福島4区は坂本竜太郎氏(44)が勝利したが、その陰で、確執が囁かれた「吉野家」の後押しがあったことはほとんど知られていない。
4区の開票結果は次の通り。
当8万5751 坂本竜太郎44自新
比7万8708 齋藤 裕喜45立新
1万9879 熊谷 智44共新
投票率48・10%
坂本氏と齋藤氏は磐城高校の同級生で、熊谷氏も喜多方高校卒業だが両氏と同い年という同学年対決は、坂本氏が初当選し、齋藤氏も比例復活で議員バッジを手にした。
開票速報では当初、齋藤氏がリードし、地元紙が投開票日に行った出口調査でも「斎藤氏有利」の結果が出るなど、坂本陣営は薄氷を踏む戦いを強いられた。
自民系の市議は「選挙戦の手ごたえから2万票以上は引き離せると思
っていたが、自民党への逆風は想像以上に厳しかった」と振り返るが、坂本氏の場合は派閥の裏金問題、非公認候補への2000万円支給問題とともに、地元の問題も抱えていたことが苦戦の要因となった。それが吉野正芳前衆院議員との確執だ。
誤解のないように言うと、本人同士に確執があったわけではない。ただ、本誌でこの間何度か触れてきた通り、吉野氏が病気で身体の自由を失い、それでも議員を続けようとしていた中、後任の座を狙っていたのは坂本氏だし、坂本氏の父で元衆院議員の剛二氏(故人)と吉野氏は長年ライバル関係にあった。結果、支持者同士が対抗心を露わにし、同じ自民党でも吉野支持者は坂本氏を推さない、坂本支持者は吉野氏を推さない、という構図が続いた。
今回の衆院選でも「吉野先生の支持者は自主投票でした。『上』から静観するよう指示されたそうです」(前出・自民系の市議)。
そうした中、投開票日2日前の10月25日に衝撃的な出来事が起きた。
「吉野氏の長男・嘉晃氏が坂本氏の演説会場に駆け付け、応援マイクを握ったのです」(坂本氏の支持者)
吉野嘉晃氏(45)は社会福祉法人ハートフルなこそ理事長など複数の会社社長・役員を務めるが、父・正芳氏の跡を継いで政治家になる考えは一切持っていなかった。坂本氏とは磐城高校の同級生で、小中学校も同じという親しい間柄だったが、父親同士がしのぎを削っていたこともあり、目立つ場所で両氏が並び立つことはこれまで見られなかった。
嘉晃氏はこの日、勿来漁港と常磐共同火力前で行われた演説で坂本氏への支援を呼び掛けた。
「私は吉野正芳の長男です。父の身体はボロボロで、議員を続けられる状態ではありませんでした。皆さんには8期にわたり父を支援していただき感謝しています。私は、竜太郎君とは小・中・高校を通して同じ学校に通う同級生でした。父が道半ばで果たせなかった課題の解決は竜太郎君に託したいと思います。竜太郎君は剛二さんと吉野正芳、2人の政治家の思いを引き継いだ後継者です。竜太郎君には地元を代表する政治家として頑張ってほしいし、それが吉野家の思いでもあります」
勿来漁港では40人ほど、常磐共同火力前では150人ほどが嘉晃氏の話に耳を傾け、坂本氏の隣には星北斗参院議員の姿もあったが、メディアはノーマークだったこともあり大きな話題になることはなかった。
「できれば総決起集会など大きな会場で演説してほしかったが、自民党県議が嘉晃氏を直接口説き、地元の勿来に来てもらえる運びになったそうです」(前出・支持者)
前述の通り吉野氏の支持者は自主投票だったが、長男が選挙戦終盤に応援マイクを握ったインパクトは強く、それが、坂本氏が齋藤氏を7000票余で退ける最後のひと踏ん張りにつながったのかもしれない。