるなどスムーズな建て替えとはいかなかった。 ちなみに、かつての向瀧は10階建て、延べ床面積1万0600平方㍍、客室は71室あった。これに対し、新ホテルは5階建て、延べ床面積2070平方㍍、客室は9室なので、団体客は意識せず、コロナ禍で進んだ個人・少人数の旅行客を受け入れようという狙いが見て取れる。 ホテル向瀧が休館―解体―新築となる一方で、菅藤氏は同ホテルから徒歩5分の場所にあった保養施設の改修にも乗り出していた。 閉館から年月が経っていた「旧キヤノン土湯荘」を2021年6月、ワールドサポートの関連会社㈱WIC(福島市、2021年設立、資本金400万円、菅藤江未社長)が取得すると、改修工事を施し、今年3月から「向瀧別館 瀧の音」という名称で営業を始めた。土地建物はWIC名義だが、運営はワールドサポートが行っている。 3月にオープンした瀧の音  ここまでワールドサポートと菅藤氏について触れたが、巨額の売り上げを上げているわけでもなく、洋食店も始まった直後に新型コロナで休業し、ホテル経営も実績がない。そんな同社(菅藤氏)が、なぜ20億円ものシンジケートローンを組むことができたのか、なぜホテル向瀧だけでなく別館まで手を広げることができたのか、正直ナゾが多い。 事実、他の温泉地の旅館・ホテルからは「バックに有力スポンサーが付いているのではないか」「中国資本が入っているのではないか」という憶測も聞こえてくる。 実際はどうなのか、菅藤氏に直接会って話を聞いた。 菅藤氏が描く戦略 イラストはイメージ  向瀧旅館から経営を引き継ぎ、2020年8月に営業許可を受けた菅藤氏は、71室あった客室を15室だけ稼働させ、限られた経営資源を集中投下した。 「まず『旅館』から『ホテル』にしたことで、仲居さんが不要になります。かつての向瀧を知るお客さんからは『部屋まで荷物を運んでくれないのか』『お茶を出してくれないのか』と言われましたが『ホテルに変わったので、そういうサービスはしていません』と。そうやって、まずは労働力・人件費を細部に渡りカットしていきました」(菅藤氏、以下断わりがない限り同) 休業していた洋食店をホテル内に入居させたことも奏功した。 「もともと腕利きの料理人を複数抱えていたので、ホテルの夕食は和食かフレンチをチョイスできる仕組みにしました。そうすることで、例えば夫婦で泊まった場合、旦那さんは和食で日本酒、奥さんはフレンチでワインが楽しめると同時に、翌日は逆のチョイスをしてみようと連泊してくださるお客さんが増えていきました」 連泊すると、宿泊客は部屋の掃除を遠慮するケースが多い。そうなるとリネンを交換する必要もなく、その分、経費は浮くことになる。 「旅館では当たり前の布団を敷くサービスも廃止し、お客さんに敷いてもらうようにして、代わりに1000円キャッシュバックのサービスを行いました。その結果、1000円がお土産代などに回る好循環につながりました」 従業員は十数人なので、15部屋が満室になったとしても満足なサービスを提供できる。そうやって今までかかっていた経費を抑えつつ、限られた人数で一定の稼働率を維持したことで、営業再開当初から単月の売り上げは二千数百万円、利益は数百万円を上げることに成功した。 ところが前述した通り、2021年2月の福島県沖地震で建物は大規模半壊。休館―解体を余儀なくされた中、菅藤氏が頭を悩ませたのは従業員の雇用維持だった。 考えたのは、新ホテルの開設準備室として使っていた前出・旧キヤノン土湯荘をホテルとして再生させ、新ホテルがオープンするまで従業員に働いてもらうことだった。 「もともと保養所だったので、風呂とトイレは各部屋になく、フロアごとに設置されていました。ここをリニューアルすれば、学生の合宿に使い勝手が良い施設になるのではと考え、リーズナブルな料金設定にして営業を始めました」 建物は2021年に続き22年3月の福島県沖地震でダメージを受けていたため、リニューアルは簡単ではなかったが、今年3月に瀧の音としてオープン以降は従業員の雇用の場になると共に、新たな宿泊層を呼び込むきっかけにもなった。 「今年の大型連休は、県内外の中学・高校生に大会の宿舎として利用していただきました。ダンススクールの子どもたちの合宿もあり、4連泊と長期宿泊もみられました。客室は9室と少ないので、サービスが滞る心配もありません」 今後は各部屋にユニットバスとトイレを設置し、使い勝手の向上を図る予定だという。 新型コロナが収束していない中、2軒目の経営に乗り出すとは驚きだが、気になるのは、新ホテルを建設し、徒歩5分のエリアに別館もオープンさせて足の引っ張り合いにならないのかということだ。 「新ホテルはインバウンドや首都圏のお客さんをターゲットに、瀧の音とは全く異なる料金プランを設定する予定です。稼働率も25%程度を想定しています」 要するに、新ホテルは高級路線を打ち出し、別館とは住み分けを図る狙いだ。今後、別館のリニューアル(ユニットバスとトイレの設置)を行うのは、今まで向瀧を訪れていた地元の人たちが高級ホテルに宿泊するとは考えにくいため、合宿以外の地元利用につなげたい考えがあるのだろう。 それにしても驚くのは25%という稼働率の低さだ。旅館・ホテルは稼働率60~70%が損益分岐点と聞くが、25%で黒字に持っていくことは可能なのか。 「例えば客室が100室あって稼働率25%では、空きが75室になるので赤字です。だが、新ホテルは9室なので25%ということは2部屋稼働させればいい。大きな旅館・ホテルは、春秋の観光シーズンや夏休みは一定の入り込みが見込めるが、シーズンオフは企画を立てたり、料金を下げても稼働率を維持するのは容易ではない。しかし、お客さんのターゲットを明確に絞り、全体で9室しかなければ、観光シーズンか否かに左右されず一定の稼働率を維持できると考えています。ましてや最初から25%と低く設定し、それで黒字になるなら、ハードルは決して高くないと思います」 新ホテルに明確なコンセプトを持たせつつ、別館は学生や地元客の利用を意識するという菅藤氏のしたたかな戦略が見て取れる。 「ホテル管理システムも、スマホで予約や決済が可能な最新のものを導入しようと準備を進めています。削る部分は削るが、かける部分はかけるというのも菅藤氏の戦略なのでしょう」(前出・菅藤氏の知人) 見えない信用力  それでも記者が「厳しい経済状況の中、高級路線のホテルは需要があるのか」と意地悪い質問をすると、菅藤氏はこう断言した。 「あります。首都圏では某有名ホテルチェーンで1泊数万円でも連日予約が埋まっているし、有名観光地では1泊1食付きで数十万~100万円の旅館・ホテルの人気が高い。地方の温泉地でも知恵を絞り、魅力的なサービスを打ち出せば外国人旅行者や首都圏の富裕層に関心を持ってもらえると思います」 このように戦略の一端が見えた一方、やはり気になるのは金策だ。三井住友銀行によるシンジケートローンは前述したが、失礼ながら事業実績に乏しいワールドサポートに巨額融資を受ける信用があるようには見えない。その点を菅藤氏に率直に尋ねると、こんな答えが返ってきた。 「最初、地元金融機関に融資を申し込んだところ、事業計画を吟味することなく『当行は静観します』と断られました。その後、紆余曲折があり三井住友銀行さんに行き着いたが、同行は事業計画をしっかり評価してくれました。同行はグループ会社でホテル経営をしており、五つ星ホテルもあるから、ホテル向瀧のコンセプトにも理解を示してくれたのだと思います。『婚礼はやらない方がいい』など具体的なアドバイスもしてくれました」 とはいえ、事業計画がいくら立派でも、信用面はどうやって評価してもらったのか。 「中国の日本食レストランはオープン9年になるが、その業績と資産価値を高く評価してもらいました。三井住友銀行さんに現地法人があったことが、正確な評価につながったのでしょう。融資を断られた地元金融機関は現地法人もなければ支店・営業所もないので、(日本食レストランを)評価しようがなかったのかもしれません」 記者が「バックに有力スポンサーがいるとか、中国資本が入っていると見る向きもあるが」とさらに突っ込んで聞くと、菅藤氏はきっぱりと言い切った。 「仮に有力スポンサーが付いていたとしても、ワールドサポートと実際の資本関係がなければ銀行は信用力が上がったとは見なさない。しかし登記簿謄本を見てお分かりのように、当社は資本金10万円の会社ですから、スポンサーとの資本関係はありません。中国資本についても同様です」 スポンサー説や中国資本説はあくまでウワサに過ぎないようだ。 これについては前出・菅藤氏の知人もこう補足する。 「菅藤氏の周囲には数人のブレーンがいて、これまでも彼らと知恵を出し合いながら事業を進めてきた。ホテル経営に当たっても資金づくりが注目されているが、私が感心したのは様々な補助金を駆使していることです。一口に補助金と言うが、実は省庁ごとに細かい補助金がいくつもあり、その中から自分の事業に使えるものを探すのは簡単ではない。それを、菅藤氏はブレーンと適宜見つけ出しては本館・別館の改修に充てていたのです」 地方の温泉旅館で富裕層を狙う戦略が奏功するのか、急速な事業拡大は行き詰まりも早いのではないか、巨額融資を受けられた別の理由があるのではないか――等々、お節介な心配は挙げれば尽きないが、今後、ワールドサポート・菅藤氏のお手並みを拝見したい。 「別の仕掛け」も検討!?  ワールドサポートでは向瀧旅館と取り引きしていた仕入れ先から引き続き食材等を調達しているが、当初は現金払いを求められたという。向瀧旅館が再三休館し、最後は破産したわけだから、ワールドサポートも信用面を疑われるのは仕方がなかった。だが、再開当初から経営が軌道に乗り、シンジケートローンが決まると「月末締めの翌月払い」に変更されたという。同社が仕入れ先から信用を得られた瞬間だった。 「向瀧旅館(MT企画)が破産したことで、仕入れ先の債権(買掛金など)がどのように処理されたのかは分かりません。当社としては仕入れ先に迷惑をかけず、地元企業にお金が回るようホテルを経営していくだけです」(菅藤氏) その点で言うと、もし地元金融機関から融資を受けられれば施工は福島市の建設会社に依頼する予定だったが、融資を断られたため、三井住友銀行の紹介で接点ができた前述・金田建設に依頼した。菅藤氏は「今後も可能な限り地元企業にお金が回るようにしたい」と話している。 建設中の新ホテルは来年3月末に完成し、大型連休前のオープンを目指しているが、災害時には避難所として利用できるよう福島市と協定を締結している。瀧の音をオープンさせた狙いの一つ「地元貢献」を新ホテルでも果たしつつ、 「菅藤氏は更に『別の仕掛け』も考えており、これが成功すれば低迷する各地の温泉地を再生させるモデルケースになるのでは」(前出・菅藤氏の知人) というから、本誌の取材には明かしていない構想が菅藤氏の念頭にはあるのだろう。 昨年創業100年を迎えたホテル向瀧がどのように生まれ変わり、菅藤氏が描く「仕掛け」が土湯温泉全体にどのような影響をもたらすのか、注目点は尽きない。 あわせて読みたい 芦ノ牧温泉【丸峰観光ホテル】民事再生を阻む諸課題【会津若松市】 飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」 【石川町】焼失ホテルが直面する複合苦

  • 福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長

    福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長

    (2022年8月号)  JR福島駅と言えば、東口で進められている駅前再開発事業が思い浮かぶが、経済界を中心に東西エリアの一体化に向けた協議が行われていることはあまり知られていない。その一体化に伴って必要になるのが、同駅の連続立体交差だ。連続立体交差は巨額の費用と長い年月を要し、実現は簡単ではないが、災害時に西口から東口(あるいはその逆)への避難ルートがほとんどない現状を踏まえると「市民の命を守るため、実現に向け真剣に検討すべき」という声がある。 実現目指す地元経済界との間に〝隙間風〟 https://www.youtube.com/watch?v=hCXjFyJGVqE 福島駅前再開発へ ビル解体に向けた地鎮祭 賑わい創出の新たなランドマークの全容とは<福島県> (22/07/04 19:35)  2022年7月4日、福島駅東口の駅前再開発事業で、既存の建物を取り壊す解体安全祈願祭が現地で行われた。祈願祭には市や商工関係者など約50人が出席。福島駅東口地区市街地再開発組合の加藤真司理事長、ふくしま未来研究会の佐藤勝三代表理事、木幡浩市長らが玉串をささげた。加藤理事長は「安全最優先で工事を進める」、木幡市長は「完成後は官民一体で中心市街地の賑わい創出に取り組みたい」と挨拶した。  施工者である同組合のホームページによると《福島駅東口地区市街地再開発事業は再々開発事業で、昭和46年~48年度に市街地再開発事業(辰巳屋ビル・平和ビル)により実施された地区にその周辺の低・未利用地等を含めた地区を対象として、都市機能の更新と高次都市機能の集積を図るため建物の建替え等を再び実施する事業です。本事業は民間が行う商業、業務、宿泊等に加え、公益施設(大ホール、イベント・展示ホール)機能の複合化により、商業や街なか居住等の都市機能の充実、賑わいの創出、交流人口の拡大などを図り》とある。 計画では、敷地面積1・4㌶に商業、交流・集客施設、オフィス、ホテルからなる12階建ての複合棟、7階建ての駐車場棟、13階建ての分譲マンションを建設。総事業費は492億円で、このうち国・県・市が244億円を補助し、市はさらに公共スペースを190億円で買い取る。7月末から解体工事に入り、2023年度から新築工事に着手、26年度のオープンを目指している。 この間、本誌でも度々取り上げてきた駅前再開発事業がいよいよ本格始動したわけだが、これとは別に同駅周辺の再開発を模索する動きがあることはあまり知られていない。 「福島駅東西エリア一体化推進協議会」という組織がある。設立は2021年3月、会長は福島商工会議所の渡邊博美会頭、会員数は91の事業所・団体に上る。同協議会の規約によると、目的は《福島市のより良い都市形成と福島駅周辺の円滑な交通体系の根幹となる福島駅周辺関係整備の早期実現に協力し、もって地域経済の発展並びに中心市街地の活性化を図る》。 同駅周辺を整備し活性化を図るというのだから、前述・駅前再開発事業と目的は変わらない。違うのは、目的ではなく手段。同協議会が念頭に置いているのは、同駅の連続立体交差だ。 連続立体交差とは、鉄道を連続的に高架化・地下化することで複数の踏切を一挙に取り除き、踏切渋滞解消による交通の円滑化と、鉄道により分断された市街地の一体化を推進する事業だ。施工者は都道府県、市(政令市、県庁所在市、人口20万人以上)、特別区とされ、国土交通省の国庫補助(補助率10分の5・5)として行われる。このほか地方自治体の負担分も合わせ、事業費全体の9割を行政が負担し、残り1割は鉄道事業者が負担。1968年の制度創設以来、これまでに全国約160カ所で行われてきた。  全国連続立体交差事業促進協議会のホームページによると、東京都内や大阪府など都市部での実績が目立つが、前述・福島駅東西エリア一体化推進協議会が参考にするのはJR新潟駅だ。 新潟駅の連続立体交差は1992年に新潟県と新潟市が共同調査を開始し、2005年に同駅周辺整備計画が都市計画決定。翌年、同駅付近連続立体交差事業として国から認可を受け、正式スタートを切った。 事業主体は当初県だったが、2007年に新潟市が政令市に移行したことに伴い市に移管。以降、着々と工事が進められ、18年度には同駅高架駅第1期開業および新幹線と在来線の同一乗り換えホームが完成。2022年6月には在来線高架化が完了し、同月5日に全線高架化記念式典が行われた。06年の事業スタートから16年かかったが、関連工事は現在も続いており、駅舎内の商業施設は24年度、駅周辺整備は25年度の完了を目指している。 事業費は1500億円、周辺整備も含めると1750億円で、このうち市が400億円を負担しているというから、連続立体交差が一大プロジェクトであることがご理解いただけるだろう。 少ない東西の避難ルート 「連続立体交差」待望論が浮上する福島駅(東口) 福島駅西口  新潟駅に視察に行ったという福島商議所の事務局担当者も 「新幹線と在来線が同じレベルにあり、乗り換えがスムーズにできるほか、1階にバスターミナルやタクシープールが整備されるなど、雨や雪を凌げるのは雪国にとって便利なつくりだと感じました。市街地が線路に分断されず、一体感が醸成されている点も魅力でした」 と、連続立体交差がもたらす効果を実感したという。 「高架化による踏切渋滞の解消というと首都圏の駅や線路を思い浮かべますが、長野新幹線の開通に合わせて長野・富山・金沢の各駅でも連続立体交差が行われているので、地方でも実績は十分あります」(同) 実際、連続立体交差によりどんな効果が見込まれるのか。新潟市の資料によると①踏切2カ所の除去により遮断時間が2~3時間解消し、一時停止の損失時間も3~5時間解消、②新幹線と在来線の乗り換え移動時間が最大4・6分短縮し、計16㍍の上下移動も解消、③鉄道横断区間の移動時間が半分に短縮し、消防署からの5分間の到達圏域が12%拡大、④鉄道とバスの乗り換え移動時間が平均1・8分短縮、⑤同市の二酸化炭素排出量とガソリン使用量が大きく削減、⑥駅周辺で多くの民間ビルの建設や建て替えが進み、人口増と雇用創出が期待される――等々。 費用と年月はかかるが、その分の見返りも大きいことが分かる。ではこれを福島駅に置き換えるとどんな効果が考えられるのか。市内の経済人はこのように語る。 「基本的には新潟駅と同様の効果が見込まれますが、福島駅の場合は東西をつなぐ平和通りのあづま陸橋と県道庭坂福島線の陸橋(西町跨線橋)が築50年を迎え、架け替えの必要があります。この二つを多額の費用をかけて架け替えるなら、併せて同駅も高架化した方が費用対効果は高いと思われます」 線路によって遠く分断された東西口が一体化すれば、駅周辺の光景が劇的に変化するのは間違いないが、この経済人によると、連続立体交差は経済面だけでなく、防災面からも重要な役割を果たすという。 「福島駅周辺は東西を行き来するルートが少ない。同駅の地下には東西自由通路があるが狭く、東口の出入口は駅ビル(エスパル福島)内にあって分かりづらい。県外の人は出入口が見つからず、わざわざ入場券を買って改札口から行き来しなければならないのかと勘違いする人も多い。飯坂線の曽根田踏切は〝開かずの踏切〟として有名で、遮断機が上がると歩行者も自転車も車も一斉に渡り出すので非常に危険。同駅周辺にはアンダーパスもあるが、大雨時には冠水のリスクがある。2019年に福島市で東北絆まつりを開催した時、アンダーパスを封鎖し、来場者にはあづま陸橋と西町跨線橋を通って東西を行き来してもらったが『他にルートはないのか』と大ひんしゅくを買った経緯もあります」(同) こうした中で経済人が問題視するのが、同市のハザードマップだ。「吾妻山火山防災マップ」(2019年改訂版)を見ると、冬に大噴火が発生し融雪による火山泥流が押し寄せると、同駅西口の仁井田、八木田、須川町、方木田地区は浸水2㍍以上、笹木野、森合地区は同50㌢未満に達すると表示されているのだ。同じ西口の野田町や三河台地区は浸水を免れるため西口にも避難できる地域はあるが、いざ火山泥流が迫ってきたら遠くに(線路を跨いで東口側に)逃げようという心理が働くのが自然だろう。 「しかし、浸水するということは東西自由通路やアンダーパスは通れない可能性が高い。そうなると、駅周辺の人たちは曽根田踏切、あづま陸橋、西町跨線橋しか避難ルートがないわけです」(同) もし災害が発生し、何千もの人がこの限られた避難ルートに一斉に押し寄せたら、大パニックになることは容易に想像できる。 これは火山に限らず、大雨の場合でも同駅南側には荒川が流れていることから東西口どちらも50㌢から最大5㍍の浸水リスクがあり、東西自由通路やアンダーパスは水没の恐れがある。災害が頻発する昨今、東西の避難ルートが極めて少ないことは駅周辺に暮らす市民にとって不安要素となっているのだ。 「火山泥流や大雨は、現在の福島駅をも水没させる恐れがある。そうなれば交通や物流にも多大な影響が及ぶことになる。すなわち連続立体交差は、そういったリスクの解消にも役立つのです」(同) 二階氏から知事に指示 二階俊博前幹事長(自民党HPより) 内堀雅雄知事  前述・福島駅東西エリア一体化推進協議会は設立から1年5カ月しか経っていないが、この間、活発な活動を展開している。同会発足前の2018年11月には、福島商議所中小企業振興委員会で新潟駅を視察。21年10月には一般市民や高校生を対象に東西の往来に関するアンケート調査を実施。2022年に入ってからは、1月に木幡浩市長に同駅連続立体交差の推進を陳情、3月に専門家を招いた講演会や福島商議所女性会を対象とした研修会を開催、4月には自民党国土強靭化推進本部と地方創生実行統合本部を訪ね、同駅連続立体交差に関する要望書を提出した。7月末には総会も開催予定だ。 地元経済界の事情通によると、同協議会が4月に自民党本部を訪ねた際にはサプライズも起きたという。 「同協議会の渡邊会長が国土強靭化推進本部長の二階俊博前幹事長に要望書を手渡すと、二階氏はおもむろに電話をかけ出した。驚いたことに電話の相手は内堀雅雄知事で、二階氏が内堀知事に『福島から地元の方々が連続立体交差の要望でお見えになっているので対応してほしい』と言うと、内堀知事は『分かりました』と応じたというのです。さらにそこには二階氏の側近で、地方創生実行統合本部長の林幹雄元経済産業大臣も同席していて、林氏も県幹部に電話し『すぐに計画を練って国に上げるように』と指示したそうだ」 自民党の中枢から内堀知事や県幹部に直接指示する光景を目の当たりにして、同協議会は実現に強い手ごたえを感じたはずだ。 事情通によると、2020年12月に福島市で平沢勝栄衆院議員(福島高卒)の復興大臣就任祝賀会を開いた際、平沢氏から同商議所幹部たちに「福島駅の連続立体交差を検討してはどうか」との誘いがあったという。ちょうど同商議所内で検討を始めたころで、平沢氏に全く相談していないタイミングでそのような打診を受けたため、真剣に検討するきっかけになったようだ。ちなみに、平沢氏は二階派所属。 誤解されては困るが、連続立体交差は有力国会議員がこぞって後押ししているからやろう、ということではない。同協議会が市民や高校生に行ったアンケートでは「鉄道が高架化した下を車や歩行者が自由に通行できるようになったらどう思うか」という質問に、市民の53%が「非常に良い」、32%が「良い」と回答、高校生も「非常に良い」25%、「良い」52%という結果が得られている。また自由記述欄も、費用負担への心配や駅前の魅力向上につながるのか疑問視する声が散見されたが、多くは歓迎の意見で占められていた。市民のニーズの高さも、実現に向けた原動力になっている。 とはいえ同協議会が自民党本部を訪ねてから3カ月以上経つが、駅前再開発事業の解体安全祈願祭は行われたものの、連続立体交差をめぐる具体的な動きは何一つ見られない。 「検討の予定はない」 【木幡浩】福島市長  前出・事情通によると、原因は木幡市長の消極姿勢にあるという。 「木幡市長は駅前再開発事業に専念したい考えで、連続立体交差には関心を示していません。2022年1月、同協議会が木幡市長に陳情した際も素っ気ない態度だったそうで、温厚で知られる渡邊会長が『ああいう態度は政治家としていかがなものか』と不快感を示したとか。木幡市長からは『一応検討します』という言葉さえなかったようです」 こうした状況を受け、同協議会関係者の間ではこんな見立てが浮上している。 「二階氏と林氏から内堀知事に指示があったものの、地元自治体の意向は無視できない。そこで、内堀知事が木幡市長に打診すると『駅前再開発事業に専念したい』と言われたため『地元市長にそう言われたら、県は手出しできない』と静観する構えになったようだ」 それを二人が話し合った場が、内堀知事が新型コロナウイルスに感染した「5月16日、福島市内での4人の会食」(地元紙報道)とのウワサまで出ている。ただ、確かに木幡市長も同時期、濃厚接触者になっているが、そのきっかけは「5月17日、福島市内での4人の会食」(同)と1日遅いのだ。 報道通りなら二人は異なる会食に参加していたことになるが、「福島市内」「4人」と状況が一致していたため「感染対策が行われた別々の会食に参加していたはずなのに、同時に感染者と濃厚接触者になるのは不自然だ」として「実際は同じ会食に参加していたのではないか」という説まで囁かれている。 「木幡市長は1984年に東大経済学部卒―自治省入省、内堀知事は86年に東大経済学部卒―自治省入省と、二人は全く同じルートを辿った先輩・後輩の間柄なのです。だから、木幡市長がノーと言えば内堀知事は逆らえない」(前出・事情通) そうなると、今度は内堀知事に直接電話をかけた二階氏の立つ瀬がない。このまま動きがなければ「オレの顔を潰す気か」と二階氏が激怒するのは必至。二階氏に「分かりました」と返事はしたものの、先輩の木幡市長から了承が得られない〝板挟み状態〟に、内堀知事は肝を冷やしているかもしれない。 同市都市計画課に同駅の連続立体交差を検討する考えがあるか尋ねると、担当者は次のように答えた。 「商工会議所を中心に設立された福島駅東西エリア一体化推進協議会で連続立体交差に関する協議を進めていることは承知しており、東西エリアの一体化が重要であることも認識しています。ただ、実現には費用と時間がかかり、市では公共施設の再編に向け駅前再開発事業に注力しているのが現状で、連続立体交差の具体的な検討は行っていません」 木幡市長にも連続立体交差への見解を聞くため取材を申し込んだところ、文書(7月22日付)で次のような回答が寄せられた。   ×  ×  ×  × ――福島駅の連続立体交差を検討する考えはあるか。 「2018年に策定した『風格ある県都を目指すまちづくり構想』では、公会堂や市民会館、消防本部など耐震性の不足する建物を再編統合も図りながら整備するとともに、その一環で整備するコンベンション施設は中心市街地活性化のため、駅前の再開発ビルに統合することとしました。これ以外の事業は中長期的課題とされ、整備コストなどの課題を踏まえ調査研究を続けるとしています。なお、福島駅連続立体交差事業はこの構想に含まれていません。 他都市の事例を参考にすると、連続立体交差事業はこれら以上の膨大な事業費(千数百億円規模)を要するうえに、20~30年の長期に及ぶ事業期間、JR各線と私鉄2線との複雑な軌道形状、既存のあづま陸橋や西町跨線橋の取り扱いなど課題が多いことから、市としては慎重な対応が必要と考えています。現時点で連続立体交差を検討していく予定はありません」 ――2022年1月、「福島駅東西エリア一体化推進協議会」が陳情を行った際、木幡市長の反応は鈍かったとのことですが。 「ご指摘の協議会から陳情を受けたことはありませんが、考え方は前述の通りです」 ――連続立体交差を行わないとするなら、吾妻山噴火など災害時における西口から東口への避難ルートはどのように確保していく考えか。 「災害時の各地域の避難ルートは2019年9月公表の『火山活動が活発化した場合の避難計画』の中に避難対象地域の主な避難ルートや指定避難所が示されています。地震などで東口と西口をつなぐあづま陸橋や西町跨線橋が損壊し通行できない場合は、警察などと連携して迂回路を選定・確保し、迅速に市民への周知を図ります」 ――木幡市長が新型コロナの濃厚積極者になったのは、内堀知事と会食しながら連続立体交差に関する話し合いをしていたことがきっかけと聞いたが、事実か。 「すでに公表しているように、私が濃厚接触者となった会食は5月17日に行いました。『内堀知事と会食しながら連続立体交差について協議した』ということはありません」   ×  ×  ×  × やはり内堀知事との会食は否定したが、同協議会からの陳情を受けていないとか、避難ルートの確保に向けた施策がないなど、要領を得ない回答が目立った印象だ。  前出・市内の経済人は連続立体交差に無関心な木幡市長にこんな苦言を呈した。 「駅前再開発事業に専念したい気持ちは分かるが、市民の命を守る観点から言うと、連続立体交差を検討すらしない姿勢は疑問だ。そもそも火山泥流や水害で駅周辺に被害が及べば、駅前再開発事業にも多大な影響が及ぶ。492億円もの事業費を投じて東口だけを整備するなら、国の補助金を活用して西口も含めた駅一帯を整備した方が効果的だ。こうした提案をすると、県や市は口を揃えて『金がない』と言うが、金がないからやらないのではなく『面倒くさいからやりたくない』という風にしか見えない」 連続立体交差の実現は簡単ではないが、「市民の命を守る」ことを考えた時、木幡市長の「あづま陸橋や西町跨線橋が損壊し通行できない場合は、警察などと連携して迂回路を選定・確保する」という発言は場当たり的で不安だ。 駅前再開発事業をめぐっては、ホテルや商業施設の詳細が明らかにならず、市が運営するホールに対しても「このつくりで大丈夫か」と心配する声が少なくない。既に走り出している計画を大きく変更するのは現実的ではないかもしれないが、連続立体交差を望む経済界と溝ができたまま建設―開業へと進む状況は、一大プロジェクトの姿として残念と言わなければならない。 あわせて読みたい 事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

