客足回復が鈍い福島市「夜の街」|スナック営業調査

客足回復が鈍い福島市「夜の街」

 5月8日に新型コロナウイルスの感染法上の位置付けが季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられる。飲食業界は度重なる「自粛」要請で打撃を受けたが、業界はコロナ禍からの出口の気配を感じ、「客足は感染拡大前の7~8割に戻りつつある」と関係者。一方、2次会以降の客を相手にするスナックは閉店・移転が相次ぎ、テナントの半数が去ったビルもある。福島市では主な宴会は県職員頼みのため、郡山市に比べ客足の回復が鈍く、夜の街への波及は限定的だ。

公務員頼みで郡山・いわきの後塵

公務員頼みで郡山・いわきの後塵【飲食店が並ぶ福島市街地】
飲食店が並ぶ福島市街地

 福島市は県庁所在地で国の出先機関も多い「公務員の街」だ。市内のある飲食店主Aは「県職員が宴会をしないと商売が成り立たない」と話す。民間企業は、取引先に県関係の占める割合が多いため、宴会の解禁も県職員に合わせているという。

 「東邦銀行も福島信用金庫も宴会を大々的に開いて大丈夫か県庁の様子を伺っているそうです。民間なら気にせず飲みに行けるかというとそうでもなく、行員に対する『監視の目』も県職員に向けられるのと同じくらい厳しい。ある店では地元金融機関の幹部が店で飲んでいたのを客が見つけて本店に『通報』し、幹部たちが飲みに行けなくなったという話を聞きました」(店主A)

 福島市の夜の街は、県職員をはじめとする公務員の宴会が頼りだ。福島、伊達、郡山、いわきの4市で飲食店向けの酒卸店を経営する㈱追分(福島市)の追分拓哉会長(76)は街の弱みを次のように指摘する。

 「福島、郡山、いわきの売り上げを比較すると、福島の飲食店の回復が最も弱いことが見えてきた」

 2019年度『福島県市町村民経済計算』によると、経済規模を表す市町村内総生産は県内で多い順に郡山市が1兆3635億円(県内計の構成比17・1%)、いわき市が1兆3577億円(同17・0%)、福島市が1兆1466億円(同14・4%)。経済規模が大きいほど飲食店に卸す酒の売り上げも多くなると考えると、3位の福島市が他2市より少なくなるのは自然だ。だが追分会長によると、同市は売上高が他2市より少ないだけでなく、回復も遅いという。

 「3市の酒売上高は、2019年は郡山、いわき、福島の順でした。各市の今年2月の売り上げは、19年2月と比べると郡山90%、いわき83%、福島76%に回復しています。郡山はコロナ前の水準まで戻ったが、福島はまだ4分の3です。しかも、コロナ禍で売上高が最も減少したのは福島でした。私は福島が行政都市であり、かつ他2市と比べて若者の割合が少ないことが要因とみています。県職員(行政関係者)が夜の街に出ないと、飲食店は悲惨な状態になります」(追分会長)

 飲食業の再生の動きが鈍いのは、度重なる感染拡大に息切れしたことも要因だ。

 「福島では昨年10月に到来した第8波で閉めた店が多く、駅前の大規模店も撤退しました。3、4月の歓送迎会シーズンで持ち直した現状を見ると、もう少し続けていればと思いますが、それはあくまで結果論です。これ以上ない経営努力を続けていたところに電気代の値上げが直撃し、体力が尽きてしまった。水道光熱費だけで10~20万円と賃料と同じ額に達する店もありました」

 そうした中でも、コロナ禍を乗り切った飲食店には「三つの共通点」があるという。

 「一つ目は『飲む』から『食べる』へのシフトです。スナックやバーが減り、代わりに小料理屋、イタリアン、焼き鳥屋が増えました」

 「二つ目が『大』から『小』への移向です。宴会がなくなりました。あったとしても仲間内の小規模なものです。売りだった広い客席は大規模店には仇となりました。健闘しているのは、区分けして小規模宴会を呼び込んだ店です」

