県郡山合同庁舎移転〝レトロ庁舎の行方〟

 郡山市の県郡山合同庁舎が同市中心部から同市南部のビッグパレットふくしま近くに移転する。そこで議論となっているのが、築94年のレトロな現庁舎の行方だ。以前市長選に立候補した人物らも参戦し、議論が活発化しつつある。

利活用策が来春市長選の争点に浮上!?

現在の県郡山合同庁舎
現在の県郡山合同庁舎

南拠点地区の移転予定地

南拠点地区の移転予定地

 現在の県郡山合同庁舎は、同市麓山の福島地裁郡山支部や21世紀記念公園麓山の杜、麓山公園の近くに位置する。敷地面積9431平方㍍。県中地方振興局、県中農林事務所、県中建設事務所、県中教育事務所などの出先機関が入居している。

 県内各地の合同庁舎の多くは築40年近く経っているが、郡山合同庁舎は飛び抜けて古く、1930(昭和5)年に建設された旧郡山市役所庁舎を譲り受けて活用している。延べ床面積6443平方㍍。至るところに段差があるほか、書類などが執務スペースに収まりきらず、廊下には収納のロッカーなどが並んでいた。室内も狭く、職員も利用者も使いづらい施設となっていた。

現在の県郡山合同庁舎 地図

 耐震基準はBクラスで、安全は保てるものの免震構造ではないので、防災拠点として速やかに業務できる体制になっていない。 

 そのため、以前から移転構想が浮上しており、市の都市計画でパブリックゾーンに指定されていたビッグパレットふくしま北側の「南拠点地区」にある市有地が移転候補地となった。その後、震災・原発事故が発生し、移転候補地に仮設住宅が建設されたため先送りされたが、仮設住宅撤去後、県がその土地を購入して合同庁舎を新築移転することになった。

 なお、一連の過程で、JR郡山富田駅近くの旧農業試験場跡地(県有地)を南拠点地区の市有地と交換する案が浮上したという。本誌4月号などで報じている通り、同跡地は医療機器関連産業を集積するメディカルヒルズ郡山構想の対象地域となっている。企業誘致を進めるうえで市が土地を保有した方が事を運びやすいとの考えからだったが、条件が合わず、同跡地の問題と南拠点地区の問題を切り離して進めた経緯がある(日本経済新聞オンライン版2019年12月9日配信記事)。

 新庁舎は地上3階建て、鉄筋コンクリート造、鉄筋造、木造。延べ床面積1万0814平方㍍。ビッグパレットふくしま北側の約3万0300平方㍍の土地に建設される。整備事業費約106億円。約500台分の駐車場を備える。

 吹き抜けのエントランスが設けられ、各出先機関を各階に集約。免震構造を採用しているほか、非常用発電機、太陽光発電、蓄電池、受水槽・地下排水槽を導入し、災害時にライフラインが断絶しても防災拠点施設として3日間機能を維持できる。 

 従来入っていた県中地方振興局、県中農林事務所、県中建設事務所、県中教育事務所に加え、県中地区県営住宅管理室、郡山パスポート窓口(パスポート室)も入居する。

南拠点地区の移転予定地 地図

 3月27日には起工式が行われた。2026(令和8)年3月に竣工予定となっている。

 この合同庁舎移転をめぐり、2つの議論が盛り上がりつつある。

 1つは移転後に残る跡地の利活用だ。中心市街地に生まれる約9400平方㍍の空き地をうまく利活用すべきという声が上がっている。

 特に注目を集めているのが旧庁舎の保存についてだ。同市内の歴史的な建造物と言えば、安積開拓が行われていた明治初期に建てられた郡役所「郡山市開成館」だが、昭和初期の建物となると残っておらず、希少な歴史的建造物と言える。

 かつて作家・三島由紀夫の生涯を描いた芸術映画『ミシマ:ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ』(制作総指揮=フランシス・コッポラ、ジョージ・ルーカス、監督=ポール・シュレイダー)の撮影舞台となったこともある。俳優・緒形拳扮する三島が陸上自衛隊市ケ谷駐屯地に立てこもり、決起を促した後に割腹自殺するシーンは同庁舎のバルコニーで撮影されたという。ちなみに映画は1985年に米国で公開され、カンヌ国際映画祭最優秀芸術貢献賞を受賞。ただ、日本公開は見送られ、ソフト化もされていない。

 1964年の東京五輪の聖火リレーの際は、当時郡山市役所だった同庁舎で聖火が〝1泊〟したという逸話が残っている。そのため、3年前の東京五輪聖火リレーの際も同庁舎がコースに組み込まれた。

 ともかく歴史的にも貴重であり、逸話が豊富で市民の思い入れも深い建物なので、「合同庁舎が移転した後も現在地で保存しておくべき」という意見が出ているわけ。

商議所が跡地活用を要望

 県施設管理課の担当者は「歴史的建造物として捉えるべきだという指摘もあるし、施設管理(とそれにかかる経費)という面はどうなのか、人はいなくなるけど建物はどうするのか。登記簿上の問題もある。さまざまな課題を整理しなければなりません」と、まだ方針が固まっていないことを強調する。

