県都【福島市】・商都【郡山市】の駅前「最新事情」

県都【福島市】・商都【郡山市】の駅前「最新事情」

 計画の見直しが進むJR福島駅東口の再開発事業で、複合ビルに入居予定だったホテルの誘致を断念することが発表された。一方、JR郡山駅西口でも先月号で報じた通り大町土地区画整理事業が苦戦中だが、あらためて両駅前を眺めてみると福島はホテル、郡山はコインパーキングで溢れていることが分かる。

福島はホテル、郡山は駐車場が〝増殖〟

福島駅周辺地図

 5月1日に開かれた福島市議会の全員協議会で、木幡浩市長は福島駅東口再開発事業の複合ビルに入居予定だったホテルの誘致を断念することを発表した。

 「当初予定していたホテルが無くなるのは大変残念だが、大規模な民間投資を呼び込むだけの力・魅力が福島駅前は乏しくなっている」

 無念さを滲ませながらこう語った木幡市長だが、今回の判断が下されるのは遅かれ早かれ分かっていたことでもあった。と言うのも2月に開かれた市議会全員協議会で、事業主体の福島駅東口地区市街地再開発組合(加藤眞司理事長)は議員に配布した資料でテナント(ホテル)交渉が苦戦中と説明していたからだ。

 《シティグレードのホテル運営会社複数社に声を掛け、交渉を続けてきた》《コロナショックによる市場への打撃(宿泊客数・稼働率ともに他県より回復遅れ)》《物価高騰によるホテルへの投資控え(建築コストや人員不足、水光熱費等の運営コスト増加)》《オーナー側・ホテル側共に経済条件が厳しい》(資料より抜粋)

 大都市圏よりインバウンド需要が低く、物価高騰や人手不足も収まらない中では、ホテル側との交渉に明るい兆しが差し込むはずもない。

 複合ビルのホテル誘致は断念されたが、あらためて駅前を見渡すと、そもそもホテルは必要だったのかという疑問が浮かぶ。

 別掲地図は福島駅前で稼働するホテルを示したものだが、西口には四つ、東口には七つのホテルがある。さらに東口では現在、「ホテルルートインGrand福島駅前」(294室)が建設中で、今年12月にオープン予定なのだ。

 ある経済人は

 「複合ビルに誘致する予定だったホテルは、同じく複合ビルに設置するコンベンション施設でイベントや会議が開かれた際、宴会などのバンケット機能を果たしてもらう狙いがあった。しかし昨年、バンケット機能を持たせるのは難しいと木幡市長が発表、その時点で複合ビルのホテルに対する期待は一気に薄れた」

 と解説するが、複合ビルのホテルがなくなったところで、福島駅前のホテルが飽和状態にあることには変わりない。

 東口では今年2月に「福島リッチホテル東口駅前」が閉店したが、そこから数十㍍南側では前述の「ホテルルートインGrand福島駅前」が建設中だから、結局、駅周辺の総客室数は変わらないことになる。

 そこで気になるのが既存ホテルの稼働率だ。福島市旅館ホテル協同組合などに問い合わせたものの判然としないので、県全体の稼働率を参考にする。観光庁が今年2月に発表した宿泊旅行統計調査の2023年・年間値(速報値)によると、福島県は44・4%で全国42位。

 宿泊施設のタイプ別に見ると、旅館は30・5%で全国39位、リゾートホテルは51・9%で同20位、ビジネスホテルは58・2%で同44位、シティホテルは54・1%で同42位、簡易宿所は11・8%で同44位。

 駅前に立地する傾向にあるビジネスホテルやシティホテルは50%を超え、他の宿泊施設より高いが、それでも全国下位。稼働率の低さは、観光でもビジネスでも福島県を訪れる人が少ないことを物語る。

 ちなみに東北他県の稼働率を見ると、青森は57・5%で同11位、岩手は56・4%で同15位、宮城は58・2%で同9位、秋田は46・6%で同39位、山形は47・9%で同37位。福島は東北で最下位なのだ。

 観光、ビジネスを問わず県内にいかに人を呼び込むか。そこが確立されないとホテルの稼働率は上がらない。福島市も、再開発事業で当初計画されたコンベンション・劇場施設が見直される中、駅前に人を呼び込む仕掛けを展開しないとホテルを客で満たすのは難しいだろう。

定期利用が4割以上

平日の日中も一定の台数が停まる郡山駅前のコインパーキング
平日の日中も一定の台数が停まる郡山駅前のコインパーキング

 郡山駅西口で進む大町土地区画整理事業が苦戦していることは本誌先月号で報じた通りだが、その時の取材で目に付いたのが平場のコインパーキングの多さだ。目立つのは「エリート」、「Times」、「三井のリパーク」の看板。

 しかも、駅前は人通りが少ないのにコインパーキングには結構な台数が停まっている。平日でも一定数が停まっている所があるし、時間帯によっては満車の所も。なぜか。

 「駅前で勤務されている方や市外に通勤されている方が定期利用しているため、常に一定数の車が停まっているのは事実です」

 と話すのは、郡山駅前で10カ所のコインパーキングを運営するエリートの金田義広社長だ。

 金田社長によると、郡山駅前では手頃な広さで、家賃も水道光熱費・通信料込みのレンタルオフィスの利用が好調だという。エリートが管理する物件も業種を問わず50前後の企業が入居。そうした企業が近くのコインパーキングを定期利用したり、県庁など市外に新幹線通勤する人が月極駐車場より安く済むと朝から夕方まで停めているのだという。

 「弊社の駐車場は(定期利用で)4割以上埋まっており、それ以外の空いている駐車スペースに一般のお客様が停めるので、実は回転率はそれほど高くない」(同)

 同じコインパーキングなら、平場より立体の方が台数を停められるし儲かるはずだが、金田社長いわく①立体にすると老朽化などでメンテナンスの必要に迫られる、②女性や高齢のドライバーは天井や柱のある駐車場は停めにくいと敬遠する傾向にある、③災害が起きた際、立体だと車を外に出せなくなる恐れがある――等々の理由で平場のコインパーキングが好まれている。

 「駅前全体の駐車台数は分からないが、かなりあるはずなのに、それでも『もっとほしい』という要望は頻繁にいただいています」(同)

 エリートは駅前に複数の商業ビルを持つが、テナントが抜けて空いている階も少なくない。そうした中で新たな商業ビルを建てても、入居者が現れるかは不透明。建物を建てれば当然、メンテナンスが必要になるし固定資産税もかかる。

 「ハコをつくろうと思えばいつでもつくれるが、その前に既存ビルの空いている階を埋める方が先。そもそも既存ビルが空いているということは需要が少ないわけだから、新しいハコをつくる必要がない。これに対し駐車場は需要があるので、どちらをつくるべきかを考えたら答えは自ずと出ると思います」(同)

 平場のコインパーキングなら、既に「更地の状態」なので、需要が出てきたと判断すれば新しい建物を建て易いメリットもある。

 人口減少や資材価格高騰で「今は駅前に新しいハコをつくる環境ではない」と金田社長。一方、「オフィス利用やマンション居住など駅前回帰が少しずつ起きている」(同)中でコインパーキングが増えるのは必然と言えそうだ。

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