郡山市がJR郡山駅西口近くで進めている「大町土地区画整理事業」で、5階建てのテナントビルが建設される。同事業は開始から18年以上経つが、一部地権者の同意が得られず、完了の見通しは未だに立っていない。ビル建設は停滞する同事業を動かすきっかけになるのか。
拡幅道路沿いはコインパーキングだらけ
大町土地区画整理事業は郡山市が施行者となり、再開発ビル「ビッグアイ」の西側を走る市道大町大槻線から県道郡山大越線(旧国道4号)までの挟まれた地区2・2㌶に、都市計画道路「日の出通り」線や公園などの公共施設、市街地を整備する計画だ。事業が始まったのは2005年12月、施行期間は26年度までとなっている。
市はホームページ(HP)で同事業を次のように紹介している。
《本地区はJR郡山駅の西側に隣接し、恵まれた立地条件を有するにも関わらず、地区の中心に位置する都市計画道路日の出通り線、県道須賀川二本松線、その他街路は未整備であり、また地区内には老朽化した建物や木造建築物が立地し、都市機能が低下している状況です。このため土地区画整理事業により土地の整序、集約を行い、公共施設を整備することで宅地の有効利用を推進し、建築物の耐震・不燃化を誘導することにより、郡山市の玄関口にふさわしい良好な市街地の形成を図る》
同地区には古びた飲食店やビル、空き家が複数あるなど、HPにもある通り「都市機能が低下」している状態が長く続いていた。そんな街並みを解消するため始まったのが大町土地区画整理事業で、開始から18年以上経った現在、地区内の建物は多くが取り壊され、電線地中化に伴う道路改良工事などが進んでいる。昨年11月からは舗装の取り壊しや掘削、排水構造物の設置が始まり、分割発注されている工事の進捗率は個所ごとに10~30%となっている。
そんな大町土地区画整理事業の最も目立つ場所に、新しくビルが建設されることが分かった。
3月16日付の福島民友が1面で報じている。それによると、日の出通りのビッグアイ側に面した土地に5階建てのテナントビルを建設。17区画を設け、飲食や物販、サービス業などの店舗を入居させる計画で、3階部分は駅西口のペデストリアンデ
ッキに接続するという。
事業者は市内の不動産賃貸業・橋本地所㈱(橋本真悟社長)。橋本社長は同紙の取材に「地元の居酒屋や県内初進出の店など魅力あるテナントで中心部に人を集めたい」とコメントしている。
この報道に「よく決断したな」と驚くのが市内の不動産業者だ。
「日の出通りの拡幅予定地沿線には既にテナントビル(2階建て)がいくつか建っているが、1階は飲食店が入居しているものの2階は空きが目立つ。今、駅前の飲食店ビルは上層階にいけばいくほど空いているので、橋本地所が5階建てのテナントビルを建てると聞いて大丈夫なのかと心配になりました。(大町土地区画整理事業の施行者である)郡山市から『魅力アップにつながる建物をつくってほしい』とでも依頼され、引き受けたんでしょうかね」(同)
予定地では3月31日に地鎮祭が行われ、橋本社長がくわ入れを行った。4月上旬、現地を訪れると「(仮称)Maggy駅前」新築工事と書かれた看板が立っていた。それによるとビルは高さ19㍍、建築面積532平方㍍、延べ面積2507平方㍍。主要用途は「飲食店、学習塾、診療所」と書かれている。着工予定は4月15日、完成予定は来年3月31日頃。施工とテナントの募集・仲介は大和ハウス工業が担っている。
予定地の真上には工事が途中でストップしているペデストリアンデッキがあり、ビルの建設に併せて3階部分と接続するとみられる。
橋本社長に話を聞くと「郡山市から話をいただき、ビルとペデストリアンデッキをつなげばビルのエレベ
ーターが利用できるため、障害者など多くの方の利便性向上につながると考えました」と述べ、次のような見通しを示した。
「テナントを募集しているが、申し込みの数だけ見ればかなり多く寄せられています。ただ、こだわったテナントという点では(それに見合うのは)2割くらいでしょうか」
橋本社長によると、現在、核となるテナント入居を目指し協議中で、県内初進出の店舗も「正式決定していないが、前向きに検討してもらっている」と明かした。
このように明るい動きが見られる大町土地区画整理事業だが、事業全体を見渡すと順調とは言い難い。
移転に応じた風俗店
その要因の一つが、地区内を通る県道須賀川二本松線沿いで営業する風俗店が移転・補償に応じないことだった。周辺の飲食店が次々と取り壊されていく中、その風俗店はちょうど日の出通りの拡幅予定地をふさぐように営業していたため「あの店が移転しない限り事業は進まない」と言われていたのだ。土地区画整理事業は地区内の権利者の理解と協力を得て進めていく性質上、代執行のように行政が強制的に移転させられない点も事業に遅れが出やすい理由になっている。
ただ、今年に入って「移転に応じたようだ」、「現在地からそれほど離れていない場所に新店舗を建てるらしい」という情報が入り、一帯を見て回ると、かつて東邦銀行大町支店が建っていた場所に群馬県の㈱大江戸観光という会社が地上3階、地下1階、高さ13㍍、延べ面積250平方㍍の貸店舗を建設すると書かれた看板が立っていた。着工予定は4月20日、完成予定は10月30日頃。
ネックとなっていた風俗店は移転するようだが、実はまだ移転・補償に応じていない地権者が若干おり、この交渉が長年停滞しているため、市は頭を悩ませているという。
「そもそも土地区画整理事業で整備しようとしたのが間違い」と語るのはある議員経験者だ。
「土地区画整理事業はただでさえ年月がかかるのに、施行者が民間ではなく行政(郡山市)では事業完了がいつになるか見通せない。2026年度までの施行期間なんてあってないようなもの。地権者で組織する組合が施行者になった方が相互理解を得られ、今よりスムーズに事業が進んだのではないか」(同)
実際、事業が停滞する間に経済状況は変わり、本来であれば日の出通り沿線には新しい店舗やビルが建ち並ぶはずが、現状はコインパーキングが次々とつくられている。
「地権者は経済状況が見通せない中、とりあえずコインパーキングをつくり、景気が上向いたら店やビルを建てようと考えている。しかし、今は駐車する車が結構あるが、コインパーキングもガラガラになったら余計に店やビルが建つことはないと思います」(前出・不動産業者)
前出・橋本社長もコインパーキングが目立つ状況をこう話している。
「皆さん、慎重になっているんだと思います。今は(店舗・ビル建設の)判断が難しい時期。ただ、まちづくりには関心を寄せているはずなので、当社のビル建設が良い方向に派生することを期待しています」
市のHPにもあるように「郡山市の玄関口にふさわしい良好な市街地形成を図る」ことを目的に始まった大町土地区画整理事業だが、コインパーキングだらけの光景は「良好な市街地」とは言えない。これ以上事業が滞れば、コインパーキングすらガラガラの物寂しい駅前になってしまうのではないか。