  • 客足回復が鈍い福島市「夜の街」

    客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

     5月8日に新型コロナウイルスの感染法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられる。飲食業界は度重なる「自粛」要請で打撃を受けたが、業界はコロナ禍からの出口の気配を感じ、「客足は感染拡大前の7~8割に戻りつつある」と関係者。一方、2次会以降の客を相手にするスナックは閉店・移転が相次ぎ、テナントの半数が去ったビルもある。福島市では主な宴会は県職員頼みのため、郡山市に比べ客足の回復が鈍く、夜の街への波及は限定的だ。 公務員頼みで郡山・いわきの後塵 飲食店が並ぶ福島市街地  福島市は県庁所在地で国の出先機関も多い「公務員の街」だ。市内のある飲食店主Aは「県職員が宴会をしないと商売が成り立たない」と話す。民間企業は、取引先に県関係の占める割合が多いため、宴会の解禁も県職員に合わせているという。 「東邦銀行も福島信用金庫も宴会を大々的に開いて大丈夫か県庁の様子を伺っているそうです。民間なら気にせず飲みに行けるかというとそうでもなく、行員に対する『監視の目』も県職員に向けられるのと同じくらい厳しい。ある店では地元金融機関の幹部が店で飲んでいたのを客が見つけて本店に『通報』し、幹部たちが飲みに行けなくなったという話を聞きました」(店主A) 福島市の夜の街は、県職員をはじめとする公務員の宴会が頼りだ。福島、伊達、郡山、いわきの4市で飲食店向けの酒卸店を経営する㈱追分(福島市)の追分拓哉会長(76)は街の弱みを次のように指摘する。 「福島、郡山、いわきの売り上げを比較すると、福島の飲食店の回復が最も弱いことが見えてきた」 2019年度『福島県市町村民経済計算』によると、経済規模を表す市町村内総生産は県内で多い順に郡山市が1兆3635億円(県内計の構成比17・1%)、いわき市が1兆3577億円(同17・0%)、福島市が1兆1466億円(同14・4%)。経済規模が大きいほど飲食店に卸す酒の売り上げも多くなると考えると、3位の福島市が他2市より少なくなるのは自然だ。だが追分会長によると、同市は売上高が他2市より少ないだけでなく、回復も遅いという。 「3市の酒売上高は、2019年は郡山、いわき、福島の順でした。各市の今年2月の売り上げは、19年2月と比べると郡山90%、いわき83%、福島76%に回復しています。郡山はコロナ前の水準まで戻ったが、福島はまだ4分の3です。しかも、コロナ禍で売上高が最も減少したのは福島でした。私は福島が行政都市であり、かつ他2市と比べて若者の割合が少ないことが要因とみています。県職員(行政関係者)が夜の街に出ないと、飲食店は悲惨な状態になります」(追分会長) 飲食業の再生の動きが鈍いのは、度重なる感染拡大に息切れしたことも要因だ。 「福島では昨年10月に到来した第8波で閉めた店が多く、駅前の大規模店も撤退しました。3、4月の歓送迎会シーズンで持ち直した現状を見ると、もう少し続けていればと思いますが、それはあくまで結果論です。これ以上ない経営努力を続けていたところに電気代の値上げが直撃し、体力が尽きてしまった。水道光熱費だけで10~20万円と賃料と同じ額に達する店もありました」 そうした中でも、コロナ禍を乗り切った飲食店には「三つの共通点」があるという。 「一つ目は『飲む』から『食べる』へのシフトです。スナックやバーが減り、代わりに小料理屋、イタリアン、焼き鳥屋が増えました」 「二つ目が『大』から『小』への移向です。宴会がなくなりました。あったとしても仲間内の小規模なものです。売りだった広い客席は大規模店には仇となりました。健闘しているのは、区分けして小規模宴会を呼び込んだ店です」 最後は「老」から「若」への変化。 「老舗が減りましたね。後継者がいない高齢の経営者が、コロナを機に見切りを付けたからです」 一方、これをチャンスと見てコロナ前では店を出すことなど考えられなかった駅前の一等地に若手経営者が出店する動きがあるという。経営者たちが見据えるのは、福島駅東口の再開発だ。 「4月から再開発エリアに建つ古い建物の本格的な取り壊しが始まりました。3年間の工事で市外・県外から500~1000人の作業員が動員されます。福島市役所の新庁舎(仮称・市民センター)建設も拍車をかけるでしょう。市内に建設業のミニバブルが訪れる中、ホテルや飲食店の需要は高まるとみられるが、老舗の飲食店が減っているので受け皿は十分にない。そのタイミングでお客さんを満足させる店を出すことができれば、不動の地位を獲得できると思います」 追分のグループ会社である不動産業㈱マーケッティングセンター(福島市)では毎年、市内の飲食店を同社従業員が訪問して開店・閉店状況を記録し、「マップレポート」にまとめてきた。最新調査は2019年12月~20年10月に行った。同レポートによると、開店は41店、閉店は106店。飲食店街全体としては、感染拡大前の837店から65店減り、772店となった。減少率は7・7%で、1988年に調査を開始して以降最大の減少幅だった。 「特に閉店が多かったのはスナック・バーです。48店が閉店し、全閉店数の44%を占めました」 もっとも、スナック・バーは開店数も業種別で最も多い。同レポートによると、11カ月の間に22店が開店し、全開店数の54%を占めた。酒とカラオケを備えれば営業できるため参入が容易で、もともと入れ替わりが盛んな業種と言えるだろう。 25%減ったスナック  マーケッティングセンターほどの正確性は保証できないが、本誌は夜の飲食店数をコロナ前後で比較した。1月号では郡山市のスナック・バーの閉店数を電話帳から推計。忘年会シーズンの昨年12月にスナックのママに電話をして客の入り具合を聞き取った。 電話帳から消えたと言って必ずしも閉店を意味するわけではない。もともと固定電話を契約していない店もあるだろう。ただし「昔から営業していた店が移転を機に契約を更新しなかったり、経費削減のために解約したりするケースはある」と前出の飲食店主Aは話す。今まで続けていたことをやめるという点で、固定電話の契約解除は、店に何らかの変化があったことを示す。 コロナ前の2019年と感染拡大後の2021年の情報を載せた電話帳(NTT作成「タウンページ」)を比較したところ、福島市の掲載店舗数は次のように減少した。 スナック 194店→145店(新規掲載1店、消滅50店) 差し引き49店が減った。減少数をコロナ前の店舗数で割った減少率は25・2%。 バー・クラブ 42店→35店(新規掲載なし、消滅7店) 減少率は16・6%。 果たしてスナック、バー・クラブの減少率は他の業種と比べ高いのか低いのか。夜の街に関わる他の業種の増減を調べた。2021年時点で20店舗以上残っている業種を記す。電話帳に掲載されている業種は店側が複数申告できるため、重複があることを断っておく(カッコ内は減少率)。 飲食店 208店→178店(14・4%) 居酒屋 143店→118店(17・4%) 食堂 75店→69店(8・0%) ラーメン店 63店→60店(5・0%) うどん・そば店 63店→55店(12・6%)  レストラン(ファミレス除く) 50店→42店(16・0%)  すし店(回転ずし除く) 39店→38店(2・5%) 中華・中国料理店 33店→31店(6・0%) 焼肉・ホルモン料理店 29店→24店(17・2%) 焼鳥店 25店→23店(8・0%)  日本料理店 23店→22店(4・3%) 酒を提供する居酒屋の減少率は17・4%と高水準だが、スナックは前記の通り、それを上回る25・2%だ。マーケティングセンターの2020年調査では、スナック48店が閉店した。照らし合わせると、電話帳から消えたスナックには閉店した店が含まれていることが推測できる。 筆者は電話帳から消えたスナックを訪ね、営業状況や移転先を確認した。結果は一覧表にまとめた。深夜食堂に業種転換した店、コロナ前に広げた支店を「選択と集中」させて危機を乗り越えた店、賃料の低いビルに引っ越し再起を図る店など、形を変えて生き残っている店も少なくない。 電話帳から消えた福島市街地のスナック ○…営業確認、×…営業未確認、※…ビル以外の店舗 陣場町 第10佐勝ビルスナッククローバー〇SECOND彩スナック彩に集約ハリカ〇レイヴァン(LaVan)✕ペガサス30ビル花音✕スナッククレスト(CREST)✕スナックトモト✕プラスαkana✕ハーモニー✕ボルサリーノスナックARINOS✕ファンタジー〇ポート99ラーイ(Raai)✕第5寿ビルジョーカー✕アイランド〇※モア・グレース✕※ 置賜町 エース7ビル韓国スナックローズハウス✕CuteCute✕トリコロール✕フィリピーナ✕ジャガービルトイ・トイ・トイ(toi・toi・toi)✕マノン✕鈴✕ピア21ビルK・桂✕ラパン✕ミナモトビルシャルム✕都ビル仮面舞踏会✕清水第1ビルマドンナ✕第5清水ビルラウンジラグナ✕ 栄町 イーストハウスあづま会館志桜里✕スナック楓店名キッチンkaedeで「食」に業種転換花むら✕第2あづまソシアルビルショーパブパライソ✕せらみ✕ムーチャークーチャー〇ユートピアビルスナックみつわ✕わがまま天使✕※ 万世町 パセオビルカトレア✕萌木✕ 新町 クラフトビルぼんと✕ゆー(YOU)✕金源ビルザ・シャトル✕スナック星(ぴょる)✕※凛〇※ 大町 コロールビルのりちゃんあっちゃん(ai)×エスケープ(SK-P)×※  電話帳に載っていないスナックもそこそこある。ただ、書き入れ時の金曜夜9時でも営業している様子がなく、移転先をたどれない店が多かった。あるビルの閉ざされた一室は、かつてはフィリピン人女性がもてなすショーパブだったのだろう。「福島県知事の緊急事態宣言の要請により当店は暫くの間休業とさせていただきます」と書かれた紙がドアに張られ、扉の隙間には開封されていない郵便物が挟まっていた。 「やめたくない」  ビル入口にあるテナントを示す看板は点灯しているのに、どこの階にも店が見当たらない事態も何度も遭遇した。あるベテランママの話。 「看板を総取っ換えしなきゃならないから、余程のことがないとオーナーは交換しない。一つの階が丸ごと空いているビルもあるわ」 飲食店主Bも言う。 「存在しない店の看板は覆い隠せばいいが、オーナーは敢えてそうはしません。テナントもしてほしくないでしょう。人けがないビルと明かすことになるからです」 テナントの空きは、スナック業界の深刻さも表している。 「手狭ですが家賃が安い新参者向けのビルがあります。入口にある看板は20軒くらいついていて全部埋まっているように見えるが、各階に行くと数軒しか営業していない。新しく店を始める人がいないんでしょうね」(店主B) 閉店する際も「後腐れなく」とはいかない。前出のベテランママがため息をつく。 「せいせいした気持ちで店をやめる人なんて誰もいませんよ。出入りしているカラオケ業者から聞いた話です。カラオケ代を3カ月分滞納した店があり、取り立てに行った。払えない以上は、目ぼしい財産を処分し、返済に充てて店を閉めなければならない。そこのママは『やめたくない』と泣いたそうです。しかし、そのカラオケ業者も雇われの身なので淡々と請求するしかなかったそうです」 大抵は連帯保証人となっている配偶者や恋人、親きょうだいが返済するという。 2021、22年に起きた2度の大地震は、コロナにあえぐスナックにとって泣きっ面に蜂だった。酒瓶やグラスがたくさん割れた。あるビルでは、オーナーとテナントが補償でもめ、納得しない人は移転するか、これを機に廃業したという。テナントの半数近くに及んだ。 福島市内のビルの多くは30~40年前のバブル期に建てられた。初期から入居しているテナントは、家賃は契約時のままで、コロナで赤字になってもなかなか引き下げてもらえなかった。コロナ禍ではどこのビルも空室が増え、オーナーは家賃を下げて新規入居者を募集。余力のあるスナックはより良い条件のビルに移転したという。 ベテランママは引退を見据える年齢に差しかかっている。苦境でも店を続ける理由は何か。 「コロナが収束するまではやめたくない。閉店した店はどこもふっと消えて、周りは『コロナで閉めた』とウワサする。それぞれ事情があってやめたのに、時代に負けたみたいで嫌だ。私にとっては、誰もがマスクを外して気兼ねなく話せるようになったらコロナ収束ですね。最後はなじみのお客さんを迎え、惜しまれながら去りたい」 ベテランママの願いはかなうか。 あわせて読みたい コロナで3割減った郡山のスナック 〝コロナ閉店〟した郡山バー店主に聞く

  • 【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情

    【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情

     福島市のイオン福島店西側の車道で車を暴走させ、歩道に乗り上げて歩行者1人を死なせ、前方の車に乗っていた4人にけがをさせたとして自動車運転処罰法違反(過失致死傷)に問われている97歳の男に4月12日午後2時、福島地裁で判決が言い渡される。裁判では、男が5年前に妻を亡くし一人暮らしをしていたこと。自炊しないため外食が日課となり、その帰りに事故を起こしたことが明らかとなった。  被告の波汐国芳氏(福島市北沢又)は1925(大正14)年生まれ、いわき市出身。全国区の歌人として知られ、福島民友では事故前まで短歌の選者を務めていた。 波汐氏は事故直後に逮捕されたが、高齢ということもあり現在は釈放中で、老人ホームに入所している。波汐氏は杖をつき、背広姿で法廷に現れた。腰は曲がっている。入廷時に傍聴席と裁判官、検察官それぞれに向かって深く礼をした。頭は年齢の割に豊かな白髪で覆われていた。足つきはおぼつかないが、ゆっくりと証言台まで自らの足で歩いた。 波汐氏は民間企業に勤める傍ら、53歳ごろに運転免許を取得した。95歳の時に高齢者講習と認知症検査をパスし、1日に1回のペースで運転を続けていた。だが、近隣住民によると、車庫入れの際にはバックで何度も切り返していたという。 そもそも97歳の超高齢者が車を運転し、毎日どこに行く必要があったのか。自宅があるのは、車や歩行者が行き来する大型商業施設の周辺で日中から夕方は特に混み合う。にもかかわらず車で出かける理由は、波汐氏が2018年に妻を亡くし、一人暮らしとなったことが関係している。食事は買い置きのパンを食べるほかは「自分では作らなかった」という。 毎日午前10時ごろに起床していたため、1日2食で済ませた。そのうち1食は車を運転し、2㌔ほど離れたとんかつ店で食事をした。歩くには遠い。波汐氏は高齢で腰を痛めていたこともあり、その選択肢はなかった。自宅からこの店に車で向かうには、交通量の多い国道13号福島西道路とイオン福島店付近を通らなければならない。昨年11月19日夕方に歩行者を死なせた事故を起こした時も、その帰り道だった。 波汐氏には別に暮らす長女と長男がいる。首都圏に住む長女は毎月1回程度、様子を見に泊りがけで訪ねてきていた。他にケアマネージャーやヘルパーが自宅を訪問していた。 大事故の予兆は事故3カ月前の昨年8月にあった。車庫入れの際、自損事故を起こしたのだ。その時は普通自動車に乗っていた。破損個所は大きく、修理が必要だった。ディーラーに依頼すると「直すのと同じ値段で買い替えられる」と勧められ、軽自動車に乗り替えた。死亡事故を起こしたのはこの軽自動車だった。 普通自動車から軽自動車に乗り替えたところで根本的な解決にはならないと周囲も思ったようだ。波汐氏を定期的に診ている鍼灸師は、波汐氏の長女に「今、波汐氏はこの軽自動車に乗っている」とメールで報告していた。 波汐氏を担当するケアマネージャーは、軽自動車に傷がついているのを発見した。事故を起こす3日前の11月16日には、長女に「今は自損事故で済んでいるが、他人を巻き込む重大事故につながる恐れがある。運転をやめた方がいいと思います」とメールを送っていた。 長女自身も大事故を予見する機会があった。11月12~13日に波汐氏を訪ね、彼の運転する車に同乗した時のことだ。 「乗っていると違和感はありませんでしたが、車庫入れの際に少し違和感を覚えて、早く運転をやめさせた方がいいと思いました。車から降りて車庫入れを見ていたら、後ろの部分をこすっていました。父親に直接『そろそろやめた方がいい』と言い、実家を離れてからも毎日電話して運転をやめるよう言いました」(長女の法廷での証言) 長女はタクシー会社に契約を打診した。波汐氏がその都度配車を依頼し、その分の運賃を後日まとめて口座から引き落とす方法だ。だが、「個人とは契約していない」と断られたという。 大惨事はそれから1週間も経たないうちに起こった。 犠牲者の夫「事件は予見できた」 97歳の運転者が死亡事故を起こしたイオン福島店西側の道路  「『ママ、ママ』と9歳の娘が叫びながら倒れている妻に向かって走っていました。周りの大人が応急処置を施す中、娘はそれでも近づこうとします。遠ざけられた娘は衝撃で飛んだ妻の靴を拾い大事そうに抱えていました。警察に証拠として提出する必要があったのですが、夜になっても離しません。後で返してもらうからと説得してやっと渡してもらいました」 被害者参加制度を利用し、事故で亡くなった、当時42歳女性の夫が法廷で手記を読み上げた。時間は30分に及んだ。 事故から1カ月経って、夫は惨状を記録したドライブレコーダーをようやく見る決断ができた。妻の最期を見届けてあげたかった。何より、暴走車に引かれる直前まで妻の隣にいた娘が責任を感じ、悩んだ時に相談に乗ってあげられるようにしたい気持ちがあったという。 夫の怒りは波汐氏とその家族に向けられた。 「高齢者の運転免許返納は60~80代の議論だと私は思っていました。90歳を超えたら当然返納すべきではないでしょうか。被告の家族が同居して世話もできたし、介護サービスもあります。現に被告は釈放後に老人ホームで暮らしています。事故を起こすまでなぜ97歳の高齢者を1人にしておいたのですか。憤りを覚えます。今回のような事件が起きることは予見できたし、今まで起きなかったのはたまたまだったと思います」 波汐氏は事故原因を検察官に問われ、こう答えている。 「ブレーキと間違ってアクセルを踏んでしまった。的確にできなかった。……これは自分の運転の未熟です。……慌ててしまった」 波汐氏は耳が遠く、質問の趣旨も理解できていないようだった。「車がないと生活できないんです」「運転するのは近くの食堂に行く時だけです」。自分の発言がどう受け取られるか客観視する余裕はなかった。ちぐはぐな答えを繰り返すと、質問する側が「もういいです」と打ち切った。 今回の大事故は、波汐氏はもちろん家族や周囲の甘い考えが招いた。検察は波汐氏に禁錮3年6月を求めているが、どれだけ厳罰が下されても犠牲者が帰ってくることはない。高齢者の免許返納が進むこと、そして、運転しなくても暮らしていけるように公共・民間を問わず交通サービスを整えなければ新たな犠牲者を生むだけだ。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

  • 「道の駅ふくしま」が成功した理由

    「道の駅ふくしま」が成功した理由

     福島市大笹生に道の駅ふくしまがオープンして間もなく1年が経過する。この間、県内の道の駅ではトップクラスとなる約160万人が来場し、当初設定していた目標を大きく上回った。好調の要因を探る。 オープン1年で160万人来場 週末は多くの来場者でにぎわう  福島市西部を走る県道5号上名倉飯坂伊達線。土湯温泉や飯坂温泉、高湯温泉、磐梯吾妻スカイライン、あづま総合運動公園などに向かう際に使われる道路で、沿線には観光果樹園が多いことから「フルーツライン」と呼ばれている。 そのフルーツライン沿いにある同市大笹生地区に、昨年4月27日、市内2カ所目となる「道の駅ふくしま」がオープンした。  施設面積約2万7000平方㍍。駐車場322台(大型36台、小型276台、おもいやり5台、二輪車4台、大型特殊1台)。トイレ、農産物・物産販売コーナー、レストラン・フードコート、多目的広場、屋内子ども遊び場、ドッグラン、防災倉庫などを備える。道路管理者の県と、施設管理者の市が一体で整備に当たった。事業費約35億円。 3月中旬の週末、同施設に足を運ぶと、多くの来場者でにぎわっていた。駐車場を見ると、約6割が県内ナンバー、約4割が宮城、山形など近県ナンバー。 「年間の売り上げ約8億円、来場者数約133万人を目標に掲げていましたが、おかげさまで売り上げ10億円、来場者数160万人を達成しました(3月中旬現在)」 こう語るのは、指定管理者として同施設の運営を受託する「ファーマーズ・フォレスト」(栃木県宇都宮市)の吉田賢司支配人だ。 吉田賢司支配人  同社は2007年設立、資本金5000万円。代表取締役松本謙(ゆずる)氏。民間信用調査機関によると、22年3月期の売上高30億5600万円、当期純利益1554万円。 「道の駅うつのみや ろまんちっく村」(栃木県宇都宮市)、「道の駅おおぎみ やんばるの森ビジターセンター」(沖縄県大宜見村)、農水産業振興戦略拠点施設「うるマルシェ」(沖縄県うるま市)などの交流拠点を運営している。3月には2026年度開業予定の「(仮称)道の駅こうのす」(埼玉県鴻巣市)の管理運営候補者に選定された。 同社ホームページによると、このほか、道の駅内の自社農場などの経営、クラインガルテン・市民農園のレンタル、地域プロデュース・食農支援事業、地域商社事業、着地型旅行・ツーリズム事業、ブルワリー事業、企業経営診断・コンサルティング事業を手掛ける。 本誌昨年3月号では、施設概要や同社の会社概要を示したうえで、「かなりの〝やり手〟だという評判だが、それ以上の詳しいことは分からない」という県内道の駅の駅長のコメントを紹介。競争が激しく、赤字に悩む道の駅も多いとされる中、指定管理者に選定された同社の手腕に注目したい――と書いたが、見事に目標以上の実績を残した格好だ。 ちなみに2021年の「県観光客入込状況」によると、県内道の駅の入り込みベスト3は①道の駅伊達の郷りょうぜん(伊達市)131万人、②道の駅国見あつかしの郷(国見町)129万人、③道の駅あいづ湯川・会津坂下(湯川村)98万人。 新型コロナウイルスの感染拡大状況や統計期間が違うので、一概に比較できないが、間違いなく同施設は県内トップクラスの入り込みだ。 吉田支配人がその要因として挙げるのが、高規格幹線道路・東北中央自動車道大笹生インターチェンジ(IC)の近くという好立地だ。 2017年11月に東北中央道大笹生IC―米沢北IC間が開通。21年3月には相馬IC―桑折ジャンクション間(相馬福島道路)が全線開通し、浜通り、山形県から福島市にアクセスしやすくなった。 モモのシーズンに来場者増加  国・県・沿線10市町村の関係者で組織された「東北中央自動車道(相馬~米沢)利活用促進に関する懇談会」の資料によると、特に同施設開業後は福島大笹生IC―米沢八幡原IC間の1日当たり交通量が急増。平日は2021年6月8700台から22年6月9900台(12%増)、休日は21年6月1万0700台から22年6月1万3700台(30%増)に増えていた。 各温泉街などで、おすすめの観光スポットとして同施設を宿泊客に紹介し、積極的に誘導を図っている効果も大きいようだ。 「特にモモが出荷される夏季は来場者が増え、当初試算していた以上のお客様に支持していただきました。ただ、18時までの営業時間の間は最低限の品ぞろえをしておく必要があるので、今年は品切れを起こさないようにしなければならないと考えています」(吉田支配人) モモを求める来場者でにぎわうとなると、気になるのは近隣で営業する果樹園との関係だが、吉田支配人は「最盛期には、観光農園協会加入の果樹園の方に施設前の軒下スペースを無料でお貸しして出店してもらい、施設内外で販売しました。シーズン中の週末、実際にフルーツラインを何度か車で走ったが、にぎわっている果樹園も多かった。相乗効果が得られたと思います」と説明する。 ただ、福島市観光農園協会にコメントを求めたところ、「オープンして1年も経たないので影響を見ている状況」(高橋賢一会長)と慎重な姿勢を崩さなかった。おそらく2年目以降は、道の駅ばかりに客が集中する、もしくは道の駅に訪れる客が減ることを想定しているのだろう。そういう意味では、2年目の今夏が〝正念場〟と言えよう。 約500平方㍍の農産物・物産販売コーナーには果物、野菜、精肉、鮮魚、総菜、スイーツ、各種土産品、地酒などが並ぶ。売り場の構成は約4割が農産物で、約6割がそれ以外の商品。農産物に関しては、オープン前から地元農家を一軒ずつ訪ね出荷を依頼してきた経緯があり、現在の登録農家は約250人(野菜、果物、生花、加工品など)に上る。 特徴的なのは福島市産にこだわらず、県内産、県外産など幅広い農産物をそろえていることだ。 「地場のものしか扱わない超ローカル型の道の駅もありますが、福島県の県庁所在地なので、初めて来県した人が〝浜・中・会津〟を感じられるラインアップにしています」と吉田支配人は語る。 売り場を歩いていると「なんだ、よく見たら県外産のトマトも並んでいるじゃん」とツッコミを入れる家族連れの声が聞かれたが、その一方で「福島に来たら必ずここに寄って、県内メーカーのラーメン(生めん)を買って帰る」(東京から訪れた来場者)という人もおり、福島市の特産品にこだわらず買い物を楽しんでいる様子がうかがえた。 網羅的な品ぞろえの背景には、福島市産のものだけでは広い売り場が埋まらなかったという事情もあると思われるが、同施設ではその点を強みに変えた格好だ。 もっとも、仮に奥まった場所にある道の駅で同じ戦略を取ったら「どこでも買える商品ばかりで、ここまで来た意味がない」と評価されかねない。同施設ならではの戦略ということを理解しておく必要があろう。 吉田支配人によると、平日は新鮮な野菜や弁当・総菜を求める市内からの来場者、土日・休日は市外からの観光客が多い。道の駅は地元住民の日常使いが多い「平日タイプ」と、週末のまとめ買い・レジャー・観光などでの利用が多い「休日タイプ」に大別されるが、「うちはハイブリッド型の道の駅です」(同)。 オリジナルスイーツを開発 人気を集めるオリジナルスイーツ  そんな同施設の特色と言えるのはスイーツだ。専属の女性パティシエを地元から正社員として採用。春先に吾妻小富士に現れる雪形「雪うさぎ(種まきうさぎ)」をモチーフとしたソフトクリームや旬の果物を使ったパフェなどを販売しており、休日には行列ができる。 チーズムースの中にフルーツを入れ、求肥で包んだオリジナルスイーツ「雪うさぎ」はスイーツの中で一番の人気商品となった。その開発力には吉田支配人も舌を巻く。 同施設では70人近いスタッフが働いているが、本社から来ているのは吉田支配人を含む2、3人で、残りは100%地元雇用。県外に本社を置く同社が地元農家などの信頼を得て、幅広い品ぞろえを実現している背景には、情報収集・コミュニケーションを担う地元スタッフの存在があるのだ。 もっと言えば、それらスタッフの9割は女性で、売り場は手作りの飾り付けやポップな手書きイラストで彩られており、これも同施設の魅力につながっている。売り場に展示されたアニメキャラや雪うさぎのイラストの写真が、来場者によりSNSに投稿され、話題を集めた。 宮城県から友達とドライブに来た若い女性は「ホームページやSNSでチェックしたら、かわいい雰囲気の施設だと思ったのでドライブの目的地に選びました。お菓子を大量に買ってしまいました」と笑った。女性の視点での売り場作りが若い世代に届いていると言える。 同社直営のレストラン「あづまキッチン」と3店舗のテナントによるフードコートも人気を集める。 「あづまキッチン」では福島県産牛ハンバーグや伊達鶏わっぱ飯、地場野菜ピザなど、地元産食材を用いたメニューを提供する。窓際の席からは吾妻連峰が一望できるほか、個人用の電源付きコワーキングスペースが複数設置されているなど、多様な使い方に対応している。 フードコートでは「海鮮丼・寿司〇(まる)」、「麺処ひろ田製粉所」、「大笹生カリィ」の3店舗が営業。地元産食材を使ったメニューや円盤餃子などのグルメも提供しており、週末には家族連れなどで満席になる。  無料で利用できる屋内こども遊び場「ももRabiキッズパーク」の影響も大きい。屋内砂場や木で作られた大型遊具が設置されており、1日3回の整理券配布時間前には行列ができる。同じく施設内に設置されているドッグランも想定していた以上に利用者が訪れているとか。 これら施設の利用を目当てに足を運んだ人が帰りに道の駅を利用したこともあり、年間来場者数が伸び続けて、目標を上回る実績を残すことができたのだろう。 さて、東北中央道沿線には「道の駅伊達の郷りょうぜん」(伊達市、霊山IC付近)、「道の駅米沢」(山形県米沢市、米沢中央IC付近)が先行オープンしている。起点である相馬市から霊山IC(道の駅りょうぜん)まで約33㌔、そこから大笹生IC(道の駅ふくしま)まで約17㌔、さらにそこから米沢中央IC(道の駅米沢)まで約31㌔。車で数十分の距離に似た施設が並ぶわけだが、競合することはないのか。 吉田支配人は、「道の駅ごとに特色が異なるためか、お客様は各施設を回遊しているように感じます。そのことを踏まえ、道の駅りょうぜん、道の駅米沢とは常に情報交換しており、『連携して何か合同企画を展開しよう』と話しています」と語る。 本誌昨年3月号記事では、道の駅米沢(米沢市観光課)、道の駅りょうぜんとも「相乗効果を目指したい」と話していた。もちろん競合している面もあるだろうが、スタンプラリーなど合同企画を展開することで、より多くの来場者が見込めるのではないか。 課題は目玉商品開発と混雑解消 ももRabiキッズパーク  同施設の担当部署である福島市観光交流推進室の担当者は「苦労した面もありましたが、概ね好調のまま1年を終えることができました。1年目は物珍しさで訪れた方もいるでしょうから、この売り上げ・入り込みを落とさないように運営していきたい」と話す。新規に160万人の入り込みを創出し、登録農家・加工業者の収入増につながったと考えれば、大成功だったと言えよう。 来場者の中には「市内在住でドライブがてら訪れた。今回が2回目」という中年夫婦もいた。市内に住んでいるが、オープン直後の混雑を避け、最近になって初めて足を運んだという人は少なくなさそう。さらなる〝伸びしろ〟も期待できる。 今後の課題は、ここでしか買えない新商品や食べられない名物メニューなどを生み出せるか、という点だろう。常にブラッシュアップしていくことで、訪れる楽しさが増し、リピーターが増えていく。 道の駅りょうぜんでは焼きたてパンを販売しており、テナント店で販売されるもち、うどん、ジェラードなども人気だ。道の駅米沢では米沢牛、米沢ラーメン、蕎麦など〝売り〟が明確。道の駅ふくしまで、それに匹敵するものを誕生させられるか。 繁忙期の駐車場確保、混雑解消も課題だ。臨時駐車場として活用されていた周辺の土地は工業団地の分譲地で、すでに進出企業が内定している。当面は利用可能だが、正式売却後に対応できるのか。オープン直後の混雑がいつまでも続くとは考えにくいが、再訪のカギを握るだけに、対応策を考えておく必要があろう。 吉田支配人は東京出身。単身赴任で福島に来ている。県内道の駅の駅長で構成される任意組織「ふくしま道の駅交流会」にも加入し、研究・交流を重ねている。2年目以降も好調を維持できるか、その運営手腕に引き続き注目が集まる。 あわせて読みたい 北塩原村【道の駅裏磐梯】オリジナルプリンが好評

  • 飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」仙台高専5年生の高野結奈さん

    飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」

     福島市の名湯・飯坂温泉をまちづくりの観点から研究した建築家の卵がいる。仙台高専5年生の高野結奈さん(20)=伊達市梁川町=は「魅力があるのに生かし切れていない」というもどかしさから同温泉を卒業研究の対象に選んだ。アンケート調査から見えてきたのは、訪問者の行き先が固定している、すなわち回遊性に乏しいという課題だった。  高野さんが飯坂温泉に関心を寄せたきっかけは、高専4年生だった2021年9月に中学時代の友人と日帰り旅行で訪れた際、閑散とした温泉街にショックを受けたからだ。 「摺上川沿いに廃業した旅館・ホテルが並んでいるのが目につきました。ネットで『飯坂温泉』と検索すると『怖い』『廃墟』という候補ワードが出てきます。昔からの建物や温泉がたくさんあって、私たちは十分散策を楽しめたのに、『怖い』という印象を持たれてしまうのはもったいないと思ったんです」(高野さん) 高野さんは宮城県名取市にある仙台高専総合科学建築デザインコースで学んだ。都市計画に興味があり、建築士を目指している。 旧堀切邸で研究を振り返る高野さん。「まちづくりに生かしてほしい」と話す。  学んできたスキルを生かして、飯坂温泉のまちづくりに貢献できないかと卒業研究の対象に選んだ。文献を読む中で、温泉街を活性化させるには旅館・ホテルで朝夕食、土産販売、娯楽までを用意する従来の「囲い込み」から脱却し、「街の回遊性」をいかに高めるかが重要になっていることが分かった。 飯坂温泉を訪れる人はどのようなスポットに魅力を感じて散策しているのだろうか。回遊性を数値に表そうと、高野さんは温泉街の5カ所にアンケート協力を求めるチラシを置き、2022年8月から10月までの期間、ネット上の投稿フォームに答えてもらった。有効回答数は29件。結果は図の通り。円が大きいほど訪問者が多い場所だ。 出典:高野結奈さんの卒業研究より「図31 来訪者が集中しているエリア」  豪農・豪商の旧家旧堀切邸と共同浴場波来湯の訪問者が多く、固定化している。つまり、この2カ所が回遊性のカギになっているということだ。一方、図の南西部は住宅地で観光スポットに乏しいことから、人の回遊は見られなかった。全4カ所ある足湯は男性より女性、高齢者より若者が利用することも分かった。 飯坂温泉の現状がデータで露わになった意義は大きい。 高野さんは飯坂温泉ならではの魅力をさらに見つけようと、別の温泉地に関する論文をあさった。小説家志賀直哉の『城の崎にて』で知られる城崎温泉(兵庫県豊岡市)を筆頭に秋保温泉(宮城県仙台市)、鳴子温泉(同大崎市)、野沢温泉(長野県野沢温泉村)の文献を読み込んだ。 比較する中で気づいた飯坂温泉の魅力が次の3点だ。 ①泉温が高く、湯量が豊富。源泉かけ流しの浴場が多い。 ②低価格で入れる共同浴場が多く、九つもある。 ③交通の便が良く、鉄道(福島交通飯坂線)が通っている。車でもJR福島駅から30分以内で着く。 「この3点は城崎温泉と共通します。同温泉は外国人観光客を呼び寄せて成功した事例に挙げられています。多数の源泉かけ流しと共同浴場という温泉街の基本が備わっています。電車で来られることで風情も加わり、鉄道マニアも引き付けます。これらは新しい温泉街では真似できない優位な点と言えます」(同) 魅力の一方で、高野さんが「飯坂温泉に足りないもの」として挙げるのが体験施設だ。 「例えば野沢温泉では、湧き出る温泉で野沢菜を湯がいたり、卵をゆでたりする体験ができます。材料一式も売っていて、誰でも手軽にできます。飯坂温泉も温泉玉子『ラジウム玉子』が名物ですが、現状はお土産として買うことはできても、その場で作ることはできない。買うだけでなく作れる体験施設があったら観光客に喜ばれ、同温泉の魅力向上にもつながるのではないか」(同) 魅力向上という意味では、川沿いの景観保持も欠かせないが、冒頭に述べた通り、飯坂温泉のネット上の評価は「怖い」というイメージが先行している。 「元気のある温泉街の共通点は川沿いの景色がきれいなことに気づきました。整備が大変なのは分かりますが、雑草だらけで手の加わっていない岸辺は温泉街全体の魅力を損ね、悪いイメージのもとになっていると思います」(同) 高野さんは2月、飯坂温泉街の都市計画を考えジオラマ(模型)にする卒業設計を提出した。ジオラマにはラジウム玉子作りを体験できる観光施設もある。 高野さんは3月に仙台高専を卒業し、アパートの設計・施工や経営を行う大手企業の設計部で働くことが決まっている。卒業研究で縁ができた飯坂温泉とは今後も関わりを持てればいいと思っている。 「新しい物を一から作るよりも、今ある物の良さを生かすリノベーションに興味があります。温泉街にあるアパートを改装し、湯治客向けの宿泊施設にするなどの動きが広まっていますが、そのような仕事で飯坂温泉に関わることができたらうれしいです」(同) 高野さんの研究はこれで一区切りだが、今後大切になるのは、若者が調べ上げたデータを温泉街の活性化にどう生かすかだ。あとは地元住民と観光業界、飯坂温泉観光会館「パルセいいざか」や共同浴場などの管理運営に当たる第三セクター・福島市観光開発㈱の取り組み次第だ。

  • 【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪(男性に性交強いた富岡町男性職員)

    【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪

     公務員の性犯罪が県内で相次いでいる。町職員、中学教師、警察官、自衛官と職種は多様。教師と警官に至っては立場を利用した犯行だ。「お堅い公務員だから間違ったことはしない」という性善説は捨て、住民が監視を続ける必要がある。 男性に性交強いた富岡町男性職員【町の性的少数者支援策にも影響か】  1月24日、準強制性交などに問われている元富岡町職員北原玄季被告(22)=いわき市・本籍大熊町=の初公判が地裁郡山支部で開かれた。郡山市や相双地区で、睡眠作用がある薬を知人男性にだまして飲ませ、性交に及んだとして、同日時点で二つの事件で罪に問われている。被害者は薬の作用で記憶を失っていた。北原被告は他にも同様の事件を起こしており、追起訴される予定。次回は2月20日午後2時半から。 北原被告は高校卒業後の2019年4月に入庁。税務課課税係を経て、退職時は総務課財政係の主事を務めていた。20年ごろから不眠症治療薬を処方され、一連の犯行に使用した。 昨年5月には、市販ドリンクに睡眠薬を混ぜた物を相双地区の路上で知人男性に勧め犯行に及んだ。同9月の郡山市の犯行では、「酔い止め」と称し、酒と一緒に別の知人男性に飲ませていた。 懸念されるのは、富岡町が県内で初めて導入しようとしている、性的少数者のカップルの関係を公的に証明する「パートナーシップ制度」への影響だ。多様性を認める社会に合致し、移住にもつながる可能性のある取り組みだが、いかんせんタイミングが悪かった。町も影響がないことを祈っている様子。 優先すべきは厳罰を求めている被害者の感情だ。薬を盛られ、知らない間に性暴力を受けるのは恐怖でしかない。罪が確定してからになるだろうが、山本育男町長は「性別に関係なく性暴力は許さない」というメッセージを出す必要がある。 男子の下半身触った石川中男性講師【保護者が恐れる動画拡散の可能性】  石川中学校の音楽講師・西舘成矩被告(40)は、男子生徒42人の下半身を触ったとして昨年11月に懲戒免職。その後、他の罪も判明し、強制わいせつや児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)で逮捕・起訴された。 県教委の聞き取りに「女子に対してやってはいけないという認識はあったが、男子にはなかった」と話していたという(昨年11月26日付福島民友)。 事情通が内幕を語る。 「あいつは地元の寺の息子だよ。生徒には人気があったらしいな。被害に遭った子どもが友達に『触られた』と話したらしい。そしたらその友達がたまげちゃって、別の先生に話して公になった」 当人たちは「おふざけ」の延長と捉えていたとのこと。ただ、10代前半の男子は、性に興味津々でも正しい知識は十分身に着いていないだろう。監督すべき教師としてあるまじき行為だ。 西舘被告は一部行為の動画撮影に及んでいた。それらはネットを介し世界中で売買されている可能性もある。子どもの将来と保護者の不安を考えれば「トンデモ教師が起こしたワイセツ事件」と矮小化するのは早計だ。注目度の高い初公判は2月14日午後1時半から地裁郡山支部で開かれる予定。 うやむやにされる「警察官の犯罪」【巡査部長が原発被災地で下着物色】  浜通りの被災地をパトロールする部署の男性巡査部長(38)が、大熊町、富岡町の空き家に侵入し女性用の下着を盗んでいた。配属後間もない昨年4月下旬から犯行を50~60回繰り返し、自宅からはスカートやワンピースなど約1000点が見つかった(昨年12月8日付福島民友)。1人の巡回が多く、行動を不審に思った同僚が上司に報告し、発覚したという。県警は逮捕せず、書類のみ地検に送った。巡査部長は懲戒免職になっている。  県警は犯人の実名を公表していないが、《児嶋洋平本部長は、「任意捜査の内容はこれまでも(実名は)言ってきていない」などと説明した》(同12月21日付朝日新聞)。身内に甘い。  通常は押収物を武道場に並べるセレモニーがあるが、今回はないようだ。昨年6月に郡山市の会社員の男が下着泥棒で逮捕された時は、1000点以上の押収物を陳列した。容疑は同じだが、立場を利用した犯行という点でより悪質なのに、対応に一貫性がない。  初犯であり、社会的制裁を受けているとして不起訴処分(起訴猶予)になる可能性が高いが、物色された被災者の怒りは収まらないだろう。 判然としない強制わいせつ自衛官【裁判に揺れる福島・郡山両駐屯地】 五ノ井さんに集団で強制わいせつした男性自衛官たちが勤務していた陸自郡山駐屯地  昨年12月5日、陸上自衛隊福島駐屯地の吾妻修平・3等陸曹(27)=福島市=が強制わいせつ容疑で逮捕された(同6日付福島民報)。5月25日夜、市内の屋外駐車場で面識のない20代女性の体を触るなどわいせつな行為をしたという。事件の日、吾妻3等陸曹は午後から非番だった。2月7日午前11時から福島地裁で初公判が予定されている。 県内の陸自駐屯地をめぐっては、郡山駐屯地で男性自衛官たちからわいせつな行為を受けた元自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県出身=が国と加害者を相手取り民事訴訟を起こす準備を進めている。刑事では強制わいせつ事件として、検察が再捜査しているが、嫌疑不十分で不起訴になる可能性もある。五ノ井さんは最悪の事態を考え提訴を検討したということだろう。 加害者が県内出身者かどうかが駐屯地を受け入れている郡山市民の関心事だが、明らかになる日は近い。 あわせて読みたい セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】 【開店前の飲食店に並ぶ福島市職員】本誌取材で分かったサボりの実態 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

