【木幡浩】福島市長の暴君化を恐れる職員

【木幡浩】福島市長の暴君化を恐れる職員

 福島市の木幡浩市長(64)=2期=の暴君ぶりを指摘する声が市職員から寄せられた。暴言のようなパワハラの事実は掴めなかったが、統計からは福島市職員に占める高ストレス者の割合が、同規模自治体の中で全国8位(東北1位)と分かった。木幡市長は、傍若無人な小林香前市長に愛想を尽かした職員の支持を得て当選した経緯がある。「ストレス源は木幡市長」とする職員の告発に耳を傾けつつ、「役所は仕事をしろ」という市民の声にどう応えるか。任期満了と選挙を迎える来年に向けて両睨みの状態が続く。

「出しゃばり体質」に市民も閉口

福島市役所
福島市役所

 昨今は、国会議員や首長、地方議員から職員へのハラスメントが問題視されている。兵庫県の齋藤元彦前知事がパワハラの疑いで職員から告発された。「犯人探し」をして告発した職員を特定し、懲戒処分を下した結果、その職員が自殺し、県議会が調査特別委員会(百条委)を立ち上げるまでに発展。県議会が知事不信任を議決し齋藤氏は失職を選んだ。11月17日投開票の出直し選挙で県民の信を問う。

 兵庫県知事のパワハラが問題視されたころ、福島市の木幡浩市長の「暴君化」を訴える声が現役職員から本誌編集部に寄せられた。特定を避けるため、職員の性別や年齢、所属先は伏せる。

 「木幡市長のせいで、職員は強い負担にさらされ疲弊しています。市長は私たち職員を人間と思っていないのではないかと疑う時がある」

 ある時、この職員は木幡市長に事業の行程を説明した。木幡市長のモットーは「スピードと実行」だ。この職員もメリハリのある仕事を心掛け、行程表に無駄な期間は設けず最短スケジュールを示したつもりだった。一瞥した木幡市長は、露骨に顔を歪めて「もっと早くできないの!?」と言ったという。

 「多くの職員がこの一言にうんざりしている。ですから、このエピソードを話しても私が特定される心配はないでしょう。木幡市長は口では『早くできないの!?』と言う程度に抑えているが、その言い方と迫力は萎縮するほどです」

 職員の言い分はこうだ。

 「『スピードと実行』が木幡市長のモットーですが、どうしてここまで早さにこだわるか理解できません。もちろん急を要する事業もありますが、決してそうではない事業にまで『早くやれ』を連発するのは異常。現場の説明通りに許可してさえくれれば、あとは粛々と進めるだけなのに……。職員が難色を示すだけで木幡市長は激昂します」

 言葉というのは、一つ覚えのように繰り返すと、本来の意味が薄れる「透明化」を迎えてしまう。福島市職員の間で「早くできないの!?」との指示は「やれやれ、また市長が言っているよ」と受け止められ、モチベーションの低下を招いているようだ。この職員は「どうしたら市長に怒られずに済むか」「どうしたら市長に許してもらえるか」「どうしたら市長の機嫌を損ねずに済むか」が優先事項になった。

 「市民サービスの向上や不測の事態を考えると、何事も早いに越したことはありません。ただ、木幡市長の態度は職員を人間と思わず、無茶ぶりに思えてならない。周りが全員馬鹿に見えて意見を聞く気がないのでしょう。2期目を迎え、年々その傾向は強まっている。職員を、自分の意のままに動く『手柄製造マシーン』程度にしか考えていないのではないでしょうか」

 こうして進めた事業を、木幡市長が記者会見でさも自分一人の成果のように誇らしげに発表する姿に、この職員は反感を抱く。年末年始には「ワークライフバランス」や「家族との時間を大切に」などと強調するので、どの口が言うのかと思ってしまう。

 「愚痴に聞こえるかもしれません。職場では話せませんし、『仕事がぬるいだけ』と思われ、どこにも相談できない。なので政経東北に打ち明けました」(同)

 本誌はこれまで、地方公務員の仕事ぶりを監視し報じてきたが、公僕の仕事が概して「ぬるい」のは分かっている。福島市職員が木幡市長に不満を抱く背景には、これまでぬるま湯に浸かってきた面が一つ、そして木幡市長が何事も自分で行わなければ気が済まず、人を使うのが下手という側面がある。組織としては脆い。

