文春に研修生自死を報じられた【棚倉田舎倶楽部】

文春に研修生自死を報じられた【棚倉田舎倶楽部】社長は石川遼プロの父親

 2年前、東白川郡棚倉町のゴルフ場「棚倉田倶楽部」で若手研修生が自死した。当時、本誌は周辺取材を進めたが、遺族に接触できず記事化を見送った経緯がある。過日、週刊誌で自死の背景が詳報された。

社長は石川遼プロの父親

 週刊文春(5月30日号)に「石川遼ゴルフ場で19歳研修生が首つり自殺していた! 社長を務める遼パパは『パワハラ訴え』を調査せず」という記事が掲載された。

 「石川遼」は言わずと知れた国内男子トッププロゴルファー。その石川選手が深く関わっている県内のゴルフ場が東白川郡棚倉町にある「棚倉田舎倶楽部」である。実は、同ゴルフ場を運営する棚倉開発㈱(資本金5000万円)は石川選手の父・勝美氏が社長を務めているのだ。

 棚倉田舎倶楽部は3コース27ホールあり、日米大学対抗ゴルフ選手権が開催されるなど難易度の高いコース設定で知られる。そんなゴルフ場を運営する棚倉開発の全株式と経営権を、2018年9月に前オーナーから買い取ったのが不動産業やスポ
ーツ関連用品販売などを行うケーアイ企画㈱(埼玉県松伏町)という会社だった。役員は代表取締役・石川由紀子氏、取締役・石川遼氏。由紀子氏は石川選手の母親である。

 ケーアイ企画がオーナーとなった棚倉開発は、石川勝美氏が2018年9月25日付で社長に就任。同12月にはジュニア親子大会を開き、勝美氏は「ジュニアの育成はもちろんハードルの低いゴルフ場というのも考えている。多様なゴルフの形があるというノウハウを示せたら」(ゴルフサイト『ALBA.Net』18年12月26日付)と抱負を語っていた。

 民間信用調査機関によると、2017年12月期決算まで赤字を計上していた棚倉開発だが、勝美氏が社長就任以降はプレー費や食堂利用のほか県外の不動産収入などで黒字を確保している(別表参照)。

棚倉開発の業績

売上高当期純利益
2018年2億8700万円5990万円
2019年2億7600万円1230万円
2020年2億1100万円160万円
2021年2億4000万円1700万円
2022年2億7000万円600万円
2023年2億7000万円———
※決算期は12月。——は不明。

 育成はジュニアにとどまらず、プロを目指す18~25歳までの若手を対象に研修生・練習生も募集。そのための寮もあるが、そこで起きたのが週刊文春で報じられた「19歳研修生の首つり自死」だった。

 以下、週刊文春から抜粋する。

 《2021年春、この名門倶楽部の門を叩いたのが、福島県内の高校を卒業したばかりのA君だった。彼の母親が明かす。

 「小学2年生でゴルフを始めたAは高校にはスポーツ推薦で入学。高校時代にはジュニア大会で結構いい成績を収めていた。史上最年少でツアー優勝した石川遼君は憧れでした。たとえプロになれなくてもゴルフの仕事で食べていけると喜んでいたのですが……」

 棚倉開発に入社したA君は、他の研修生2名とともに倶楽部内の寮に住み込み、ゴルフ場でのカート運転や練習場の球拾いなどといった仕事と並行してプロテストに向けた練習を重ねた。

 ところが――。翌2022年6月24日にA君は、寮の階段で首を吊って、自ら命を絶つのだ。

 ここにA君の遺族が、昨年10月31日、地元の労基署に提出した「意見書」と「陳述書」がある。(中略)

