JR福島駅(福島市)西口のイトーヨーカドー福島店が5月に閉店して以来、周辺の人の流れが減少している。駅東口で進められている再開発が難航し空白地帯ができるため、同店跡に関しても早期の利活用が求められているが、土地・建物を所有するヒューリックは今後についてどのように考えているのだろうか。
注目集める地権者ヒューリックの動向
イトーヨーカドー福島店跡の駐車場は週末になると、多くの車で埋め尽くされる。6月から月決め・時間貸しの駐車場として使われており、現在はオープニングキャンペーンとして駐車料金を破格の24時間400円に設定しているためだ。福島わらじまつりなど中心市街地でのイベントが行われる際は約400台の駐車場が満車になり、特に何も行われていないときでも、駅や街なかの飲食店などを利用する人の車で半分以上が埋まる。管理しているのは駐車場事業を展開するパラカ(本社・東京都)。
多くの人が利用しているので、一見にぎわいは持続しているように見えるが、西口駅前の歩行者通行量は大幅に減っている。8月に行われた福島駅周辺まちづくり検討会の資料によると、西口駅前の歩行者通行量は昨年7月現在、休日1801人、平日2537人だったが、イトーヨーカドー福島店閉店後の今年7月は休日1197人(34%減)、平日1628人(36%減)に減少した。
人流が激減したことで、福島駅西口周辺の太田町商店街にも大きな影響が出ている。業務用酒卸の追分が同商店街で運営している「ワインブティックミディ」はイトーヨーカドー福島店閉店後、売り上げが2、3割減ったという。
「ヨーカドーは駐車場が2時間無料で、あの場所を拠点に商店街に訪れる人も多かったのです。太田町の車通りがほとんどなくなり、閉店してあらためて影響力の大きさを感じています。商店街では後継者不在だったのも相まって店じまいした店舗が2店舗あります」(追分の追分拓哉会長)
近隣の飲食店も打撃を受け、ランチ営業の売り上げはコロナ禍の頃並みに落ち込んでいるという。
「とにかく駅西口の人通りがめっきり減りました。コンビニや商店もかなり影響を受けているはず。買い物客はヨーカドーから1㌔ほど離れたヨークタウン野田店に流れているようです。ヨークベニマル野田店やツルハドラッグ野田店、ファッションセンターしまむら野田店などが立地しています」(福島駅西口で勤務している男性)
8月に行われた福島駅周辺まちづくり検討会では、委員の一人から「高齢者がやっと運転してベニマルに買い物に行くとか、太田町周辺の方たちも本当に大変な思いをしていると聞く」と実態が紹介された。
こうした現状を踏まえ、跡地利活用策としては「引き続き商業施設を造ってほしい」、「交流人口を増やすために温泉施設のテーマパークを設けるべき」、「サテライトキャンパスなど学生が行ける場所があればうれしい」といった意見が出された。
もっとも、イトーヨーカドー福島店が入居していた「福島ショッピングセンター」の土地・建物を所有しているのは東京の大手不動産会社ヒューリックなので、市がまちづくりの方針を示し、同社に要望や働きかけをすることぐらいしかできない。そういう意味ではヒューリックの判断に、福島市のまちづくりの命運がかかっている状況となっている。
ヒューリックは1957年、旧富士銀行(現みずほ銀行)の不動産業務を担う会社として設立され、いまもみずほ銀行との結びつきが強い。資本金1116億0900万円。民間信用調査機関によると、2023年12月期売上高3964億6400万円。経常利益は12期連続で過去最高を更新し、当期純利益は946億円に上る。
週刊文春10月10日号では、東京赤坂にあるSMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)の本社ビルを取得した会社としてヒューリックを取り上げていた。2020年にはティファニー銀座本店ビル、2021年にはリクルートGINZA8ビル、電通本社ビルを購入。今年9月には大手不動産会社レーサムを買収した。すべて都心で駅に近いオフィス・商業ビルだ。
『財界』オンライン2023年5月15日配信記事では、ヒューリックの西浦三郎会長が《最初に私は当社として「やらないこと」を4つ言いました。海外、マンション、地方、そして大きいビルです。理由は巨大な自己資本を持つ大手3社と正面から戦っても勝てないからです》と話している。
イオン進出説の真偽
福島ショッピングセンター(イトーヨーカドー福島店)の土地・建物を所有しているのは、2012年7月に昭栄と経営統合したことで、かつて昭栄製紙福島工場だった物件を引き継いだため。
福島市内の事情通によると、イトーヨーカドー福島店跡に関しては同店が営業しているころからさまざまな計画が浮上していたが、売却金額が数十億円規模に設定されていたため、なかなか話がまとまらなかった事情があるという。
「佐藤工業元会長の佐藤勝三氏が商業施設誘致やサッカースタジアム建設などをぶち上げたことがあったが、いずれも現実的でなく、流れてしまいました」(市内の事情通)