「小林前市長と同じ」

木幡浩福島市長
木幡浩福島市長

 木幡市長は飯舘村出身。原町高校から東大に進学し、経済学部を卒業後、1984(昭和59)に自治省(現総務省)に入省した。長崎県や香川県に出向し、岡山県副知事や消防大学校長を歴任。復興庁福島復興局長を最後に2017年の福島市長選に立候補し、当時現職の小林香氏を約1万票差で退け初当選。再選され2期目を務める。

 原町高校時代の木幡氏を知る同級生は、「とにかく時間があれば休み時間でも机に向かって勉強していた」と振り返る。

 飯舘村の実家は鮮魚を扱う個人営業のスーパー(現在は閉業)で、初めて立候補する時は「飯舘の魚屋の息子です」と自己紹介して回っていた。天性に加え、幼少期から魚の良質なDHAを摂取できた環境が頭脳の活性化を引き出したというのがもっぱらの見方だ。

 福島市議や元職員から市役所の内情をよく聞かされるという事情通が明かす。

 「前市長の小林氏は政治資金パーティーで飲食を無償提供する公選法違反をしたり、職員にパワハラをしたりと倫理的にも人格的にも問題があった。そこで『次の市長には好人物を』ということで木幡氏に白羽の矢が立った。小林氏から乗り換えた経済人や市職員の労働組合から支持を得て初当選した。木幡氏は就任時こそ評判が良かったが、最近はすこぶる悪い。暴君ぶりは小林氏と変わらないという声もあるほどだ。他人の話を聞かない、何があろうと自分の意見を押し通すのが原因。職員は苦労しているという」

 この事情通は一方で、

 「木幡氏は原町高校から東大に進んだ努力家であり秀才。霞が関や出向先の自治体では、有能な人物に囲まれキャリアを磨いてきた。東大卒官僚の目から見て、福島市職員の仕事ぶりはレベルが低いのだろう。仕事を頼んでも遅いし、自分が思い描く水準にも達しないので、『部下に頼むより自分でやった方が早い』と細かいことにまで口を出すようになったのではないか」

 と話す。

 現在の市民の関心事は、福島駅東口で進められている官民共同の再開発事業だ。民間の再開発組合が主体となり、ホテルや商業施設、市の公共施設が融合したコンベンションホールが目玉だったが、資材高騰やホテルの不参加などで頓挫。駅前が空洞化する事態を避けようと、予算に合わせて公共施設を縮小して建設する方針が決まった。

 本誌は事業への支出を巡り紛糾した今年2月の市議会を傍聴した。そこで見たのは、議員の質問に上手く答えられない担当部長に対し「お前ではダメだ」とばかりに答弁を代わった木幡市長だった。部長は立つ瀬がなく所在無げだったが、木幡市長は水を得た魚のように意気揚々と答えていた。

 前出の事情通が行政トップの立ち振る舞いを指南する。

 「普通は市長が大枠の話をして、詳細は部長に答弁させる。トップはどっしり構えているものだが、木幡市長は逆なんだな」

 担当者を差し置いて市長が細かい内容まで答弁するのは、組織内で方針が共有されていないと公の場で示しているようなもの。トップが市政の何事も子細に把握し、自ら説明する姿勢は買うが、部下の扱いが下手なのが木幡市長の課題のようだ。

 木幡市長が目立ちすぎる状況は、市民も理解している。福島駅東口の再開発予定地に造る公共施設の見直しを迫られた市は、「福島駅周辺まちづくり検討会」を設置し、市民や有識者からなる委員が公開で審議した。2月の第2回の会合では、公演機能が主のA案、会合に使えるコンベンション機能が主のB案が提示された。委員長が委員に一人ずつ意見を聞き、B案が優勢となったところ、木幡市長が「A案とB案を併記しての議論は終わりにして次回からはB案をベースに話を進めたい」と締めくくった。

 閉会後、検討委員会を傍聴していた女性は本誌の取材に「木幡市長が誘導したみたいだ。検討会に任せているのになぜ市長が出しゃばってくるのか。市長は『俺が俺が』としゃべりすぎる」と不満げだった。

