喜多方市で土壌汚染と地下水汚染を引き起こしている昭和電工(現レゾナック)は、会津北部土地改良区が管理する用水路への「処理水」排出を強行しようとしている。同社は同土地改良区と排水時の約束を定めた「覚書」を作成し、住民にも同意を迫っていたが、難航すると分かると同意を得ずに流そうとしている。同土地改良区の顔を潰したうえ、住民軽視の姿勢が明らかとなった。
見せかけだった土地改良区の「住民同意要求」
※昭和電工は1月からレゾナックに社名を変えたが、過去に喜多方事業所内に埋めた廃棄物が土壌・地下水汚染を引き起こし、昭和電工時代の問題を清算していない。社名変更で加害の連続性が断たれるのを防ぐため、記事中では「昭和電工」の表記を続ける。
昭和電工喜多方事業所の敷地内では、2020年に土壌汚染対策法の基準値を上回るフッ素、シアン、ヒ素、ホウ素による土壌・地下水汚染が発覚した。フッ素の測定値は最大で基準値の120倍。汚染は敷地外にも及んでいた。県が周辺住民の井戸水を調査すると、フッ素やホウ素で基準値超が見られた。フッ素は最大で基準値の4倍。一帯では汚染発覚から2年以上経った今も、ウオーターサーバーで飲料水を賄っている世帯がある。
原因は同事業所がアルミニウムを製錬していた40年以上前に有害物質を含む残渣を敷地内に埋めていたからだ。同事業所がこれまでに行った調査では、敷地内の土壌から生産過程で使用した履歴がないシアン、水銀、セレン、ヒ素が検出された。いずれも基準値を超えている。
対策として昭和電工は、
①地下水を汲み上げて水位を下げ、汚染源が流れ込むのを防止
②敷地を遮水壁で囲んで敷地外に汚染水が広がるのを防止
③地下水から主な汚染物質であるフッ素を除去し、基準値内に収まった「処理水」を下水道や用水路に流す
という三つを挙げている。「処理水」は昨年3月から市の下水道に流しており、1日当たり最大で300立方㍍。一方、用水路への排出量は計画段階で同1500立方㍍だから、主な排水経路は後者になる。
この用水路は会津北部土地改良区が管理する松野左岸用水路(別図)で、その水は農地約260㌶に供給している。同事業所は通常操業で出る水をここに流してきた。
周辺住民や地権者らは処理水排出に反対している。毎年、大雨で用水路があふれ、水田に濁流が流れ込むため、汚染土壌の流入を懸念しているのだ。昨年1月に希硫酸が用水路に流出し、同事業所から迅速かつ十分な報告がなかったことも、昭和電工の管理能力の無さを浮き彫りにした。以降、住民の反対姿勢は明確になった。
昭和電工はなぜ、反対を押しのけてまで用水路への排出を急ぐのか。考えられるのは、公害対策費がかさむことへの懸念だ。
同事業所は市の下水道に1カ月当たり4万5000立方㍍を排水している。使用料金は月額約1200万円。年に換算すると約1億4000万円の下水道料金を払っていることになる(12月定例会の市建設部答弁より)。
昨年9月に行われた住民説明会では、同土地改良区の用水路に処理水排出を強行する方針を打ち明けた。以下は参加した住民のメモ。
《住民より:12月に本当に放流するのか?
A:環境対策工事を実現し揚水をすることが会社の責任であると考えている。それを実現する為にも灌漑用水への排水が最短で効果の得られる方法であると最終的に判断した。揚水をしないと環境工事の効果・低減が図れないことをご理解願いたい。
住民より:全く理解できない! 汚染排水の安全性、納得のいく説明がなされないままの排水は断じて認めることが出来ない。
(中略)
土地改良区との覚書、住民の同意が無ければ排水を認めない。約束を守っていない。
説明が尽くされていないまま時間切れ紛糾のまま終了。再説明会等も予定していない》
昭和電工は住民の録音・撮影や記者の入場を拒否したので、記録はこれしかない。
処理水排出は「公表せず」
「実際は『ふざけるな』とか『話が違う』など怒号が飛びました。昭和電工は記録されたくないでしょうね」(参加した住民)
昭和電工は用水路へ排出するに当たり、管理者の会津北部土地改良区との約束を定めた「覚書」を作成していた。同土地改良区は「周辺住民や地権者の同意を得たうえで流すのが慣例」と昭和電工に住民から同意を取り付けるよう求めたが、これだけ猛反対している住民が「覚書」に同意するはずがない。
同事業所に取材を申し込むと「文書でしか質問を受け付けない」というので、中川尚総務部長宛てにファクスで問い合わせた。
――会津北部土地改良区との間で水質汚濁防止を約束する「覚書」を作成したが、締結はしているのか。
「会津北部土地改良区との協議状況等につきまして、当社からの回答は差し控えさせていただきます」
同土地改良区に確認すると、
「締結していません。住民からの同意が得られていないので」(鈴木秀優事務局長)
ただ、昭和電工は昨年9月の住民説明会で「12月から用水路に『処理水』を流す」と言っている。同土地改良区としては「覚書」がないと流すことは認められないはずではないかと尋ねると、
「『覚書』が重要というわけではなく、地区の同意を取ってくださいということです。あくまで記録として残しておく書面です。他の地区でも同様の排水は同意があって初めて行われるのが慣例なので、同じように求めました。法律で縛れないにしても、了承を取ってくださいというスタンスは変わりません」(同)
つまり、昭和電工の行為は慣例に従わなかったことになるが、同土地改良区の見解はどうなのか。
「表現としてはどうなんでしょうね。こちらからは申し上げることができない。土地改良区は農業者の団体です。地区の合意を取っていただくのが先例ですから、強く昭和電工に申し入れていますし、今後も申し入れていきます」(同)
これでは、住民同意の要求は見せかけと言われても仕方がない。
直近では昨年10月に昭和電工に口頭で申し入れたという。12月中旬時点では「処理水」を放出したかどうかの報告はなく、「今のところ待ちの状態」という。
同事業所にあらためて聞いた。
――「処理水」を流したのか。開始した日時はいつか。
「対外的に公表の予定はございません」
処理水放出を公表しないのは住民軽視そのもの。昭和電工の無責任体質には呆れるしかない。