  • 事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設

    事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設

     JR福島駅前で進む市街地再開発事業。事業主体は地権者らでつくる再開発組合だが、福島市は同所に建設される複合棟に入る「福島駅前交流・集客拠点施設」を公共施設として買い取ることになっている。しかし、事業費が昨年5月時点で当初計画より増え、今後さらに増えそうな見通しのため、市の財政に深刻な影響を与える懸念が浮上している。 大型事業連発で危機的な福島市財政  福島駅東口地区第一種市街地再開発事業は駅前通りの南側1・4㌶に複合棟(12階建て)、駐車場棟(7階建て)、住宅棟(13階建て)を建設する計画で、一帯では現在、既存建物の解体工事が行われている。 事業主体は地権者らでつくる福島駅東口地区市街地再開発組合(加藤眞司理事長)だが、福島市も同事業に二つの面から関わっている。一つは巨額の補助金支出、もう一つは複合棟に入る「福島駅前交流・集客拠点施設」(以下、拠点施設と略)を公共施設として同組合から買い取ることだ。 拠点施設は複合棟の3・4階に整備される。メーンは4階に設けられる1500の客席と広い舞台を備えた大ホールだが、客席を収納することで展示ホールとして使えたり、800席のホールと中規模の展示ホールを併用することもできる。3階には多目的スタジオや練習スタジオ、会議室が設けられる。 同事業に市がどの程度関わっているか、まずは補助金から見ていく。 同組合設立時の2021年7月に発表された事業計画では、事業費473億円、補助金218億円(国2分の1、県と市2分の1)となっていた。単純計算で市の負担は54億5000万円となる。 ところが、昨年5月に市議会全員協議会で配られた資料には、事業費が19億円増の492億円、補助金が26億円増の244億円(同)と明記されていた。これにより、市の負担も6億5000万円増の61億円になる見通しとなった。 理由は、延べ床面積が当初計画より90平方㍍増えて7万2540平方㍍になったことと、建設資材の高騰によるものだった。 これだけでも市にとっては重い負担だが、さらに大きな負担が待ち構えている。それが、二つ目の関わりである保留床の取得だ。 市は拠点施設を「公共施設=保留床」として同組合から買い取るが、当初計画では「150億円+α」となっていた。しかし前述・市議会全員協議会で配られた資料には190億円かかると明記されていた。このほか備品購入費も負担する必要があるが、その金額は「開館前に決定」とされているため、市は総額「190億円+α」の保留床取得費を支出しなければならないのだ。 前述の補助金と合わせると市の負担は「251億円+α」となるが、問題はこれが最終確定ではなく、さらに増える可能性があることだ。 市議会の昨年12月定例会で、斎藤正臣議員(2期)が次のような一般質問を行っている。   ×  ×  ×  × 斎藤 原料や資材の高騰が事業計画に与える影響は。 都市政策部長 影響は少なからずあるが、具体的な影響は福島駅東口地区市街地再開発組合で精査中だ。 斎藤 5月の全員協議会では事業費492億円、補助金244億円と示されたが、ここへの影響は。 都市政策部長 事業費への影響は少なからずあるが、具体的な影響は同組合で精査しており、市はその結果をもとに補助金への影響を精査する予定だ。 斎藤 保留床取得費も昨年5月の全員協議会で当初計画より上がっていたが、ここへの影響は。 商工観光部長 保留床取得費への影響も避けられないと考えている。具体的な影響は同組合で精査中だ。 斎藤 保留床取得費は令和5年度から予算計上し、今後年割で払っていくと思われるが、年度末まで残された日時が限られる中、取得費が確定しないと新年度予算に計上できないのではないか。 商工観光部長 現時点で保留床取得費が明らかになる時期は申し上げられないが、新年度予算への計上に向けて協議を進めており、タイミングを見て議会にもお示しできると考えている。   ×  ×  ×  × 詳細は同組合の精査後に判明するとしながら、市は補助金と保留床取得費がさらに増える可能性があることを認めたのだ。 ロシアによるウクライナ侵攻と円安で原材料費やエネルギー価格が高騰。それに伴い、建設業界でも資材価格の上昇が続いている。国土交通省や一般財団法人建設物価調査会が発表している資料などを見ると、2020年第4四半期を100とした場合、22年第4四半期は建築用資材価格で126・3、土木用資材価格で118・0とわずか2年で1・2倍前後まで上昇している。 とはいえ、こうした状況は他地域で行われている大型事業にも当てはまるが、福島市の場合は「別の懸念材料」も存在する。 3年後には基金残高ゼロ  市が昨年9月に発表した中期財政収支の見通し(2023~27年度)によると、市債残高は毎年のように増え続け、27年度は1377億円と18年度の1・6倍に膨らむと試算されている(別表参照)  ある市職員OBによると「瀬戸孝則市長(2001~13年)は借金を減らすことを意識し、任期中の市債残高は1000億円を切っていた。そのころと比べると、市債残高は急増している印象を受ける」というから、短期間のうちに財政が悪化していることが分かる。 事実、中期財政収支の見通しの中で、市は次のような危機を予測している。 ▽拠点施設整備をはじめとする大型事業の本格化などにより投資的経費の額が高水準で推移し、その財源に市債を活用することから、公債費および市債残高の増加が続く。 ▽各年度に20~50億円余の財源不足が見込まれ、財政調整基金と減債基金で補う必要があるが、2026年度には両基金の残高がなくなり財源不足を埋められず、必要な予算が編成できなくなる見通し。 ▽市債発行に当たっては地方交付税措置のある有利な起債の活用に努めているが、それでもなお実質公債費比率は2027年度には5・5%まで上昇し(18年度は1・1%)、公債費が財政運営を圧迫することが予測される。 ▽試算の結果、2026年度以降の財源を確保できない見通し。公設地方卸売市場や市立図書館、学習センターの再整備など、構想を開始していても実施時期や概算事業費、一般会計への影響が未定で今回の試算に組み込まれていない大型事業もあるため、今後の財政運営は試算以上に厳しい状況に直面する可能性がある。 「基金残高がなくなる」「必要な予算が編成できない」「財源を確保できない」等々、衝撃的な言葉が並んでいることに驚かされるが、ここまで市の財政がひっ迫している要因は大型事業が目白押しになっていることが挙げられる。 市役所本庁舎の隣では2024年度中の完成を目指し、事業費70億円で(仮称)市民センターの建設計画が進められている。このほか新学校給食センター、あぶくまクリーンセンター焼却工場、消防本部などの整備・再編が予定されるが、これ以外にも公設地方卸売市場や市立図書館など建て替えが必要な施設は少なくない。そうした中、市最大の事業に位置付けられるのが拠点施設の買い取りなのだ。 「2011年1月に開庁した本庁舎は事業費89億円だが、これが市にとって過去最大のハコモノ事業だった。しかし、拠点施設は本庁舎を大きく上回る190億円+αで、資材価格や人件費によってはさらに増えるというから、市の財政を心配する声が出てくるのは当然です」(前出・市職員OB) 市職員OBは今後の懸念材料として①事業費全体が上がると保留床取得費だけでなく、例えば住宅棟(マンション)の価格も上がり、投機目的の購入が増えるのではないか。そうなると、せっかく整備した住宅棟に市民が入居できず、空き家だらけになる恐れもある。②これ以上の事業費増加を防ぐために計画を見直せば、拠点施設が期待された機能を発揮できず、駅前に陳腐な施設が横たわることになる。③拠点施設は東日本大震災で被災した公会堂の後継施設となるが、さらに保留床取得費が増えると「現在地で建て替えた方が安く済んだのではないか」という意見が出かねない、④駅前ばかりに投資が集中すると、行かない・使わない市民から反発の声が出てくる――等々を挙げる。 「市は時に、借金をしてでもやらなければならない事業があるが、その前提となるのは納税者である市民の理解が得られるかどうかだ。自分が行かない・使わない施設に巨額の税金を投じることに納得する市民はいない。市には、大勢の市民が行きたくなる・使いたくなるような施設の整備が求められる」(同) 計画が既に動き出している以上、大幅な見直しは難しいが、拠点施設を多くの市民に利用してもらえるような工夫や仕掛けはまだまだ検討の余地があるということだろう。 投資に見合う施設になるか  市が2020年3月に発表した計画によると、拠点施設の年間の目標稼働率は大ホールが80%、展示ホールが60%、目標利用者数は32万人を掲げている。一方、年間の管理運営費は4億円。素人目にも目標達成のハードルは高く、管理運営費も高額な印象を受ける。 「管理運営はPFI方式で民間に任せるようだが、稼働率や利用者数を上げることを意識し、多くのイベントや会議を誘致した結果、市民が使いづらくなっては意味がない。拠点施設は公会堂の後継施設ということを踏まえると、市民が使いたい時に使える方策も必要です」(同) 市コンベンション施設整備課に取材を申し込むと 「昨年5月の全員協議会で示した資料が最新の計画で、そこに書かれている以上のことは話せない。補助金や保留床取得費がどうなるかは、同組合の精査後に見極めたい」 とのことだった。昨年12月定例会では「福島駅前交流・集客拠点施設の公共施設等運営権に係る実施方針に関する条例」が可決され、今後、施設運営に関する方針が決まる。 251億円+αの投資に見合う施設になるのかどうか。事業の本格化に合わせ、市民の見る目も厳しさを増していくと思われる。 福島市のホームページ あわせて読みたい 【福島市】木幡浩市長インタビュー 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

  • 【福島市】木幡浩市長インタビュー

    【福島市】木幡浩市長インタビュー

     こはた・ひろし 1960年生まれ。東大経済学部卒。自治省(現総務省)に入省し岡山県副知事、消防大学校長、復興庁福島復興局長などを歴任。現在市長2期目。  ――2022年度の除雪関連の予算を過去最大の8303万円に拡大しました。1月の大寒波の影響をお聞きします。 「昨季の大雪では、除雪に対し市民の皆様から厳しいご意見をいただきましたが、今季は教訓を生かした対応ができたと思います。必要な予算の確保はもちろん、除雪を体系的に行うためのマニュアルを作りました。市民の皆様にもメールで降雪・凍結情報を即時に知らせています。 隅々まで除雪するには市民の皆様の協力が必要です。小型除雪機の貸し出しはこれまでも行っていましたが、今季は台数を増やし、周知を図りました。その結果、貸出実績は以前に比べるとかなり増えました。 岡部など東部地区の関係者とは、除雪アダプト制度という決めた範囲を責任を持って除雪する協定を締結しました。ありがたいことに丁寧な作業のおかげで生活道路の除雪体制は改善が図れたと思います」 ――政府は5月8日から新型コロナウイルス感染症の位置付けを5類に引き下げると発表しました。3月13日からはマスクの着用が緩和されます。「出口」が見えてきた中で市の経済や観光振興についての施策をお聞きします。 「『出口』に至るためには何よりも感染防止を徹底していくことが必須です。世代別で死者数が最も多い高齢者の感染は何としても防がなければなりません。高齢者と面会する場合のマスク着用などは、これまでと変わらず続けなくてはならないと考えています。 経済活性化に関して言えば、心強いのは『道の駅ふくしま』という地域活性化の核ができたことです。年間の目標来場者数は133万人でしたが、オープンから約9カ月で150万人に達し、売り上げも11億円を超えました。冬季の来場者が減る傾向にあるので、引き続きイベントやツアーなどを仕掛けていきますが、今春には『周遊スポット魅力アップ支援事業』を活用したスポットが続々オープンします。例えば、温泉旅館であれば魅力ある露天風呂を、観光農園であればインスタスポットを作り、点ではなく面で福島市を巡る楽しみを創出する仕組みを整え、それを物販にもつなげていきます。   福島市は新商品が生まれる傾向が弱い印象があるので、道の駅をベースに事業者同士の連携を深めて商品を作り出し、併せて発信もするというアンテナショップの役目をより強めていきます。  ふるさと納税の返礼品はその一環であり、私としては福島市のPRにとどまらず、マーケティングという地域経済活性化に即効性のあるものとして考えています」  ――福島駅東口で行われている市街地再開発事業について、当初計画より事業費や市が負担する補助金が増え、今後の精査によってはさらに増える可能性が指摘されています。 「資材が高騰しており、事業費増は避けられません。ただ精査をすることで、増えるだけではなく減らせる部分も見つかります。事業費圧縮に努めることを肝に銘じて精査を続けています。 国などからの補助金は通常であれば定率なので、資材が高騰しても増えるわけではありません。市としてはその状況を考慮し、さらに補助金を要請していきます。ただ国も、再開発事業が止まれば都市としての魅力が低下すると強く懸念しているので、負担軽減に向けた制度を作っている途中です。 また、完成後の運営を効率的に行うことも非常に大事です。今のうちから運営母体を決めて、その上で大規模・国際的な会議の誘致活動をしていきます。かかる経費はできるだけ収益で賄っていける基盤を作りたいと思っています」  ――市が昨年9月に発表した中期財政収支の見通しも非常に厳しい状況です。市債残高は膨らみ、2026年度には財政調整基金と減債基金の残高がなくなり、財源不足を埋められず必要な予算が立てられなくなると試算されています。 「財政は厳しいですが、やるべき事業はやっておかないと、後々の負担は逆に増えてしまうと考えます。いま手を打たなかったことで、都市の魅力が下がり、人口減少がますます進んでしまうことも危惧されます。そうなれば活力が失われ、街としてもっと苦しい状態に追い込まれてしまう。必要な事業を先送りすることなく実施していくことが大事だし、私はその精神でこれまでも取り組んできました。 人も富も集中する東京は民間が都市の魅力向上を果たしてくれる面が強い。しかし地方は、行政が主導的な役割を果たしていかないと都市としての存在感が低下していきます。私はそういう意識で、これからも市政運営に努めていきたいと思います。そのためにも行財政改革や事業の取捨選択、デジタル化などを進めていきます。 一方、『稼ぐ』という点では福島市が開発した全国的にも珍しい『議会答弁検討システム』を売り出していきます。本来は民間が稼げるようにするのが一番なのですが、行政自らが『稼ぐ』ことを意識し、財政の持続可能性を達成したいです」 ――老朽化する消防本部、市立図書館など、市内には建て替えが必要な公共施設が多数あります。どのように対応していきますか。 「すべての施設を建て替えるのは財政状況を考えると困難です。再編統合や規模縮小など多少痛みを伴うこともあるかもしれません。 とりわけ消防本部は災害対策の要ですから、耐震面に大きな問題がある状況は1日でも早く解消しなければなりません。 これから本庁舎西側で市民センターの建設が本格化します。同センターには市民会館や中央学習センターを再編統合した機能が備わります。一方、消防本部は市民会館の跡地に建設する計画です。市立図書館も老朽化が著しいですが、新たな建設場所などは決まっていません。財政状況にもよりますが、まずは消防本部の建て替えを優先し、その後、市立図書館の建設に着手できるよう検討を進めたいと思います」 ――念願だった古関裕而さんの野球殿堂入りが実現しました。 「祝賀ムードを維持しながら古関裕而記念館での発信に努めていきます。野球殿堂入りの証しとなるレリーフを展示し、多くの方に見に来てもらえるようにしたいと思います。 野球の試合を県営あづま球場で開き、古関さん作曲の歌で応援合戦をするのも一つのアイデアだと思います。今回の野球殿堂入りを機に、福島市を野球の聖地の一つにできないかと密かに考えています。 古関さんの曲は親しみがあって心地よい、古びないメロディーです。世代を超えて古関さんへの愛着を継承できる仕掛けを街なかに作っていきたいと思います」 福島市のホームページ 掲載号:政経東北【2023年3月号】  

  • 【開店前の飲食店に並ぶ福島市職員】本誌取材で分かったサボりの実態

    【開店前の飲食店に並ぶ福島市職員】本誌取材で分かったサボりの実態

     人気ラーメン店の〝開店前行列〟に福島市職員と思しき集団が並んでいた――。こんな匿名メールが本誌編集部に寄せられた。市に確認したところ、メール内容は事実であり、職員らは所定の手続きを取らず休憩時間を取っていたことが分かった。  メールは昨年11月18日に送信されたもの。内容は以下の通り(一部読みづらい個所をリライトしている)。  《今日10時半過ぎに福島市岡部の醤油亭というラーメン屋さんに行ったら、福島市の職員が8〜10人くらい並んでました。この店は人気店で、開店11時前に並ばないとスープがなくなるので、私は有給を取って平日の今日10時半過ぎに行きました。私の前方に並んでいた夫婦の旦那さんは、「なんだって、公務員はそんなに暇なのか?」と呆れていました。駐車場を見たら白いライトバンが2台、ナンバーは福島〇〇〇〇(メールでは番号が書かれていたがここでは伏せる)とありました。添付は職員の写真と車のナンバーの写真です》  添付されていた 〝証拠写真〟には、腕に「福島市」と書かれた作業服を着た男性数人が並ぶ姿と、車のナンバーが収められていた。  地方公務員法第30条では「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」と定めている。もし仕事をサボって集団で並んでいたとすれば違法行為ということになる。  一方で、公務員が昼の休憩時間に作業服姿で外食すること自体は問題ない。「早朝から仕事して昼休みを早めに取った」、「昼から仕事なので、その前に食事休憩を取った」というケースも考えられる。  ネットで検索したところ、ラーメン店の正式名称は「ラーメン工房醤油亭」。セブンイレブン岡部店などがある三叉路の近くに立地する。ちぢれ麺の米沢ラーメンが味わえる店として人気を集めていたが、11月末で閉店していた。閉店する前に「どうしても食べたい」と考えて並んだのかもしれない。  実際のところはどうだったのか、市人事課に連絡し、事実確認を依頼したところ、後日「メールの内容は事実であり、ごみ減量推進課の職員たちが並んでいた」と連絡が来た。  市の担当者の説明によると、ごみ減量推進課は市内のごみ集積所などを管理する部署で、外勤が多い。普段は2人1組で行動しているが、問題の日は担当者9人が朝9時から市内のあらかわクリーンセンターに向かい、普段使用している公用車のタイヤ交換を行っていた。  作業がひと段落した後、早めに昼休憩を取り、昼食を食べに行くことになった。なお、職員がそろって食事するのは、タイヤ交換時の恒例行事となっていたという。  もっとも、ごみ減量推進課の担当者によると、「特別な用事がない限り、12時から13時の間に昼休憩を取ることになっている。変更する場合は昼に仕事が入っているなどやむを得ない理由があるときに限られ、その際は上長が指示を出す」。職員らは上長の指示を仰がず、勝手に昼休憩を早めに取っていたことになる。  職員らは11時の開店前から行列に並んで食事を取り、その後市役所に戻った。帰庁後間もなく昼休憩の時間に入ったため、ちゃっかり長めの休憩時間を満喫していた。開店前行列に加えて、帰庁後に〝重複休憩〟を取っていた事実も分かったわけ。  人事課の担当者は「現在詳細について調査中で、処分の対象になるかどうか検討する」と話したが、明らかに地方公務員法に違反している。おそらくタイヤ交換のたびに同じように行動していただろうし、似たような形でサボっている職員がほかにもいる可能性がある。いま一度、職員に勤務時のルールを徹底させるべきだ。  警察官や消防士などが休憩時間、制服姿でコンビニを利用すると「仕事をサボっているのではないか」と市民から苦情が入ることがある。ネット上などでたびたび議論になるため、今回もそうした事例かもしれないと思い、念のため市に確認したところ、思わぬ事実が判明した。  中には「外食した店がたまたま混雑していることもある。そんな目くじらを立てることではない」と見る向きもあるかもしれない。  ただ、そもそも仕事の日に、わざわざ行列ができる人気ラーメン店を昼食の場所として選び、開店前から並ぶ行為は妥当だったのか。人手不足で、忙しく働く中小企業の立場からすると強い違和感を抱くだろう。「公務員はそんなに暇なのか?」と呆れられても仕方がない話だ。  メールの差出人はわざわざ有給を取って並んでいたというから、なおさら「仕事がある日でも開店前から人気店に並んで食べることが許されるとは、なんていい職場なんだ」と感じただろう(実際は勝手な判断だったようだが)。  公務員はその行動が市民に見られていることを自覚して業務に取り組む必要があろう。 あわせて読みたい 【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う 【福島県職員の給料】人事院・福島県人事委勧告の虚妄

  • 福島市いじめ問題で市側が被害者に謝罪

    福島市いじめ問題で市側が被害者に謝罪

    福島市内の男子中学生が市立小学校に通っていたときにいじめを受け、不登校になった問題について、本誌2022年4月号「【福島市いじめ問題】6つの深刻な失態」という記事で、詳細にリポートした。  記事掲載後、男子中学生と保護者は市や市教育委員会の対応を巡り、担任の教員や教育委員会などに謝罪を要求。県弁護士会示談あっせんセンターに示談のあっせんを申し立て、2022年10月末、市長と教育長が謝罪することで和解に至った。  福島市は2022年11月22日の記者会見で、木幡浩市長と佐藤秀美教育長が非公式の場で直接謝罪しことを明らかにした。和解の条件として、市が児童らに180万円の解決金を支払い、いじめ問題の関係者を今後処分する。  同日、被害者側も記者会見を開き、男子中学生は「心の傷は治らない」と語った。保護者は「こちらが求める謝罪ではなかった」としつつ、「今後は組織一体となっていじめ問題に対応してほしい」と訴えた。

  • 福島市西部で進むメガソーラー計画の余波「開閉所の整備予定地」

    福島市西部で進むメガソーラー計画の余波

     「自宅の周辺を作業員が出入りして地質調査をしていると思ったら、目の前の農地に開閉所(家庭でのブレーカーの役割を担う施設)ができると分かった。一切話を聞いていなかったので驚きました」(福島西工業団地の近くに住む男性)  同市西部の福島西工業団地(同市桜本)の近くの土地を、太陽光発電事業者がこぞって取得している。東北電力の鉄塔に近く、変電所・開閉所などを設置するのに好都合な場所だからだ。  2022年2月、鉄塔がある地区の町内会長の家をAC7合同会社(東京都)という会社の担当者が訪ねた。外資系のAmp㈱(同)という会社が特別目的会社として設立した法人で、福島市西部の先達山(635・9㍍)で大規模太陽光発電施設を計画している。そのための変電所を、市から取得した土地に整備すべく、町内会長の了解を得ようと訪れたのだ。  町内会長は冒頭の男性と情報を共有するとともに、同社担当者に対し「寝耳に水の話で、とても了承できない」と答えた。  同計画の候補地は高湯温泉に向かう県道の北側で、すぐ西側に別荘地の高湯平がある。地元住民らは「ハザードマップの『土砂災害特別警戒地域』に隣接しており、大規模な森林伐採は危険を伴う。自然環境への影響も大きい」として、県や市に要望書を提出するなど、反対運動を展開している。  そうした事情もあってか、変電所計画にはその後動きがないようだが、2022年3月には、別の太陽光発電事業者が近くの民有地を取得し、開閉所の設置を予定していることが明らかになった。  発電事業者は合同会社開発72号(東京都)で、福島市桜本地区であづま小富士第2太陽光発電事業を進めている。開閉所を含む発電設備の建設、運転期間中の保守・維持管理はシャープエネルギーソリューション(=シャープの関連会社、大阪府八尾市)が請け負う。  発電所の敷地面積は約70㌶で、営農型太陽光発電を行う。営農事業者は営農法人マルナカファーム(=丸中建設の関連会社、二本松市)。2022年7月に着工し、2024年3月に完工予定となっている。  開閉所は20㍍×15㍍の敷地に設置される。変圧器や昇圧期は併設しないため、恒常的に音が出続けるようなことはないという。発電所から開閉所までは特別高圧送電線のケーブルを地下埋設してつなぐ。 開閉所の整備予定地  5月7日には地元住民への説明会が開かれた。大きな反対の声は出なかったようだが、冒頭・予定地の目の前に住む男性は「電磁波は出ないというが、子どもへの影響など心配になる。工事期間中、外部の人が出入りすることを考えると防犯面も気になります」と語った。  前出・町内会長は、一方的な進め方に違和感を抱き、市の複数の部署を訪ねたが、親身になって相談に乗ってくれるところはなかった。  特別高圧送電線のケーブルが歩道の地下に埋設される予定であることを知り、市に「小学生の通学路にもなっているので見直してほしい」と訴えたところ、車道側に移す方針を示した。だが、根本的に中止を求めるのは難しそうな気配だ。  「鉄塔周辺の地権者が応じれば、ほかにも関連施設ができるのではないかと危惧しています」(町内会長)  福島市西部地区で進むメガソーラー計画で、離れた地区の住民が思わぬ形で余波を受けた格好だ。2つのメガソーラー計画についてはあらためて詳細をリポートしたい。 あわせて読みたい 相馬玉野メガソーラー事業者が「渦中の所有者」の関与を否定 【二本松市岩代地区】民間メガソーラー事業に不安の声 大玉村「メガソーラー望まない」 宣言の真意

  • 【福島市】厳冬の夜間ホームレス調査

     路上生活を強いられるホームレスの数を地域住民が夜に自宅周辺を歩いて計測する取り組みが全国に広まっている。「ストリートカウント(ストカン)」と呼ばれ、英米やオーストラリアが先進地だ。日本では2016年に東京で都市空間を研究する大学教員や学生らが中心となって始まった。ホームレスを取り巻く問題を行政機関や福祉の専門家だけに押し付けず、「我がまち」の問題として捉え、ホームレスを排除しない社会を目指す狙いがある。ネットを通じて活動は広がり、全国調査は今年1月に行ったもので3回目。本誌は初参加し、JR福島駅周辺を回った。(小池航) 全国に広がる「東京発住民調査」の輪 終電後のJR福島駅西口  忘新年会シーズンでJR福島駅前を歩く機会が多い。10年前の福島駅は、東西を結ぶ地下通路や高架下でホームレスが荷物を寄せてしゃがみこんでいたり、回収した空き缶をビニール袋に入れて構内を移動する姿をよく見かけた。ホームレスの中には東京電力福島第一原発事故の収束作業や除染作業に従事した後、仕事を失い、帰る場所もなく福島に残って路上生活に陥った人もいた。  現在はどうか。地下通路を歩くと酔っ払いがした小便の臭いが立ち込めるのは相変わらずだが、ホームレスの姿は全然見かけない。  いなくなったわけではない。厚生労働省は「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に基づき、毎年市町村に路上生活者の計測を委託し集計している。直近の2023年1月調査時点によると、福島県内は9人、うち中核市別では福島市4人、郡山市3人、いわき市2人(表参照)。今年1月の数値は取りまとめ中で未公表だ。全国の統計を見ると東京、大阪など大都市に多い。 ホームレスの数が多い上位5都府県(厚生労働省集計) 単位(人)2019年2020年2021年2022年2023年大阪府10641038990966888東京都1126889862770661神奈川県899719687536454福岡県250260268248213愛知県180181157136136 福島県と県内中核市のホームレス人数 単位(人)2019年2020年2021年2022年2023年福島県17141069福島市66324郡山市85323いわき市33422  福島市生活福祉課によると、毎年1月中に職員が市民や警察から寄せられるホームレスの滞在情報を基に、昼と夜の2回に分けて調査する。今年は11日に行った。人数は「厚労省の発表を待ってほしい」と言及を控えたが、存在は確認したという。調査をする際には当事者からの相談も受け付けている。過去には住宅支援や就労支援につなげたこともある。  福島市内のホームレスは減少傾向だが、同課に要因を聞くと「一概には言えない」とした上で、滞在場所が不定のため行き先をたどれなかったり、警察から死亡の報告を受けたケースがあったと話した。  郡山市保健福祉総務課によると、今年は1月中旬までの間に昼と夜の2回に分けて実施。福島市と同じく「詳しい人数は厚労省の発表を待ってほしい」というが今年もホームレスを確認したという。同じく減少傾向にあるが「生活困窮者の窓口につなげたり、亡くなってしまったりで様々な要因があるので一概には言えない」という。  全国で路上生活者は減っている。福島市で10年前に見かけたが最近は見かけないという体感は正しい。新たに住居や職を得ていれば良いが、中には高齢となり病気で死亡している人がいる可能性は否めない。  本誌は県庁所在地福島市の現況を把握しようとJR福島駅前のホームレス目視調査を行った。ホームレスの実態を調査する東京の市民団体「ARCH」(アーチ)が1月19、20日の夜間に全国で開催した「私のまちで東京ストリートカウント」に参加した。  団体名ARCHはAdvocacy and Research Centre for Homelessnessの略称で、都市空間を研究する東京工業大学の教員、学生を母体にホームレス支援団体、市民が加わり2015年から活動を始めた。事務局の杉田早苗さん(岩手大学農学部准教授)が設立経緯を振り返る。  「設立メンバーは英・ロンドンやオーストラリア・シドニーを対象に海外のホームレス支援策を研究してきました。設立の直接のきっかけは東京五輪の開催が決まったことでした。巨大イベントを前にすると、行政は都市公園や競技場付近のホームレスを排除する傾向があります。米・アトランタ五輪では開催期間中にバスの乗車券を渡してホームレスの方を遠ざける施策が取られました。他方、オーストラリアはシドニー五輪を契機に『公共空間にホームレスがいる権利』を議定書に明記しました。東京五輪を控え、排除を進めるのではなく、ホームレスの方を取り巻く問題に目を向け、環境改善につなげたかった」 居住地に帰る夜間に調査 駅に向かう人々(JR福島駅東口)  ARCHメンバーは東京のホームレス支援団体に話を聞き、都市空間の研究者として力になれることを考えた。  支援団体が問題にしていたのが、「東京都はホームレスの実数を正確に把握していないのではないか」という疑念だった。都は職員が目視で人数を把握しているが調査は昼間。ホームレスは、日中は廃品回収などに従事し所在が決まっていないことを考えると、正確な数を把握するには寝床に帰る夜間が適切だ。  支援団体は相談業務や住宅確保・就労支援など目の前の活動に精一杯で、調査まで手が回らない。だが、ホームレスを取り巻く問題は支援団体だけが向き合うのではなく、その地域に住む人も目を向けるべきものだ。海外では地域住民が夜間にホームレスの数を調査する先例があり、米・ニューヨークでは2000人規模の調査員で正確な数値を弾き出していることを知った。  ARCHは2016年夏に東京都渋谷区、新宿区、豊島区の駅前で初めて調査を行った。一般市民の協力を得て年々規模を拡大し、2021年からは全国に参加を呼び掛け、これまで1021人(延べ1910人)が調査に加わった。  調査範囲が東京から全国に広がったのは新型コロナ禍が契機だった。感染が拡大した2020年春以降は感染対策のためにARCHの発足母体である東工大の研究者、学生などに参加者を絞って実施したが、1人当たりが回る範囲が広くなり負担が増した。一般参加を制限したため、市民参加という当初の理念からも遠のいてしまった。  市民同士が無理なく共同調査できる形を模索し、2021年夏にネットを介して自分が住む地域の調査結果を報告・集計する形に改めた。住宅地や郊外の駅・公園が巡回地に加わったことで、「ホームレスがいるのは都心」という一面的な見方を脱し、参加者は自分が住むまちとホームレスを取り巻く問題を関連づけて考えるようになった。  「大切なのは、深夜に自分が住むまちを見つめることで生まれる『地域を見守る感覚』です。ストリートカウントはホームレスの方の人数把握が第一の目的ですが、それ以上に地域住民がホームレスの方を取り巻く問題に気づき、誰もが排除されず暮らしやすいまちにするためにはどうしたらよいかを考えるきっかけになります」(杉田さん)  実際、参加者からは「夏の暑い中や冬の凍える中、ホームレスの方が過ごす屋外を歩き、自分事としてリアルに捉えられた」との感想が多く寄せられるという。調査チームは2人から結成でき、各自終電後の時間帯を最低1時間程度回る。バラバラの行動ではあるが、ネット上の回答フォームに出会ったホームレスや帰る場所がなさそうな人の人数を記入して本部に報告。感想を共有して、参加者同士がゆるやかなつながりを形成している。  参加者の一人、東京工業大学大学院修士1年の松永怜志さんは都市空間のデザインと市民参加の関わりを研究する中で、様々な事情でホームレスとなった人を包摂するまちの役割に興味が湧いた。支援団体に所属し、炊き出しをしたり、個別訪問を行うなど現場に出ている。  「世間話をする中で『自分たちはいらない人間なのではないか』と打ち明けられることがあります。ストリートカウントができるのは、まちで出会った人々を見守り、関心を寄せることまでですが、活動が多くの人に広まれば、排除ではなく助け合いの心につながるのではないでしょうか」(松永さん) 路上生活者は潜在化 福島駅地下道の注意書き  今年1月に行った全国調査への参加者は1日目の19日が62人、2日目の20日が30人、別日に1人が行い、延べ93人が行った。13都道府県から参加があり、北海道、秋田、岩手、福島、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、福岡、熊本の諸都市を回った。福島県内からは本誌のみが参加した。全国の参加者が出会ったホームレスの人数は1日目が103人、2日目が111人だった。  本誌は19日の深夜11時から1時間かけて、スタッフ2人で福島駅周辺を回った。ホームレスには出会わなかった。福島市の調査では昨年1月に4人確認し、今年も存在を確認したというから本誌が見かけなかっただけと考えるのが自然だ。  深夜に駅前にたたずんでいる人はほとんどが家族の送迎の車を待つ人だった。ただ、駅から離れた人通りの少ないトイレ前のベンチで、ヘッドホン(防寒耳あて?)をつけてスマホを操作している人がいた。風貌からホームレスではなく、長時間滞在している様子もなかったが、帰る場所がない人の可能性があり「居場所がなさそうな人」にカウントした。  地下道や高架下にも足を運んだがそこで夜を明かそうとする人の姿は見かけなかった。かつてホームレスを見かけた地下道には、福島市が立てた「居住、長時間滞在・荷物存置、勧誘、物品販売等を禁止します」との看板があった。場所を追われたホームレスたちはどこに行ったのか。より目立たない場所に追いやられ、潜在化しているのかもしれない。  駅南側に進むと、市の子育て支援施設「こむこむ」の窓ガラスの前では、窓を鏡にしてダンスを練習する若者がいた。昼間に車で通ったり、飲み会に足を運ぶだけでは見かけない光景で、自然発生した文化を感じる。文化と言えば、以前週末によく見かけた路上ライブは、ネットでの動画配信が主流のいまは流行らないのか出会わなかった。  福島駅の東口は再開発事業の工事中で、賑わいが以前よりも減り、寒さも相まって物寂しさが漂う。福島市は車社会のため、駅前は車で通りすぎる場所になっている。ましてや夜中に足を運ぶことはめったにない。終電後の1時間程度の観察だったが、自分が住む「まち」に関する解像度が上がった。本誌では、行政の調査を補完するため今後も郡山市やいわき市に足を延ばし、独自にストリートカウントを行う予定だ。