 「意見書」では支配人のX氏による言葉が次のように記されている。

 〈●●(注・研修生の1人)によれば、X支配人は、被災者(注・A君)に対して、たとえば、「あいつは練習しないから」「あいつだけなんか悪」(略)「もうそんぐらいだったら、もうやめちまえ」「そんなやつは、なんか要らないみたいな、仕事できないんだったら要らないみたいな」(略)「おまえ、やる意味ねえだろうみたいな、家帰ればみたいなことは確かに度々言われて」いた〉

 〈被災者はX支配人から「ばか」と言われ(略)、1時間程度もの長時間にわたり叱責された。その際の叱責は被災者が泣くほどの強い叱責であった〉

 また「意見書」と「陳述書」には、年上の研修生から罵倒される様子も記されている。練習場のボール拾い作業で不手際があり、予定時間に終了しなかったことを指摘され、

 「頭使ってんのか!」

 「どこに目付けてんだ!」

 「お前何したのかわかってんのか!」

 などと、胸倉を掴んで罵倒されたという。

 さらにA君が信頼する指導担当のプロも、「早くプロになるのがそういう目にあわない近道」と、何ら動かない。

 もはやA君に相談できる相手はいなかった――》

 《遺族が求めるA君の死の真相究明。だが、約2年が経った今も、勝美氏は説明をしないどころか、一度も遺族に会っておらず、無論、謝罪もないという。

 勝美氏の携帯を鳴らしたが、「ノーコメントでお願いします」。棚倉Cにも問い合わせると、代理人弁護士が「法的な問題が解決するまでお答えできない」とした。

 A君の母親は今後、訴訟も視野に入れている。

 「Aが亡くなった直後からパワハラが原因ではないかと疑っていました。従業員への調査をすると言っていたのに、社長の勝美氏は一度も姿を見せない。Aの死に対し、このまま責任を取らないつもりなのでしょうか。Aを研修生にしたことは一生の後悔です。息子を返してほしい」》

2年前に周辺取材

 実は、この記事からさかのぼること2年前(2022年)の7月、本誌は「棚倉田舎倶楽部で若手研修生がパワハラで自死したらしい」との情報を入手し、周辺取材を進めていた。当時の取材メモを見返すと、次のような記録が残っていた。

 ▽研修生の1人が自死。棚倉町内の一部で関心事になっている。

 ▽亡くなったのは19歳の●君。××出身。3人いた研修生のうちの1人。

 ▽(2022年)6月末にゴルフ場内で自死。棚倉田舎倶楽部ナンバー2が親に謝罪に行ったが「絶対に許さない」と怒り心頭。今後裁判になる可能性がある。

 ▽背景にあるとみられるのが研修生によるいじめと■支配人の対応。■支配人は元▲CC出身と聞いている。■支配人は寡黙な●君をいじめというか、こき使っていた。整備や雑用をひたすらやらせていた模様。

 ▽■支配人以外の人は●君をかわいがっていたが、他の研修生はそれを面白く思っていなかったようだ。

 ▽研修生3人のうち1人は●君が自死する前に辞めた。

 本誌は、自分の子がA君(●君)と同級生のゴルフ仲間で、A君の葬儀にも出席したという某経営者とコンタクトを取り、遺族に取材できないか交渉した。しかし「母親に伝えたところ裁判を起こす準備をしているようで、取材は少し待ってほしい」と言われたため、遺族の証言が得られない以上、記事化は難しいとペンディングした経緯があった。

 それから2年経ち、週刊文春が母親を取材するなど事実関係が報じられたわけだが、本誌の取材メモと同誌の記事を見比べると内容に大きな差はなく、本誌が得ていた情報は間違っていなかったことが分かる。

 週刊文春の報道を受け、棚倉田舎倶楽部に「記事内容は事実か、石川勝美社長か担当者に話をうかがいたい」と取材を申し込んだが「取材についてはお断りさせていただいておりますので何卒ご了承ください」との返答だった。

 石川選手が関わっていることで対外的に良い印象を持たれている棚倉田舎倶楽部だが、若手研修生を自死に追いやった経営陣にジュニアの健全育成ができるとは思えない。

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