塙厚生病院に「棚倉移転説」

塙厚生病院に「棚倉移転説」

 東白川郡の中核病院としての役割を担う塙厚生病院。建物の老朽化により近い将来、建て替えが行われるとみられているが、「その機会に現在地より広くて利便性が良い棚倉町の旧棚倉高校跡地に移転するのではないか」と見る向きがある。ウワサの真相と背景を取材した。

背景に旧棚倉高校跡地の利活用問題

 

塙厚生病院に「棚倉移転説」地図①
塙厚生病院に「棚倉移転説」地図②

 塙厚生病院は福島県厚生農業協同組合連合会(JA福島厚生連)が運営しており、1948(昭和23)年に創立された。敷地面積1万7628平方㍍。病棟は鉄筋コンクリート造地上4階、建物延べ床面積1万3827平方㍍で、この間増改築を繰り返してきた。

 病床数は230床(一般167床、精神63床)。診療科目は22科。東白川郡の救急車出動件数の6~7割を受け入れ、在宅医療連携拠点としての役割を担う。まさに同郡の地域医療の核となる公的医療機関だ。

 ただ前述の通り、創立から70年以上経っており、病棟もかなり年季が入っている。JA福島厚生連は2021年、会津坂下町の坂下厚生総合病院を建て替えており(総事業費約88億円)、塙厚生病院も近い将来検討対象になるとみられている。そのため、塙町内では「いつ建て替えが行われるのか」という点が関心事となっている。

 ただ、塙町内ではこんな見立てもあるという。ある経済人の話。

 「坂下厚生病院はもともとあった場所に近い場所へ新築移転したが、塙厚生病院も現在の場所では手狭に見えるので、新築移転する可能性が高いのではないか。ただ、塙町の中心部には適地がないので、『この機会に東白川郡の中でも人口が一番多く、郡内の中心的存在である棚倉町に移転しよう』となっても不思議ではありません」

 新築移転し、塙町から棚倉町に移転する可能性もあるのではないか、と推測するのだ。

 この経済人によると、移転候補地として一部町民の間でウワサになっているのは、2009(平成21)年に閉校した旧棚倉高校の跡地だという。同年に旧東白川農商工高校(東白農商)と統合して修明高校となった後、校舎は解体され、現在は県有財産の更地となっている。県教育庁施設財産課によると、敷地面積3万8700平方㍍。

 同跡地に関してはこの間、企業や団体の進出・移転候補地としてたびたびウワサになるものの、実現には至っていない経緯がある。それだけ好立地で面積が広いということだが、今度はそこに塙厚生病院が新築移転するのではないか、と。

 「郡内全域の人が利用する医療機関なので、仮にこの場所から移転することになれば、塙町にとっては中心部のにぎわいが失われるという意味で大きな痛手となりそうです。町内でもウワサになっています」(塙町内のある経済人)

 果たして真相はどうなのか。同病院に確認したところ、総務課の担当者は「正直なところ、建て替えに関しては計画・スケジュールとも全くの白紙状態だが、現時点では現在地から移転して新築する考えはなく、現在地の中での増改築となる見通しです。各厚生病院では地元自治体やJAの組合長などの委員で構成される病院運営委員会を開いているが、昨年開かれた当病院の運営委員会でも建て替えについての方針をそのようにお伝えしました」と説明した。

 立地町である塙町総務課も「スケジュールまでは把握していないが、建て替えする際は現在地で、町外に出ていくことはないと聞いている」と話す。こうした話を聞く限り、現在地から移転する可能性は限りなく低そうだ。

 もっとも、現在地での増改築もすぐに進むわけではない様子。JA福島厚生連に問い合わせたところ、「建物が古くなり耐震的に問題があると判断した際は建て替えとなるが、厚生病院は5つあり、財源も限られているので〝優先順位〟を付けて対応していくことになる」と話した。坂下厚生総合病院の建て替えが3年前に終わったばかりということを考えると、少なくとも数年先の話になるのではないか。

気になる跡地の今後

塙厚生病院
塙厚生病院

旧棚倉高校跡地

 こうしたウワサが出た背景には、同病院を利用する人が多いのに加え、棚倉高校跡地の今後に注目が集まっているということもあるだろう。現地に足を運ぶと、入り口前にロープが張られ、立入禁止となっていた。

 同跡地の利活用に向けた動きは鈍かったが、県教委が動き始めた。利活用を促すため、新年度から旧棚倉高校、旧喜多方商業高校、旧小高商業高校について所在する自治体が利活用を進めるうえでかかった経費を1校当たり最大3億円補助する制度を始めたのだ。

 2019年からスタートした県立高校改革に伴う統廃合で空き校舎となる16校に関しては、昨年から同様の跡地利用補助が始まっていたが、同改革前に閉校していた3校は対象外となっていたことから支援を求める声が上がっていた。

 県教育庁施設財産課の担当者は旧棚倉高校跡地について、「新年度当初予算に関連予算を盛り込み、新たに補助制度を設け、先日、町の方にもご案内したところです。利活用方法について、寄り添いながら一緒に検討していきたい」と語る。

 一方の棚倉町は「未利用財産と言ってもあくまで県有財産なので、町で利活用を検討したことはない。先日、県から補助制度について案内を受けたことでスタート地点に立った形なので、今後検討していきます」(町地域創生課担当者)と話した。

 多少の温度差は感じられるものの、国道118号・289号棚倉バイパスに近いという好立地なので、公共施設用地はもちろん企業向け用地としても需要はありそうだ。

 棚倉町内の事情通はこう分析する。

 「旧棚倉高校跡地の利活用に関しては、東白川郡選出の宮川政夫県議(3期、自民党)が一般質問などで問題提起しており、今回の補助に関しても補助対象に含まれるように県に働きかけたと聞いている。湯座一平町長は県に対して利活用を自ら提案するなど、まちづくりに積極的なタイプではないので、うまく利活用案がまとまれば宮川県議の存在感がさらに高まるかもしれませんね」

 宮川県議に関しては12年前の町長選に立候補し、湯座氏と新人同士の一騎打ちを繰り広げて、わずか26票差で落選した経緯がある。次期町長選については特に言及していないが、かねてからその動向が注目されている(本誌3月号参照)。

 棚倉町長選の日程は8月27日告示、9月1日投開票予定。残り4カ月を切り、動きが激しくなる中で、旧棚倉高校跡地の利活用に関しても争点の一つになる可能性がある。そうした意味でも、今後どのような展開になるか注目が集まる。

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