  • 【福男福女競走】恒例イベントとして定着【福島市信夫山】

     福島市の信夫山にある羽黒神社の例祭「信夫三山暁まいり」が毎年2月10、11日に開催される。それに合わせて、2013年から「暁まいり 福男福女競走」が開催され、今年で10回目を迎える。当初は「どこかの真似事のイベントなんて……」といった雰囲気もあったが、気付けば節目の10回目。いまでは一定程度の認知を得たと言っていいだろう。同イベントはどのように育てられてきたのか。 10回目の節目開催を前に振り返る 羽黒神社 奉納された大わらじ  福島市のシンボル「信夫山」。そこに鎮座する羽黒神社の例祭「信夫三山暁まいり」は、江戸時代から400年にわたって受け継がれているという。羽黒神社に仁王門があり、安置されていた仁王様の足の大きさにあった大わらじを作って奉納したことが由来とされ、長さ12㍍、幅1・4㍍、重さ2㌧にも及ぶ日本一の大わらじが奉納される。五穀豊穣、家内安全、身体強健などを祈願し、足腰が丈夫になるほか、縁結びの神とも言われ、3年続けてお参りすると、恋愛成就するとの言い伝えもあるという。  なお、毎年8月に行われる「福島わらじまつり」は、暁まいりで奉納された大わらじと対になる大わらじが奉納される。この2つが揃って一足(両足)分になる。日本一の大わらじの伝統を守り、郷土意識の高揚と東北の短い夏を楽しみ、市民の憩いの場を提供するまつりとして実施されているほか、より一層の健脚を祈願する意味も込められている。  「暁まいり 福男福女競走」は、2月10日に行われる「信夫三山暁まいり」に合わせて、2013年から開催されている。企画・主催は福島青年会議所で、同会議所まつり委員会が事務局となっている。  このイベントは、信夫山山麓大鳥居から羽黒神社までの約1・3㌔を駆け登り順位を競う。男女の1位から3位までが表彰され、「福男」「福女」の称号のほか、副賞(景品)が贈られる。  このほか、「カップル」、「親子」、「コスプレ」の各賞もある。カップルは「縁結びの神」にちなんだもので、男女ペアで参加し、最初に手を繋いでゴールしたペアがカップル賞となる。親子は、原則として小学生以下の子どもとその保護者が対象で、最初に手を繋いでゴールしたペアに親子賞が贈られる。コスプレ賞は、わらじまつりや暁まいり、信夫山に由来したコスプレをした人の中で一番パフォーマンスが高い参加者が表彰される。それぞれ1組(1人)に副賞が贈られる。  1月中旬、記者は競走コースを歩いてみた(走ってはいない)。登りが続くので、のんびりと歩くだけでも相当な運動になる。特に、羽黒神社に向かう最後の参道は、舗装されておらず、かなりの急勾配になっているため、1㌔以上を走ってきた参加者にとっては〝最後の難関〟になるだろう。それを克服して、より早くゴールした人が「福男」、「福女」になれるのだ。  ちなみに、主催者(福島青年会議所まつり委員会)によると、「福男福女競走のスタート位置は、抽選で決定する」とのこと。いい位置(最前列)からスタートできるのか、そうでないのか、その時点ですでに「福(運)」が試されることになる。 参加者数は増加傾向 スタート地点の信夫山山麓大鳥居  ところで、「福男」と聞いて、真っ先に思い浮かぶのは西宮神社(兵庫県西宮市)の「福男選び」ではないか。以下は、にしのみや観光協会のホームページに掲載された「福男選び」の紹介文より。    ×  ×  ×  ×  開門神事と福男選び 昨年の福男福女競走(福島青年会議所まつり委員会提供)  1月10日の午前6時に大太鼓が鳴り響き、通称「赤門(あかもん)」と呼ばれる表大門(おもてだいもん)が開かれると同時に本殿を目指して走り出す参拝者たち。テレビや新聞でも報道される迫力あるシーンです。  この神事は開門神事・福男選びと呼ばれており、西宮神社独特の行事として、江戸時代頃から自然発生的に起こってきたといわれています。  当日は、本えびすの10日午前0時にすべての門が閉ざされ、神職は居籠りし午前4時からの大祭が厳かに執り行われます。午前6時に赤門が開放され、230㍍離れた本殿へ「走り参り」をし、本殿へ早く到着した順に1番から3番までがその年の「福男」に認定されます。  先頭に並ぶ108人とその後ろの150人は先着1500人の中から抽選して決められますが、その後ろは一般参加で並んで入れます。また先着5000名には開門神事参拝証が配られます。ちなみに、「福男」とはいえ、女性でも参加できます。    ×  ×  ×  ×  古くから神事として行われていた「福男選び」だが、テレビのニュースなどで報じられ、一気に有名になった。  「暁まいり 福男福女競走」は、これを参考にしたもので、暁まいりをより盛り上げることや、福島市のシンボルである信夫山のPRなどのほか、東日本大震災・福島第一原発事故からの復興祈願や復興PR、風評払拭などの目的もあって実施されるようになった。  ただ、当初は「どこかの真似事のようなイベントなんて……」といった雰囲気もあったのは否めない。それでも、気付けば今年で節目の10回目を迎える。いまでは恒例イベントとして定着していると言っていい。  その証拠に、参加者数は年々増えていった(次頁別表参照)。なお、今年でイベント開始から12年目になるが、2021年、2022年は新型コロナウイルスの感染拡大のため中止となった。昨年は、コロナ禍に伴う制限などがあったため、コロナ禍前と比べると少ないが、そうした特殊事情を除けば、恒例イベントとして順調に育っている、と言っていいのではないか。なお、今年は本稿締め切りの1月25日時点で、360人がエントリーしているという。  主催者によると、参加者は福島市内の人が多いそうだが、市外、県外の人もいる。高校の陸上部に所属している選手が、練習の一環として参加したり、国内各地の同様のイベントに参加している人などもいるようだ。最大の懸念は、事故・怪我などだが、これまで大きな事故・怪我がないのは幸い。  〝本家〟の西宮神社は、約230㍍の競走だが、「暁まいり 福男福女競走」は約1・3㌔で、登りが続くため、より走力・持久力が問われることになる。  ちなみに、同様のイベントはほかにもある。その1つが岩手県釜石市の「韋駄天競走」。「暁まいり 福男福女競走」が始まった翌年の2014年から行われている。同市の寺院「仙壽院」の節分行事の一環で、東日本大震災では寺院のふもとに津波が押し寄せ、避難が遅れた多くの人が犠牲になったことから、その時の教訓をもとに避難の大切さを1000年先まで伝えようと始まった。  昨年で10回目を迎え、「暁まいり 福男福女競走」はコロナ禍で二度中止しているのに対し、「韋駄天競走」は、2021年は市内在住者や市内通勤・通学者に限定し、2022年は競走をしない任意参加の避難訓練として行われたため、開始年は「暁まいり 福男福女競走」より遅いが、開催数は多い。市中心部から高台にある仙壽院までの約290㍍を競走し、性別・年代別の1位が「福男」、「福女」などとして認定される。  昨年は、全部門合計で41人が参加し、コロナ禍前は100人以上が参加していたという。同時期にスタートしたイベントだが、参加者数は「暁まいり 福男福女競走」の方がだいぶ多い。 佐々木健太まつり委員長に聞く ポスターを手にPRする佐々木健太まつり委員長  暁まいりの事務局を担う福島市商工観光部商工業振興課によると、「暁まいりの入り込み数は、震災前は約6000人前後で推移していました。そこから数年は、天候等(降雪・積雪の有無)によって、(6000人ベースから)1000人前後の上下があり、2015年以降は約1万人で、ほぼ横ばいです」という。  福男福女競走の開催に合わせて、暁まいりの入り込み数も増えたことがうかがえる。  こうした新規イベントは、まず立ち上げにかなりのエネルギーが必要になる。一方で、それを継続させ、認知度を高めていくことも、立ち上げと同等か、あるいはそれ以上に重要になってくる。  この点について、福男福女競走の主催者である福島青年会議所まつり委員会の佐々木健太委員長に見解を聞くと、次のように述べた。  「青年会議所の性質上、役員は1期(1年)で変わっていきます。まつり委員会も当然そうです。そんな中で、前年からの引き継ぎはもちろんしっかりとしますが、毎年、(イベント主催者の)メンバーが変わるので、常に新たな視点で、開催に当たれたことが良かったのかもしれません」  当然、佐々木委員長も今年が初めてで、来年はまた別の人にまつり委員長を引き継ぐことになる。そうして、毎年、新しいメンバー、新しい視点で取り組んできたのが良かったのではないか、ということだ。 今年から婚活イベントも追加 昨年の表彰式の様子(福島青年会議所まつり委員会提供) 昨年の表彰式の様子(福島青年会議所まつり委員会提供)  新たな試みという点では、今年から「暁まいり福男福女競走de暁まいりコン」というイベントが追加された。福男福女競走と合わせて行われる婚活支援イベントで、男女各10人が福男福女競走のコースを、対話をしたり、途中で軽食を取ったりしながら歩く。  要項を見ると、「ニックネーム参加」、「前に出ての告白タイムなし」、「カップルになってもお披露目なし」、「カップルになったら自由交際」といったゆるい感じになっており、比較的、気軽に参加できそう。  「羽黒神社は、縁結びの神様と言われ、恋愛成就を祈願する人も多いので、今年から新たな試みとして、この企画を加えてみました」(佐々木委員長)  こうした企画も、来年のまつり委員会のメンバーが新たな視点で改良を加えるべきところは改良を加えながら、進化させていくことになるのだろう。  県外の人や移住者に福島県(県民)の印象を聞くと、「福島県はいいところがたくさんあるのに、そのポテンシャルを生かせていない」、「アピール下手」ということを挙げる人が多い。本誌でも、行政、教育、文化、スポーツなど、さまざまな面で福島県は他県に遅れをとっており、県内の事例がモデルとなり、県外、日本全国に波及したケースはほとんどない、と指摘したことがある。  今回のイベントは、「自前で創造したもの」ではないかもしれないが、いまでは恒例イベントとして定着したほか、伝統行事(暁まいり)の盛り上げ、信夫山のPRなど、もともとあったものの認知度アップ、ポテンシャルを生かすということに一役買っているのは間違いない。

  • 福島市役所【農業振興課】で陰湿パワハラ

     福島市役所に勤めていた会計年度任用職員の男性が、上司から大声で怒鳴られるなどの対応を取られたことで精神的ストレスを抱え、任期を迎える前に自主退職した。男性は「同市役所のパワハラ対策には欠陥がある」と訴える。 救済策で差を付けられる非正規職員  福島市で上司からパワハラを受けたと訴えるのは三条徹さん(仮名、44)。奥羽大卒。民間企業を経て、警察官を目指したものの叶わなかったため、国や県の非正規職員として働いてきた。福島市には2年前に会計年度任用職員として採用され、農業振興課生産振興係で勤務していた。  仕事内容は正規職員の事務補助。1年目に課長から頼まれてチラシの新しい整理方法を導入したところ、市長賞を受賞しやりがいを感じた。食堂、売店などが整備されていて働きやすかった。そのため2年目も継続して働くことにした。  ところが、その直後から、直属の上司である係長の態度が急変した。  他の職員とは冗談を言いながら話すときもあるのに、三条さん相手となると、不機嫌そうな表情を浮かべる。仕事の報告・面談時間の確認に対し、「そんなこと俺知らねえし」、「面談でも何でも結構でございますけどー」などと返された。  毎年実施している作業や、他の正規職員から頼まれた作業に従事しているときも、「なぜそんな無駄なことをやっているのか」、「そんな作業は他に仕事がないときにやってください!」と三条さんだけ怒鳴られた。次第に三条さんは係長と話すことに恐怖心を抱くようになった。  「私の仕事ぶりがダメで、つい注意してしまうというなら、いっそ1年目が終わった時点で契約を打ち切ってほしかった」(三条さん)  この係長は特定の職員に厳しく当たる癖があり、前年まで三条さんはその姿を他人事のように見ていた。  例えば別部署に異動した後も残務処理のため、たびたび農業振興課に訪れていた職員がいた。係長は顔を合わせるたび「まずあんたのことが信用できない。どうやったら私に信用してもらえるか考えないと」と繰り返し注意していた。「それだけ言われるということは仕事が遅い人なのだな。ダメな人だな」と思っていた。  しばらくすると、別の若手職員が連日注意されるようになった。「何でやってないの!? 君の言うことは信用できないし、聞くに値しない!」と怒鳴る声が、部署の端にいる三条さんにも聞こえて来た。若手職員は新年度、別の部署に異動していった。「大変だな」と見ていたが、まさか次は自分が厳しく言われる側に回るとは考えていなかった。  「自分が至らないから係長にこれだけ怒られるのだ」と言い聞かせて仕事を続けていた三条さんだったが、昨年12月ごろになると、毎日のように理不尽な理由で怒られるようになった。精神的に限界を迎えた三条さんは人事課に駆け込み相談した。改善につながることを期待したが、そうしている間に、三条さんにとって決定的な出来事が起きた。  三条さんの始業時間は9時15分。毎朝、始業時間の少し前に出勤し、カウンターをアルコールで拭き、鉢植えの花に水をあげ、周りを雑巾で拭いてから、新聞のスクラップをするのがルーチンワークだった。  ところが、その日に限って係長が始業時間前に三条さんを呼び止め、「新聞のスクラップは終わったのか!?」と尋ねた。「私の始業時間は9時15分からでは……」と恐る恐る答えると、嫌みを込めたトーンで「それは大変申し訳ありませんでした」と言われた。  勤怠状況を管理しているのは係長で、始業時間を知らないはずはない。連日さまざまな理由で怒鳴られていたが、ついに始業開始前から始まるルーチンワークにまでイチャモンを付けられるようになったのか――。心が折れた三条さんは課長に抗議の意味を込めて辞表を提出した。  当初、課長は係長のパワハラについて「気付かなかった」として、「有休を使って休んでいる間に考えよう」と退職を考え直すよう言ってくれた。だが、1月に入ると態度を一変。「辞表は受理してしまったし、気に入らないことがあると辞表を出す人間だと課に知れ渡ってしまった。課のみんなもどう接していいか分からない」と突き放された。  やむなく正式に退職の事務手続きを進めるため、人事課を訪ねると、前回相談した職員が顔を出し、「すみません、あの後、コロナになっちゃって」と謝ってきた。精神的に限界を迎えて相談したにもかかわらず、他の職員への引き継ぎも行われず、放置されたままになっていたのだ。  「せめて一言連絡しようとは考えなかったのか、不思議でなりません」(三条さん)  あらためて同市の形式にのっとった辞表を提出するよう求められ、人事課職員に言われた通り、退職理由を「一身上の都合により」と書いて提出。結局、1月末で退職した。  離職後、失業保険の手続きや転職先探しのためにハローワークに行った三条さんは退職理由の詳細を聞かれて、素直に「パワハラを受けたから」と答えた。退職理由を書き換えるための申立書を渡されたので、係長にパワハラを受けたこと、人事課に相談に乗ってもらえなかったことを書いて市に送った。市からの返事は、所属長である農業振興課長による「パワハラではなく『指導』の範囲内だった」というものだった。  「パワハラについて『気付かなかった』と話していた課長がなぜ『指導の範囲内だった』と言えるのでしょうか。辞表提出後、課長は『今回の件で俺の評定も下がっただろう』とも話していたが、『指導の範囲内』なら評定が下がるわけがありませんよね。いろいろ矛盾しているんです」(三条さん) 周知不足の相談窓口 福島市役所  実は福島市役所内にはパワハラなどのハラスメントの被害に遭った職員の相談を受ける窓口があった。  一つは公平委員会。地方公務員法第7条に基づき、職員の利益保護と公正な人事権の行使を保護するための第三者機関として設置されている。主な業務は①勤務条件に関する措置の要求、②不利益処分についての審査請求、③苦情相談。福島市の場合、総務課が担当課になっている。苦情を申し立てれば、双方に事情を聞くなどの対応を取ってもらえたはずだ。  だが、三条さんは在職時に公平委員会の存在を知らず、人事課の担当者に相談した際も紹介されることはなかった。  市では3年ほど前から、パワハラ被害などに悩む市職員に、弁護士を紹介する取り組みも始めている。ところが、ポスターなどで周知されているわけではなく、正規職員に支給されるパソコンでのみ表示される仕組みになっていた。会計年度任用職員には、個別のパソコンを支給されていない。そのため、三条さんはそんな制度があることすら知らなかった。退職後に制度を利用させてほしいと頼んだが、「もう職員じゃないので難しい」と断られた。  福島市役所職員労働組合は正規職員により構成されているが、会計年度任用職員からの相談も受け付けている。ただ、三条さんは市職労に相談しようと思いつきもしなかった。  パワハラ自体の問題に加え、相談窓口が十分に周知されていない問題もあることが分かる。  「このままでは自分と同じような目に遭う職員が出る」。三条さんは木幡浩市長宛てに再発防止策を講じるよう手紙を出したほか、市総務課に公益通報したが、何の回答もなかった。労働基準監督署や県労働委員会に行って、「もし福島市職員からパワハラ相談があったら、相談窓口があることを教えてください」と伝えた。マスコミにもメールで情報提供したが、動きは鈍かった。 木幡浩市長  ちなみに本誌にもメールを送ったそうだが、システムのトラブルなのかメールは届いていなかった。唯一月刊タクティクス7月号で報じられたが、大きな話題になることはなく、あらためて本誌に情報提供したという経緯だった。  元会計年度任用職員の訴えを市はどう受け止めるのか。人事課の担当者はこのように話す。  「当事者(三条さん)から相談を受けた後、所属長である農業振興課長が係長に聞き取りしたが、本人は発言の内容をはっきり覚えていませんでした。多少大きな声で指導したのかもしれませんが、捉え方は人によって異なるし、それが果たしてパワハラに当たるのかどうか。人事課では農業振興課長と面談し対策を講じようとしていたが、(三条さんが)辞表を提出した。展開が早くて、弁護士の制度を紹介したり、パワハラの有無を調査する間もなかった、というのが正直なところです。パワハラがあったかどうかは、市としても顧問弁護士などと相談して検討する話。双方にしっかり話を聞くなど、調査を行わずに断言はできません」  パワハラの事実を認めないばかりか、人事課で相談を放置していたことを棚に上げ、「調査する前に退職したのでパワハラの有無は分からない」と主張しているわけ。  ちなみに人事課への相談が放置されていた件に関しては「人事に関する相談はデリケートな問題なので、一つの案件を一人で継続して担当するようにしている。そうした中でうまく引き継ぐことができなかった」と他人事のように話した。 「誰にでも大声を出していた」  一方でこの担当者はこのようにも説明した。  「農業振興課長の報告によると、係長は興奮すると誰にでも大きな声を出して熱くなることがあった。その人だけに嫌がらせをしていたわけではないという意味で、パワハラと言い切れるのだろうか、と。そういう点からも、市としては、『一連の対応はパワハラではなく業務上の範囲内だった』という認識ですが、態度によってはパワハラと受け取られる可能性があるということで、あらためて農業振興課長が係長に指導を行いました」  三条さんだけでなく、誰にでも大声で怒鳴ることがある職員だったのでパワハラには当たらない、というのだ。厚生労働省によると、パワハラの定義は「職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」。市の解釈だと、特定の人物に対してでなければ、どれだけ精神的苦痛を与えてもパワハラには当てはまらないことになる。  人事課担当者は「管理職を対象としたハラスメント研修を定期的に実施している」と話すが、この間のやり取りを踏まえると、正しい知識のもとで行われているか疑問だ。  気になったのは、人事課の担当者が、三条さんが退職した経緯についてこのように述べたことだ。  「(三条さんは)係長への抗議的な意味合いで辞表を出したようですが、同じ部署で働きづらい部分もあるし、もうやめるしかないんじゃないか、という流れで退職に至ったと聞いています」  前述の通り、三条さんは課長から「辞表は受理してしまったし、気に入らないことがあると辞表を出す人間だと課に知れ渡ってしまった」と言われ、退職を促された、と主張していた。三条さんの見解とは違う形で報告されていることが分かる。  ちなみに課長、係長はともに今春の人事異動で農業振興課から異動になっており、どちらも降格などにはなっていなかった。  三条さんがいなくなった後の農業振興課ではどんなことが起きていたか共有され、再発防止策は講じられているのか。4月に赴任した長島晴司課長に確認したところ、「当然共有されています。ああいったことがあると、職場の雰囲気は悪くなるし、係の職員も疲弊する。そうした雰囲気の改善に努めており、併せてパワハラと受け取られるような指導はしないようにあらためて気を付けています」と話した。 厚労省指針は守られているのか  地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、「厚労省の指針では職場におけるハラスメントに関する相談窓口を設置して労働者に周知するよう定められている」という。  上林特任教授が執筆を担当した『コンシェルジュデスク地方公務員法』では公務員のハラスメント対策について、次のように記されている。  《部下は、パワーハラスメントを受けていても、上司に対してパワーハラスメントであることを伝えることは難しい。とりわけ、非正規職員のような有期雇用職員は、次年度以降の雇用の任命権者が直属の上司の場合が多いため、なおさら相談しにくい。したがって、上司以外の信頼できる職場の同僚、知人等の身近な人やより上位の人事当局、相談窓口等に相談することが必須となる》  《相談窓口・相談機関は、事業主の雇用管理上講ずべき措置の内容の中では重要な位置取りをしめ、厚生労働省のパワハラ防止指針では、相談への対応のための窓口をあらかじめ定め、労働者に周知することとし、相談窓口担当者は、①相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること、②相談窓口については、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じているだけでなく、その発生のおそれがある場合や、職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすることが求められているとしている》  昨年、市が公表した「福島市人事行政の運営等の状況について」という文書によると、2021年度における公平委員会の業務状況は、不利益処分に関する不服申立1件、職員の苦情の申立1件のみ。  職員からの苦情がない快適な職場なのか、それとも公平委員会の存在自体を知らない人が多いだけか。いずれにしても厚労省通知に定められている労働者への周知が行われているとは言い難い印象を受ける。  もっというと、会計年度任用職員にはパソコンが支給されていなかったので、弁護士相談制度に触れられなかったというのは、結果的に正規職員と非正規職員で相談窓口の案内に差が出た形になる。同じ中核市である郡山市、いわき市にも確認したが、そのような差はなかった。すぐに解消すべきではないか。  現在は福島市内の別の場所で働いている三条さん。「私のような思いをする人がこれ以上出てほしくない。いまさら謝罪や責任追及を求めているわけではない。市役所は閉鎖的でおそらく自浄作用はない。だからこそ、報道を通していかに福島市のパワハラ対応がダメか、多くの人に知ってもらい、少しでも体制改善につながればと思っている」と訴えた。福島市はまずパワハラ対策の周知から始めるべきだ。

  • 遅すぎた福島市メガソーラー抑制宣言

     福島市西部の住民から「先達山の周辺がメガソーラー開発のためにハゲ山と化した。景色が一変してしまった」という嘆きの声が聞かれている。市は山地でのメガソーラー開発抑制に動き出したが、すでに進められている計画を止めることはできず、遅きに失した感が否めない。  福島市は周囲を山に囲まれた盆地にあり、市西部には複数の山々からなる吾妻山(吾妻連峰)が広がる。その一角の先達山で、大規模メガソーラーの開発工事が進められている。  正式名称は「高湯温泉太陽光発電所」。事業者は外資系のAC7合同会社(東京都)。区域面積345㌶、発電出力40メ  ガ㍗。県の環境評価を経て、2021年11月22日に着工、今年3月27日に対象事業工事着手届が提出された。  今年に入ってから周辺の山林伐採が本格化。雪が解け始めた今年の春先には、山肌があらわになった状態となっていた。その様子は市街地からも肉眼で確認できる。  吾妻山を定点観測している年配男性は「この間森林伐採が進む様子に心を痛めていた。あんなところに太陽光パネルを設置されたら、たまったもんじゃない」と語る。  福島市環境課にも同じような市民からの問い合わせが多く寄せられた。そのため、市は8月31日の定例記者会見で、山地へのメガソーラー発電施設の設置をこれ以上望まない方針を示す「ノーモア メガソーラー宣言」を発表した。  木幡浩市長は会見で、景観悪化に加え、法面崩落や豪雨による土砂流出のリスクがあることを指摘。市では事業者に対し法令順守、地域住民等との調和を求める独自のガイドラインを設けていたが、法に基づいて進められた事業を覆すことはできない。そのため、市としての意思を示し、事業者に入口の段階であきらめてもらう狙いがある。条例で規制するより効果が大きいと判断したという。もし設置計画が出てきた際には、市民と連携し、実現しないよう強く働きかけていく。  もっとも、県から林地開発許可を得るなど、必要な手続きを経て進行している建設を止めることは難しいため、現在進行中のメガソーラーの開発中止は求めない方針だ。すなわち、先達山での開発はそのまま続けられることになる。  先達山の開発予定地のすぐ西側には別荘地・高湯平がある。2019年には計画の中止を求め、住民ら約1400人による署名が提出されるなどの反対運動が展開されていた。ただ、結局手続きが粛々と進められ、工事はスタート。今年の春先に高湯平の住民を訪ねた際は「結局押し切られてしまった。こうなったらもう止められないでしょ」とあきらめムードが漂っていたが、時間差で反対ムードに火が付いた。  前出の年配男性は「建設許可を取る際、こういう景観になると予想図を示したはず。自然破壊を予測できなかったとしたら怠慢であり、行政の責任を問うべき」と訴える。こうした意見に対し、県や福島市の担当者は「法に基づき進められた計画を覆すのは正直難しい」と答えた。  福島市以外でも、メガソーラー用地として山林伐採が進み、見慣れた山々の風景が一変してギョッとすることが多い。景観・自然を破壊しないように開発計画を抑制しながら、再生可能エネルギー普及も進めていかなければならない。各市町村には難しい舵取りが求められている。 森林が伐採された先達山

  • 【福島市】選挙漫遊(県議選)

    マスコミが伝えない候補者の人柄 月刊「政経東北」11月号に、本誌に連載していただいている畠山理仁さんの映画「NO選挙,NO LIFE」公開を記念したインタビュー記事を掲載した。畠山さん、前田亜紀監督、大島新プロデューサーに映画の見どころや選挙の魅力について語ってもらったもの。 詳細は誌面で読んでいただきたいが、選挙取材にかける畠山さんの情熱に触れて、本誌記者は居ても立っても居られなくなり、このたび新たな企画に挑戦することになった。 その名も「勝手に連動企画『政経東北』でも選挙漫遊をやってみた」。 11月2日告示、12日投開票の福島県議選。福島市、郡山市、いわき市、会津若松市各選挙区の立候補者39人を本誌スタッフ総出で取材し、選挙漫遊(街頭演説などに足を運んで選挙を積極的に楽しむ)を実践しようというもの。 11月5日(日)、6日(月)の2日間、街頭演説会場に足を運び、その様子を写真と動画で記録。併せてインタビュー取材も実施した。現職には「県政・県土の課題は?」、新人には「立候補した理由は?」などについて質問した。立候補者はどのような選挙活動を展開し、どんな事を話したのか。 担当 佐藤大 補佐 佐々木 福島県議選【福島市】編 https://youtu.be/H3LrOAB1K0E?t=597 【福島県議選】投票前日!【選挙漫遊】総括 投票の判断材料に!福島・郡山・いわき・会津若松福島市の解説は9:57~ 定数8 立候補者9 告示日:2023年11月2日 投票日:2023年11月12日 立候補届出状況↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601554.pdf 選挙公報↓ https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/601651.pdf 届け出順、敬称略。 あわせて読みたい 【会津若松市】選挙漫遊(県議選) 【いわき市】選挙漫遊(県議選) 【郡山市】選挙漫遊(県議選) 誉田憲孝 https://www.youtube.com/watch?v=mRf88TnrX5o  ――県政、県土の課題は?  「回っていて一番言われるのはやっぱり物価高です。家計のやりくりが厳しくなっているという方が現実的に多いですね。家庭の収入を上げていくためには、中小企業へのテコ入れが必要でしょう。  農業についても、いろんな資材費用などが高くなっているので、それをいかに価格に乗せていくかが課題だと思います。 ほかにも、『今年はリンゴの色づきがすごく悪い』などの話も聞きました。そういった気候変動に対する農業の手当なども大事になってくると思います」  ――立候補した理由は?  「市議を8年務め、いろんな政策を立案してきましたが、市の財政状況が厳しいという現実があり、市議会だけではどうしようもない部分がありました。そういったものを解決していくためには、予算なども含め県のテコ入れが必要だろうと感じていたので、自分が市と県の繋ぎ役になりたいと考えました」 一言メモ 街頭演説の場所も相まってか「アットホーム」を感じる選挙活動に思えた。4年前の雪辱を晴らすため、新人ならではの「必死さ」も感じ取れ、取材にも快く応じていただき、好印象だった。事務所から取材を終えて帰るときに「お見送り」までする徹底っぷり。 根っからの明るさや笑顔がひしひしと伝わってきたので、「人前に出るってことは、こういうことを自然にできる人」なんだなと感じた。(佐藤大) 佐藤雅裕 https://www.youtube.com/watch?v=SICPZdOyuhk  ――県政・県土の課題は。  「街頭演説でも話した通り、人口減少に尽きます。①事業者の人手不足、後継者不足、②地域活動の担い手不足、③マーケットの縮小などの影響が出ると考えられ、進行すれば地域が維持できなくなるので、早急に対策を講じる必要があります。地域の魅力づくり、産業振興など、総合的に底上げしていかないと解決しない問題だと思うので、たとえ商工業についての質問・意見を出す際も、必ず人口減少を踏まえた形で行うようにしています」  ――令和3年2月議会で、相馬福島道路霊山インターチェンジと福島市中心部のアクセスを良くするため、県道山口渡利線を整備すべき、と質問していました。その後、整備状況に変化はありましたか。   「実現するとなれば、県単独ではなく、福島市や地元経済界、国も巻き込んだ大きな事業になります。県の担当職員などとやり取りする中で質問したもので、整備に向けたコンセンサスは形成されつつあると思います」 一言メモ 選挙スタッフに取材をお願いし、「忙しいところ申し訳ないが、取材可否の折り返しの電話をいただきたい」と伝えたが、折り返しがなかった。 翌日、「取材の件はどうなりましたか?」と選挙スタッフに問い合わせをすると、選挙スタッフが「あれ? 奥様から折り返しの電話いってないですか?」と言われ、私は「来てません」と伝えた。 その後、街頭演説の写真と動画の撮影をしに行った際、佐藤候補に直接「2,3分、取材をよろしいでしょうか」と尋ねると、佐藤候補は「すぐ出るから、申し訳ないけど、、」と言われたので、私が「そうですよね、忙しいところすみません。明日は事務所にいる時間ありますでしょうか?」と尋ねたら、佐藤候補が「選挙中だから」と言って立ち去った。 その後、選挙スタッフに電話をして、「ほかの候補者が取材を受けている中、2,3分の時間もとれないんですか」と伝えて電話を切った。 それから2日後、選挙スタッフから「今日の夜の8時だったら時間をとれます」と言われたので、私は「伺います」と伝えたが、もうすでに気持ちが冷めていたので、記者の志賀に取材を託した。 これが畠山さんだったら、新聞社だったら、取材をすんなり受けたか受けていないか。 故・佐藤剛男衆院議員の娘婿として県議になりたてのころは「謙虚さ」がみられたが、4期目を目指すともなるとこうも変わるのだろうか。 佐藤候補は、目の前の1票を捨てた。政経東北が福島市に会社があり、スタッフの多くが福島市の有権者だということも想定できないのだろうか。 「絶対に投票しない唯一の1人」確定となった。(佐藤大) 記者の志賀が取材を終えて↓ 「スケジュールが詰まっていて2、3分取るのも難しい。こういう取材をしたいなら事前に言ってもらわないと。今日は何とか時間を確保した」。陣営ごとの〝塩対応〟〝神対応〟を体験できるのも選挙漫遊の魅力だ。(志賀) 大場秀樹 https://www.youtube.com/watch?v=rfJWeMjUUx8  ――県政、県土の課題についてどう認識しているか。    「短期的課題としては原発の処理水放出問題。農水産物や観光業に風評被害の影響がまだ顕著にはなっていないが、それをどう防いでいくか。長期的課題としては超少子高齢化社会の中でいかに地域を守っていくか、また高齢者が安心した生活が送れるかが大きな問題と認識しています」    ――その課題解決に向け、どのような議会活動や取り組みを展開してきたか。  「処理水放出問題としては、SNSやテレビCM等による安全性について首都圏のみならず関西圏も含めて積極的に訴えていくべきと議会で発言しています。あわせて超少子高齢化問題については、交通弱者対策の一環であるバス路線の維持、不登校児童に対する積極的な支援についても訴えかけています」    ――県執行部の動きはいかがですか。  「風評被害対策については、補正予算を組むなど積極的に向き合っていると感じていますし、評価しています。また、不登校児童やさまざまな事情を抱える子ども達に対しても、NPO法人との連携強化、相談体制の充実を図ってきており、さらに進めていくべきと考えます」    ――県議会においては、令和5年6月議会にて「フルーツラインの整備状況」について質問されました。その後の県執行部の反応はいかがですか。  「福島市にはすばらしい温泉、自慢できる果物など魅力にあふれていますが、『点』の観光のままなのは残念。フルーツラインは『点』と『点』を『線』で結び、ひいては面的な観光振興における重要な道路です。ハード面としては、通行に難がある『天戸橋(あまとばし)』の整備について、議会ではしつこく質問しています。この間、予算の執行など目に見えて動きが進んでいると感じます」 一言メモ 聴衆の大半は男性高齢者であったがみな真剣に演説を聞いていた印象。一方でそれなりの熱気は感じた。(佐々木) 高橋秀樹 https://www.youtube.com/watch?v=cDO9Ommjau8  ――県政、県土の課題は?  「物価高と燃料費高騰というのは喫緊の課題だと思っています」  ――その課題を解決するためにどのように行動しましたか?  「経済支援について、県独自の施策について要望を知事の方にさせていただきましたが、多少なりともその要望に対して実現した部分はありました。  また今、国の方では所得税の軽減についても議論されているようですが、やはりそれだければ賄いきれないだろうところがありますので、さらなる要請もしていきたいですし、県独自の新たな政策を、経済状況を見ながら、求めていきたいなと思ってます」  ――令和5年2月の代表質問で「移住定住に向けテレワーク導入に対する施策を要望」していますが。  「もうひとつの課題は人口減少です。また、それに伴う労働人口の減少が課題です。県も二地域居住などを、移住促進計画として提唱していますが、さらにメスを入れていって改善できればと考えています。相談窓口を東京の日本橋に設けて、そういった取り組みに関して厚みが出てきているとは感じています」 一言メモ 朝早い中、快く取材に応じていただき、かなり好印象。時間と場所を決めた街頭演説を予定せず、30分毎ほどに立ち止まって遊説するスタイルが印象的だった。事務所スタッフの方々も丁寧に対応してくれて、そこも好印象。いくら候補者がよくても事務所スタッフの質が微妙だと、うまくいく選挙もうまくいかないと感じた。(佐藤大) 宮本しづえ https://www.youtube.com/watch?v=E_OWLVbFn_A ――県政、県土の課題は?  「この物価高ですから、どう政治がきちんと対策をとっていくのかってことが最大の課題だと思います。  例えば、物価高で何やるかって言ったときに真っ先にやるべきなのは消費税の減税です。しかし、県の執行部は『国が決めることです』としか答えません。国が決めることだったら『国で決めてくれ』と働きかけることが大事だと思うんです。  『今の県民の暮らしどうすんのよ』っていうのはなかなか具体的には見えてこないですね」 ――令和5年9月の統括審査会の質問で「ALPS処理水について、県漁連と国・東電との約束が破られていないと県が判断した理由」を尋ねていますが。  「約束が守られないということは、民主主義に関わる重要な問題です。一つ一つの約束事が破られていったら、廃炉の安全性に対する信頼そのものに関わる問題になります。  約束事を守らせるということをしっかりやらせないと、県民が安心して暮らせるかどうかっていうことにも関わってきます」 一言メモ 聴衆のほとんどが女性だったのが印象的だった。写真撮影をするスタッフもおり、共産党というのは組織的に動ける集団なんだなと感じた。 選挙カーについて。ほかの候補者のほとんどがボックスカーをレンタカーしている中、宮本候補は共産党が自前でもっている車を使用しているのも印象に残った。 政策は給食費無料というパンチ力と分かりやすさ。 宮本候補はJR福島駅西口のイトーヨーカドー福島店前の道路で演説をしたのだが、その後、東口のこむこむで伊藤達也候補の大観衆を見たこともあり、公明党と共産党の「力の差」をまざまざと見せつけられたことが印象的だった。 取材での宮本候補の印象はとても温和な方で話しやすかった。 (佐藤大) 半沢雄助 https://www.youtube.com/watch?v=aYqbfb6CN2g  ――県議選立候補を決意した理由。  「先ほどの決意表明でお示しした通り。この間、医療従事者として勤務するとともに、労働組合活動にも注力してきた。このたび紺野長人県議の後継者に指名され、重責ではあるが責任を果たすべく、地盤(議席)をしっかり守ることが私の使命と考える」  ――県政、県土の課題について。  「人口流出問題が大きな課題と考える。解決に向け克服すべき点は多岐にわたるが、本県の維持・発展のためにも人口流出を防いでいる自治体を参考にしながら鋭意取り組む必要がある。また、医療従事者の経験から、また子を持つ親として『命と暮らし』を守りながら、次世代が住んで良かったと思えるような地域づくりや政策が重要と考える」 聴衆の大半は高齢者であったが、女性の割合が多い印象だった。新人候補ということもあり半沢候補者の初々しさもときおり感じた。(佐々木) 伊藤達也 https://www.youtube.com/watch?v=x4EDhiMTiyI  ――県政、県土の課題は? 「喫緊の課題は人口減少です。また経済面では、航空宇宙産業のモノづくり人材の育成を推進していきます。開発企業と連携して『下町ロケット』ようになっていければと思っています」  ――令和5年9月の一般質問で「公衆衛生獣医師の確保」について質問していますが。 「動物愛護施策を進める上で、獣医師の確保はとても重要です。ただ、全国的に獣医師不足で取り合いとなっており、本県も職員が不足しています。動物愛護だけではなく産業用の獣医師も必要ですし、鳥インフルなどの脅威も踏まえて、県としての獣医師確保が課題となっております。 私が県に働きかけたことで、修学資金の新しい制度をつくらせていただき、獣医学生研修として『福島県家保研修』と『獣医学生福島体験』を実施しています。引き続き県への働きかけを進めていきます」 一言メモ 30分前に会場に着いたのだが、公明党の山口代表も応援に駆けつけることもあってか、既に警察が40人ほど、公明党スタッフが30人ほど居た。メディアも毎日新聞、共同通信、福島テレビ、ほかにも居た。 聴衆がいなかったので「聴衆よりも多かったスタッフと警察」というタイトルや筋書きを考えたが、開始前に聴衆があっという間に150人ほどとなり、「公明党のネットワーク力恐るべし」と感じた。 伊藤候補の政策も「ワンイシュー」に目を向けており、動物愛護の「アニマル伊藤」、航空宇宙産業に強い「スカイ伊藤」と、わかりやすかった。 私は創価学会員ではないが、公明党のように何か物事を遂行していくためにはパワーやネットワークが必要なのかもしれないと感じた。佐藤優氏の著書『創価学会と平和主義』を読んでいたこともあり、創価学会への偏見が薄れていたのも大きい。(佐藤大) 渡辺哲也 https://www.youtube.com/watch?v=8lMxuSzHznA  ――県政、県土の課題は?  「人口減が喫緊の課題だと思っています。子育て支援や教育に注力しながら、20年、30年のスパンで、シニアの方にも元気で活躍してもらうような『まちづくり』をすすめて、次の世代につなげていくことが大事です。  高齢者の方々が元気に働ける環境を作っていくことが、人口減対策につながると思っています」  ――令和4年2月の一般質問で「市町村における犯罪被害者等支援条例制定に向け、どのように支援するか」質問しましたが。  「闇バイト事件を含めて、いつ誰がどこで巻き込まれるかわからない、そういった時代じゃないですか。  県には『安全で安心な県づくりの推進に関する条例』というものがあります。犯罪被害者支援についての文言が一文だけあったんですが、先進県や先進市町村では、見舞金の支給や加害者に代わって被害者にお金を寄付するような仕組みもあり、県は遅れをとっていました。県に『このまま何もしなければ、最後になりますよ』と訴えたら、改善に向けて動き始めました。県が動いたことで、市町村もそれに続いてくれており、要望したことが実現している実感があります」 一言メモ 飯坂温泉駅での街頭演説ということもあって、誉田候補と同様「アットホーム感」があった。 取材で事務所を訪れると、多くのスタッフが和やかにしており、雰囲気も良かった。 取材を受ける受けないでひと悶着あったのもあり、渡辺候補を勝手に「気難しい人」と決めつけていたが、会ってみるととても気さくで接しやすい方で、思い込みはいけないと感じた次第。 政策に関しても県議1期目らしい「ワンイシュー」に目を向けており、人口減や物価高などの大きな課題よりも現実的に見えて、よい印象を受けた。(佐藤大) 西山尚利 https://www.youtube.com/watch?v=jB8cE0t0Oww  ――県政、県土の課題は? 「令和5年2月の代表質問で『入札の地域の守り手育成型方式』について質問しました。入札不正の一方で、地元の建設業に災害対策をしてもらわなければなりません。あらゆるものに対する備えと発信が必要だと思っています」   一言メモ 取材を受ける受けないで事務所スタッフと揉めたが、走行ルートの集合場所に行って西山候補に話を振ると「今ここで話すよ」と気さくに応じてくれた。人柄的に「飾らず、オープン」という感じで話しやすかった。街頭演説はせず選挙カーを走らせるだけのスタイルのため、動画が短くなっている。 取材の可否のほか、走行ルートを選挙スタッフに尋ねたが、間違った情報を伝えられた。ボランティアで働いている人もいるのだろうから、企業並みの対応を期待するのは間違っているのかもしれないが、「なんだかな」と感じた。(佐藤大)

