【福島市】厳冬の夜間ホームレス調査

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【福島市】厳冬の夜間ホームレス調査

 路上生活を強いられるホームレスの数を地域住民が夜に自宅周辺を歩いて計測する取り組みが全国に広まっている。「ストリートカウント(ストカン)」と呼ばれ、英米やオーストラリアが先進地だ。日本では2016年に東京で都市空間を研究する大学教員や学生らが中心となって始まった。ホームレスを取り巻く問題を行政機関や福祉の専門家だけに押し付けず、「我がまち」の問題として捉え、ホームレスを排除しない社会を目指す狙いがある。ネットを通じて活動は広がり、全国調査は今年1月に行ったもので3回目。本誌は初参加し、JR福島駅周辺を回った。(小池航)

全国に広がる「東京発住民調査」の輪

終電後のJR福島駅西口
終電後のJR福島駅西口

 忘新年会シーズンでJR福島駅前を歩く機会が多い。10年前の福島駅は、東西を結ぶ地下通路や高架下でホームレスが荷物を寄せてしゃがみこんでいたり、回収した空き缶をビニール袋に入れて構内を移動する姿をよく見かけた。ホームレスの中には東京電力福島第一原発事故の収束作業や除染作業に従事した後、仕事を失い、帰る場所もなく福島に残って路上生活に陥った人もいた。

 現在はどうか。地下通路を歩くと酔っ払いがした小便の臭いが立ち込めるのは相変わらずだが、ホームレスの姿は全然見かけない。

 いなくなったわけではない。厚生労働省は「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に基づき、毎年市町村に路上生活者の計測を委託し集計している。直近の2023年1月調査時点によると、福島県内は9人、うち中核市別では福島市4人、郡山市3人、いわき市2人(表参照)。今年1月の数値は取りまとめ中で未公表だ。全国の統計を見ると東京、大阪など大都市に多い。

ホームレスの数が多い上位5都府県(厚生労働省集計)

単位(人)2019年2020年2021年2022年2023年
大阪府10641038990966888
東京都1126889862770661
神奈川県899719687536454
福岡県250260268248213
愛知県180181157136136

福島県と県内中核市のホームレス人数

単位(人)2019年2020年2021年2022年2023年
福島県17141069
福島市66324
郡山市85323
いわき市33422

 福島市生活福祉課によると、毎年1月中に職員が市民や警察から寄せられるホームレスの滞在情報を基に、昼と夜の2回に分けて調査する。今年は11日に行った。人数は「厚労省の発表を待ってほしい」と言及を控えたが、存在は確認したという。調査をする際には当事者からの相談も受け付けている。過去には住宅支援や就労支援につなげたこともある。

 福島市内のホームレスは減少傾向だが、同課に要因を聞くと「一概には言えない」とした上で、滞在場所が不定のため行き先をたどれなかったり、警察から死亡の報告を受けたケースがあったと話した。

 郡山市保健福祉総務課によると、今年は1月中旬までの間に昼と夜の2回に分けて実施。福島市と同じく「詳しい人数は厚労省の発表を待ってほしい」というが今年もホームレスを確認したという。同じく減少傾向にあるが「生活困窮者の窓口につなげたり、亡くなってしまったりで様々な要因があるので一概には言えない」という。

 全国で路上生活者は減っている。福島市で10年前に見かけたが最近は見かけないという体感は正しい。新たに住居や職を得ていれば良いが、中には高齢となり病気で死亡している人がいる可能性は否めない。

 本誌は県庁所在地福島市の現況を把握しようとJR福島駅前のホームレス目視調査を行った。ホームレスの実態を調査する東京の市民団体「ARCH」(アーチ)が1月19、20日の夜間に全国で開催した「私のまちで東京ストリートカウント」に参加した。

 団体名ARCHはAdvocacy and Research Centre for Homelessnessの略称で、都市空間を研究する東京工業大学の教員、学生を母体にホームレス支援団体、市民が加わり2015年から活動を始めた。事務局の杉田早苗さん(岩手大学農学部准教授)が設立経緯を振り返る。

 「設立メンバーは英・ロンドンやオーストラリア・シドニーを対象に海外のホームレス支援策を研究してきました。設立の直接のきっかけは東京五輪の開催が決まったことでした。巨大イベントを前にすると、行政は都市公園や競技場付近のホームレスを排除する傾向があります。米・アトランタ五輪では開催期間中にバスの乗車券を渡してホームレスの方を遠ざける施策が取られました。他方、オーストラリアはシドニー五輪を契機に『公共空間にホームレスがいる権利』を議定書に明記しました。東京五輪を控え、排除を進めるのではなく、ホームレスの方を取り巻く問題に目を向け、環境改善につなげたかった」

居住地に帰る夜間に調査

駅に向かう人々(JR福島駅東口)

 ARCHメンバーは東京のホームレス支援団体に話を聞き、都市空間の研究者として力になれることを考えた。

 支援団体が問題にしていたのが、「東京都はホームレスの実数を正確に把握していないのではないか」という疑念だった。都は職員が目視で人数を把握しているが調査は昼間。ホームレスは、日中は廃品回収などに従事し所在が決まっていないことを考えると、正確な数を把握するには寝床に帰る夜間が適切だ。