 元郡山市議の川前光徳氏は「文化財的な建物は震災で倒壊した。貴重な建物なので壊さず、周辺の公園と一体的に開発し、NPO法人や文化団体が利用できる『市民活動支援センター』として場所を提供するなど有効活用すべきです。先日もコミュニティーFMで呼びかけたところです」と積極的に訴える。

 活用方法については、さまざまな意見が出ている。元県議会議長の山口勇氏は「博物館として活用するのがいいのではないか」と提言する。元県議の勅使河原正之氏は「人が集まる交流の拠点とするのがいい」と話す。市民からは音楽施設などとしての活用を求めるアイデアも出されている。一方、市議会2016年3月定例会では石川義和市議(2期=当時)が「市民文化センターや麓山地区の中央公民館などの本市の各施設が、駐車場不足により市民が困っているといった現状がある。市施設の駐車場として活用してはどうか」とも提言していた。それだけ可能性に満ちた跡地ということだろう。

 県中地方振興局によると、合同庁舎では約380人の職員が働いていおり、納税などの手続きに訪れる市民、許認可関係の仕事で利用する業者などが訪れている。その中には、近くの商店街で昼食や買い物などを済ませる人もいただろうから、周辺にも移転による影響はありそうだ。

 そのため、にぎわいを創出できる場を求める声が商店主などから上がっており、昨年末には郡山商工会議所も県に対して要望したという。

 今後は庁舎や跡地を県が直接管理するのではなく、郡山市の要望を聞きながら譲渡する展開も考えられる。
ただ、市は「利活用について特に連絡は来ていない。市民からも『このように利活用してほしい』という要望は特に来ていない」(郡山市政策開発課担当者)と話す。

 2つ目の議論は移転する南拠点地区の活性化だ。同地区を管轄地域とする安積町商工会の橋本勝会長(サンヨープロパン社長)は「多くの職員が勤め、利用者も足を運ぶ合同庁舎がビッグパレットふくしまの北側に移転することで相乗効果が生まれ、平日・休日とひっきりなしに人が訪れるエリアになる。そうなれば、周辺での飲食需要は高まっていくと思います。公共交通機関を利用する人も増えるので、当商工会で兼ねてから要望している新駅設置実現に向けて動き出すことを期待しています」と述べる。

 新駅とは、JR東北本線郡山―安積永盛駅間のビッグパレットふくしま近くに新たな駅をつくる構想だ。過去に同市安積町エリアの企業など十数社で組織された異業種交流会でアイデアが生まれ、市などに提言が行われてきた。

 2017年に奥羽大学近くに郡山富田駅が新設されたのを受けて「今度は市の南側に新駅を」という期待が高まっている。市では総合交通計画マスタープランの中に「新駅設置(郡山駅~安積永盛駅間)の検討」という一文を盛り込んでいる。

 「市南部の安積地区の人口は15年前から約3万5000人で推移しているが、市北部の富久山地区や日和田地区には商業施設などが進出し、住宅団地が整備され人口が増えているエリアもある。合同庁舎移転の機会を活用して新駅設置も実現し、市南部の地域活性化につなげていきたい」(橋本会長)

 安積町商工会は以前から地域振興に積極的で、道の駅を誘致するため市長に要望書を提出したこともある(本誌2008年3月号参照)。活動を牽引したのは前出・山口勇氏。それだけ市南部の発展は地元住民にとっての悲願ということだ。

 もっとも、合同庁舎の移転でそこまで経済は盛り上がるのか、そのことで新駅をつくるほど電車利用の需要が増すのか、不透明な点は多い。今後はそれらの不確定要素を明確なデータを示して潰し、周囲に理解・協力を求めていく必要があろう。

 移転により空き家となる建物と跡地をどうしていくのか、また、移転先の地域振興をどう進めるのか。新庁舎が完成する2年後に向け、今後議論が深まることになりそうだ。

課題をどう受け止めるか


 とりわけ注目されるのは、来年春に行われる市長選の立候補者はこれらの課題をどのように受け止めるのか、という点だ。

 前回市長選に立候補した前出・勅使河原氏は「郡山南副都心構想」を打ち出していた。新駅を設置する代わりに、安積永盛駅を橋上駅としてビッグパレットふくしま脇に移し、鉄道の高架化を進めるというもの。安積永盛駅を利用する高校生の通学時の安全確保、ビッグパレットふくしま利用者の利便性向上、日大工学部周辺の浸水対策などの効果が期待できるとしている。

 「合同庁舎が移転し、大きな流れが生まれつつある。わくわくするような郡山をつくっていきたい」(勅使河原氏)

 同じく前回市長選に立候補した前出・川前氏は「県全体を衰退させないためには郡山市が防波堤となる必要がある。そのためには思い切ったテコ入れ策を講じていく必要があります。例えば、県庁移転は難しくても県の部を丸ごと郡山に移転すれば活性化するのではないでしょうか」と提案する。

 両氏とも次回市長選への立候補に前向きな姿勢を示しており、いずれ明確に表明すると思われるが、このほかの立候補者はどのような案を示していくのか。

 郡山市のまちづくりのあり方を問う象徴的な存在となった感もある合同庁舎問題は、市長選の大きな争点にもなる可能性が高い。

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