  • 【福島市】王道ラーメンと変わり種ラーメン【髙橋わな美】

     食欲を満たすだけでなく、日々進化しその多様性を楽しませてくれる国民食「ラーメン」。「擬人化キャラクター企画」という一風変わった視点でラーメン店を探求するイラストレーター髙橋わな美氏は、美味い店には店主の背景や経歴が重要な要素として影響していると語る。髙橋氏が推薦する福島市の人気店を取り上げ、各店の王道メニューと異色メニュー、そしてそれらの起源にまつわる店舗のストーリーについて紹介してもらった。 髙橋わな美 福島県伊達市出身のフリーランスイラストレーター。イラストの他にもロゴマークなどラーメン店のデザインを幅広く手掛ける。 〝ラーメン店擬人化〟プロジェクト福島ラーメン組っ!【髙橋わな美】が紹介する  福島県のラーメンと言えば喜多方・白河のご当地ラーメンの2枚看板が有名だが、実は県庁所在地である福島市もラーメン消費量が全国でも指折りの都市である事はご存知だろうか。総務省の家計調査による、全国県庁所在地「中華そばの支出額ランキング」では毎回指折りの順位に位置しており、2022年には全国ランキング6位を獲得している。  そのような大変ラーメン熱の高い都市なので、市内には老舗から新興店まで、多種多様の店舗とラーメンが存在する。その多様性に光を当て、ラーメン店の個性を「擬人化キャラクターデザイン」というアプローチで発信し続けているのが「福島ラーメン組っ!」である。運営代表でありイラストレーターの髙橋わな美氏は、震災後の風評被害の逆境にも負けず逞しく運営するラーメン店の姿に感銘を受け、2013年にこのプロジェクトを立ち上げた。  キャラクターデザインの際は必ず実店舗に足を運び、綿密な取材を重ねる。デザインには各ラーメンの特徴はもちろん、店主のポリシーやお客様の傾向、また店舗の立地やご当地要素にもアイデアが及ぶ。これらの要素が可愛らしいビジュアルやストーリーとして投影され、生み出されたキャラクター達がSNSや全国のアニメ系イベント、コミックマーケットなどを中心に広まり、福島のラーメン店のPRに一役買っている。現在協力店舗は福島県内だけにとどまらず宮城・関東、台湾にも及び約60店舗にも達している。  髙橋氏は実食の経験をもとにキャラクターデザインを行うためラーメンに対しても造詣が深く、大手ラーメン専門誌「ラーメンWalker福島」(KADOKAWA)では全国から選ばれたラーメン精通者「エリア百麺人」の福島県担当を務め、毎年コラボ企画や解説を手掛けている。  そんな髙橋氏だが、ラーメンの味と魅力は店舗により千差万別、それには店主のポリシーや経歴、開店の経緯など、それらストーリーがラーメンの味にも深く投影されており、そしてそれを理解した上で味わうのが楽しみだと語る。  今回は、髙橋氏が推薦する個性豊かな福島市のラーメン店に焦点を当て、それぞれの店の背後にあるストーリー、そしてそこから展開されている各店のラーメンを万人におすすめできる王道メニュー、そして裏テーマとして変わり種の珍しいメニューという2つのテーマで構成し、紹介いただいた。 二階堂 二階堂「如月まどか」。鉢巻や匕首を装備した対魔師。 日本料理出身店主の二面性が光る  新旧の店が多く点在するラーメン激戦区の福島市の矢野目・笹谷エリアにて、王道の支那そばをメインに提供し連日人気を博しているのが「二階堂」だ。しょうゆ・塩・味噌など味が勢揃いの支那そばの他、季節に合わせたつけ麺・坦々麺など限定麺も提供、手の込んだ盛り付けのチャーシュー丼などサイドメニューも光る一店である。平日から多くの客が集うが、丁寧な接客やオペレーションで快適に食事を楽しむことができるのも魅力的な一店だ。  そんな二階堂の店主だが、前職ではなんと日本料理で腕をふるっていた。しかしある時「ラーメン」の世界を知る。料理のアイデアや腕前に多くの人が集い列をなす、とても純粋で熱狂的な世界。それに衝撃を受け、一念発起して転向したという経歴を持つ。  メインメニューの「支那そば(しょうゆ)」は、一口すすれば淡麗ながら出汁の分厚く複雑な味わいがガツンと舌を突く。その旨味たっぷりのスープを低加水の細縮れ麺がよく吸い、口に運んでくれる。和食出身ならではの経験を活かし、丁寧にじっくりと作り込まれた絶妙なバランスが感じられる一品だ。また、初めて食べる方に店からもオススメしているのがトッピングの煮玉子。こちらは柔らかな黄身にしっかりと旨味が通っており、奥深い滋味を楽しめる。 二階堂〝支那そば(しょうゆ+煮玉子)〟  さらに同店の変わり種メニューとしておすすめしたいのが「赤そば」。こちらは店舗自家製のラー油を使用し、その名の通り真っ赤なスープが特徴で、タップリのひき肉と共に激しい辛さを楽しむ。「支那そば」とはまさに対極のラーメンだ。しかし辛さと共に、深い旨味を感じられるギリギリの調整で、こちらも店主の料理技術の高さを実感できるだろう。こちらのトッピングには「豚バラ軟骨」をオススメしたい。丼を覆う巨大なバラ肉はトロトロに煮込まれた濃厚な味わいで、その奥にある軟骨は独特の食感が楽める。 二階堂〝赤そば+豚バラ軟骨〟  「当店は何事も〝まじめ〟がモットー。しかしラーメンの世界に転向したからこそできる事、ラーメンでお客様を楽しませたり驚かせる、そんなメニューも作ってみたかった」と語る店主。2023年には開店21周年を迎えたが、日々のブラッシュアップやお客様を楽しませる展開にも余念がない。ますます多くの人に愛され、福島市の名店として活躍している。 フユツキユキト フユツキユキト「クロエ・フユツキ」。戦争とウイルスが蔓延る異世界からきた。 コロナの逆境を乗り越えて  こちらは2022年開店の新店。「麺や うから家から」の店内を夜の部時間限定で間借りで営業するというとても珍しいスタイルで営業している。店主は「冬月雪兎」のハンドルネームでSNSにて数多くのラーメン店を紹介し、その経験から自分の店を開く夢を持つようになった。しかしコロナ禍で新規出店が難しい状況で、ベテラン「うから家から」から、営業終了後の夜の部での営業の提案を受けた。「うから家から」としても、冬月氏の夢の応援、またコロナ禍で苦しむ夜の街の活性化の思いもあったそうだ。そのような経緯で「フユツキユキト」は開店、福島では目新しい都会的なラーメンや、アヴァンギャルドな限定麺も定期的に提供、ラーメン通はもちろん若者や夜の飲み客の間でも話題となり、すぐに人気店の仲間入りを果たした。  メインメニュー「ショウユ」は力強い醤油の味わいが特徴で、特製麺「麦の香」の歯ごたえも際立つ逸品。また特筆すべきは掃湯(サオタン)という中華の技法で作り出された豚清湯スープだ。豚のゲンコツと背ガラを強火で短時間で炊き上げるもので、これが抜群のコクと旨味を提供する。 フユツキユキト〝ショウユ〟  この「掃湯」は県内のラーメン店でも珍しい手法である。理想の味作りを求める中、間借り営業という特殊な条件下で短時間で仕込みを行う必要があり、偶然にもこの方法にたどり着いたと言う。店主の逆境から成功を得る才能が素晴らしい。  一方変わり種として紹介したいのが「シン・ショウユ」。オレンジ色のスープが高インパクトで、スパイシーな香りを放つ創作メニューだ。スープは濃厚で、カレーに似つつも異なる不思議な風味である。店主によれば、スープには東南アジア系の香辛料のほか、和の醤油、そしてトマトペーストを使用したイタリア風の味わいも組み合わさっているとの事で、食べれば納得、「エキゾチック」と一言で言い表わせない唯一無二の複雑な魅力に溢れている。多くのラーメンを食べ歩いてきた店主ならではの大変ユニークな一品である。 フユツキユキト〝シン・ショウユ〟 麺や うから家から 麺やうから家から「金谷川涼子」。元暴走族の養護教諭。 素材本来の旨味を探求しつづける  次に「麺や うから家から」についてご紹介したい。この店はラーメン作りにおいて「完全無添加」に徹底的にこだわる。いわゆる「うまみ調味料」を使用しないだけでなく、丼に入る全てのもの、例えばスープのタレに使用する醤油などに至るまで、原料から見定めた天然素材にこだわるのだ。そのようなとてもストイックな製法に至ったのは店主の波乱の経歴に瑞を発する。  店主は以前居酒屋を経営しており、そこで料理の傍提供していたラーメンがきっかけで専門店に転向した。店の開店当初は無添加にこだわる意識は特になかったが、ある日脳梗塞にて倒れるという出来事が起こる。闘病からの回復後、店の再開後はお客様にも健康に配慮したラーメンを提供したいという思いを抱くようになった。その頃とある東京の有名店との出会いから完全無添加のラーメン作りを知る。それに理想を見出した店主は、病気の影響で不自由が残った体を引きずりつつも素材一つ一つを探求し続け、自分の目指した完全無添加のラーメンを作り上げた。精巧に作り込まれたラーメンはそのコンセプトと共に多くの人に受け入れられた。  メインメニューの「しょうゆらーめん」は鶏と魚介の香り立つ一品。麺は3種もの国産小麦から作られた特注麺を手揉みしたもので、小麦の芳醇な香りと弾力がたまらない。分厚いチャーシューは低温調理仕立てで柔らかく、ジューシーで極上の味わいだ。スープに使うカエシを構成しているのは無添加由来の生きた「菌」であり、すなわち生物なので必ずしもコンディションが一定しない。そこを一杯一杯調整するのが難しくも、面白さでもあるという。 麺やうから家から〝しょうゆ(生姜)らーめん〟  一方変わり種として紹介したいのは、「特もやしらーめん」。ニンニクと大盛りヤサイが載ったガッツリメニュー、いわゆる「二郎系」だ。こういったラーメンの「うまみ調味料」由来の中毒性は魅力の一つだが、変わり種として特筆したい点はこちらも店の信念に漏れず完全無添加のラーメンである事だ。キレのある醤油タレとパワフルな麺、また一杯一杯丁寧に茹で上げた野菜はジャキジャキとした食感。科学調味料に頼らずとも、素材本来の旨味を目一杯に楽しめる非常に満足度の高い一杯となっている。野菜マシにも対応。ガッツリ好きにも応える、お店の懐の広さに魅了される一品だ。 麺やうから家から〝特もやしらーめん〟 らぁめん たけや たけや「竹子舞」。月から来た伝説の不良。尺八が趣味。 店を人々の思い出と出会いの場へ  最後にご紹介するのは「らぁめんたけや」。訪れればまずは小さながらも古めかしい外観、生活感に溢れた戦後の古民家のような内装に驚かされるだろう。店主はリーゼントで髪型を固め、一見ストイックな店に感じるが、地域福祉を大切にする非常にハートフルな側面があり、店の経営の傍、同志と共に福島振興のNPO法人を立ち上げるなど多彩な活動を行っている。  店主の高校時代の話に遡る。ラーメン一杯を200円で楽しめた時代、地元の老舗ラーメン店に通い、店主がそこで仲間と作った思い出がその後のルーツとなる。時が経ち、道に迷いつつもラーメンの道を志した店主だがその中で東日本大震災が発生する。当時店主は他県におり、その地で強烈な福島差別に直面したという。福島からきた家族や土産品まで激しく非難され、忌避された。心から悲しみ、そして憤慨した。「故郷を守り抜く」。この時店主は地元に戻り自分のラーメン店を開くことを固く決意した。  選んだ物件は相当な年代物だが、人が集うイメージを強烈に感じたという。店名は「竹の根のように地に広く根差す」という希望と、自分の名前から一部とり「たけや」。自分がかつて高校時代に通っていた老舗のような、福島の人々の思い出作りや出会いの場を目指し、徹底的な店づくりを行った。   高品質なラーメンと、アットホームな接客が評判になり、たけやは瞬く間に人気店となった。開店から10年が経ちさまざまな人との出会いを紡ぐうち、今は怒りも笑い話に変わったという店主。店づくりの思いは店を飛び越え、地域振興の思いとなった。幼稚園や老人ホームでラーメンを振る舞うチャリティー、地元食材を利用したコラボ商品の開発など、ラーメンを生かした様々な活動を行っている。  たけやの看板メニューはその名もストレートに「らぁめん」。6~7時間じっくり出汁を取ったスープは透明で爽やかな味わいで、鶏のコクがしっかり感じられる。丼を覆い尽くすチャーシューは食べごたえはもちろん、柔らかな口当たりに驚かされる。こちらは学生にはワンコインで提供しており、店主の学生時代の思いの投影を感じられる。 らぁめんたけや〝らぁめん〟  そして変わり種として紹介したいのが一日限定10食の「特製ちゃあしゅうらぁめん」だ。増量され丼からはみ出したチャーシューは食べ応えだけでなく、スープにどっしりとした肉の旨味を加味する。麺が見えないほどびっしりと敷き詰められたネギ・小ネギは、店名の由来でもある竹林をイメージしているとの事。また驚くべきは、これら野菜は店が独自に開墾した地元の農場で自家栽培されたものを使用されているそうだ。店主の尽きない引き出しにつくづく感服である。 らぁめんたけや〝特製ちゃあしゅうらぁめん〟 月刊「政経東北」編集部 髙橋氏の運営する福島ラーメン組っ!の公式HPには今回紹介した4店舗の他にもさまざまなラーメン店がキャラクターと共に紹介されている。ラーメンの味を楽しむだけでなく、その店のルーツを探ることで、味の独自性をさらに楽しむことができるのではないだろうか。現在は多くの店主がSNSなどで自身のルーツについて発信しており、そこから貴重な情報を得ることができる。一歩踏み込んだラーメン体験を通じ、新たな楽しみを見つけてみてはいかがだろうか。 https://twitter.com/wa_nami

  • 福島市【さくらゼミ】閉鎖の内幕

     福島市本町にある学習塾「さくらゼミ」が5月上旬に突如閉鎖し、受験の天王山である夏を前に塾生たちは行き場を失った。1年分の受講料を既に払った塾生もおり、返済が必要な額は500万円にのぼる。運営会社社長は保護者への「謝罪の会」で時期は明言しなかったが全額返金する方針を示した。業界関係者は、塾生を集める算段が付かず経営難に陥り、従業員も見切りを付けたのでは、と話す。 「社会保険未加入」で去っていった講師たち  福島市の学習塾「さくらゼミ」の閉鎖は6月16日付の福島民報が最初に報じた。 《福島市中心部の学習塾が年間受講料などを徴収しながら5月上旬以降、受講生に告知せず授業を中断していることが15日までの関係者への取材で分かった。保護者は受講料返還を求める集団訴訟なども視野に、法的手続きを検討している》 さくらゼミのことだ。同記事によると、塾には小中高生約30人が在籍し、多くは1年分の受講料を一括で納めて今年度の授業を受ける予定だった。4月中はオンラインも交えて授業があったが、5月の大型連休明けから大方の生徒に事情が説明されないまま授業が打ち切られたという。 さくらゼミの元従業員Aさんが語る。 「さくらゼミは仙台市を拠点にする学習塾で教えていた佐藤団氏の個人事業として始まりました。3年前に会社組織を立ち上げ、運営がスタートしました」 法人登記簿によると、さくらゼミを運営するのは「株式会社SAKURA BLACKS」。2020年1月29日設立。事業目的には、①学習塾の経営、②速読、読解力向上の為の学習指導、③語学、資格取得に関する学習指導、④教材用図書の出版がある。代表取締役は佐藤団氏。 佐藤氏は市内で保護者向けに説明会を開いた。6月25日付の福島民友が詳しい。 《福島市の学習塾が受講料を徴収後、説明や返金もないまま事業を停止している問題で、経営者の男性は24日、同市で説明会を開き、受講料の返済が必要な人が約40人おり、総額が約500万円に上ると明らかにした》 男性とは佐藤氏のこと。同記事によると、佐藤氏は弁護士を通じて全額返金する意向を示したが、具体的な時期は明言しなかったという。佐藤氏の話として、塾は昨年12月の段階で経営難だったと伝えている。 前出のAさんが続ける。 「経営に関し、おかしいと思う部分はありました。私は従業員として授業を教えていましたが、一切、社会保険には入れてもらえなかった。佐藤氏は『お金がない』の一点張りでした。最盛期はアルバイトも含めると最大10人くらいいましたが、徐々に辞めていきましたね。私は以前、佐藤氏と一緒の塾に勤めていた同僚で、佐藤氏から『新しい塾をつくろう』と誘われてさくらゼミに参加しました。そういう事情もあって塾生たちに責任を感じ、限界まで残るつもりでしたが、昨年の夏にもう付いていけないと辞めることを決めました。高校受験生に悪影響が及ばないよう、今年2月まで授業を続け退職しました」 現在、さくらゼミのホームページの講師紹介は、佐藤氏の顔写真しか載っていない。過去のホームページをたどると、佐藤氏の担当教科は国語、英語、社会。Aさんによると、塾の従業員がAさん1人になった後は、佐藤氏が算数・数学と理科も教え、状況によっては配信授業を活用する予定だったという。 学習塾業界関係者Bさんの話。 「塾関係者の間では、佐藤氏よりもAさんの方がベテラン講師として実績があり、児童・生徒、保護者から人気がありました。さくらゼミのロゴである桜の花びらのデザインはAさんが以前経営していた学習塾のものと同じで、ノウハウも業界関係者から見れば類似点が多い。Aさんは今春から福島市内で新たに学習塾を開いています。Aさんはさくらゼミでは一従業員の立場に過ぎなかったのかもしれないが、関係性の深さを見ていくと『責任はなかった』では済まされない気がします」 筆者はAさんにこの話を伝え「業界関係者の中にはAさんが佐藤氏を表に立て、裏でさくらゼミを仕切っていたのではないかと疑う人がいるようだ」と問うたが、Aさんは「それはありません」と否定した。 「佐藤氏と一緒にさくらゼミを始めたメンバーは私以外にもいます。仕切るどころか、社会保険に入れてもらえないなどのトラブルがあり、結局全員辞めてしまいましたが」(Aさん) そして、疲れた声でこう続けた。 「むしろ私は、佐藤氏に悪者に仕立て上げられ困っているんです」 どういうことか。 「佐藤氏は私が辞める際、『塾生には何も言わず黙って辞めてくれ』と言い、私はそれに従いました。保護者から後で聞いた話ですが、佐藤氏は保護者・塾生との面談で『Aは勝手に辞めていった』と言ったそうです」(同) どのような意図があったのか。実は、Aさんはさくらゼミを辞める時点で新しい塾を開く予定だった。そのため「佐藤氏は塾生を取られることを恐れ、私が勝手に辞めたと事実と異なる説明をして、塾生に『Aに裏切られた』と思わせる狙いがあったのではないか」(同)。 佐藤氏は配信授業を活用するなどして塾生が1人になっても事業を継続する意向だったが、5月上旬に突如閉鎖して以降は再開した様子はない。7月下旬、筆者は福島市本町にあるさくらゼミが入居していたビルを訪れたが、看板が残っているだけだった。新しいテナントも入っていない。 佐藤氏はさくらゼミの閉鎖から1カ月以上経った6月24日、保護者向けに「謝罪の会」を開いたが、開催は保護者に執拗にせがまれてのことだったという。佐藤氏は保護者に、健康状態の悪化や資金繰りに困っていたことから閉鎖の連絡が遅れてしまったと釈明した。 塾生確保が困難か  前出のBさんが語る。 「佐藤氏が教えられるのは英語などの文系科目だけだったという時点で、他の講師が辞めたら閉鎖は避けられませんでした。受験の天王山と言われる夏を控える中、説明もなく突如閉鎖し、在籍していた塾生の引き受け先も確保しなかったため問題となりました。福島県は大学進学率が低いことから、学習塾にとっては高校受験を控える中学3年生が主な顧客です。塾は2月に現中学2年生の人数を見て、次年度の計画を立てます。毎年、新中学3年生の獲得に力を入れなければならない。次年度の経営状況は春には予想がつくと言っていい。報道によると、閉鎖時に小中高生が30~40人在籍していたとあったが、さくらゼミの規模だと60~70人はいないと黒字にならない。Aさんたち講師陣は、かねてから社会保険を未加入にされていた上、塾生の確保も難しいとあきらめ、見切りを付けたのではないか」 授業が行えず、塾生を集められない以上、さくらゼミの運営会社は、塾生たちに先に徴収した授業料を返還したうえで破産するのが現実的だろう。 佐藤氏はいま何を思うのか。筆者は7月平日の昼に福島市内にある自宅を訪ねたが、車はなく、家族によると「不在」とのこと。債権者への責任を果たすため、金策に走っていることを願う。 あわせて読みたい 【家庭教師のコーソー倒産】少子化で苦境に立つ教育関連業者

  • 【福島市】メガソーラー事業者の素顔

     福島市西部で進むメガソーラー計画の関係者が、思わぬ形で週刊誌に取り上げられた。中国系企業「上海電力日本」が発電所を整備する際、必ず関わっている人物なのだという。予定地の周辺住民は不安を口にしている。 週刊新潮が報じた「上海電力」との関係  本誌昨年12月号で「福島市西部で進むメガソーラー計画の余波」という記事を掲載した。同市西部の福島西工業団地近くの土地を太陽光発電事業者が狙っているというもの。 最初に浮上したのは、福島先達山太陽光発電事業の事業者による変電所計画。しばらくして立ち消えになったが、別の発電事業者がすぐそばの民有地を取得し、開閉所の設置を予定していることが分かった。 《発電事業者は合同会社開発72号(東京都)で、福島市桜本地区であづま小富士第2太陽光発電事業を進めている。営農事業者は営農法人マルナカファーム(=丸中建設の関連会社、二本松市)。開閉所を含む発電設備の建設、運転期間中の保守・維持管理はシャープエネルギーソリューション(=シャープの関連会社、大阪府八尾市)が請け負う。 発電所の敷地面積は約70㌶で、営農型太陽光発電を行う。最大出力約4万6000㌔㍗。今年7月に着工し、2024年3月に完工予定となっている。事業期間は約16年。 開閉所は20㍍×15㍍の敷地に建設される。変圧器や昇圧器は併設しないため、恒常的に音が出続けるようなことはないという。発電所から開閉所までは特別高圧送電線のケーブルを地下埋設してつなぐ》(本誌昨年12月号記事より) ところが、これらの計画について発電事業者側がおざなりな説明で一方的に進めようとしたため、周辺住民が反発。 開閉所につなぐ送電線は直前で地下から地上に出し、近くにある鉄塔から農地をまたぐ電線に接続する計画となっている。そのため、生活空間への影響を懸念する地権者や住民が計画変更を求めたが、開発72号は一度計画変更すると固定価格買い取り制度(FIT)の権利が失われることから応じなかった。 そこで、地元町内会は資源エネルギー庁に対し、3月28日付で、発電事業者への指導を求める125人分の要望署名を提出した。 そうした中で、さらに住民の不信感を増幅させる出来事があった。発電事業者である開発72号の代表者・戸谷英之氏と執行社員・石川公大氏が、『週刊新潮』が掲載した「上海電力」関連記事の中で繰り返し登場していたのだ。 上海電力(正式名称・上海電力股份有限公司)は、中国の国有発電会社「国家電力投資集団」の傘下企業で、石炭火力発電を中心にガス、風力、太陽光発電を手掛けている。 日本法人の上海電力日本(東京都千代田区、施伯红代表)は2013年9月に設立され、日本でのグリーンエネルギー(太陽光・太陽熱、風力、水力等)発電事業への投資、開発、建設、運営、メンテナンス、管理、電気の供給及び販売に関する事業を展開している。中国資本企業ではあるが、2015年8月に経団連に加入している。 『週刊新潮』の記事は、上海電力日本の子会社によるメガソーラーが山口県岩国市の海上自衛隊岩国航空基地の近くに整備されていることに触れたうえで、中国政府に近い企業に基幹インフラ事業を任せる危うさを指摘する内容だった(『週刊新潮』10月27日号)。 『週刊新潮』の記事  上海電力が進出する際の手口は、「合同会社」の転売を繰り返すというものだが、そこに出てくるのが前出・戸谷氏だ。 不動産登記簿によると、2020年12月28日、SBI証券が同発電所の土地に根抵当権を設定した。債務者はRSM清和コンサルティング内に事務所を構える合同会社開発77号。この会社の代表社員が戸谷英之氏だ。記事によると、RSM清和監査法人の代表社員である戸谷英之氏と同姓同名だという。 メガソーラー発電事業者・合同会社東日本ソーラー13には当初、一般社団法人開発77号(合同会社77号の親会社)が加入していたが、同年9月9日、合同会社SMW九州が合同会社東日本ソーラーに加入し、入れ替わるように一般社団法人77号が退社した。この合同会社SMW九州の現在の代表者は施伯红氏。上海電力日本の代表取締役だ。 要するに、戸谷氏の会社が、上海電力日本の進出の手引き役になっていると指摘しているわけ。 『週刊新潮』今年5月18日号では、北海道の航空自衛隊当別分屯基地に近い石狩市厚田区で進められている風力発電計画においても、全く同じスキームが採用されていることが報じられており、戸谷氏のほか、石川氏の名前も出てくる。 本誌2021年4月号で、宮城県丸森耕野地区でメガソーラー計画に対する反対運動が展開されたことをリポートした。用地交渉担当の事業統括会社社長が住民の賛同を広げるため行政区長に金を渡そうとしたとして、贈賄容疑で逮捕された経緯があったが、ここで事業者となっている合同会社開発65号の代表者も戸谷氏だった。 今年に入ってからは宮城県登米市に建設が予定されていたバイオガス発電所計画をめぐり、事業者が経産省に提出していた食品メーカーとの覚書を偽造していたことが発覚し、計画中止となった。事業者・合同会社開発73号の代表者は戸谷氏だ。 根強い地元住民の不信感 開閉所予定地  これらの会社の電話番号はアール・エス・アセットマネジメント(東京都)というエネルギーファンドの資産運用管理会社と同じ番号で、関連会社だと思われる。上海電力日本との関係は判然としないが、ずさんな計画に関わっていたのは確かだ。 たたでさえ、地元住民はメガソーラーやその関連設備が整備されることで、自然環境維持や防災などの面で影響を受けないか、不安視しているのに、投機目的丸出しのペーパーカンパニーでは不安が募るばかり。だからこそ、福島市桜本地区の住民も反対しているのだ。 地元住民が反対していることについてどう受け止めているのか、開発72号に連絡したが、期日までに返答はなかった。 地元町内会の代表者は「発電事業所は10年ほど前に権利を取得し、1㌔㍗36円という高い金額で売電できるので、住民の反対を押し切ってでも期限のうちに計画を進めたいのだと思います。そうした意向を受けてか、発電設備の建設を担うシャープエネルギーソリューションも地元住民の反対を押し切り、すでに工事に着手している。彼らは『地元住民に話をすればそれで了承を得た』と思っている節があります。農地への地上権設定にあっさり許可を出した市(木幡浩市長)にも、住民として協力できない意向を示す反対署名を提出する予定です」と語る。 地元住民の不信感は相当強い状況。過去の事例のように開発72号は上海電力日本など他社に売却する狙いがあるのか。同地区の住民ならず、その動向を注視しておく必要がある。