 最後は「老」から「若」への変化。

 「老舗が減りましたね。後継者がいない高齢の経営者が、コロナを機に見切りを付けたからです」

 一方、これをチャンスと見てコロナ前では店を出すことなど考えられなかった駅前の一等地に若手経営者が出店する動きがあるという。経営者たちが見据えるのは、福島駅東口の再開発だ。

 「4月から再開発エリアに建つ古い建物の本格的な取り壊しが始まりました。3年間の工事で市外・県外から500~1000人の作業員が動員されます。福島市役所の新庁舎(仮称・市民センター)建設も拍車をかけるでしょう。市内に建設業のミニバブルが訪れる中、ホテルや飲食店の需要は高まるとみられるが、老舗の飲食店が減っているので受け皿は十分にない。そのタイミングでお客さんを満足させる店を出すことができれば、不動の地位を獲得できると思います」

 追分のグループ会社である不動産業㈱マーケッティングセンター(福島市)では毎年、市内の飲食店を同社従業員が訪問して開店・閉店状況を記録し、「マップレポート」にまとめてきた。最新調査は2019年12月~20年10月に行った。同レポートによると、開店は41店、閉店は106店。飲食店街全体としては、感染拡大前の837店から65店減り、772店となった。減少率は7・7%で、1988年に調査を開始して以降最大の減少幅だった。

 「特に閉店が多かったのはスナック・バーです。48店が閉店し、全閉店数の44%を占めました」

 もっとも、スナック・バーは開店数も業種別で最も多い。同レポートによると、11カ月の間に22店が開店し、全開店数の54%を占めた。酒とカラオケを備えれば営業できるため参入が容易で、もともと入れ替わりが盛んな業種と言えるだろう。

25%減ったスナック

25%減ったスナック

 マーケッティングセンターほどの正確性は保証できないが、本誌は夜の飲食店数をコロナ前後で比較した。1月号では郡山市のスナック・バーの閉店数を電話帳から推計。忘年会シーズンの昨年12月にスナックのママに電話をして客の入り具合を聞き取った。

 電話帳から消えたと言って必ずしも閉店を意味するわけではない。もともと固定電話を契約していない店もあるだろう。ただし「昔から営業していた店が移転を機に契約を更新しなかったり、経費削減のために解約したりするケースはある」と前出の飲食店主Aは話す。今まで続けていたことをやめるという点で、固定電話の契約解除は、店に何らかの変化があったことを示す。

 コロナ前の2019年と感染拡大後の2021年の情報を載せた電話帳(NTT作成「タウンページ」)を比較したところ、福島市の掲載店舗数は次のように減少した。

 スナック 194店→145店(新規掲載1店、消滅50店)

 差し引き49店が減った。減少数をコロナ前の店舗数で割った減少率は25・2%。

 バー・クラブ 42店→35店(新規掲載なし、消滅7店)

 減少率は16・6%。

 果たしてスナック、バー・クラブの減少率は他の業種と比べ高いのか低いのか。夜の街に関わる他の業種の増減を調べた。2021年時点で20店舗以上残っている業種を記す。電話帳に掲載されている業種は店側が複数申告できるため、重複があることを断っておく(カッコ内は減少率)。

 飲食店 208店→178店(14・4%)

 居酒屋 143店→118店(17・4%)

 食堂 75店→69店(8・0%)

 ラーメン店 63店→60店(5・0%)

 うどん・そば店 63店→55店(12・6%)
 
レストラン(ファミレス除く) 50店→42店(16・0%)
 
すし店(回転ずし除く) 39店→38店(2・5%)

 中華・中国料理店 33店→31店(6・0%)

 焼肉・ホルモン料理店 29店→24店(17・2%)

 焼鳥店 25店→23店(8・0%)

 日本料理店 23店→22店(4・3%)

 酒を提供する居酒屋の減少率は17・4%と高水準だが、スナックは前記の通り、それを上回る25・2%だ。マーケティングセンターの2020年調査では、スナック48店が閉店した。照らし合わせると、電話帳から消えたスナックには閉店した店が含まれていることが推測できる。

