双葉地方広域消防本部「パワハラ」の背景
10月14日付の福島民報に「職員3人パワハラか 双葉地方消防本部 飲酒強要などで懲戒」という記事が掲載された。双葉地方広域市町村圏組合消防本部が、パワハラ行為があったとして職員3人を懲戒処分(減給)していたことを報じる内容。
実はこの前に、同消防本部のパワハラについて記した告発文が、本誌編集部宛てに寄せられていた。差出人は匿名で、消印は10月9日付、いわき郵便局。
パワハラの具体例を記した告発文と併せて、加勢信二消防長が各消防署長に向けて送付した「職員の義務違反について(通知)」という公文書の写しも添付されていた。内容はパワハラで懲戒処分された職員が出たのを受けて、言葉遣いや態度への注意を呼びかけるもの。おそらく差出人は同本部の職員だろう。
告発文によるとパワハラの内容は以下の通り。
◯今年2月22日に開かれた職員同士の飲み会で、消防副士長(29)が嫌がる部下にタバスコ入りの酒を一気飲みさせた。
◯消防司令補(34)が一次会で帰宅しようとした部下に土下座を強要した。
◯警防係長(40)が過度の説教を開始。
◯翌日から若手職員A(投書では実名)が病休に入りその後退職した。
新聞報道によると、処分された3人のうち1人は〝タバスコ消防副士長〟で、残り2人は訓練時の発言や不適切な言動、理不尽に受け取れる指導が処分対象になったという。
告発文によると、処分は9月14日付で、半年以上も経った後の処分ということになる。差出人が疑問視しているのは処分の軽さだ。というのも、同組合の懲戒処分等に関する基準では、パワハラなどで心身に故障を生じさせ、勤務できない状況を招いた際は免職・停職とすることが定められているのだ。
《その他にもパワハラで楢葉分署1名、富岡消防署2名が病気休暇で休んでいるのが、現状です。減給の処分職員はなんの反省もしていません》(告発文より引用)
福島県消防協会のホームページによると、同消防本部の管轄エリアは双葉郡8町村。実人員(職員数)は127人で、県内の消防本部では小規模な部類に入る。復興途上の原発被災地域の防災を担おうと入った若い職員がパワハラ行為の対象となり、退職・休職に追い込まれたのだとしたら、これほど理不尽な話はない。
同消防本部に詳細を問い合わせたところ、金沢文男次長兼総務課長が次のように答えた。
「パワハラに関する教育は年1回、階級に合わせて実施しています。パワハラの詳細や当消防本部が知るに至った経緯は新聞社などにも公表していないのでご理解ください。公表しない理由もお話しすることはできません。なお、楢葉分署、富岡消防署の休職者に関しては、今回のパワハラとは関係ありません」
懲戒処分が軽くなった経緯については「公表していない」、懲戒処分したことを公表しなかった理由については「公表の基準が決まっており、それを下回ったので、公表しなかった」と説明した。とにかく情報公開を避けている印象が否めない。こうした体質がパワハラを助長しているのではないか。
消防でパワハラが起きる背景について、消防行政を研究する関西大学社会安全学部の永田尚三教授は次のように語る。
「消防は一般的に体育会系的要素が強いのに加え、消防本部は地域間格差が大きい。地方の小規模な消防本部では日常の業務に追われ、パワハラ対策やコンプライアンスなどについて、十分に学ぶ時間が確保されていない可能性が高い。また、消防本部は行政部局から切り離され独立性が確保されていますが、それゆえに、行政部局の組織文化が共有されにくい側面もあると思います」
同消防本部ではパワハラ教育を実施しているということだったが、効果がなかったことを重く受け止め、この機会に徹底的に内部調査を行って、膿を出し切るべきだ。そのうえでハラスメント行為を相互チェックするルールなどを組み込み、見直しを図ることが求められる。
氷山の一角!?南相馬市消防団「報酬ピンハネ」
一方、南相馬市では、消防団員に報酬が渡されていなかった事例が明らかになった。10月9日付の毎日新聞によると、同市内の消防団が団員だった40代男性に1年半にわたり報酬を渡していなかった。
支払いを求める男性に対し、先輩団員は「消防団っていうのはボランティアなんだ。報酬は団に預けているんだ」、「昔から余ったお金を団に残して、コロナになる前は2年に1回くらい旅行に行っていた。その時に飲み物やビールを買う、宴会に使うというのをやってきた」と話し、「列からはみ出るようなら、辞めてもらうしかない」と迫ったという。
消防団の悪しき慣習
男性は報酬を受け取らないまま退団し、報酬未払いとパワハラについて、市としての対処を求める嘆願書を市長宛てに提出。1年以上連絡がなかったが、9月に毎日新聞が取材した直後、市長名の回答が寄せられた。パワハラは評価できないとしたうえで、「報酬等の取り扱いについて、団員に対する説明が不十分であったと判断し、消防団に対して口頭指導した」という内容だったという。その結果、男性はようやく報酬を受け取ることができた。
消防団の報酬問題については、本誌昨年6月号「ブラック公務員 消防団」という記事で触れた。なり手不足解消のため、消防庁では年額報酬の引き上げに加え、個人支給を強く要望している。分団ごとに一括支給すると、報酬の一部が「活動費」として強制的にプールされてしまう実態があったためだ。
現在は改善されているのか。南相馬市に問い合わせたところ、危機管理課所属の阿部信也災害対策担当課長がこう説明した。
「市では分団から頼まれて、報酬をまとめて振り込んでいましたが、現在は市が個人名義の口座に振り込んでいます。毎日新聞記事の事例も分団に頼まれ、まとめ払いしていたが、元消防団員の方はその説明を受けてないとのことだったので、話し合いを持つようお願いしました。嘆願書への返事が遅れたのは、弁護士と相談したり、事実確認する時間が必要となったためです」
消防団員は非常勤特別地方公務員に当たる。その報酬を勝手な判断でプールすれば公金横領となりそうだが、事前に市に委託があったことを踏まえ、市では問題視しない方針だという。
前出・永田教授は「消防団も規模によって異なる。消防庁の方針に従い、多くの消防団は改善に乗り出しているが、中には個人に支払われた報酬から会計責任者が活動費を再徴収したり、報酬が入る通帳を会計責任者が預かるなど悪質な事例もあるようです」と述べる。実際、本誌昨年6月号では再徴収されたケースや通帳を新たに作らされた事例を紹介している。南相馬市の事例は氷山の一角の可能性がある。
消火活動に加え、救急搬送、自然災害時の人命救助など消防組織は大きな役割を担っている。現場で命をかけて活動している職員には敬意を表するが、だからといって、消防職員の〝権利〟を侵害する労働環境・慣習は看過できない。県内の消防組織が自浄作用を働かせ、前時代的な組織からの脱却を図る必要がある。