  • 土湯温泉「向瀧」新経営者が明かす〝勝算〟

     2021年2月の福島県沖地震で損壊した福島市・土湯温泉の「ホテル向瀧」が新ホテルを建設する。前身の「向瀧」から数えて創業100年になる同ホテルは、20年8月に経営者が代わり再スタートを切った。厳しい経済状況の中、コロナ禍の影響を大きく受けたホテル業界に進出し、新施設まで建設する経営者とはどのような人物なのか。(佐藤仁) 巨額借入で高級ホテルを建設 ホテル向瀧の建設予定地  新型コロナの感染拡大でここ数年、閑散としていた土湯温泉。だが、今年の大型連休は違った。 「どの旅館・ホテルも5月5日くらいまで満館でした。様相は明らかに変わったと思います」(土湯温泉観光協会の職員) 職員によると、今年は例年より暖かくなるのが早かったこともあってか、3月ごろから目に見えて人出が増えていたという。 国の全国旅行支援に加え、新型コロナが徐々に落ち着き、5月8日からは感染症法上の位置付けが2類相当から5類に引き下げられた。行動制限があった昨年までと違い、今年の大型連休はどの観光地も大勢の人で賑わいをみせた。 そうした中、土湯温泉では今、新しいホテルの建設が始まろうとしている。筆者が現地を訪ねた5月9日にはまだ着工していなかったが、今号が店頭に並ぶころには資機材が運び込まれ、作業員や重機の動く様子が見られるはずだ。 4月13日付の地元紙には、現地で行われた地鎮祭を報じる記事が掲載された。以下は福島民報より。 《福島市の土湯温泉ホテル向瀧の地鎮祭は12日、現地で行われ、関係者が工事の安全を祈願した。2021(令和3)年2月の本県沖地震で被災したため建て替える。2024年3月末の完成、同年の大型連休前の開業を目指す。 新ホテルは2022年にオープン予定だったが、世界的な資材不足の影響などで開業計画と建物の設計変更を余儀なくされた。新設計は鉄骨造り5階建て、延べ床面積は2071平方㍍。客室は9部屋で、全室に源泉かけ流しの露天風呂を完備する。向瀧グループが運営する。 式には約20人が出席した。神事を行い、向瀧グループホテル向瀧・ワールドサポート代表の菅藤真利さんがくわ入れした》 現地に立つ看板によると「ホテル向瀧」は当初、敷地面積2730平方㍍、建築面積720平方㍍、延べ面積3520平方㍍、7階建て、高さ33㍍だったが、民報の記事中にある「設計変更」で実際の建物はこれより一回り小さくなる模様。設計は㈲フォルム設計(福島市)、施工は金田建設㈱(郡山市)が請け負う。 ホテル向瀧は、もともと「向瀧」という名称で営業していた。法人の㈱向瀧旅館は1923年創業、61年法人化の老舗だが、2011年の東日本大震災で建物が大規模半壊、1年8カ月にわたり休館したことに加え、原発事故の風評被害で経営危機に陥った。その後、インバウンドで福島空港のチャーター便が増加すると、タイからの観光客受け入れルートを確立。ところが、回復しつつあった矢先に新型コロナに見舞われ、外国人観光客は途絶えた。 向瀧旅館の佐久間智啓社長は、震災被害は国のグループ補助金を活用したり、金融機関の協力を得るなどして乗り越えた。だが、新型コロナに襲われると、収束時期が不透明で売り上げ回復も見通せないとして、更に借金を重ねる気力を持てなかった。コロナ前に起きた令和元年東日本台風による被害と消費税増税も、佐久間社長の再建への気持ちを萎えさせた。 向瀧旅館の業績 売上高当期純利益2015年4億円――2016年4億8900万円▲100万円2017年4億5900万円2900万円2018年4億6800万円1600万円2019年4億6500万円――※決算期は3月。―は不明。▲は赤字。  今から3年前、向瀧は「2020年3月31日から5月1日までの間、休館と致します」とホームページ等で発表すると、5月2日以降も営業を再開しなかった。 そんな向瀧に転機が訪れたのは同年8月。福島市のワールドサポート合同会社が経営を引き継ぎ、「ホテル向瀧」と名称を変えて営業を再開させたのだ。 法人登記簿によると、ワールドサポートは2015年設立。資本金10万円。代表社員は菅藤真利氏。主な事業目的は①ホテル事業、②レストラン事業、③輸出入貿易業、輸入商品の販売並びに仲介業、④電子製品の製造、販売および輸出入並びに仲介業、⑤企業の海外事業進出に関するコンサルタント業、⑥機器校正メンテナンス業、⑦測定器の研究、開発、製造および販売――等々、多岐に渡る。 ワールドサポートの業績 売上高当期純利益2018年400万円――2019年700万円4万円2020年2700万円▲1400万円2021年1億0600万円――2022年2000万円――※決算期は3月。―は不明。▲は赤字。  創業100年の老舗旅館を、設立10年にも満たない会社が引き継いだのは興味深い。ワールドサポートとはどんな会社で、代表の菅藤氏とは何者なのか。 好調な中国のレストラン イラストはイメージ  菅藤氏はホテル業や運送業、保険業などに携わった後、中国で起業したが、その直後に東日本大震災が起こり、2011年9月、福島市内に放射線測定器を扱う会社を興した。だが、同社が県から委託されて設置したモニタリングポストに不具合が生じたとして、県は契約を解除。一方、別会社が菅藤氏の会社から測定器を納入し、県生活環境部が行う入札に参加を申し込んだところ、測定器が規定を満たしていないとして入札に参加できなかったが、県保健福祉部が行った入札では問題ないとして落札できた。そのため、この会社と菅藤氏は「測定器の性能に問題はなかった」と県の第三者委員会に苦情を申し立てた経緯があった。 その後、菅藤氏は測定器の会社を辞め、親族と共に中国・大連市に出店した日本食レストラン(3店)の経営に専念。このころ、父親を代表社員とするワールドサポートを設立し、レストラン経営に対するコンサルタント料として同社に年数百万円を支払っていた。 2019年にはワールドサポートでも飲食店経営に乗り出し、福島市内に洋食店を出店した。ところが翌年、新型コロナが発生し、洋食店はオープン数カ月で休業を余儀なくされた。ただ、中国の日本食レストランはコロナ禍でも100人近い従業員を雇うなど、黒字経営で推移していたようだ。 菅藤氏の知人はこう話す。 「菅藤氏の日本食レストランは中国のハイクラス層をターゲットにしており、新型コロナの影響に左右されることなく着実に売り上げを上げていました。あるきっかけで店を訪れたモンゴル大使館の関係者は『とても素晴らしい店だ』と気に入り、菅藤氏に『同じタイプのレストランをモンゴルに出したいので手伝ってほしい』と依頼。菅藤氏はコンサルとして出店に協力しています」 ワールドサポートに「向瀧の経営を引き継がないか」という話が持ち込まれたのは洋食店が休業に入るころだった。もともとホテル経営に関心を持っていた菅藤氏に、前出・向瀧旅館の佐久間社長と代理人弁護士が打診した。 この知人によると、法人(ワールドサポート)としてはホテル経営の実績はなかったが、菅藤氏は元ホテルマンで、休業していた洋食店の従業員にも元ホテルマンが多く、個々にホテル経営のノウハウを持ち合わせていたという。実際、同社がホテル向瀧として2020年8月から営業を再開させた際、総支配人に据えたのは、2019年に閉館したホテル辰巳屋で支配人・社長を務めた佐久間真一氏だった。 本誌は3年前、ワールドサポートに経営が切り替わるタイミングでホテル幹部を取材したが、向瀧旅館から引き継ぐ条件として▽負債は佐久間社長が負う、▽不動産に付いている金融機関の担保も佐久間社長の責任で外す、▽身綺麗になった後、運営会社を向瀧旅館からワールドサポートに切り替える、▽それまではワールドサポートが向瀧旅館から不動産を賃借して運営する――等々がまとまったため、営業を再開したことを明かしてくれた。 ワールドサポートは向瀧旅館の従業員を再雇用することにもこだわった。現場を知る人が一人でも多い方が再開後の運営はスムーズだし、コロナ禍で景気が冷え込む中では、従業員にとっても失業を回避できるのはありがたい。希望する従業員は全員再雇用した。ただし早期再建を図るため、給料は再雇用前よりカットすることで納得してもらった。従業員に給料カットを強いる以上は、役員報酬も大幅カットした。 また、休業していた洋食店は撤退を決め、新たにホテル向瀧のラウンジに入居させて再スタートを切った。 不動産登記簿を見ると、向瀧旅館の佐久間社長はワールドサポートとの約束を着実に履行した形跡がうかがえる。 ホテル向瀧の土地建物には別掲の担保が設定されていたが(債務者は全て向瀧旅館)、これらは2021年3月末までに解除された。 根抵当権1980年12月設定極度額6000万円、根抵当権者・福島信金根抵当権1990年5月設定極度額13億円、根抵当権者・みずほ銀行根抵当権1994年5月設定極度額1億5000万円、根抵当権者・みずほ銀行根抵当権1994年5月設定極度額1億2000万円、根抵当権者・みずほ銀行根抵当権1994年5月設定極度額1億2000万円、根抵当権者・福島信金抵当権1994年6月設定債権額3億円、抵当権者・日本政策金融公庫抵当権1998年3月設定債権額1億円、抵当権者・日本政策金融公庫抵当権2013年9月設定債権額8100万円、抵当権者・福島県産業振興センター※上記担保は2021年3月末までに全て解除されている。  同年6月、向瀧旅館は商号を㈱MT企画に変更。3カ月後の同年9月1日、5億6800万円の負債を抱え、福島地裁から破産手続き開始決定を受けた。同社はワールドサポートから家賃収入を得ていたが、全ての担保が解除されたと同時に土地建物をワールドサポートに売却した。 20億円の借り入れ  この時点でMT企画・佐久間社長はホテル向瀧とは一切関係がなくなったが、その後も「何らかのつながりがあるのではないか」と見る向きがあったのか、ワールドサポートでは同ホテルのHPで次のような注意喚起を行っていた。 《ホテル向瀧は、株式会社向瀧旅館・土湯温泉向瀧旅館および株式会社MT企画とは一切関係ありませんので、ご注意下さいますようお願いいたします》 そんなワールドサポートも順風な経営とはいかなかった。土地建物が自社名義になる直前の2021年2月に福島県沖地震が発生。震災に続きホテルは大規模半壊し、休館せざるを得なかった。 菅藤氏は建て替えを決断し、金策に奔走した。その結果、2022年3月に三井住友銀行をアレンジャー兼エージェント、福島銀行、足利銀行、商工中金を参加者とする20億3500万円のシンジケートローンが締結された。だが、冒頭・民報の記事にもあるように、世界的な資材不足の影響で計画・設計の変更を迫られるなどスムーズな建て替えとはいかなかった。 ちなみに、かつての向瀧は10階建て、延べ床面積1万0600平方㍍、客室は71室あった。これに対し、新ホテルは5階建て、延べ床面積2070平方㍍、客室は9室なので、団体客は意識せず、コロナ禍で進んだ個人・少人数の旅行客を受け入れようという狙いが見て取れる。 ホテル向瀧が休館―解体―新築となる一方で、菅藤氏は同ホテルから徒歩5分の場所にあった保養施設の改修にも乗り出していた。 閉館から年月が経っていた「旧キヤノン土湯荘」を2021年6月、ワールドサポートの関連会社㈱WIC(福島市、2021年設立、資本金400万円、菅藤江未社長)が取得すると、改修工事を施し、今年3月から「向瀧別館 瀧の音」という名称で営業を始めた。土地建物はWIC名義だが、運営はワールドサポートが行っている。 3月にオープンした瀧の音  ここまでワールドサポートと菅藤氏について触れたが、巨額の売り上げを上げているわけでもなく、洋食店も始まった直後に新型コロナで休業し、ホテル経営も実績がない。そんな同社(菅藤氏)が、なぜ20億円ものシンジケートローンを組むことができたのか、なぜホテル向瀧だけでなく別館まで手を広げることができたのか、正直ナゾが多い。 事実、他の温泉地の旅館・ホテルからは「バックに有力スポンサーが付いているのではないか」「中国資本が入っているのではないか」という憶測も聞こえてくる。 実際はどうなのか、菅藤氏に直接会って話を聞いた。 菅藤氏が描く戦略 イラストはイメージ  向瀧旅館から経営を引き継ぎ、2020年8月に営業許可を受けた菅藤氏は、71室あった客室を15室だけ稼働させ、限られた経営資源を集中投下した。 「まず『旅館』から『ホテル』にしたことで、仲居さんが不要になります。かつての向瀧を知るお客さんからは『部屋まで荷物を運んでくれないのか』『お茶を出してくれないのか』と言われましたが『ホテルに変わったので、そういうサービスはしていません』と。そうやって、まずは労働力・人件費を細部に渡りカットしていきました」(菅藤氏、以下断わりがない限り同) 休業していた洋食店をホテル内に入居させたことも奏功した。 「もともと腕利きの料理人を複数抱えていたので、ホテルの夕食は和食かフレンチをチョイスできる仕組みにしました。そうすることで、例えば夫婦で泊まった場合、旦那さんは和食で日本酒、奥さんはフレンチでワインが楽しめると同時に、翌日は逆のチョイスをしてみようと連泊してくださるお客さんが増えていきました」 連泊すると、宿泊客は部屋の掃除を遠慮するケースが多い。そうなるとリネンを交換する必要もなく、その分、経費は浮くことになる。 「旅館では当たり前の布団を敷くサービスも廃止し、お客さんに敷いてもらうようにして、代わりに1000円キャッシュバックのサービスを行いました。その結果、1000円がお土産代などに回る好循環につながりました」 従業員は十数人なので、15部屋が満室になったとしても満足なサービスを提供できる。そうやって今までかかっていた経費を抑えつつ、限られた人数で一定の稼働率を維持したことで、営業再開当初から単月の売り上げは二千数百万円、利益は数百万円を上げることに成功した。 ところが前述した通り、2021年2月の福島県沖地震で建物は大規模半壊。休館―解体を余儀なくされた中、菅藤氏が頭を悩ませたのは従業員の雇用維持だった。 考えたのは、新ホテルの開設準備室として使っていた前出・旧キヤノン土湯荘をホテルとして再生させ、新ホテルがオープンするまで従業員に働いてもらうことだった。 「もともと保養所だったので、風呂とトイレは各部屋になく、フロアごとに設置されていました。ここをリニューアルすれば、学生の合宿に使い勝手が良い施設になるのではと考え、リーズナブルな料金設定にして営業を始めました」 建物は2021年に続き22年3月の福島県沖地震でダメージを受けていたため、リニューアルは簡単ではなかったが、今年3月に瀧の音としてオープン以降は従業員の雇用の場になると共に、新たな宿泊層を呼び込むきっかけにもなった。 「今年の大型連休は、県内外の中学・高校生に大会の宿舎として利用していただきました。ダンススクールの子どもたちの合宿もあり、4連泊と長期宿泊もみられました。客室は9室と少ないので、サービスが滞る心配もありません」 今後は各部屋にユニットバスとトイレを設置し、使い勝手の向上を図る予定だという。 新型コロナが収束していない中、2軒目の経営に乗り出すとは驚きだが、気になるのは、新ホテルを建設し、徒歩5分のエリアに別館もオープンさせて足の引っ張り合いにならないのかということだ。 「新ホテルはインバウンドや首都圏のお客さんをターゲットに、瀧の音とは全く異なる料金プランを設定する予定です。稼働率も25%程度を想定しています」 要するに、新ホテルは高級路線を打ち出し、別館とは住み分けを図る狙いだ。今後、別館のリニューアル(ユニットバスとトイレの設置)を行うのは、今まで向瀧を訪れていた地元の人たちが高級ホテルに宿泊するとは考えにくいため、合宿以外の地元利用につなげたい考えがあるのだろう。 それにしても驚くのは25%という稼働率の低さだ。旅館・ホテルは稼働率60~70%が損益分岐点と聞くが、25%で黒字に持っていくことは可能なのか。 「例えば客室が100室あって稼働率25%では、空きが75室になるので赤字です。だが、新ホテルは9室なので25%ということは2部屋稼働させればいい。大きな旅館・ホテルは、春秋の観光シーズンや夏休みは一定の入り込みが見込めるが、シーズンオフは企画を立てたり、料金を下げても稼働率を維持するのは容易ではない。しかし、お客さんのターゲットを明確に絞り、全体で9室しかなければ、観光シーズンか否かに左右されず一定の稼働率を維持できると考えています。ましてや最初から25%と低く設定し、それで黒字になるなら、ハードルは決して高くないと思います」 新ホテルに明確なコンセプトを持たせつつ、別館は学生や地元客の利用を意識するという菅藤氏のしたたかな戦略が見て取れる。 「ホテル管理システムも、スマホで予約や決済が可能な最新のものを導入しようと準備を進めています。削る部分は削るが、かける部分はかけるというのも菅藤氏の戦略なのでしょう」(前出・菅藤氏の知人) 見えない信用力  それでも記者が「厳しい経済状況の中、高級路線のホテルは需要があるのか」と意地悪い質問をすると、菅藤氏はこう断言した。 「あります。首都圏では某有名ホテルチェーンで1泊数万円でも連日予約が埋まっているし、有名観光地では1泊1食付きで数十万~100万円の旅館・ホテルの人気が高い。地方の温泉地でも知恵を絞り、魅力的なサービスを打ち出せば外国人旅行者や首都圏の富裕層に関心を持ってもらえると思います」 このように戦略の一端が見えた一方、やはり気になるのは金策だ。三井住友銀行によるシンジケートローンは前述したが、失礼ながら事業実績に乏しいワールドサポートに巨額融資を受ける信用があるようには見えない。その点を菅藤氏に率直に尋ねると、こんな答えが返ってきた。 「最初、地元金融機関に融資を申し込んだところ、事業計画を吟味することなく『当行は静観します』と断られました。その後、紆余曲折があり三井住友銀行さんに行き着いたが、同行は事業計画をしっかり評価してくれました。同行はグループ会社でホテル経営をしており、五つ星ホテルもあるから、ホテル向瀧のコンセプトにも理解を示してくれたのだと思います。『婚礼はやらない方がいい』など具体的なアドバイスもしてくれました」 とはいえ、事業計画がいくら立派でも、信用面はどうやって評価してもらったのか。 「中国の日本食レストランはオープン9年になるが、その業績と資産価値を高く評価してもらいました。三井住友銀行さんに現地法人があったことが、正確な評価につながったのでしょう。融資を断られた地元金融機関は現地法人もなければ支店・営業所もないので、(日本食レストランを)評価しようがなかったのかもしれません」 記者が「バックに有力スポンサーがいるとか、中国資本が入っていると見る向きもあるが」とさらに突っ込んで聞くと、菅藤氏はきっぱりと言い切った。 「仮に有力スポンサーが付いていたとしても、ワールドサポートと実際の資本関係がなければ銀行は信用力が上がったとは見なさない。しかし登記簿謄本を見てお分かりのように、当社は資本金10万円の会社ですから、スポンサーとの資本関係はありません。中国資本についても同様です」 スポンサー説や中国資本説はあくまでウワサに過ぎないようだ。 これについては前出・菅藤氏の知人もこう補足する。 「菅藤氏の周囲には数人のブレーンがいて、これまでも彼らと知恵を出し合いながら事業を進めてきた。ホテル経営に当たっても資金づくりが注目されているが、私が感心したのは様々な補助金を駆使していることです。一口に補助金と言うが、実は省庁ごとに細かい補助金がいくつもあり、その中から自分の事業に使えるものを探すのは簡単ではない。それを、菅藤氏はブレーンと適宜見つけ出しては本館・別館の改修に充てていたのです」 地方の温泉旅館で富裕層を狙う戦略が奏功するのか、急速な事業拡大は行き詰まりも早いのではないか、巨額融資を受けられた別の理由があるのではないか――等々、お節介な心配は挙げれば尽きないが、今後、ワールドサポート・菅藤氏のお手並みを拝見したい。 「別の仕掛け」も検討!?  ワールドサポートでは向瀧旅館と取り引きしていた仕入れ先から引き続き食材等を調達しているが、当初は現金払いを求められたという。向瀧旅館が再三休館し、最後は破産したわけだから、ワールドサポートも信用面を疑われるのは仕方がなかった。だが、再開当初から経営が軌道に乗り、シンジケートローンが決まると「月末締めの翌月払い」に変更されたという。同社が仕入れ先から信用を得られた瞬間だった。 「向瀧旅館(MT企画)が破産したことで、仕入れ先の債権(買掛金など)がどのように処理されたのかは分かりません。当社としては仕入れ先に迷惑をかけず、地元企業にお金が回るようホテルを経営していくだけです」(菅藤氏) その点で言うと、もし地元金融機関から融資を受けられれば施工は福島市の建設会社に依頼する予定だったが、融資を断られたため、三井住友銀行の紹介で接点ができた前述・金田建設に依頼した。菅藤氏は「今後も可能な限り地元企業にお金が回るようにしたい」と話している。 建設中の新ホテルは来年3月末に完成し、大型連休前のオープンを目指しているが、災害時には避難所として利用できるよう福島市と協定を締結している。瀧の音をオープンさせた狙いの一つ「地元貢献」を新ホテルでも果たしつつ、 「菅藤氏は更に『別の仕掛け』も考えており、これが成功すれば低迷する各地の温泉地を再生させるモデルケースになるのでは」(前出・菅藤氏の知人) というから、本誌の取材には明かしていない構想が菅藤氏の念頭にはあるのだろう。 昨年創業100年を迎えたホテル向瀧がどのように生まれ変わり、菅藤氏が描く「仕掛け」が土湯温泉全体にどのような影響をもたらすのか、注目点は尽きない。 あわせて読みたい 芦ノ牧温泉【丸峰観光ホテル】民事再生を阻む諸課題【会津若松市】 飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」 【石川町】焼失ホテルが直面する複合苦

  • 福島駅「東西一体化構想」に無関心な木幡市長

    (2022年8月号)  JR福島駅と言えば、東口で進められている駅前再開発事業が思い浮かぶが、経済界を中心に東西エリアの一体化に向けた協議が行われていることはあまり知られていない。その一体化に伴って必要になるのが、同駅の連続立体交差だ。連続立体交差は巨額の費用と長い年月を要し、実現は簡単ではないが、災害時に西口から東口(あるいはその逆)への避難ルートがほとんどない現状を踏まえると「市民の命を守るため、実現に向け真剣に検討すべき」という声がある。 実現目指す地元経済界との間に〝隙間風〟 https://www.youtube.com/watch?v=hCXjFyJGVqE 福島駅前再開発へ ビル解体に向けた地鎮祭 賑わい創出の新たなランドマークの全容とは<福島県> (22/07/04 19:35)  2022年7月4日、福島駅東口の駅前再開発事業で、既存の建物を取り壊す解体安全祈願祭が現地で行われた。祈願祭には市や商工関係者など約50人が出席。福島駅東口地区市街地再開発組合の加藤真司理事長、ふくしま未来研究会の佐藤勝三代表理事、木幡浩市長らが玉串をささげた。加藤理事長は「安全最優先で工事を進める」、木幡市長は「完成後は官民一体で中心市街地の賑わい創出に取り組みたい」と挨拶した。  施工者である同組合のホームページによると《福島駅東口地区市街地再開発事業は再々開発事業で、昭和46年~48年度に市街地再開発事業(辰巳屋ビル・平和ビル)により実施された地区にその周辺の低・未利用地等を含めた地区を対象として、都市機能の更新と高次都市機能の集積を図るため建物の建替え等を再び実施する事業です。本事業は民間が行う商業、業務、宿泊等に加え、公益施設(大ホール、イベント・展示ホール)機能の複合化により、商業や街なか居住等の都市機能の充実、賑わいの創出、交流人口の拡大などを図り》とある。 計画では、敷地面積1・4㌶に商業、交流・集客施設、オフィス、ホテルからなる12階建ての複合棟、7階建ての駐車場棟、13階建ての分譲マンションを建設。総事業費は492億円で、このうち国・県・市が244億円を補助し、市はさらに公共スペースを190億円で買い取る。7月末から解体工事に入り、2023年度から新築工事に着手、26年度のオープンを目指している。 この間、本誌でも度々取り上げてきた駅前再開発事業がいよいよ本格始動したわけだが、これとは別に同駅周辺の再開発を模索する動きがあることはあまり知られていない。 「福島駅東西エリア一体化推進協議会」という組織がある。設立は2021年3月、会長は福島商工会議所の渡邊博美会頭、会員数は91の事業所・団体に上る。同協議会の規約によると、目的は《福島市のより良い都市形成と福島駅周辺の円滑な交通体系の根幹となる福島駅周辺関係整備の早期実現に協力し、もって地域経済の発展並びに中心市街地の活性化を図る》。 同駅周辺を整備し活性化を図るというのだから、前述・駅前再開発事業と目的は変わらない。違うのは、目的ではなく手段。同協議会が念頭に置いているのは、同駅の連続立体交差だ。 連続立体交差とは、鉄道を連続的に高架化・地下化することで複数の踏切を一挙に取り除き、踏切渋滞解消による交通の円滑化と、鉄道により分断された市街地の一体化を推進する事業だ。施工者は都道府県、市(政令市、県庁所在市、人口20万人以上)、特別区とされ、国土交通省の国庫補助(補助率10分の5・5)として行われる。このほか地方自治体の負担分も合わせ、事業費全体の9割を行政が負担し、残り1割は鉄道事業者が負担。1968年の制度創設以来、これまでに全国約160カ所で行われてきた。  全国連続立体交差事業促進協議会のホームページによると、東京都内や大阪府など都市部での実績が目立つが、前述・福島駅東西エリア一体化推進協議会が参考にするのはJR新潟駅だ。 新潟駅の連続立体交差は1992年に新潟県と新潟市が共同調査を開始し、2005年に同駅周辺整備計画が都市計画決定。翌年、同駅付近連続立体交差事業として国から認可を受け、正式スタートを切った。 事業主体は当初県だったが、2007年に新潟市が政令市に移行したことに伴い市に移管。以降、着々と工事が進められ、18年度には同駅高架駅第1期開業および新幹線と在来線の同一乗り換えホームが完成。2022年6月には在来線高架化が完了し、同月5日に全線高架化記念式典が行われた。06年の事業スタートから16年かかったが、関連工事は現在も続いており、駅舎内の商業施設は24年度、駅周辺整備は25年度の完了を目指している。 事業費は1500億円、周辺整備も含めると1750億円で、このうち市が400億円を負担しているというから、連続立体交差が一大プロジェクトであることがご理解いただけるだろう。 少ない東西の避難ルート 「連続立体交差」待望論が浮上する福島駅(東口) 福島駅西口  新潟駅に視察に行ったという福島商議所の事務局担当者も 「新幹線と在来線が同じレベルにあり、乗り換えがスムーズにできるほか、1階にバスターミナルやタクシープールが整備されるなど、雨や雪を凌げるのは雪国にとって便利なつくりだと感じました。市街地が線路に分断されず、一体感が醸成されている点も魅力でした」 と、連続立体交差がもたらす効果を実感したという。 「高架化による踏切渋滞の解消というと首都圏の駅や線路を思い浮かべますが、長野新幹線の開通に合わせて長野・富山・金沢の各駅でも連続立体交差が行われているので、地方でも実績は十分あります」(同) 実際、連続立体交差によりどんな効果が見込まれるのか。新潟市の資料によると①踏切2カ所の除去により遮断時間が2~3時間解消し、一時停止の損失時間も3~5時間解消、②新幹線と在来線の乗り換え移動時間が最大4・6分短縮し、計16㍍の上下移動も解消、③鉄道横断区間の移動時間が半分に短縮し、消防署からの5分間の到達圏域が12%拡大、④鉄道とバスの乗り換え移動時間が平均1・8分短縮、⑤同市の二酸化炭素排出量とガソリン使用量が大きく削減、⑥駅周辺で多くの民間ビルの建設や建て替えが進み、人口増と雇用創出が期待される――等々。 費用と年月はかかるが、その分の見返りも大きいことが分かる。ではこれを福島駅に置き換えるとどんな効果が考えられるのか。市内の経済人はこのように語る。 「基本的には新潟駅と同様の効果が見込まれますが、福島駅の場合は東西をつなぐ平和通りのあづま陸橋と県道庭坂福島線の陸橋(西町跨線橋)が築50年を迎え、架け替えの必要があります。この二つを多額の費用をかけて架け替えるなら、併せて同駅も高架化した方が費用対効果は高いと思われます」 線路によって遠く分断された東西口が一体化すれば、駅周辺の光景が劇的に変化するのは間違いないが、この経済人によると、連続立体交差は経済面だけでなく、防災面からも重要な役割を果たすという。 「福島駅周辺は東西を行き来するルートが少ない。同駅の地下には東西自由通路があるが狭く、東口の出入口は駅ビル(エスパル福島)内にあって分かりづらい。県外の人は出入口が見つからず、わざわざ入場券を買って改札口から行き来しなければならないのかと勘違いする人も多い。飯坂線の曽根田踏切は〝開かずの踏切〟として有名で、遮断機が上がると歩行者も自転車も車も一斉に渡り出すので非常に危険。同駅周辺にはアンダーパスもあるが、大雨時には冠水のリスクがある。2019年に福島市で東北絆まつりを開催した時、アンダーパスを封鎖し、来場者にはあづま陸橋と西町跨線橋を通って東西を行き来してもらったが『他にルートはないのか』と大ひんしゅくを買った経緯もあります」(同) こうした中で経済人が問題視するのが、同市のハザードマップだ。「吾妻山火山防災マップ」(2019年改訂版)を見ると、冬に大噴火が発生し融雪による火山泥流が押し寄せると、同駅西口の仁井田、八木田、須川町、方木田地区は浸水2㍍以上、笹木野、森合地区は同50㌢未満に達すると表示されているのだ。同じ西口の野田町や三河台地区は浸水を免れるため西口にも避難できる地域はあるが、いざ火山泥流が迫ってきたら遠くに(線路を跨いで東口側に)逃げようという心理が働くのが自然だろう。 「しかし、浸水するということは東西自由通路やアンダーパスは通れない可能性が高い。そうなると、駅周辺の人たちは曽根田踏切、あづま陸橋、西町跨線橋しか避難ルートがないわけです」(同) もし災害が発生し、何千もの人がこの限られた避難ルートに一斉に押し寄せたら、大パニックになることは容易に想像できる。 これは火山に限らず、大雨の場合でも同駅南側には荒川が流れていることから東西口どちらも50㌢から最大5㍍の浸水リスクがあり、東西自由通路やアンダーパスは水没の恐れがある。災害が頻発する昨今、東西の避難ルートが極めて少ないことは駅周辺に暮らす市民にとって不安要素となっているのだ。 「火山泥流や大雨は、現在の福島駅をも水没させる恐れがある。そうなれば交通や物流にも多大な影響が及ぶことになる。すなわち連続立体交差は、そういったリスクの解消にも役立つのです」(同) 二階氏から知事に指示 二階俊博前幹事長(自民党HPより) 内堀雅雄知事  前述・福島駅東西エリア一体化推進協議会は設立から1年5カ月しか経っていないが、この間、活発な活動を展開している。同会発足前の2018年11月には、福島商議所中小企業振興委員会で新潟駅を視察。21年10月には一般市民や高校生を対象に東西の往来に関するアンケート調査を実施。2022年に入ってからは、1月に木幡浩市長に同駅連続立体交差の推進を陳情、3月に専門家を招いた講演会や福島商議所女性会を対象とした研修会を開催、4月には自民党国土強靭化推進本部と地方創生実行統合本部を訪ね、同駅連続立体交差に関する要望書を提出した。7月末には総会も開催予定だ。 地元経済界の事情通によると、同協議会が4月に自民党本部を訪ねた際にはサプライズも起きたという。 「同協議会の渡邊会長が国土強靭化推進本部長の二階俊博前幹事長に要望書を手渡すと、二階氏はおもむろに電話をかけ出した。驚いたことに電話の相手は内堀雅雄知事で、二階氏が内堀知事に『福島から地元の方々が連続立体交差の要望でお見えになっているので対応してほしい』と言うと、内堀知事は『分かりました』と応じたというのです。さらにそこには二階氏の側近で、地方創生実行統合本部長の林幹雄元経済産業大臣も同席していて、林氏も県幹部に電話し『すぐに計画を練って国に上げるように』と指示したそうだ」 自民党の中枢から内堀知事や県幹部に直接指示する光景を目の当たりにして、同協議会は実現に強い手ごたえを感じたはずだ。 事情通によると、2020年12月に福島市で平沢勝栄衆院議員(福島高卒)の復興大臣就任祝賀会を開いた際、平沢氏から同商議所幹部たちに「福島駅の連続立体交差を検討してはどうか」との誘いがあったという。ちょうど同商議所内で検討を始めたころで、平沢氏に全く相談していないタイミングでそのような打診を受けたため、真剣に検討するきっかけになったようだ。ちなみに、平沢氏は二階派所属。 誤解されては困るが、連続立体交差は有力国会議員がこぞって後押ししているからやろう、ということではない。同協議会が市民や高校生に行ったアンケートでは「鉄道が高架化した下を車や歩行者が自由に通行できるようになったらどう思うか」という質問に、市民の53%が「非常に良い」、32%が「良い」と回答、高校生も「非常に良い」25%、「良い」52%という結果が得られている。また自由記述欄も、費用負担への心配や駅前の魅力向上につながるのか疑問視する声が散見されたが、多くは歓迎の意見で占められていた。市民のニーズの高さも、実現に向けた原動力になっている。 とはいえ同協議会が自民党本部を訪ねてから3カ月以上経つが、駅前再開発事業の解体安全祈願祭は行われたものの、連続立体交差をめぐる具体的な動きは何一つ見られない。 「検討の予定はない」 【木幡浩】福島市長  前出・事情通によると、原因は木幡市長の消極姿勢にあるという。 「木幡市長は駅前再開発事業に専念したい考えで、連続立体交差には関心を示していません。2022年1月、同協議会が木幡市長に陳情した際も素っ気ない態度だったそうで、温厚で知られる渡邊会長が『ああいう態度は政治家としていかがなものか』と不快感を示したとか。木幡市長からは『一応検討します』という言葉さえなかったようです」 こうした状況を受け、同協議会関係者の間ではこんな見立てが浮上している。 「二階氏と林氏から内堀知事に指示があったものの、地元自治体の意向は無視できない。そこで、内堀知事が木幡市長に打診すると『駅前再開発事業に専念したい』と言われたため『地元市長にそう言われたら、県は手出しできない』と静観する構えになったようだ」 それを二人が話し合った場が、内堀知事が新型コロナウイルスに感染した「5月16日、福島市内での4人の会食」(地元紙報道)とのウワサまで出ている。ただ、確かに木幡市長も同時期、濃厚接触者になっているが、そのきっかけは「5月17日、福島市内での4人の会食」(同)と1日遅いのだ。 報道通りなら二人は異なる会食に参加していたことになるが、「福島市内」「4人」と状況が一致していたため「感染対策が行われた別々の会食に参加していたはずなのに、同時に感染者と濃厚接触者になるのは不自然だ」として「実際は同じ会食に参加していたのではないか」という説まで囁かれている。 「木幡市長は1984年に東大経済学部卒―自治省入省、内堀知事は86年に東大経済学部卒―自治省入省と、二人は全く同じルートを辿った先輩・後輩の間柄なのです。だから、木幡市長がノーと言えば内堀知事は逆らえない」(前出・事情通) そうなると、今度は内堀知事に直接電話をかけた二階氏の立つ瀬がない。このまま動きがなければ「オレの顔を潰す気か」と二階氏が激怒するのは必至。二階氏に「分かりました」と返事はしたものの、先輩の木幡市長から了承が得られない〝板挟み状態〟に、内堀知事は肝を冷やしているかもしれない。 同市都市計画課に同駅の連続立体交差を検討する考えがあるか尋ねると、担当者は次のように答えた。 「商工会議所を中心に設立された福島駅東西エリア一体化推進協議会で連続立体交差に関する協議を進めていることは承知しており、東西エリアの一体化が重要であることも認識しています。ただ、実現には費用と時間がかかり、市では公共施設の再編に向け駅前再開発事業に注力しているのが現状で、連続立体交差の具体的な検討は行っていません」 木幡市長にも連続立体交差への見解を聞くため取材を申し込んだところ、文書(7月22日付)で次のような回答が寄せられた。   ×  ×  ×  × ――福島駅の連続立体交差を検討する考えはあるか。 「2018年に策定した『風格ある県都を目指すまちづくり構想』では、公会堂や市民会館、消防本部など耐震性の不足する建物を再編統合も図りながら整備するとともに、その一環で整備するコンベンション施設は中心市街地活性化のため、駅前の再開発ビルに統合することとしました。これ以外の事業は中長期的課題とされ、整備コストなどの課題を踏まえ調査研究を続けるとしています。なお、福島駅連続立体交差事業はこの構想に含まれていません。 他都市の事例を参考にすると、連続立体交差事業はこれら以上の膨大な事業費(千数百億円規模)を要するうえに、20~30年の長期に及ぶ事業期間、JR各線と私鉄2線との複雑な軌道形状、既存のあづま陸橋や西町跨線橋の取り扱いなど課題が多いことから、市としては慎重な対応が必要と考えています。現時点で連続立体交差を検討していく予定はありません」 ――2022年1月、「福島駅東西エリア一体化推進協議会」が陳情を行った際、木幡市長の反応は鈍かったとのことですが。 「ご指摘の協議会から陳情を受けたことはありませんが、考え方は前述の通りです」 ――連続立体交差を行わないとするなら、吾妻山噴火など災害時における西口から東口への避難ルートはどのように確保していく考えか。 「災害時の各地域の避難ルートは2019年9月公表の『火山活動が活発化した場合の避難計画』の中に避難対象地域の主な避難ルートや指定避難所が示されています。地震などで東口と西口をつなぐあづま陸橋や西町跨線橋が損壊し通行できない場合は、警察などと連携して迂回路を選定・確保し、迅速に市民への周知を図ります」 ――木幡市長が新型コロナの濃厚積極者になったのは、内堀知事と会食しながら連続立体交差に関する話し合いをしていたことがきっかけと聞いたが、事実か。 「すでに公表しているように、私が濃厚接触者となった会食は5月17日に行いました。『内堀知事と会食しながら連続立体交差について協議した』ということはありません」   ×  ×  ×  × やはり内堀知事との会食は否定したが、同協議会からの陳情を受けていないとか、避難ルートの確保に向けた施策がないなど、要領を得ない回答が目立った印象だ。  前出・市内の経済人は連続立体交差に無関心な木幡市長にこんな苦言を呈した。 「駅前再開発事業に専念したい気持ちは分かるが、市民の命を守る観点から言うと、連続立体交差を検討すらしない姿勢は疑問だ。そもそも火山泥流や水害で駅周辺に被害が及べば、駅前再開発事業にも多大な影響が及ぶ。492億円もの事業費を投じて東口だけを整備するなら、国の補助金を活用して西口も含めた駅一帯を整備した方が効果的だ。こうした提案をすると、県や市は口を揃えて『金がない』と言うが、金がないからやらないのではなく『面倒くさいからやりたくない』という風にしか見えない」 連続立体交差の実現は簡単ではないが、「市民の命を守る」ことを考えた時、木幡市長の「あづま陸橋や西町跨線橋が損壊し通行できない場合は、警察などと連携して迂回路を選定・確保する」という発言は場当たり的で不安だ。 駅前再開発事業をめぐっては、ホテルや商業施設の詳細が明らかにならず、市が運営するホールに対しても「このつくりで大丈夫か」と心配する声が少なくない。既に走り出している計画を大きく変更するのは現実的ではないかもしれないが、連続立体交差を望む経済界と溝ができたまま建設―開業へと進む状況は、一大プロジェクトの姿として残念と言わなければならない。 あわせて読みたい 事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