 支援団体は相談業務や住宅確保・就労支援など目の前の活動に精一杯で、調査まで手が回らない。だが、ホームレスを取り巻く問題は支援団体だけが向き合うのではなく、その地域に住む人も目を向けるべきものだ。海外では地域住民が夜間にホームレスの数を調査する先例があり、米・ニューヨークでは2000人規模の調査員で正確な数値を弾き出していることを知った。

 ARCHは2016年夏に東京都渋谷区、新宿区、豊島区の駅前で初めて調査を行った。一般市民の協力を得て年々規模を拡大し、2021年からは全国に参加を呼び掛け、これまで1021人(延べ1910人)が調査に加わった。

 調査範囲が東京から全国に広がったのは新型コロナ禍が契機だった。感染が拡大した2020年春以降は感染対策のためにARCHの発足母体である東工大の研究者、学生などに参加者を絞って実施したが、1人当たりが回る範囲が広くなり負担が増した。一般参加を制限したため、市民参加という当初の理念からも遠のいてしまった。

 市民同士が無理なく共同調査できる形を模索し、2021年夏にネットを介して自分が住む地域の調査結果を報告・集計する形に改めた。住宅地や郊外の駅・公園が巡回地に加わったことで、「ホームレスがいるのは都心」という一面的な見方を脱し、参加者は自分が住むまちとホームレスを取り巻く問題を関連づけて考えるようになった。

 「大切なのは、深夜に自分が住むまちを見つめることで生まれる『地域を見守る感覚』です。ストリートカウントはホームレスの方の人数把握が第一の目的ですが、それ以上に地域住民がホームレスの方を取り巻く問題に気づき、誰もが排除されず暮らしやすいまちにするためにはどうしたらよいかを考えるきっかけになります」(杉田さん)

 実際、参加者からは「夏の暑い中や冬の凍える中、ホームレスの方が過ごす屋外を歩き、自分事としてリアルに捉えられた」との感想が多く寄せられるという。調査チームは2人から結成でき、各自終電後の時間帯を最低1時間程度回る。バラバラの行動ではあるが、ネット上の回答フォームに出会ったホームレスや帰る場所がなさそうな人の人数を記入して本部に報告。感想を共有して、参加者同士がゆるやかなつながりを形成している。

 参加者の一人、東京工業大学大学院修士1年の松永怜志さんは都市空間のデザインと市民参加の関わりを研究する中で、様々な事情でホームレスとなった人を包摂するまちの役割に興味が湧いた。支援団体に所属し、炊き出しをしたり、個別訪問を行うなど現場に出ている。

 「世間話をする中で『自分たちはいらない人間なのではないか』と打ち明けられることがあります。ストリートカウントができるのは、まちで出会った人々を見守り、関心を寄せることまでですが、活動が多くの人に広まれば、排除ではなく助け合いの心につながるのではないでしょうか」(松永さん)

路上生活者は潜在化

福島駅地下道の注意書き
福島駅地下道の注意書き

 今年1月に行った全国調査への参加者は1日目の19日が62人、2日目の20日が30人、別日に1人が行い、延べ93人が行った。13都道府県から参加があり、北海道、秋田、岩手、福島、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、福岡、熊本の諸都市を回った。福島県内からは本誌のみが参加した。全国の参加者が出会ったホームレスの人数は1日目が103人、2日目が111人だった。

 本誌は19日の深夜11時から1時間かけて、スタッフ2人で福島駅周辺を回った。ホームレスには出会わなかった。福島市の調査では昨年1月に4人確認し、今年も存在を確認したというから本誌が見かけなかっただけと考えるのが自然だ。

 深夜に駅前にたたずんでいる人はほとんどが家族の送迎の車を待つ人だった。ただ、駅から離れた人通りの少ないトイレ前のベンチで、ヘッドホン(防寒耳あて?)をつけてスマホを操作している人がいた。風貌からホームレスではなく、長時間滞在している様子もなかったが、帰る場所がない人の可能性があり「居場所がなさそうな人」にカウントした。

 地下道や高架下にも足を運んだがそこで夜を明かそうとする人の姿は見かけなかった。かつてホームレスを見かけた地下道には、福島市が立てた「居住、長時間滞在・荷物存置、勧誘、物品販売等を禁止します」との看板があった。場所を追われたホームレスたちはどこに行ったのか。より目立たない場所に追いやられ、潜在化しているのかもしれない。

 駅南側に進むと、市の子育て支援施設「こむこむ」の窓ガラスの前では、窓を鏡にしてダンスを練習する若者がいた。昼間に車で通ったり、飲み会に足を運ぶだけでは見かけない光景で、自然発生した文化を感じる。文化と言えば、以前週末によく見かけた路上ライブは、ネットでの動画配信が主流のいまは流行らないのか出会わなかった。

 福島駅の東口は再開発事業の工事中で、賑わいが以前よりも減り、寒さも相まって物寂しさが漂う。福島市は車社会のため、駅前は車で通りすぎる場所になっている。ましてや夜中に足を運ぶことはめったにない。終電後の1時間程度の観察だったが、自分が住む「まち」に関する解像度が上がった。本誌では、行政の調査を補完するため今後も郡山市やいわき市に足を延ばし、独自にストリートカウントを行う予定だ。

この記事を書いた人

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小池 航

こいけ・わたる 1994(平成6)年生まれ。二本松市出身。 長野県の信濃毎日新聞で勤務後、東邦出版に入社。 【最近担当した主な記事】 福島県内4都市スナック調査(4回シリーズ) 地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」(2023年2月号) 趣味は温泉巡り

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