会津若松市馬場町に住む高齢男性が土地の転売を目論む集団から立ち退きを迫られている。転売集団の一員とみられる新たな所有者は「男性が家賃を支払わずに不法入居している」として地裁会津若松支部に立ち退きと損害賠償を求める訴訟を起こした。5月21日に行われた証人尋問では原告や土地の転売者を含め4人が証言したが、要領を得ない答えや被告の男性との応酬で法廷は混乱。原告側から「不法入居」の立証はなく、お粗末さが際立った。
問題の土地は市内馬場町4―7にある約230坪(約760平方㍍)。一角に立ち退き訴訟の被告である長谷川雄二氏(74)の生家がある。現在は息子が住み、長谷川氏は仕事場として使っている。
長谷川氏によると、祖父の代から100年以上にわたり、敷地内に住む所有者に賃料を支払い住んできたという。不動産登記簿を見ると、歴代の所有者は同じ名字で、長谷川氏によると親族という。2019年まで賃貸借関係は続いた。
トラブルになったのは、2019年12月27日に近所で「山内酒店」を経営する関正尚氏(80)がこの一族から土地を購入してからだ。関氏は3年余り経った23年2月7日に東京都東村山市の太田正吾氏に転売した。太田氏が同年3月に長谷川家を訪れ、「許さねえからな。俺、家ぶっ壊しちゃうからな」などと言い、立ち退くよう脅してきて初めて、長谷川氏は自分が追い出されそうになっていることに気づいた。太田氏が暴言を吐く様子と音声は監視カメラに記録されている。
長谷川氏は、関氏が転売を目論んで土地を購入し、太田氏は所有権を根拠に立ち退きを迫る「追い出し役」とみている。長谷川氏が監視カメラで応酬すると、太田氏は裁判で合法的に立ち退きを迫った。
居住権は借地借家法で強固に守られている。原告は不法入居を立証しなければならず、勝訴のハードルは高い。裁判で太田氏側は「長谷川氏が土地を占有し勝手に住んでいる」との説明を受けずに土地を購入したとして「長谷川氏から家賃をもらっておらず不法入居だ」と捉え、立ち退きを求めた。
一方、被告の長谷川氏は、2019年以前の所有者一族には賃料を支払ってきたと主張。一族から土地を購入した関氏にも手渡しで賃料を支払っていたが、領収書を巡るトラブルで支払いが中断し、以後は法務局に供託して実質支払い済みの効果を得ているという。
当初は領収書を受け取っていなかったが、発行を求めると関氏は「福和商事」という土地取引とは無関係の署名で切ってきたという。長谷川氏は関氏が正規の領収書を切らない限り、賃料は直接渡さないと供託していた。これらの経緯は本誌2023年8月号、24年1月号で詳報している。
不法入居を証明する責任は原告側にある。だが、太田氏は「占有しているのを知らなかった」と言うのみで立証しなかった。最後は苦し紛れに「不動産業者に騙された」などと主張。ついに立ち退きを求める根拠を示せなかった。証人を4人も呼んだ大掛かりな裁判の割りには、判決はあっけないものになるだろう。
判決は7月25日午後1時10分から言い渡される。