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     5月8日に新型コロナウイルスの感染法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられる。飲食業界は度重なる「自粛」要請で打撃を受けたが、業界はコロナ禍からの出口の気配を感じ、「客足は感染拡大前の7~8割に戻りつつある」と関係者。一方、2次会以降の客を相手にするスナックは閉店・移転が相次ぎ、テナントの半数が去ったビルもある。福島市では主な宴会は県職員頼みのため、郡山市に比べ客足の回復が鈍く、夜の街への波及は限定的だ。 公務員頼みで郡山・いわきの後塵 飲食店が並ぶ福島市街地  福島市は県庁所在地で国の出先機関も多い「公務員の街」だ。市内のある飲食店主Aは「県職員が宴会をしないと商売が成り立たない」と話す。民間企業は、取引先に県関係の占める割合が多いため、宴会の解禁も県職員に合わせているという。 「東邦銀行も福島信用金庫も宴会を大々的に開いて大丈夫か県庁の様子を伺っているそうです。民間なら気にせず飲みに行けるかというとそうでもなく、行員に対する『監視の目』も県職員に向けられるのと同じくらい厳しい。ある店では地元金融機関の幹部が店で飲んでいたのを客が見つけて本店に『通報』し、幹部たちが飲みに行けなくなったという話を聞きました」(店主A) 福島市の夜の街は、県職員をはじめとする公務員の宴会が頼りだ。福島、伊達、郡山、いわきの4市で飲食店向けの酒卸店を経営する㈱追分(福島市)の追分拓哉会長(76)は街の弱みを次のように指摘する。 「福島、郡山、いわきの売り上げを比較すると、福島の飲食店の回復が最も弱いことが見えてきた」 2019年度『福島県市町村民経済計算』によると、経済規模を表す市町村内総生産は県内で多い順に郡山市が1兆3635億円(県内計の構成比17・1%)、いわき市が1兆3577億円(同17・0%)、福島市が1兆1466億円(同14・4%)。経済規模が大きいほど飲食店に卸す酒の売り上げも多くなると考えると、3位の福島市が他2市より少なくなるのは自然だ。だが追分会長によると、同市は売上高が他2市より少ないだけでなく、回復も遅いという。 「3市の酒売上高は、2019年は郡山、いわき、福島の順でした。各市の今年2月の売り上げは、19年2月と比べると郡山90%、いわき83%、福島76%に回復しています。郡山はコロナ前の水準まで戻ったが、福島はまだ4分の3です。しかも、コロナ禍で売上高が最も減少したのは福島でした。私は福島が行政都市であり、かつ他2市と比べて若者の割合が少ないことが要因とみています。県職員(行政関係者)が夜の街に出ないと、飲食店は悲惨な状態になります」(追分会長) 飲食業の再生の動きが鈍いのは、度重なる感染拡大に息切れしたことも要因だ。 「福島では昨年10月に到来した第8波で閉めた店が多く、駅前の大規模店も撤退しました。3、4月の歓送迎会シーズンで持ち直した現状を見ると、もう少し続けていればと思いますが、それはあくまで結果論です。これ以上ない経営努力を続けていたところに電気代の値上げが直撃し、体力が尽きてしまった。水道光熱費だけで10~20万円と賃料と同じ額に達する店もありました」 そうした中でも、コロナ禍を乗り切った飲食店には「三つの共通点」があるという。 「一つ目は『飲む』から『食べる』へのシフトです。スナックやバーが減り、代わりに小料理屋、イタリアン、焼き鳥屋が増えました」 「二つ目が『大』から『小』への移向です。宴会がなくなりました。あったとしても仲間内の小規模なものです。売りだった広い客席は大規模店には仇となりました。健闘しているのは、区分けして小規模宴会を呼び込んだ店です」 最後は「老」から「若」への変化。 「老舗が減りましたね。後継者がいない高齢の経営者が、コロナを機に見切りを付けたからです」 一方、これをチャンスと見てコロナ前では店を出すことなど考えられなかった駅前の一等地に若手経営者が出店する動きがあるという。経営者たちが見据えるのは、福島駅東口の再開発だ。 「4月から再開発エリアに建つ古い建物の本格的な取り壊しが始まりました。3年間の工事で市外・県外から500~1000人の作業員が動員されます。福島市役所の新庁舎(仮称・市民センター)建設も拍車をかけるでしょう。市内に建設業のミニバブルが訪れる中、ホテルや飲食店の需要は高まるとみられるが、老舗の飲食店が減っているので受け皿は十分にない。そのタイミングでお客さんを満足させる店を出すことができれば、不動の地位を獲得できると思います」 追分のグループ会社である不動産業㈱マーケッティングセンター(福島市)では毎年、市内の飲食店を同社従業員が訪問して開店・閉店状況を記録し、「マップレポート」にまとめてきた。最新調査は2019年12月~20年10月に行った。同レポートによると、開店は41店、閉店は106店。飲食店街全体としては、感染拡大前の837店から65店減り、772店となった。減少率は7・7%で、1988年に調査を開始して以降最大の減少幅だった。 「特に閉店が多かったのはスナック・バーです。48店が閉店し、全閉店数の44%を占めました」 もっとも、スナック・バーは開店数も業種別で最も多い。同レポートによると、11カ月の間に22店が開店し、全開店数の54%を占めた。酒とカラオケを備えれば営業できるため参入が容易で、もともと入れ替わりが盛んな業種と言えるだろう。 25%減ったスナック  マーケッティングセンターほどの正確性は保証できないが、本誌は夜の飲食店数をコロナ前後で比較した。1月号では郡山市のスナック・バーの閉店数を電話帳から推計。忘年会シーズンの昨年12月にスナックのママに電話をして客の入り具合を聞き取った。 電話帳から消えたと言って必ずしも閉店を意味するわけではない。もともと固定電話を契約していない店もあるだろう。ただし「昔から営業していた店が移転を機に契約を更新しなかったり、経費削減のために解約したりするケースはある」と前出の飲食店主Aは話す。今まで続けていたことをやめるという点で、固定電話の契約解除は、店に何らかの変化があったことを示す。 コロナ前の2019年と感染拡大後の2021年の情報を載せた電話帳(NTT作成「タウンページ」)を比較したところ、福島市の掲載店舗数は次のように減少した。 スナック 194店→145店(新規掲載1店、消滅50店) 差し引き49店が減った。減少数をコロナ前の店舗数で割った減少率は25・2%。 バー・クラブ 42店→35店(新規掲載なし、消滅7店) 減少率は16・6%。 果たしてスナック、バー・クラブの減少率は他の業種と比べ高いのか低いのか。夜の街に関わる他の業種の増減を調べた。2021年時点で20店舗以上残っている業種を記す。電話帳に掲載されている業種は店側が複数申告できるため、重複があることを断っておく(カッコ内は減少率)。 飲食店 208店→178店(14・4%) 居酒屋 143店→118店(17・4%) 食堂 75店→69店(8・0%) ラーメン店 63店→60店(5・0%) うどん・そば店 63店→55店(12・6%)  レストラン(ファミレス除く) 50店→42店(16・0%)  すし店(回転ずし除く) 39店→38店(2・5%) 中華・中国料理店 33店→31店(6・0%) 焼肉・ホルモン料理店 29店→24店(17・2%) 焼鳥店 25店→23店(8・0%)  日本料理店 23店→22店(4・3%) 酒を提供する居酒屋の減少率は17・4%と高水準だが、スナックは前記の通り、それを上回る25・2%だ。マーケティングセンターの2020年調査では、スナック48店が閉店した。照らし合わせると、電話帳から消えたスナックには閉店した店が含まれていることが推測できる。 筆者は電話帳から消えたスナックを訪ね、営業状況や移転先を確認した。結果は一覧表にまとめた。深夜食堂に業種転換した店、コロナ前に広げた支店を「選択と集中」させて危機を乗り越えた店、賃料の低いビルに引っ越し再起を図る店など、形を変えて生き残っている店も少なくない。 電話帳から消えた福島市街地のスナック ○…営業確認、×…営業未確認、※…ビル以外の店舗 陣場町 第10佐勝ビルスナッククローバー〇SECOND彩スナック彩に集約ハリカ〇レイヴァン(LaVan)✕ペガサス30ビル花音✕スナッククレスト(CREST)✕スナックトモト✕プラスαkana✕ハーモニー✕ボルサリーノスナックARINOS✕ファンタジー〇ポート99ラーイ(Raai)✕第5寿ビルジョーカー✕アイランド〇※モア・グレース✕※ 置賜町 エース7ビル韓国スナックローズハウス✕CuteCute✕トリコロール✕フィリピーナ✕ジャガービルトイ・トイ・トイ(toi・toi・toi)✕マノン✕鈴✕ピア21ビルK・桂✕ラパン✕ミナモトビルシャルム✕都ビル仮面舞踏会✕清水第1ビルマドンナ✕第5清水ビルラウンジラグナ✕ 栄町 イーストハウスあづま会館志桜里✕スナック楓店名キッチンkaedeで「食」に業種転換花むら✕第2あづまソシアルビルショーパブパライソ✕せらみ✕ムーチャークーチャー〇ユートピアビルスナックみつわ✕わがまま天使✕※ 万世町 パセオビルカトレア✕萌木✕ 新町 クラフトビルぼんと✕ゆー(YOU)✕金源ビルザ・シャトル✕スナック星(ぴょる)✕※凛〇※ 大町 コロールビルのりちゃんあっちゃん(ai)×エスケープ(SK-P)×※  電話帳に載っていないスナックもそこそこある。ただ、書き入れ時の金曜夜9時でも営業している様子がなく、移転先をたどれない店が多かった。あるビルの閉ざされた一室は、かつてはフィリピン人女性がもてなすショーパブだったのだろう。「福島県知事の緊急事態宣言の要請により当店は暫くの間休業とさせていただきます」と書かれた紙がドアに張られ、扉の隙間には開封されていない郵便物が挟まっていた。 「やめたくない」  ビル入口にあるテナントを示す看板は点灯しているのに、どこの階にも店が見当たらない事態も何度も遭遇した。あるベテランママの話。 「看板を総取っ換えしなきゃならないから、余程のことがないとオーナーは交換しない。一つの階が丸ごと空いているビルもあるわ」 飲食店主Bも言う。 「存在しない店の看板は覆い隠せばいいが、オーナーは敢えてそうはしません。テナントもしてほしくないでしょう。人けがないビルと明かすことになるからです」 テナントの空きは、スナック業界の深刻さも表している。 「手狭ですが家賃が安い新参者向けのビルがあります。入口にある看板は20軒くらいついていて全部埋まっているように見えるが、各階に行くと数軒しか営業していない。新しく店を始める人がいないんでしょうね」(店主B) 閉店する際も「後腐れなく」とはいかない。前出のベテランママがため息をつく。 「せいせいした気持ちで店をやめる人なんて誰もいませんよ。出入りしているカラオケ業者から聞いた話です。カラオケ代を3カ月分滞納した店があり、取り立てに行った。払えない以上は、目ぼしい財産を処分し、返済に充てて店を閉めなければならない。そこのママは『やめたくない』と泣いたそうです。しかし、そのカラオケ業者も雇われの身なので淡々と請求するしかなかったそうです」 大抵は連帯保証人となっている配偶者や恋人、親きょうだいが返済するという。 2021、22年に起きた2度の大地震は、コロナにあえぐスナックにとって泣きっ面に蜂だった。酒瓶やグラスがたくさん割れた。あるビルでは、オーナーとテナントが補償でもめ、納得しない人は移転するか、これを機に廃業したという。テナントの半数近くに及んだ。 福島市内のビルの多くは30~40年前のバブル期に建てられた。初期から入居しているテナントは、家賃は契約時のままで、コロナで赤字になってもなかなか引き下げてもらえなかった。コロナ禍ではどこのビルも空室が増え、オーナーは家賃を下げて新規入居者を募集。余力のあるスナックはより良い条件のビルに移転したという。 ベテランママは引退を見据える年齢に差しかかっている。苦境でも店を続ける理由は何か。 「コロナが収束するまではやめたくない。閉店した店はどこもふっと消えて、周りは『コロナで閉めた』とウワサする。それぞれ事情があってやめたのに、時代に負けたみたいで嫌だ。私にとっては、誰もがマスクを外して気兼ねなく話せるようになったらコロナ収束ですね。最後はなじみのお客さんを迎え、惜しまれながら去りたい」 ベテランママの願いはかなうか。 あわせて読みたい コロナで3割減った郡山のスナック 〝コロナ閉店〟した郡山バー店主に聞く

  • 【福島市歩道暴走事故の真相】死亡事故を誘発した97歳独居男の外食事情

     福島市のイオン福島店西側の車道で車を暴走させ、歩道に乗り上げて歩行者1人を死なせ、前方の車に乗っていた4人にけがをさせたとして自動車運転処罰法違反(過失致死傷)に問われている97歳の男に4月12日午後2時、福島地裁で判決が言い渡される。裁判では、男が5年前に妻を亡くし一人暮らしをしていたこと。自炊しないため外食が日課となり、その帰りに事故を起こしたことが明らかとなった。  被告の波汐国芳氏(福島市北沢又)は1925(大正14)年生まれ、いわき市出身。全国区の歌人として知られ、福島民友では事故前まで短歌の選者を務めていた。 波汐氏は事故直後に逮捕されたが、高齢ということもあり現在は釈放中で、老人ホームに入所している。波汐氏は杖をつき、背広姿で法廷に現れた。腰は曲がっている。入廷時に傍聴席と裁判官、検察官それぞれに向かって深く礼をした。頭は年齢の割に豊かな白髪で覆われていた。足つきはおぼつかないが、ゆっくりと証言台まで自らの足で歩いた。 波汐氏は民間企業に勤める傍ら、53歳ごろに運転免許を取得した。95歳の時に高齢者講習と認知症検査をパスし、1日に1回のペースで運転を続けていた。だが、近隣住民によると、車庫入れの際にはバックで何度も切り返していたという。 そもそも97歳の超高齢者が車を運転し、毎日どこに行く必要があったのか。自宅があるのは、車や歩行者が行き来する大型商業施設の周辺で日中から夕方は特に混み合う。にもかかわらず車で出かける理由は、波汐氏が2018年に妻を亡くし、一人暮らしとなったことが関係している。食事は買い置きのパンを食べるほかは「自分では作らなかった」という。 毎日午前10時ごろに起床していたため、1日2食で済ませた。そのうち1食は車を運転し、2㌔ほど離れたとんかつ店で食事をした。歩くには遠い。波汐氏は高齢で腰を痛めていたこともあり、その選択肢はなかった。自宅からこの店に車で向かうには、交通量の多い国道13号福島西道路とイオン福島店付近を通らなければならない。昨年11月19日夕方に歩行者を死なせた事故を起こした時も、その帰り道だった。 波汐氏には別に暮らす長女と長男がいる。首都圏に住む長女は毎月1回程度、様子を見に泊りがけで訪ねてきていた。他にケアマネージャーやヘルパーが自宅を訪問していた。 大事故の予兆は事故3カ月前の昨年8月にあった。車庫入れの際、自損事故を起こしたのだ。その時は普通自動車に乗っていた。破損個所は大きく、修理が必要だった。ディーラーに依頼すると「直すのと同じ値段で買い替えられる」と勧められ、軽自動車に乗り替えた。死亡事故を起こしたのはこの軽自動車だった。 普通自動車から軽自動車に乗り替えたところで根本的な解決にはならないと周囲も思ったようだ。波汐氏を定期的に診ている鍼灸師は、波汐氏の長女に「今、波汐氏はこの軽自動車に乗っている」とメールで報告していた。 波汐氏を担当するケアマネージャーは、軽自動車に傷がついているのを発見した。事故を起こす3日前の11月16日には、長女に「今は自損事故で済んでいるが、他人を巻き込む重大事故につながる恐れがある。運転をやめた方がいいと思います」とメールを送っていた。 長女自身も大事故を予見する機会があった。11月12~13日に波汐氏を訪ね、彼の運転する車に同乗した時のことだ。 「乗っていると違和感はありませんでしたが、車庫入れの際に少し違和感を覚えて、早く運転をやめさせた方がいいと思いました。車から降りて車庫入れを見ていたら、後ろの部分をこすっていました。父親に直接『そろそろやめた方がいい』と言い、実家を離れてからも毎日電話して運転をやめるよう言いました」(長女の法廷での証言) 長女はタクシー会社に契約を打診した。波汐氏がその都度配車を依頼し、その分の運賃を後日まとめて口座から引き落とす方法だ。だが、「個人とは契約していない」と断られたという。 大惨事はそれから1週間も経たないうちに起こった。 犠牲者の夫「事件は予見できた」 97歳の運転者が死亡事故を起こしたイオン福島店西側の道路  「『ママ、ママ』と9歳の娘が叫びながら倒れている妻に向かって走っていました。周りの大人が応急処置を施す中、娘はそれでも近づこうとします。遠ざけられた娘は衝撃で飛んだ妻の靴を拾い大事そうに抱えていました。警察に証拠として提出する必要があったのですが、夜になっても離しません。後で返してもらうからと説得してやっと渡してもらいました」 被害者参加制度を利用し、事故で亡くなった、当時42歳女性の夫が法廷で手記を読み上げた。時間は30分に及んだ。 事故から1カ月経って、夫は惨状を記録したドライブレコーダーをようやく見る決断ができた。妻の最期を見届けてあげたかった。何より、暴走車に引かれる直前まで妻の隣にいた娘が責任を感じ、悩んだ時に相談に乗ってあげられるようにしたい気持ちがあったという。 夫の怒りは波汐氏とその家族に向けられた。 「高齢者の運転免許返納は60~80代の議論だと私は思っていました。90歳を超えたら当然返納すべきではないでしょうか。被告の家族が同居して世話もできたし、介護サービスもあります。現に被告は釈放後に老人ホームで暮らしています。事故を起こすまでなぜ97歳の高齢者を1人にしておいたのですか。憤りを覚えます。今回のような事件が起きることは予見できたし、今まで起きなかったのはたまたまだったと思います」 波汐氏は事故原因を検察官に問われ、こう答えている。 「ブレーキと間違ってアクセルを踏んでしまった。的確にできなかった。……これは自分の運転の未熟です。……慌ててしまった」 波汐氏は耳が遠く、質問の趣旨も理解できていないようだった。「車がないと生活できないんです」「運転するのは近くの食堂に行く時だけです」。自分の発言がどう受け取られるか客観視する余裕はなかった。ちぐはぐな答えを繰り返すと、質問する側が「もういいです」と打ち切った。 今回の大事故は、波汐氏はもちろん家族や周囲の甘い考えが招いた。検察は波汐氏に禁錮3年6月を求めているが、どれだけ厳罰が下されても犠牲者が帰ってくることはない。高齢者の免許返納が進むこと、そして、運転しなくても暮らしていけるように公共・民間を問わず交通サービスを整えなければ新たな犠牲者を生むだけだ。 あわせて読みたい 【専門家が指摘】他人事じゃない【郡山市】一家4人死亡事故 郡山4人死亡事故で加害者に禁錮3年 郡山市・警察が放置してきた危険【交差点一覧】 日本損害保険協会「交通事故多発交差点マップ」を検証

  • 「道の駅ふくしま」が成功した理由

     福島市大笹生に道の駅ふくしまがオープンして間もなく1年が経過する。この間、県内の道の駅ではトップクラスとなる約160万人が来場し、当初設定していた目標を大きく上回った。好調の要因を探る。 オープン1年で160万人来場 週末は多くの来場者でにぎわう  福島市西部を走る県道5号上名倉飯坂伊達線。土湯温泉や飯坂温泉、高湯温泉、磐梯吾妻スカイライン、あづま総合運動公園などに向かう際に使われる道路で、沿線には観光果樹園が多いことから「フルーツライン」と呼ばれている。 そのフルーツライン沿いにある同市大笹生地区に、昨年4月27日、市内2カ所目となる「道の駅ふくしま」がオープンした。  施設面積約2万7000平方㍍。駐車場322台(大型36台、小型276台、おもいやり5台、二輪車4台、大型特殊1台)。トイレ、農産物・物産販売コーナー、レストラン・フードコート、多目的広場、屋内子ども遊び場、ドッグラン、防災倉庫などを備える。道路管理者の県と、施設管理者の市が一体で整備に当たった。事業費約35億円。 3月中旬の週末、同施設に足を運ぶと、多くの来場者でにぎわっていた。駐車場を見ると、約6割が県内ナンバー、約4割が宮城、山形など近県ナンバー。 「年間の売り上げ約8億円、来場者数約133万人を目標に掲げていましたが、おかげさまで売り上げ10億円、来場者数160万人を達成しました(3月中旬現在)」 こう語るのは、指定管理者として同施設の運営を受託する「ファーマーズ・フォレスト」(栃木県宇都宮市)の吉田賢司支配人だ。 吉田賢司支配人  同社は2007年設立、資本金5000万円。代表取締役松本謙(ゆずる)氏。民間信用調査機関によると、22年3月期の売上高30億5600万円、当期純利益1554万円。 「道の駅うつのみや ろまんちっく村」(栃木県宇都宮市)、「道の駅おおぎみ やんばるの森ビジターセンター」(沖縄県大宜見村)、農水産業振興戦略拠点施設「うるマルシェ」(沖縄県うるま市)などの交流拠点を運営している。3月には2026年度開業予定の「(仮称)道の駅こうのす」(埼玉県鴻巣市)の管理運営候補者に選定された。 同社ホームページによると、このほか、道の駅内の自社農場などの経営、クラインガルテン・市民農園のレンタル、地域プロデュース・食農支援事業、地域商社事業、着地型旅行・ツーリズム事業、ブルワリー事業、企業経営診断・コンサルティング事業を手掛ける。 本誌昨年3月号では、施設概要や同社の会社概要を示したうえで、「かなりの〝やり手〟だという評判だが、それ以上の詳しいことは分からない」という県内道の駅の駅長のコメントを紹介。競争が激しく、赤字に悩む道の駅も多いとされる中、指定管理者に選定された同社の手腕に注目したい――と書いたが、見事に目標以上の実績を残した格好だ。 ちなみに2021年の「県観光客入込状況」によると、県内道の駅の入り込みベスト3は①道の駅伊達の郷りょうぜん(伊達市)131万人、②道の駅国見あつかしの郷(国見町)129万人、③道の駅あいづ湯川・会津坂下(湯川村)98万人。 新型コロナウイルスの感染拡大状況や統計期間が違うので、一概に比較できないが、間違いなく同施設は県内トップクラスの入り込みだ。 吉田支配人がその要因として挙げるのが、高規格幹線道路・東北中央自動車道大笹生インターチェンジ(IC)の近くという好立地だ。 2017年11月に東北中央道大笹生IC―米沢北IC間が開通。21年3月には相馬IC―桑折ジャンクション間(相馬福島道路)が全線開通し、浜通り、山形県から福島市にアクセスしやすくなった。 モモのシーズンに来場者増加  国・県・沿線10市町村の関係者で組織された「東北中央自動車道(相馬~米沢)利活用促進に関する懇談会」の資料によると、特に同施設開業後は福島大笹生IC―米沢八幡原IC間の1日当たり交通量が急増。平日は2021年6月8700台から22年6月9900台(12%増)、休日は21年6月1万0700台から22年6月1万3700台(30%増)に増えていた。 各温泉街などで、おすすめの観光スポットとして同施設を宿泊客に紹介し、積極的に誘導を図っている効果も大きいようだ。 「特にモモが出荷される夏季は来場者が増え、当初試算していた以上のお客様に支持していただきました。ただ、18時までの営業時間の間は最低限の品ぞろえをしておく必要があるので、今年は品切れを起こさないようにしなければならないと考えています」(吉田支配人) モモを求める来場者でにぎわうとなると、気になるのは近隣で営業する果樹園との関係だが、吉田支配人は「最盛期には、観光農園協会加入の果樹園の方に施設前の軒下スペースを無料でお貸しして出店してもらい、施設内外で販売しました。シーズン中の週末、実際にフルーツラインを何度か車で走ったが、にぎわっている果樹園も多かった。相乗効果が得られたと思います」と説明する。 ただ、福島市観光農園協会にコメントを求めたところ、「オープンして1年も経たないので影響を見ている状況」(高橋賢一会長)と慎重な姿勢を崩さなかった。おそらく2年目以降は、道の駅ばかりに客が集中する、もしくは道の駅に訪れる客が減ることを想定しているのだろう。そういう意味では、2年目の今夏が〝正念場〟と言えよう。 約500平方㍍の農産物・物産販売コーナーには果物、野菜、精肉、鮮魚、総菜、スイーツ、各種土産品、地酒などが並ぶ。売り場の構成は約4割が農産物で、約6割がそれ以外の商品。農産物に関しては、オープン前から地元農家を一軒ずつ訪ね出荷を依頼してきた経緯があり、現在の登録農家は約250人(野菜、果物、生花、加工品など)に上る。 特徴的なのは福島市産にこだわらず、県内産、県外産など幅広い農産物をそろえていることだ。 「地場のものしか扱わない超ローカル型の道の駅もありますが、福島県の県庁所在地なので、初めて来県した人が〝浜・中・会津〟を感じられるラインアップにしています」と吉田支配人は語る。 売り場を歩いていると「なんだ、よく見たら県外産のトマトも並んでいるじゃん」とツッコミを入れる家族連れの声が聞かれたが、その一方で「福島に来たら必ずここに寄って、県内メーカーのラーメン(生めん)を買って帰る」(東京から訪れた来場者)という人もおり、福島市の特産品にこだわらず買い物を楽しんでいる様子がうかがえた。 網羅的な品ぞろえの背景には、福島市産のものだけでは広い売り場が埋まらなかったという事情もあると思われるが、同施設ではその点を強みに変えた格好だ。 もっとも、仮に奥まった場所にある道の駅で同じ戦略を取ったら「どこでも買える商品ばかりで、ここまで来た意味がない」と評価されかねない。同施設ならではの戦略ということを理解しておく必要があろう。 吉田支配人によると、平日は新鮮な野菜や弁当・総菜を求める市内からの来場者、土日・休日は市外からの観光客が多い。道の駅は地元住民の日常使いが多い「平日タイプ」と、週末のまとめ買い・レジャー・観光などでの利用が多い「休日タイプ」に大別されるが、「うちはハイブリッド型の道の駅です」(同)。 オリジナルスイーツを開発 人気を集めるオリジナルスイーツ  そんな同施設の特色と言えるのはスイーツだ。専属の女性パティシエを地元から正社員として採用。春先に吾妻小富士に現れる雪形「雪うさぎ(種まきうさぎ)」をモチーフとしたソフトクリームや旬の果物を使ったパフェなどを販売しており、休日には行列ができる。 チーズムースの中にフルーツを入れ、求肥で包んだオリジナルスイーツ「雪うさぎ」はスイーツの中で一番の人気商品となった。その開発力には吉田支配人も舌を巻く。 同施設では70人近いスタッフが働いているが、本社から来ているのは吉田支配人を含む2、3人で、残りは100%地元雇用。県外に本社を置く同社が地元農家などの信頼を得て、幅広い品ぞろえを実現している背景には、情報収集・コミュニケーションを担う地元スタッフの存在があるのだ。 もっと言えば、それらスタッフの9割は女性で、売り場は手作りの飾り付けやポップな手書きイラストで彩られており、これも同施設の魅力につながっている。売り場に展示されたアニメキャラや雪うさぎのイラストの写真が、来場者によりSNSに投稿され、話題を集めた。 宮城県から友達とドライブに来た若い女性は「ホームページやSNSでチェックしたら、かわいい雰囲気の施設だと思ったのでドライブの目的地に選びました。お菓子を大量に買ってしまいました」と笑った。女性の視点での売り場作りが若い世代に届いていると言える。 同社直営のレストラン「あづまキッチン」と3店舗のテナントによるフードコートも人気を集める。 「あづまキッチン」では福島県産牛ハンバーグや伊達鶏わっぱ飯、地場野菜ピザなど、地元産食材を用いたメニューを提供する。窓際の席からは吾妻連峰が一望できるほか、個人用の電源付きコワーキングスペースが複数設置されているなど、多様な使い方に対応している。 フードコートでは「海鮮丼・寿司〇(まる)」、「麺処ひろ田製粉所」、「大笹生カリィ」の3店舗が営業。地元産食材を使ったメニューや円盤餃子などのグルメも提供しており、週末には家族連れなどで満席になる。  無料で利用できる屋内こども遊び場「ももRabiキッズパーク」の影響も大きい。屋内砂場や木で作られた大型遊具が設置されており、1日3回の整理券配布時間前には行列ができる。同じく施設内に設置されているドッグランも想定していた以上に利用者が訪れているとか。 これら施設の利用を目当てに足を運んだ人が帰りに道の駅を利用したこともあり、年間来場者数が伸び続けて、目標を上回る実績を残すことができたのだろう。 さて、東北中央道沿線には「道の駅伊達の郷りょうぜん」(伊達市、霊山IC付近)、「道の駅米沢」(山形県米沢市、米沢中央IC付近)が先行オープンしている。起点である相馬市から霊山IC(道の駅りょうぜん)まで約33㌔、そこから大笹生IC(道の駅ふくしま)まで約17㌔、さらにそこから米沢中央IC(道の駅米沢)まで約31㌔。車で数十分の距離に似た施設が並ぶわけだが、競合することはないのか。 吉田支配人は、「道の駅ごとに特色が異なるためか、お客様は各施設を回遊しているように感じます。そのことを踏まえ、道の駅りょうぜん、道の駅米沢とは常に情報交換しており、『連携して何か合同企画を展開しよう』と話しています」と語る。 本誌昨年3月号記事では、道の駅米沢(米沢市観光課)、道の駅りょうぜんとも「相乗効果を目指したい」と話していた。もちろん競合している面もあるだろうが、スタンプラリーなど合同企画を展開することで、より多くの来場者が見込めるのではないか。 課題は目玉商品開発と混雑解消 ももRabiキッズパーク  同施設の担当部署である福島市観光交流推進室の担当者は「苦労した面もありましたが、概ね好調のまま1年を終えることができました。1年目は物珍しさで訪れた方もいるでしょうから、この売り上げ・入り込みを落とさないように運営していきたい」と話す。新規に160万人の入り込みを創出し、登録農家・加工業者の収入増につながったと考えれば、大成功だったと言えよう。 来場者の中には「市内在住でドライブがてら訪れた。今回が2回目」という中年夫婦もいた。市内に住んでいるが、オープン直後の混雑を避け、最近になって初めて足を運んだという人は少なくなさそう。さらなる〝伸びしろ〟も期待できる。 今後の課題は、ここでしか買えない新商品や食べられない名物メニューなどを生み出せるか、という点だろう。常にブラッシュアップしていくことで、訪れる楽しさが増し、リピーターが増えていく。 道の駅りょうぜんでは焼きたてパンを販売しており、テナント店で販売されるもち、うどん、ジェラードなども人気だ。道の駅米沢では米沢牛、米沢ラーメン、蕎麦など〝売り〟が明確。道の駅ふくしまで、それに匹敵するものを誕生させられるか。 繁忙期の駐車場確保、混雑解消も課題だ。臨時駐車場として活用されていた周辺の土地は工業団地の分譲地で、すでに進出企業が内定している。当面は利用可能だが、正式売却後に対応できるのか。オープン直後の混雑がいつまでも続くとは考えにくいが、再訪のカギを握るだけに、対応策を考えておく必要があろう。 吉田支配人は東京出身。単身赴任で福島に来ている。県内道の駅の駅長で構成される任意組織「ふくしま道の駅交流会」にも加入し、研究・交流を重ねている。2年目以降も好調を維持できるか、その運営手腕に引き続き注目が集まる。 あわせて読みたい 北塩原村【道の駅裏磐梯】オリジナルプリンが好評

