猪苗代町の箕輪スキー場が今シーズンの営業ができない可能性が浮上している。同スキー場は第三セクターの「横向高原リゾート」が運営している。もっとも、第三セクターと言っても、町の出資比率は2・3%程度で、実務は大部分の株式を保有するブルーキャピタルマネジメントという会社が担っていた。今回の事態は、その同社の経営不振によるものということだが、同スキー場はどうなるのか。
最終的には遠藤昭二ISグループ代表頼み!?
運営会社の「横向高原リゾート」は、1988年に猪苗代町とエスティティコーポレーションが出資して設立された。翌1989年に箕輪スキー場がオープン、さらに翌年の1990年にはホテルプルミエール箕輪がオープンした。
ある関係者はこう話す。
「当初は、町が株式の過半数を所持していたはずです。だから、当時の西村寅輔町長が社長に就き、その後一度だけ、町長以外(エスティティコーポレーションの関係者)が社長になったことはありましたが、基本的には歴代町長が社長を務めてきました。ただ、実質的な運営はエスティティコーポレーションが担っており、オープンからしばらくすると、同社から『銀行との融資のやり取りの関係で、自社の出資比率を上げたい』といった話があり、増資して同社が過半数の株式を所有するようになりました。ただし、社長は引き続き町から出すということで、町の出資比率が過半数を割ってからも歴代町長が社長に就いてきました」
エスティティコーポレーションは、北関東を中心に11カ所のゴルフ場を運営するエスティティ開発の関連会社。そのエスティティ開発は2002年9月に負債総額は4922億円を抱え、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。翌2003年2月にはエスティティコーポレーションも民事再生法を申請した。負債総額は3131億円だった。
その後は、加森観光が横向高原リゾートの株式の大半を取得し、同スキー場とホテルの運営を担った。しかし、長くは続かず、加森観光の運営からマックアースの傘下になった後、2018年に現在のブルーキャピタルマネジメントが横向高原リゾートの筆頭株主となり、同スキー場とホテルを運営してきた。こうして運営会社交代が相次いだ間に、増資が繰り返され、町の出資比率が約2・3%程度になり、残りの約97・7%はブルーキャピタルマネジメントが所有する状況になった。
こうして運営会社が何度も入れ替わるのは、経営が安定していないからということにほかならない。県観光交流課が公表している「スキー場別入込数」によると、箕輪スキー場の利用者数は別表の通り。
箕輪スキー場の入込数
2019-2020 | 7万6302人 |
2020-2021 | 2万6849人 |
2021-2022 | 3万6691人 |
2022-2023 | 4万2261人 |
2023-2024 | 4万0604人 |
ピーク時の1991―1992年シーズンは約15万人の入り込みがあったが、スキー人口の減少に伴い、そこから利用者数は減っていった。ブルーキャピタルマネジメントが運営を担うようになって2年目以降は新型コロナウイルス感染症の影響もあった。2019―2020年シーズンが約7万6000人だったのが、2020―2021年シーズンはその3分の1程度の約2万6000人に落ち込んだ。そこから少しずつ戻ってきてはいるものの、コロナ禍前の水準には至っていない。
さらには、前出の関係者は「隣接するホテルプルミエール箕輪は通年営業で、むしろそちらの方が主力になっていたと思います。ただ、近年は食材などの原価高騰、水道光熱費の高騰などがあったから、ホテルも容易でなかったはず」との見解を示した。
そんな背景もあり、経営状況は芳しくなかった。別掲の業績(民間信用調査会社調べ)を見ればお分かりいただけよう。
横向高原リゾートの業績
売上高 | 当期純利益 | |
---|---|---|
2021年 | 2億9100万円 | △1億5432万円 |
2022年 | 4億0300万円 | △1億6156万円 |
2023年 | 5億1600万円 | △1億6084万円 |
そんな中、箕輪スキー場が今シーズンの営業が危ぶまれている。この問題については、福島民報が10月16日付、福島民友が17日付の紙面で報じた。両紙報道を総合すると、おおむね以下のような内容だ。
○約50人いた従業員は今春までに半減し、残りの従業員も10月15日に賃金未払いを理由に退職した。
○ホテルは7月7日から休業している。
本誌はこれら地元紙報道があった少し前に「箕輪スキー場は大丈夫なのか」といった声を耳にしており、何らかの予兆はあったということだろう。