2021年には横浜市鶴見区のイトーヨーカドー鶴見店を複合商業施設「LICOPA鶴見」としてオープンさせたこともあるが、基本的に「地方はやらない」という方針は変わらないだろうから、同社がイトーヨーカドー福島店跡の開発に乗り出す可能性は低そうだ。
昨年9月には、木幡浩福島市長がヒューリックを訪問して跡地の利活用について意見交換を求めたが、その後も進展はなく、ヒューリックは「現在あらゆる可能性を含めて検討中」と答えるのみになっている。
そのため、市内の不動産業関係者は「日本海側を走る奥羽新幹線が具体化すれば福島駅前の需要は増す。そのときの地価上昇を見据え、あえて塩漬けにするのではないか」とみる。業績好調な大企業なので、福島市のまちづくりなど無関係とばかり、現状維持で推移していくのではないか、と。
一方で、ヒューリックは銀座に耐火木造12階建てのビルを造る際に白河地方の木材を使用したり、西白河地方森林組合と事業提携し白河市大信地区の山林で植林を行うなど、福島県との関係が深い企業でもある。
西白河地方森林組合の國井常夫組合長はこのように話す。
「ヒューリックの専務を務めていた古市信二氏が棚倉町出身、白河高校、早稲田大学卒で、鈴木和夫白河市長とは高校、大学の同級生ということもあり親密な関係なのです。そうしたつながりから当組合を紹介していただき、山林整備や白河産木材使用のご提案をいただきました」
古市氏は現在、ヒューリックの関連会社に在籍しているとのこと。前述したような対応を見るとドライな会社という印象が否めなかったが、こうした経緯を踏まえると、福島市のまちづくりにも向き合ってくれないか期待してしまう。
前出・福島駅周辺まちづくり検討会では「現時点で複数の企業から市へのコンタクトがあり、商業やマンション・ホテルなどの利活用に関心が示されている状況。ただし現在のところ、単独開発は難しいと考えている模様で、複合開発や官民連携を模索する可能性が高いと市では考えている」という現状が示された。
業界内では、イトーヨーカドー福島店跡にイオングループが進出するのではないかというウワサも囁かれている。前出・市内の事情通はこのように明かす。
「交渉に向けてイオングループが水面下で準備を進めていると噂されています。福島市は南矢野目の市有地をイオンタウンに売却し、商業を核とした多世代交流拠点が整備される予定です。そうしたつながりから、イオングループとして市の課題解決に何らかの形で協力しようと考えても不思議ではない」
2026年には伊達市に「イオンモール伊達」が整備され、2027年春にはイオンタウンが南矢野目に新規出店する。同時に2店舗新規出店するとは考えにくいから、イオン福島店を絡めた動きになるのではないか――というのがこの事情通の見立てだ。駐車場の契約期間の問題もあり、年内に何らかの動きがありそうだ、とも話す(パラカに問い合わせたところ、担当者は「私の一存では答えられない」と回答)。
まちづくりに生かせるか
ウワサについてヒューリックに確認したところ、「イトーヨーカドー福島店に関する今後の方針は現時点で決まっておらずお答えできない。どのマスコミさんにもお話ししていない」(ヒューリックビルマネジメント担当者)との回答が返ってきた。
イオン福島店を運営するイオン東北にも確認したところ、「情報を持ち合わせていないのでお答えできない」(広報担当者)と述べた。
結局、ウワサの真相は判然としなかったが、県内経済人によるとヒューリックの担当者は「あの場所(イトーヨーカドー福島店跡)をこのまま放置しておくわけにもいかない。対応していかなければならないと考えている」と話していたとのこと。商業施設、ホテル、マンション、何ができるのか、また条件が合致するのか分からないが、廃墟のまま放置されるのではなく、何らかの形で交渉が進んでいきそうだ。
ただし、民間の動きに任せていては、土地が切り売りされ、マンションが林立する展開になることもあり得る。その中で福島市がどのような要望を出し、イトーヨーカドー福島店跡をまちづくりに生かしていけるかが大きなポイントになろう。
福島市では駅周辺を中心拠点として、都市機能を交通ネットワークで結ぶ「コンパクト+ネットワーク」というまちづくりを推進している。
その中心拠点に位置するイトーヨーカドー福島店跡は注目度こそ高いが、売り上げ不振で撤退したことからも分かる通り、集客力はそれほど高くない場所だ。
福島市の2023年度消費購買動向調査結果によると、福島市民が買い物をする場所は1位杉妻地区(黒岩、太平寺、鳥谷野など)、2位インターネット販売、3位余目・矢野目地区という結果だった。福島駅周辺はベスト5にも入っていない。
4月の時点ではスーパー大手・ヨークベニマルの真船幸夫会長が「条件が合えば前向きに検討したい」と話していたが、その後動きがないところを見ると、条件面で合わない、採算が取れないということなのだろう。こうした中、どんな企業が進出することになるのか。市民からは西口に日常衣料・日用品などの店舗を求める声が上がっている。
一部経済人からは市内デベロッパーの〝参戦〟に期待する声も聞かれる。今後、官民連携も議題に上がりそうだが、東口再開発、市役所本庁西棟など公共施設を相次いで整備している市に余力があるか。東口再開発と併せて、今後もその動向に注目していきたい。