 市役所の外でもこの振る舞いなのだから、身内である職員の前ではなおさら圧が強いのだろう。冒頭で「木幡市長がストレス源」と証言した職員は、「データでも市長がストレス源であることは証明されている」と総務省統計を持ち出す。

 本誌が統計を調べると、木幡市長が原因とは断定できないが、何らかの理由で高いストレスを抱えている市職員が多いことが分かった。

 表1は総務省の統計から職員1000人以上の自治体のストレスチェック結果を抜き出し、職員に占める高ストレス者の割合が高い順に並べたもの。福島市はチェックを受けた1657人中、高ストレス者は309人で18・6%。同規模自治体では8位だった。同じく心身に故障を生じ、分限処分を受けた職員の割合を中核市62市で比べたところ、福島市は21位だった(表2)。

表1 職員1000人以上の自治体のストレスチェック結果(令和4年度)

都道府県自治体在籍職員数ストレスチェックを受けた職員数(A)高ストレスに該当した職員数(B)B/A
大阪府岸和田市12411,2052630.2183
香川県高松市38652,8986270.2164
神奈川県大和市13901,1872550.2148
愛知県豊橋市23702,2664760.2101
群馬県前橋市22792,2494490.1996
大阪府寝屋川市14471,4292750.1924
千葉県八千代市15359881880.1903
福島県福島市23051,6573090.1865
北海道帯広市12179341680.1799
大阪府八尾市25102,0303650.1798
神奈川県厚木市12551,2432230.1794
北海道釧路市15357151280.179
青森県青森市28792,1903830.1749
長野県佐久市10371,0311770.1717
千葉県流山市10991,0661800.1689
東京都港区22881,8613130.1682
富山県高岡市13711,1141870.1679
東京都足立区36683,4875760.1652
山形県山形市17971,5402500.1623
栃木県宇都宮市24562,3333740.1603
奈良県奈良市30952,7754390.1582
埼玉県狭山市10259361480.1581
新潟県佐渡市11338621360.1578
東京都日野市12761,1731830.156
埼玉県春日部市10521,0461590.152
栃木県那須塩原市11741,0491590.1516
徳島県阿南市10687671160.1512
東京都板橋区42083,6195470.1511
総務省「地方公共団体の勤務状況等に関する調査」を基に計算。上位抜粋


中核市における心身故障による職員の分限処分と休職(令和4年度)

都道府県自治体分限処分の休職件数(A)在籍職員数(B)A/B実休職者数
福井県福井市1971,7580.112158
大阪府寝屋川市1501,4470.103748
石川県金沢市2162,2500.09662
千葉県柏市2052,2510.091148
福岡県久留米市1572,0540.076435
山梨県甲府市1522,0540.07455
沖縄県那覇市2012,8810.0698110
愛知県一宮市1802,5860.069652
長崎県長崎市1512,2290.067771
埼玉県川口市1742,7540.063268
愛知県岡崎市2433,7650.064566
兵庫県尼崎市2073,2100.064562
埼玉県越谷市1612,5320.063652
富山県富山市1742,8030.062144
大阪府豊中市1652,8420.058153
愛知県豊橋市1352,3700.05738
広島県福山市2324,2410.0547100
栃木県宇都宮市1312,4560.053363
滋賀県大津市1322,5720.051330
山口県下関市1282,5500.050240
福島県福島市1152,3050.049945
奈良県奈良市1513,0950.048839
北海道函館市901,8680.048245
大阪府吹田市1162,6360.04440
北海道旭川市1082,4850.043532
福島県郡山市1212,8280.042839
福島県いわき市1172,7640.042341
千葉県船橋市2826,6660.0423109
総務省「地方公務員の分限処分者数」を基に計算。上位のみ抜粋

 大震災以降の福島市を見ると、心身故障に伴う分限処分は、2011年度18件、12年度28件、13年度23件、14年度42件、15年度40件、16年度21件、17年度24件、18年度47件、19年度64件、20年度71件、21年度103件、22年度137件と増加傾向。特に20年度から21年度の伸びが大きい。