  • 飯坂温泉のココがもったいない!高専生が分析した「回遊性の乏しさ」

     福島市の名湯・飯坂温泉をまちづくりの観点から研究した建築家の卵がいる。仙台高専5年生の高野結奈さん(20)=伊達市梁川町=は「魅力があるのに生かし切れていない」というもどかしさから同温泉を卒業研究の対象に選んだ。アンケート調査から見えてきたのは、訪問者の行き先が固定している、すなわち回遊性に乏しいという課題だった。  高野さんが飯坂温泉に関心を寄せたきっかけは、高専4年生だった2021年9月に中学時代の友人と日帰り旅行で訪れた際、閑散とした温泉街にショックを受けたからだ。 「摺上川沿いに廃業した旅館・ホテルが並んでいるのが目につきました。ネットで『飯坂温泉』と検索すると『怖い』『廃墟』という候補ワードが出てきます。昔からの建物や温泉がたくさんあって、私たちは十分散策を楽しめたのに、『怖い』という印象を持たれてしまうのはもったいないと思ったんです」(高野さん) 高野さんは宮城県名取市にある仙台高専総合科学建築デザインコースで学んだ。都市計画に興味があり、建築士を目指している。 旧堀切邸で研究を振り返る高野さん。「まちづくりに生かしてほしい」と話す。  学んできたスキルを生かして、飯坂温泉のまちづくりに貢献できないかと卒業研究の対象に選んだ。文献を読む中で、温泉街を活性化させるには旅館・ホテルで朝夕食、土産販売、娯楽までを用意する従来の「囲い込み」から脱却し、「街の回遊性」をいかに高めるかが重要になっていることが分かった。 飯坂温泉を訪れる人はどのようなスポットに魅力を感じて散策しているのだろうか。回遊性を数値に表そうと、高野さんは温泉街の5カ所にアンケート協力を求めるチラシを置き、2022年8月から10月までの期間、ネット上の投稿フォームに答えてもらった。有効回答数は29件。結果は図の通り。円が大きいほど訪問者が多い場所だ。 出典:高野結奈さんの卒業研究より「図31 来訪者が集中しているエリア」  豪農・豪商の旧家旧堀切邸と共同浴場波来湯の訪問者が多く、固定化している。つまり、この2カ所が回遊性のカギになっているということだ。一方、図の南西部は住宅地で観光スポットに乏しいことから、人の回遊は見られなかった。全4カ所ある足湯は男性より女性、高齢者より若者が利用することも分かった。 飯坂温泉の現状がデータで露わになった意義は大きい。 高野さんは飯坂温泉ならではの魅力をさらに見つけようと、別の温泉地に関する論文をあさった。小説家志賀直哉の『城の崎にて』で知られる城崎温泉(兵庫県豊岡市)を筆頭に秋保温泉(宮城県仙台市)、鳴子温泉(同大崎市)、野沢温泉(長野県野沢温泉村)の文献を読み込んだ。 比較する中で気づいた飯坂温泉の魅力が次の3点だ。 ①泉温が高く、湯量が豊富。源泉かけ流しの浴場が多い。 ②低価格で入れる共同浴場が多く、九つもある。 ③交通の便が良く、鉄道(福島交通飯坂線)が通っている。車でもJR福島駅から30分以内で着く。 「この3点は城崎温泉と共通します。同温泉は外国人観光客を呼び寄せて成功した事例に挙げられています。多数の源泉かけ流しと共同浴場という温泉街の基本が備わっています。電車で来られることで風情も加わり、鉄道マニアも引き付けます。これらは新しい温泉街では真似できない優位な点と言えます」(同) 魅力の一方で、高野さんが「飯坂温泉に足りないもの」として挙げるのが体験施設だ。 「例えば野沢温泉では、湧き出る温泉で野沢菜を湯がいたり、卵をゆでたりする体験ができます。材料一式も売っていて、誰でも手軽にできます。飯坂温泉も温泉玉子『ラジウム玉子』が名物ですが、現状はお土産として買うことはできても、その場で作ることはできない。買うだけでなく作れる体験施設があったら観光客に喜ばれ、同温泉の魅力向上にもつながるのではないか」(同) 魅力向上という意味では、川沿いの景観保持も欠かせないが、冒頭に述べた通り、飯坂温泉のネット上の評価は「怖い」というイメージが先行している。 「元気のある温泉街の共通点は川沿いの景色がきれいなことに気づきました。整備が大変なのは分かりますが、雑草だらけで手の加わっていない岸辺は温泉街全体の魅力を損ね、悪いイメージのもとになっていると思います」(同) 高野さんは2月、飯坂温泉街の都市計画を考えジオラマ(模型)にする卒業設計を提出した。ジオラマにはラジウム玉子作りを体験できる観光施設もある。 高野さんは3月に仙台高専を卒業し、アパートの設計・施工や経営を行う大手企業の設計部で働くことが決まっている。卒業研究で縁ができた飯坂温泉とは今後も関わりを持てればいいと思っている。 「新しい物を一から作るよりも、今ある物の良さを生かすリノベーションに興味があります。温泉街にあるアパートを改装し、湯治客向けの宿泊施設にするなどの動きが広まっていますが、そのような仕事で飯坂温泉に関わることができたらうれしいです」(同) 高野さんの研究はこれで一区切りだが、今後大切になるのは、若者が調べ上げたデータを温泉街の活性化にどう生かすかだ。あとは地元住民と観光業界、飯坂温泉観光会館「パルセいいざか」や共同浴場などの管理運営に当たる第三セクター・福島市観光開発㈱の取り組み次第だ。

  • 【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪

     公務員の性犯罪が県内で相次いでいる。町職員、中学教師、警察官、自衛官と職種は多様。教師と警官に至っては立場を利用した犯行だ。「お堅い公務員だから間違ったことはしない」という性善説は捨て、住民が監視を続ける必要がある。 男性に性交強いた富岡町男性職員【町の性的少数者支援策にも影響か】  1月24日、準強制性交などに問われている元富岡町職員北原玄季被告(22)=いわき市・本籍大熊町=の初公判が地裁郡山支部で開かれた。郡山市や相双地区で、睡眠作用がある薬を知人男性にだまして飲ませ、性交に及んだとして、同日時点で二つの事件で罪に問われている。被害者は薬の作用で記憶を失っていた。北原被告は他にも同様の事件を起こしており、追起訴される予定。次回は2月20日午後2時半から。 北原被告は高校卒業後の2019年4月に入庁。税務課課税係を経て、退職時は総務課財政係の主事を務めていた。20年ごろから不眠症治療薬を処方され、一連の犯行に使用した。 昨年5月には、市販ドリンクに睡眠薬を混ぜた物を相双地区の路上で知人男性に勧め犯行に及んだ。同9月の郡山市の犯行では、「酔い止め」と称し、酒と一緒に別の知人男性に飲ませていた。 懸念されるのは、富岡町が県内で初めて導入しようとしている、性的少数者のカップルの関係を公的に証明する「パートナーシップ制度」への影響だ。多様性を認める社会に合致し、移住にもつながる可能性のある取り組みだが、いかんせんタイミングが悪かった。町も影響がないことを祈っている様子。 優先すべきは厳罰を求めている被害者の感情だ。薬を盛られ、知らない間に性暴力を受けるのは恐怖でしかない。罪が確定してからになるだろうが、山本育男町長は「性別に関係なく性暴力は許さない」というメッセージを出す必要がある。 男子の下半身触った石川中男性講師【保護者が恐れる動画拡散の可能性】  石川中学校の音楽講師・西舘成矩被告(40)は、男子生徒42人の下半身を触ったとして昨年11月に懲戒免職。その後、他の罪も判明し、強制わいせつや児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)で逮捕・起訴された。 県教委の聞き取りに「女子に対してやってはいけないという認識はあったが、男子にはなかった」と話していたという(昨年11月26日付福島民友)。 事情通が内幕を語る。 「あいつは地元の寺の息子だよ。生徒には人気があったらしいな。被害に遭った子どもが友達に『触られた』と話したらしい。そしたらその友達がたまげちゃって、別の先生に話して公になった」 当人たちは「おふざけ」の延長と捉えていたとのこと。ただ、10代前半の男子は、性に興味津々でも正しい知識は十分身に着いていないだろう。監督すべき教師としてあるまじき行為だ。 西舘被告は一部行為の動画撮影に及んでいた。それらはネットを介し世界中で売買されている可能性もある。子どもの将来と保護者の不安を考えれば「トンデモ教師が起こしたワイセツ事件」と矮小化するのは早計だ。注目度の高い初公判は2月14日午後1時半から地裁郡山支部で開かれる予定。 うやむやにされる「警察官の犯罪」【巡査部長が原発被災地で下着物色】  浜通りの被災地をパトロールする部署の男性巡査部長(38)が、大熊町、富岡町の空き家に侵入し女性用の下着を盗んでいた。配属後間もない昨年4月下旬から犯行を50~60回繰り返し、自宅からはスカートやワンピースなど約1000点が見つかった(昨年12月8日付福島民友)。1人の巡回が多く、行動を不審に思った同僚が上司に報告し、発覚したという。県警は逮捕せず、書類のみ地検に送った。巡査部長は懲戒免職になっている。  県警は犯人の実名を公表していないが、《児嶋洋平本部長は、「任意捜査の内容はこれまでも(実名は)言ってきていない」などと説明した》(同12月21日付朝日新聞)。身内に甘い。  通常は押収物を武道場に並べるセレモニーがあるが、今回はないようだ。昨年6月に郡山市の会社員の男が下着泥棒で逮捕された時は、1000点以上の押収物を陳列した。容疑は同じだが、立場を利用した犯行という点でより悪質なのに、対応に一貫性がない。  初犯であり、社会的制裁を受けているとして不起訴処分(起訴猶予)になる可能性が高いが、物色された被災者の怒りは収まらないだろう。 判然としない強制わいせつ自衛官【裁判に揺れる福島・郡山両駐屯地】 五ノ井さんに集団で強制わいせつした男性自衛官たちが勤務していた陸自郡山駐屯地  昨年12月5日、陸上自衛隊福島駐屯地の吾妻修平・3等陸曹(27)=福島市=が強制わいせつ容疑で逮捕された(同6日付福島民報)。5月25日夜、市内の屋外駐車場で面識のない20代女性の体を触るなどわいせつな行為をしたという。事件の日、吾妻3等陸曹は午後から非番だった。2月7日午前11時から福島地裁で初公判が予定されている。 県内の陸自駐屯地をめぐっては、郡山駐屯地で男性自衛官たちからわいせつな行為を受けた元自衛官五ノ井里奈さん(23)=宮城県出身=が国と加害者を相手取り民事訴訟を起こす準備を進めている。刑事では強制わいせつ事件として、検察が再捜査しているが、嫌疑不十分で不起訴になる可能性もある。五ノ井さんは最悪の事態を考え提訴を検討したということだろう。 加害者が県内出身者かどうかが駐屯地を受け入れている郡山市民の関心事だが、明らかになる日は近い。 あわせて読みたい セクハラの舞台となった陸上自衛隊郡山駐屯地【五ノ井里奈さん】 【開店前の飲食店に並ぶ福島市職員】本誌取材で分かったサボりの実態 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う

  • 事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設

     JR福島駅前で進む市街地再開発事業。事業主体は地権者らでつくる再開発組合だが、福島市は同所に建設される複合棟に入る「福島駅前交流・集客拠点施設」を公共施設として買い取ることになっている。しかし、事業費が昨年5月時点で当初計画より増え、今後さらに増えそうな見通しのため、市の財政に深刻な影響を与える懸念が浮上している。 大型事業連発で危機的な福島市財政  福島駅東口地区第一種市街地再開発事業は駅前通りの南側1・4㌶に複合棟(12階建て)、駐車場棟(7階建て)、住宅棟(13階建て)を建設する計画で、一帯では現在、既存建物の解体工事が行われている。 事業主体は地権者らでつくる福島駅東口地区市街地再開発組合(加藤眞司理事長)だが、福島市も同事業に二つの面から関わっている。一つは巨額の補助金支出、もう一つは複合棟に入る「福島駅前交流・集客拠点施設」(以下、拠点施設と略)を公共施設として同組合から買い取ることだ。 拠点施設は複合棟の3・4階に整備される。メーンは4階に設けられる1500の客席と広い舞台を備えた大ホールだが、客席を収納することで展示ホールとして使えたり、800席のホールと中規模の展示ホールを併用することもできる。3階には多目的スタジオや練習スタジオ、会議室が設けられる。 同事業に市がどの程度関わっているか、まずは補助金から見ていく。 同組合設立時の2021年7月に発表された事業計画では、事業費473億円、補助金218億円(国2分の1、県と市2分の1)となっていた。単純計算で市の負担は54億5000万円となる。 ところが、昨年5月に市議会全員協議会で配られた資料には、事業費が19億円増の492億円、補助金が26億円増の244億円(同)と明記されていた。これにより、市の負担も6億5000万円増の61億円になる見通しとなった。 理由は、延べ床面積が当初計画より90平方㍍増えて7万2540平方㍍になったことと、建設資材の高騰によるものだった。 これだけでも市にとっては重い負担だが、さらに大きな負担が待ち構えている。それが、二つ目の関わりである保留床の取得だ。 市は拠点施設を「公共施設=保留床」として同組合から買い取るが、当初計画では「150億円+α」となっていた。しかし前述・市議会全員協議会で配られた資料には190億円かかると明記されていた。このほか備品購入費も負担する必要があるが、その金額は「開館前に決定」とされているため、市は総額「190億円+α」の保留床取得費を支出しなければならないのだ。 前述の補助金と合わせると市の負担は「251億円+α」となるが、問題はこれが最終確定ではなく、さらに増える可能性があることだ。 市議会の昨年12月定例会で、斎藤正臣議員(2期)が次のような一般質問を行っている。   ×  ×  ×  × 斎藤 原料や資材の高騰が事業計画に与える影響は。 都市政策部長 影響は少なからずあるが、具体的な影響は福島駅東口地区市街地再開発組合で精査中だ。 斎藤 5月の全員協議会では事業費492億円、補助金244億円と示されたが、ここへの影響は。 都市政策部長 事業費への影響は少なからずあるが、具体的な影響は同組合で精査しており、市はその結果をもとに補助金への影響を精査する予定だ。 斎藤 保留床取得費も昨年5月の全員協議会で当初計画より上がっていたが、ここへの影響は。 商工観光部長 保留床取得費への影響も避けられないと考えている。具体的な影響は同組合で精査中だ。 斎藤 保留床取得費は令和5年度から予算計上し、今後年割で払っていくと思われるが、年度末まで残された日時が限られる中、取得費が確定しないと新年度予算に計上できないのではないか。 商工観光部長 現時点で保留床取得費が明らかになる時期は申し上げられないが、新年度予算への計上に向けて協議を進めており、タイミングを見て議会にもお示しできると考えている。   ×  ×  ×  × 詳細は同組合の精査後に判明するとしながら、市は補助金と保留床取得費がさらに増える可能性があることを認めたのだ。 ロシアによるウクライナ侵攻と円安で原材料費やエネルギー価格が高騰。それに伴い、建設業界でも資材価格の上昇が続いている。国土交通省や一般財団法人建設物価調査会が発表している資料などを見ると、2020年第4四半期を100とした場合、22年第4四半期は建築用資材価格で126・3、土木用資材価格で118・0とわずか2年で1・2倍前後まで上昇している。 とはいえ、こうした状況は他地域で行われている大型事業にも当てはまるが、福島市の場合は「別の懸念材料」も存在する。 3年後には基金残高ゼロ  市が昨年9月に発表した中期財政収支の見通し(2023~27年度)によると、市債残高は毎年のように増え続け、27年度は1377億円と18年度の1・6倍に膨らむと試算されている(別表参照)  ある市職員OBによると「瀬戸孝則市長(2001~13年)は借金を減らすことを意識し、任期中の市債残高は1000億円を切っていた。そのころと比べると、市債残高は急増している印象を受ける」というから、短期間のうちに財政が悪化していることが分かる。 事実、中期財政収支の見通しの中で、市は次のような危機を予測している。 ▽拠点施設整備をはじめとする大型事業の本格化などにより投資的経費の額が高水準で推移し、その財源に市債を活用することから、公債費および市債残高の増加が続く。 ▽各年度に20~50億円余の財源不足が見込まれ、財政調整基金と減債基金で補う必要があるが、2026年度には両基金の残高がなくなり財源不足を埋められず、必要な予算が編成できなくなる見通し。 ▽市債発行に当たっては地方交付税措置のある有利な起債の活用に努めているが、それでもなお実質公債費比率は2027年度には5・5%まで上昇し(18年度は1・1%)、公債費が財政運営を圧迫することが予測される。 ▽試算の結果、2026年度以降の財源を確保できない見通し。公設地方卸売市場や市立図書館、学習センターの再整備など、構想を開始していても実施時期や概算事業費、一般会計への影響が未定で今回の試算に組み込まれていない大型事業もあるため、今後の財政運営は試算以上に厳しい状況に直面する可能性がある。 「基金残高がなくなる」「必要な予算が編成できない」「財源を確保できない」等々、衝撃的な言葉が並んでいることに驚かされるが、ここまで市の財政がひっ迫している要因は大型事業が目白押しになっていることが挙げられる。 市役所本庁舎の隣では2024年度中の完成を目指し、事業費70億円で(仮称)市民センターの建設計画が進められている。このほか新学校給食センター、あぶくまクリーンセンター焼却工場、消防本部などの整備・再編が予定されるが、これ以外にも公設地方卸売市場や市立図書館など建て替えが必要な施設は少なくない。そうした中、市最大の事業に位置付けられるのが拠点施設の買い取りなのだ。 「2011年1月に開庁した本庁舎は事業費89億円だが、これが市にとって過去最大のハコモノ事業だった。しかし、拠点施設は本庁舎を大きく上回る190億円+αで、資材価格や人件費によってはさらに増えるというから、市の財政を心配する声が出てくるのは当然です」(前出・市職員OB) 市職員OBは今後の懸念材料として①事業費全体が上がると保留床取得費だけでなく、例えば住宅棟(マンション)の価格も上がり、投機目的の購入が増えるのではないか。そうなると、せっかく整備した住宅棟に市民が入居できず、空き家だらけになる恐れもある。②これ以上の事業費増加を防ぐために計画を見直せば、拠点施設が期待された機能を発揮できず、駅前に陳腐な施設が横たわることになる。③拠点施設は東日本大震災で被災した公会堂の後継施設となるが、さらに保留床取得費が増えると「現在地で建て替えた方が安く済んだのではないか」という意見が出かねない、④駅前ばかりに投資が集中すると、行かない・使わない市民から反発の声が出てくる――等々を挙げる。 「市は時に、借金をしてでもやらなければならない事業があるが、その前提となるのは納税者である市民の理解が得られるかどうかだ。自分が行かない・使わない施設に巨額の税金を投じることに納得する市民はいない。市には、大勢の市民が行きたくなる・使いたくなるような施設の整備が求められる」(同) 計画が既に動き出している以上、大幅な見直しは難しいが、拠点施設を多くの市民に利用してもらえるような工夫や仕掛けはまだまだ検討の余地があるということだろう。 投資に見合う施設になるか  市が2020年3月に発表した計画によると、拠点施設の年間の目標稼働率は大ホールが80%、展示ホールが60%、目標利用者数は32万人を掲げている。一方、年間の管理運営費は4億円。素人目にも目標達成のハードルは高く、管理運営費も高額な印象を受ける。 「管理運営はPFI方式で民間に任せるようだが、稼働率や利用者数を上げることを意識し、多くのイベントや会議を誘致した結果、市民が使いづらくなっては意味がない。拠点施設は公会堂の後継施設ということを踏まえると、市民が使いたい時に使える方策も必要です」(同) 市コンベンション施設整備課に取材を申し込むと 「昨年5月の全員協議会で示した資料が最新の計画で、そこに書かれている以上のことは話せない。補助金や保留床取得費がどうなるかは、同組合の精査後に見極めたい」 とのことだった。昨年12月定例会では「福島駅前交流・集客拠点施設の公共施設等運営権に係る実施方針に関する条例」が可決され、今後、施設運営に関する方針が決まる。 251億円+αの投資に見合う施設になるのかどうか。事業の本格化に合わせ、市民の見る目も厳しさを増していくと思われる。 福島市のホームページ あわせて読みたい 【福島市】木幡浩市長インタビュー 客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

  • 【福島市】木幡浩市長インタビュー

     こはた・ひろし 1960年生まれ。東大経済学部卒。自治省(現総務省)に入省し岡山県副知事、消防大学校長、復興庁福島復興局長などを歴任。現在市長2期目。  ――2022年度の除雪関連の予算を過去最大の8303万円に拡大しました。1月の大寒波の影響をお聞きします。 「昨季の大雪では、除雪に対し市民の皆様から厳しいご意見をいただきましたが、今季は教訓を生かした対応ができたと思います。必要な予算の確保はもちろん、除雪を体系的に行うためのマニュアルを作りました。市民の皆様にもメールで降雪・凍結情報を即時に知らせています。 隅々まで除雪するには市民の皆様の協力が必要です。小型除雪機の貸し出しはこれまでも行っていましたが、今季は台数を増やし、周知を図りました。その結果、貸出実績は以前に比べるとかなり増えました。 岡部など東部地区の関係者とは、除雪アダプト制度という決めた範囲を責任を持って除雪する協定を締結しました。ありがたいことに丁寧な作業のおかげで生活道路の除雪体制は改善が図れたと思います」 ――政府は5月8日から新型コロナウイルス感染症の位置付けを5類に引き下げると発表しました。3月13日からはマスクの着用が緩和されます。「出口」が見えてきた中で市の経済や観光振興についての施策をお聞きします。 「『出口』に至るためには何よりも感染防止を徹底していくことが必須です。世代別で死者数が最も多い高齢者の感染は何としても防がなければなりません。高齢者と面会する場合のマスク着用などは、これまでと変わらず続けなくてはならないと考えています。 経済活性化に関して言えば、心強いのは『道の駅ふくしま』という地域活性化の核ができたことです。年間の目標来場者数は133万人でしたが、オープンから約9カ月で150万人に達し、売り上げも11億円を超えました。冬季の来場者が減る傾向にあるので、引き続きイベントやツアーなどを仕掛けていきますが、今春には『周遊スポット魅力アップ支援事業』を活用したスポットが続々オープンします。例えば、温泉旅館であれば魅力ある露天風呂を、観光農園であればインスタスポットを作り、点ではなく面で福島市を巡る楽しみを創出する仕組みを整え、それを物販にもつなげていきます。   福島市は新商品が生まれる傾向が弱い印象があるので、道の駅をベースに事業者同士の連携を深めて商品を作り出し、併せて発信もするというアンテナショップの役目をより強めていきます。  ふるさと納税の返礼品はその一環であり、私としては福島市のPRにとどまらず、マーケティングという地域経済活性化に即効性のあるものとして考えています」  ――福島駅東口で行われている市街地再開発事業について、当初計画より事業費や市が負担する補助金が増え、今後の精査によってはさらに増える可能性が指摘されています。 「資材が高騰しており、事業費増は避けられません。ただ精査をすることで、増えるだけではなく減らせる部分も見つかります。事業費圧縮に努めることを肝に銘じて精査を続けています。 国などからの補助金は通常であれば定率なので、資材が高騰しても増えるわけではありません。市としてはその状況を考慮し、さらに補助金を要請していきます。ただ国も、再開発事業が止まれば都市としての魅力が低下すると強く懸念しているので、負担軽減に向けた制度を作っている途中です。 また、完成後の運営を効率的に行うことも非常に大事です。今のうちから運営母体を決めて、その上で大規模・国際的な会議の誘致活動をしていきます。かかる経費はできるだけ収益で賄っていける基盤を作りたいと思っています」  ――市が昨年9月に発表した中期財政収支の見通しも非常に厳しい状況です。市債残高は膨らみ、2026年度には財政調整基金と減債基金の残高がなくなり、財源不足を埋められず必要な予算が立てられなくなると試算されています。 「財政は厳しいですが、やるべき事業はやっておかないと、後々の負担は逆に増えてしまうと考えます。いま手を打たなかったことで、都市の魅力が下がり、人口減少がますます進んでしまうことも危惧されます。そうなれば活力が失われ、街としてもっと苦しい状態に追い込まれてしまう。必要な事業を先送りすることなく実施していくことが大事だし、私はその精神でこれまでも取り組んできました。 人も富も集中する東京は民間が都市の魅力向上を果たしてくれる面が強い。しかし地方は、行政が主導的な役割を果たしていかないと都市としての存在感が低下していきます。私はそういう意識で、これからも市政運営に努めていきたいと思います。そのためにも行財政改革や事業の取捨選択、デジタル化などを進めていきます。 一方、『稼ぐ』という点では福島市が開発した全国的にも珍しい『議会答弁検討システム』を売り出していきます。本来は民間が稼げるようにするのが一番なのですが、行政自らが『稼ぐ』ことを意識し、財政の持続可能性を達成したいです」 ――老朽化する消防本部、市立図書館など、市内には建て替えが必要な公共施設が多数あります。どのように対応していきますか。 「すべての施設を建て替えるのは財政状況を考えると困難です。再編統合や規模縮小など多少痛みを伴うこともあるかもしれません。 とりわけ消防本部は災害対策の要ですから、耐震面に大きな問題がある状況は1日でも早く解消しなければなりません。 これから本庁舎西側で市民センターの建設が本格化します。同センターには市民会館や中央学習センターを再編統合した機能が備わります。一方、消防本部は市民会館の跡地に建設する計画です。市立図書館も老朽化が著しいですが、新たな建設場所などは決まっていません。財政状況にもよりますが、まずは消防本部の建て替えを優先し、その後、市立図書館の建設に着手できるよう検討を進めたいと思います」 ――念願だった古関裕而さんの野球殿堂入りが実現しました。 「祝賀ムードを維持しながら古関裕而記念館での発信に努めていきます。野球殿堂入りの証しとなるレリーフを展示し、多くの方に見に来てもらえるようにしたいと思います。 野球の試合を県営あづま球場で開き、古関さん作曲の歌で応援合戦をするのも一つのアイデアだと思います。今回の野球殿堂入りを機に、福島市を野球の聖地の一つにできないかと密かに考えています。 古関さんの曲は親しみがあって心地よい、古びないメロディーです。世代を超えて古関さんへの愛着を継承できる仕掛けを街なかに作っていきたいと思います」 福島市のホームページ 掲載号:政経東北【2023年3月号】  

  • 【開店前の飲食店に並ぶ福島市職員】本誌取材で分かったサボりの実態

     人気ラーメン店の〝開店前行列〟に福島市職員と思しき集団が並んでいた――。こんな匿名メールが本誌編集部に寄せられた。市に確認したところ、メール内容は事実であり、職員らは所定の手続きを取らず休憩時間を取っていたことが分かった。  メールは昨年11月18日に送信されたもの。内容は以下の通り(一部読みづらい個所をリライトしている)。  《今日10時半過ぎに福島市岡部の醤油亭というラーメン屋さんに行ったら、福島市の職員が8〜10人くらい並んでました。この店は人気店で、開店11時前に並ばないとスープがなくなるので、私は有給を取って平日の今日10時半過ぎに行きました。私の前方に並んでいた夫婦の旦那さんは、「なんだって、公務員はそんなに暇なのか?」と呆れていました。駐車場を見たら白いライトバンが2台、ナンバーは福島〇〇〇〇(メールでは番号が書かれていたがここでは伏せる)とありました。添付は職員の写真と車のナンバーの写真です》  添付されていた 〝証拠写真〟には、腕に「福島市」と書かれた作業服を着た男性数人が並ぶ姿と、車のナンバーが収められていた。  地方公務員法第30条では「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」と定めている。もし仕事をサボって集団で並んでいたとすれば違法行為ということになる。  一方で、公務員が昼の休憩時間に作業服姿で外食すること自体は問題ない。「早朝から仕事して昼休みを早めに取った」、「昼から仕事なので、その前に食事休憩を取った」というケースも考えられる。  ネットで検索したところ、ラーメン店の正式名称は「ラーメン工房醤油亭」。セブンイレブン岡部店などがある三叉路の近くに立地する。ちぢれ麺の米沢ラーメンが味わえる店として人気を集めていたが、11月末で閉店していた。閉店する前に「どうしても食べたい」と考えて並んだのかもしれない。  実際のところはどうだったのか、市人事課に連絡し、事実確認を依頼したところ、後日「メールの内容は事実であり、ごみ減量推進課の職員たちが並んでいた」と連絡が来た。  市の担当者の説明によると、ごみ減量推進課は市内のごみ集積所などを管理する部署で、外勤が多い。普段は2人1組で行動しているが、問題の日は担当者9人が朝9時から市内のあらかわクリーンセンターに向かい、普段使用している公用車のタイヤ交換を行っていた。  作業がひと段落した後、早めに昼休憩を取り、昼食を食べに行くことになった。なお、職員がそろって食事するのは、タイヤ交換時の恒例行事となっていたという。  もっとも、ごみ減量推進課の担当者によると、「特別な用事がない限り、12時から13時の間に昼休憩を取ることになっている。変更する場合は昼に仕事が入っているなどやむを得ない理由があるときに限られ、その際は上長が指示を出す」。職員らは上長の指示を仰がず、勝手に昼休憩を早めに取っていたことになる。  職員らは11時の開店前から行列に並んで食事を取り、その後市役所に戻った。帰庁後間もなく昼休憩の時間に入ったため、ちゃっかり長めの休憩時間を満喫していた。開店前行列に加えて、帰庁後に〝重複休憩〟を取っていた事実も分かったわけ。  人事課の担当者は「現在詳細について調査中で、処分の対象になるかどうか検討する」と話したが、明らかに地方公務員法に違反している。おそらくタイヤ交換のたびに同じように行動していただろうし、似たような形でサボっている職員がほかにもいる可能性がある。いま一度、職員に勤務時のルールを徹底させるべきだ。  警察官や消防士などが休憩時間、制服姿でコンビニを利用すると「仕事をサボっているのではないか」と市民から苦情が入ることがある。ネット上などでたびたび議論になるため、今回もそうした事例かもしれないと思い、念のため市に確認したところ、思わぬ事実が判明した。  中には「外食した店がたまたま混雑していることもある。そんな目くじらを立てることではない」と見る向きもあるかもしれない。  ただ、そもそも仕事の日に、わざわざ行列ができる人気ラーメン店を昼食の場所として選び、開店前から並ぶ行為は妥当だったのか。人手不足で、忙しく働く中小企業の立場からすると強い違和感を抱くだろう。「公務員はそんなに暇なのか?」と呆れられても仕方がない話だ。  メールの差出人はわざわざ有給を取って並んでいたというから、なおさら「仕事がある日でも開店前から人気店に並んで食べることが許されるとは、なんていい職場なんだ」と感じただろう(実際は勝手な判断だったようだが)。  公務員はその行動が市民に見られていることを自覚して業務に取り組む必要があろう。 あわせて読みたい 【福島県】相次ぐ公務員の性犯罪 会津若松市職員「公金詐取事件」を追う 【福島県職員の給料】人事院・福島県人事委勧告の虚妄

  • 福島市いじめ問題で市側が被害者に謝罪

    福島市内の男子中学生が市立小学校に通っていたときにいじめを受け、不登校になった問題について、本誌2022年4月号「【福島市いじめ問題】6つの深刻な失態」という記事で、詳細にリポートした。  記事掲載後、男子中学生と保護者は市や市教育委員会の対応を巡り、担任の教員や教育委員会などに謝罪を要求。県弁護士会示談あっせんセンターに示談のあっせんを申し立て、2022年10月末、市長と教育長が謝罪することで和解に至った。  福島市は2022年11月22日の記者会見で、木幡浩市長と佐藤秀美教育長が非公式の場で直接謝罪しことを明らかにした。和解の条件として、市が児童らに180万円の解決金を支払い、いじめ問題の関係者を今後処分する。  同日、被害者側も記者会見を開き、男子中学生は「心の傷は治らない」と語った。保護者は「こちらが求める謝罪ではなかった」としつつ、「今後は組織一体となっていじめ問題に対応してほしい」と訴えた。

  • 福島市西部で進むメガソーラー計画の余波

     「自宅の周辺を作業員が出入りして地質調査をしていると思ったら、目の前の農地に開閉所(家庭でのブレーカーの役割を担う施設)ができると分かった。一切話を聞いていなかったので驚きました」(福島西工業団地の近くに住む男性)  同市西部の福島西工業団地(同市桜本)の近くの土地を、太陽光発電事業者がこぞって取得している。東北電力の鉄塔に近く、変電所・開閉所などを設置するのに好都合な場所だからだ。  2022年2月、鉄塔がある地区の町内会長の家をAC7合同会社(東京都)という会社の担当者が訪ねた。外資系のAmp㈱(同)という会社が特別目的会社として設立した法人で、福島市西部の先達山(635・9㍍)で大規模太陽光発電施設を計画している。そのための変電所を、市から取得した土地に整備すべく、町内会長の了解を得ようと訪れたのだ。  町内会長は冒頭の男性と情報を共有するとともに、同社担当者に対し「寝耳に水の話で、とても了承できない」と答えた。  同計画の候補地は高湯温泉に向かう県道の北側で、すぐ西側に別荘地の高湯平がある。地元住民らは「ハザードマップの『土砂災害特別警戒地域』に隣接しており、大規模な森林伐採は危険を伴う。自然環境への影響も大きい」として、県や市に要望書を提出するなど、反対運動を展開している。  そうした事情もあってか、変電所計画にはその後動きがないようだが、2022年3月には、別の太陽光発電事業者が近くの民有地を取得し、開閉所の設置を予定していることが明らかになった。  発電事業者は合同会社開発72号(東京都)で、福島市桜本地区であづま小富士第2太陽光発電事業を進めている。開閉所を含む発電設備の建設、運転期間中の保守・維持管理はシャープエネルギーソリューション(=シャープの関連会社、大阪府八尾市)が請け負う。  発電所の敷地面積は約70㌶で、営農型太陽光発電を行う。営農事業者は営農法人マルナカファーム(=丸中建設の関連会社、二本松市)。2022年7月に着工し、2024年3月に完工予定となっている。  開閉所は20㍍×15㍍の敷地に設置される。変圧器や昇圧期は併設しないため、恒常的に音が出続けるようなことはないという。発電所から開閉所までは特別高圧送電線のケーブルを地下埋設してつなぐ。 開閉所の整備予定地  5月7日には地元住民への説明会が開かれた。大きな反対の声は出なかったようだが、冒頭・予定地の目の前に住む男性は「電磁波は出ないというが、子どもへの影響など心配になる。工事期間中、外部の人が出入りすることを考えると防犯面も気になります」と語った。  前出・町内会長は、一方的な進め方に違和感を抱き、市の複数の部署を訪ねたが、親身になって相談に乗ってくれるところはなかった。  特別高圧送電線のケーブルが歩道の地下に埋設される予定であることを知り、市に「小学生の通学路にもなっているので見直してほしい」と訴えたところ、車道側に移す方針を示した。だが、根本的に中止を求めるのは難しそうな気配だ。  「鉄塔周辺の地権者が応じれば、ほかにも関連施設ができるのではないかと危惧しています」(町内会長)  福島市西部地区で進むメガソーラー計画で、離れた地区の住民が思わぬ形で余波を受けた格好だ。2つのメガソーラー計画についてはあらためて詳細をリポートしたい。 あわせて読みたい 相馬玉野メガソーラー事業者が「渦中の所有者」の関与を否定 【二本松市岩代地区】民間メガソーラー事業に不安の声 大玉村「メガソーラー望まない」 宣言の真意