町は営業継続を模索
前述の地元紙報道があった後、本誌がブルーキャピタルマネジメントに問い合わせると「現時点で弊社からお答えすることはありません」とのことだった。
一方で、町は次のように話した。
「今回の件がある前から、(ブルーキャピタルマネジメントがスキー場とホテルを)『売却したいと考えているようだ』というような話が伝わってきていたので、町は株主として説明を求めています。ただ、なかなか向こう(ブルーキャピタルマネジメント)の役員の方が来て状況を説明してもらう、という形にはなっておらず、同社の代理人を介してのやり取りになっています。代理人の方には『売却などの考えがあるなら株主である町にも相談してほしい』ということは伝えています。それとは別に、町としては今シーズンも運営してもらえるよう、さまざまな方法を探っているところです」
なお、横向高原リゾートには、町議会からも役員を出しており、議長が取締役に入っている。もっとも、今年2月に町議選があり、議長が変わったばかりなので、この間、同社取締役を務めてきた前議長の渡辺真一郎議員に話を聞くと、次のように話した。
「儲かっている会社ではないということは分かっていましたが、取締役会でもそういう話(全従業員の解雇や今シーズンの営業ができないかもしれないこと)は出ませんでした。新聞報道等にあった以外の詳しいことは分かりません」
町は何とか今シーズンも営業をしてほしいとの意向を示したが、ちょうどスキー場はオープンに向けて準備が始まるタイミング。それだけに「この時期に、そんな状況では難しいのではないか」(ある町民)との声もあり、今シーズンの営業はやはり不透明と言わざるを得ない。
再オープンするスキー場も
ところで、同町内の別のスキー場では新たな動きもあった。コロナ禍以降、営業休止していた猪苗代リゾートスキー場が再オープンに向けて準備が進められているのだ。
同スキー場は、京急グループと猪苗代町の共同出資によって1985年に設立された運営会社が、隣接するホテルを含めて運営していた。ただ、その運営会社は2003年に解散し、以降は営業権譲渡が繰り返され、コロナ禍に見舞われた2020―2021年シーズンから営業を休止していた。
その後、町(第三セクター・猪苗代地域開発)が同スキー場とホテルを取得した。2022年12月議会で、「財産取得について」という議案が出され可決された。
『議会だより』(2023年1月31日発行号)によると、「猪苗代リゾートホテル・スキー場については、西山組合会や荒堀水利組合等の地権者、近隣宿泊事業者へ与える影響が非常に大きいことから、財産を取得し早期に問題解決を図っていきたい」との説明があり、承認された。取得金額は5300万円。
ただ、町が取得した後の昨シーズン(2023―2024年シーズン)も営業が再開されることはなかった。
そんな中、昨年12月14日、ISホールディングスグループの「DMC aizu」が「猪苗代リゾートスキー場とホテルを取得した」とのリリースを発表した。同社は証券事業やFX取引などのISホールディングスのグループ企業で、遠藤昭二社長は猪苗代町出身。DMC aizuでは猪苗代スキー場や会津磐梯カントリークラブ、猪苗代観光ファーム(道の駅猪苗代隣接地のいちご園)などを運営している。
ある関係者はこう話す。
「遠藤さん(ISホールディングスグループ)は、以前から猪苗代リゾートスキー場を引き継いでもいいとの意向だった。ただ、同スキー場は事業譲渡が繰り返される中で、最終的にはあまり素性のよくない会社に渡ってしまった。遠藤さんは『そういう会社と直接的な取引は絶対しない』というポリシーを持っていたため、一時的に町が取得して、町から遠藤さんに売却する形になった」
この関係者は、「遠藤さんに任せればあとは大丈夫でしょう」という。年内の営業開始は難しいようだが、来年には再開されることになりそう。なお、本誌は現在、DMC aizuに取材依頼をしているところ。
同町内のスキー場には、再開されるところもあれば、今シーズンの営業が不透明なところもあるわけだが、前出の関係者は「箕輪スキー場も遠藤さんのところで運営してもらえれば理想なんですけどね」と話す。
ただ、ブルーキャピタルマネジメントはあまり評判がよくないようで、「同社から遠藤さんが事業譲渡を受けるとなると、遠藤さんが嫌う『素性が良くない会社との取引』になってしまう。だから、直接的には手を出さないでしょう。猪苗代リゾートスキー場のように、町が間に入るとか、そういったことが必要だと思うが、なかなか簡単ではないでしょうね」(同)という。
こうして聞いても、箕輪スキー場が今後どうなるかは見通せない。