 市役所職員からなる労働組合、福島市職労の井上和弥書記長は、「高ストレス者が多いのは、2019年に中核市に移行し、保健所業務など新たな業務が増えたことに伴うのではないか」と考える。

 「中核市に移行してすぐに新型コロナ禍が襲い、毎年のように大地震や台風被害が発生して職員の負担が増しました。感染予防のため、密接なコミュニケーションを避けるのが習慣となり、職員同士が疎遠になりました。互いに不満を感じても以前だったら腹を割って話し解消できていたが、職場の風通しが悪くなり、ストレスを抱え続ける職員がいるのも原因と思う」(井上書記長)

 木幡市長の口癖である「早くできないの!?」に萎縮する職員がいることを把握しているのかと聞くと、

 「市長から管理職にそういった発言があることは職場内で共有されています。それだけでハラスメントとは言えないが、スピードに追い付かず現場に負担が及ぶのは、それに見合う職員数が確保できていない構造的問題がある。組合としては、業務量に合わせて正職員を確保するよう当局に要求しています」(同)

 人手不足は民間も同じ。納税者である市民の理解が得られるかどうかがポイントだ。

きつい発言を「反省」

 木幡市長は「職員が高いストレスを抱える原因は市長」と職員が訴えていることをどう捉えるのか。取材依頼をすると書面で回答が届いた。

 木幡市長は《私は「スピードと実行」をモットーにしていますが、やみくもにスピードを追求しているわけではありません。もう一つのモットーである「開かれた市政」 のため市民の皆さんとコミュニケーションをとるプロセスはできる限り経るようにしているし、政策の熟度や職員の負担等も考慮して慎重に進める場合もあります》と前書きした。

 そのうえでスピード感を重視する理由としては①状況変化に対応した課題解決のため、②これまでの不足分を解消していくため、③「やるべきとき」を十分に意識する必要があるため――を挙げる。急激な人口減少や災害など不測の事態への対応や財政健全化が念頭にあるという。

 「市民サービスの向上や効率化に寄与するものは、できる限り早く実施して効果が最大化できます。従前の市政運営にはそうした視点が十分意識されていなかったと感じており、意識改革を図りながら徹底していく必要があります」

 スピード向上は職員の負担になるが、「仕事の無駄をなくしたり、やり方を抜本的に変えて業務改革しています」。デジタル化を業務改革の方策の一つに挙げる。

 ようやく本題。職員から本誌に告発があったことについては、

 「ご指摘のような情報提供があったことは真摯に受け止めます。 上記で述べた基本認識や考え方を職員と一層共有するとともに、より信頼関係をもって取り組んでいけるよう努めていく必要があると考えます」

 スピード第一の木幡市長と職員の間に齟齬があることについては、

 「『やるべきときに実施する』という考え方は、予算編成方針などにも盛り込まれており、理解は広がっていると考えていますが、今後、この基本的な考え方を一層共有できるように努め、困難な状況をともに乗り越えていけるよう、協力をお願いしていきます」

 「一方、意識改革を図ろうと熱を込めるあまり、きつい言い方になったかなと、私自身、反省することもあります。今後、職員とのより丁寧なコミュニケーションに努めていきます」

 市職員に高いストレスを抱えている者が多い要因については、災害や新型コロナ対応、中核市移行に伴う業務量増加など、前出の労組と同じ見解を示す。

 福島市特有の事情としては、木幡市長が中核市市長会の会長を務めていることから、新たに全国の自治体との調整や国との折衝といった業務が増えている点を挙げる。一般的な中核市と比較して、かなり負担のかかる状況になっている可能性があるという。木幡市長は「職員の頑張りで、市の政策は着実に進み、グレードアップしています。新たなチャレンジにやりがいを持って取り組む職員も少なくなく、 私としては職員の奮闘に心から感謝しています」と付け加えるのを忘れなかった。

 木幡市長の圧が強いのは確かだが、現時点では「パワハラ」とまでは断定できない。ただ、現役職員から第三者の本誌に情報提供があったのはよほどのことだ。

 「使う者は使われる」ということわざがある。木幡市長は市長の万能感を振りかざすのではなく、もっと上手に人を使う術を取り入れてはどうか。

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