 筆者は電話帳から消えたスナックを訪ね、営業状況や移転先を確認した。結果は一覧表にまとめた。深夜食堂に業種転換した店、コロナ前に広げた支店を「選択と集中」させて危機を乗り越えた店、賃料の低いビルに引っ越し再起を図る店など、形を変えて生き残っている店も少なくない。

電話帳から消えた福島市街地のスナック

○…営業確認、×…営業未確認、※…ビル以外の店舗

陣場町

第10佐勝ビル
スナッククローバー
SECOND彩スナック彩に集約
ハリカ
レイヴァン(LaVan)
ペガサス30ビル
花音
スナッククレスト(CREST)
スナックトモト
プラスα
kana
ハーモニー
ボルサリーノ
スナックARINOS
ファンタジー
ポート99
ラーイ(Raai)
第5寿ビル
ジョーカー
アイランド〇※
モア・グレース✕※

置賜町

エース7ビル
韓国スナックローズハウス
CuteCute
トリコロール
フィリピーナ
ジャガービル
トイ・トイ・トイ(toi・toi・toi)
マノン
ピア21ビル
K・桂
ラパン
ミナモトビル
シャルム
都ビル
仮面舞踏会
清水第1ビル
マドンナ
第5清水ビル
ラウンジラグナ

栄町

イーストハウスあづま会館
志桜里
スナック楓店名キッチンkaedeで「食」に業種転換
花むら
第2あづまソシアルビル
ショーパブパライソ
せらみ
ムーチャークーチャー
ユートピアビル
スナックみつわ
わがまま天使✕※

万世町

パセオビル
カトレア
萌木

新町

クラフトビル
ぼんと
ゆー(YOU)
金源ビル
ザ・シャトル
スナック星(ぴょる)✕※
〇※

大町

コロールビル
のりちゃんあっちゃん(ai)×
エスケープ(SK-P)×※



 電話帳に載っていないスナックもそこそこある。ただ、書き入れ時の金曜夜9時でも営業している様子がなく、移転先をたどれない店が多かった。あるビルの閉ざされた一室は、かつてはフィリピン人女性がもてなすショーパブだったのだろう。「福島県知事の緊急事態宣言の要請により当店は暫くの間休業とさせていただきます」と書かれた紙がドアに張られ、扉の隙間には開封されていない郵便物が挟まっていた。

「やめたくない」

 ビル入口にあるテナントを示す看板は点灯しているのに、どこの階にも店が見当たらない事態も何度も遭遇した。あるベテランママの話。

 「看板を総取っ換えしなきゃならないから、余程のことがないとオーナーは交換しない。一つの階が丸ごと空いているビルもあるわ」

 飲食店主Bも言う。

 「存在しない店の看板は覆い隠せばいいが、オーナーは敢えてそうはしません。テナントもしてほしくないでしょう。人けがないビルと明かすことになるからです」

 テナントの空きは、スナック業界の深刻さも表している。

 「手狭ですが家賃が安い新参者向けのビルがあります。入口にある看板は20軒くらいついていて全部埋まっているように見えるが、各階に行くと数軒しか営業していない。新しく店を始める人がいないんでしょうね」(店主B)

 閉店する際も「後腐れなく」とはいかない。前出のベテランママがため息をつく。

 「せいせいした気持ちで店をやめる人なんて誰もいませんよ。出入りしているカラオケ業者から聞いた話です。カラオケ代を3カ月分滞納した店があり、取り立てに行った。払えない以上は、目ぼしい財産を処分し、返済に充てて店を閉めなければならない。そこのママは『やめたくない』と泣いたそうです。しかし、そのカラオケ業者も雇われの身なので淡々と請求するしかなかったそうです」

 大抵は連帯保証人となっている配偶者や恋人、親きょうだいが返済するという。

 2021、22年に起きた2度の大地震は、コロナにあえぐスナックにとって泣きっ面に蜂だった。酒瓶やグラスがたくさん割れた。あるビルでは、オーナーとテナントが補償でもめ、納得しない人は移転するか、これを機に廃業したという。テナントの半数近くに及んだ。

 福島市内のビルの多くは30~40年前のバブル期に建てられた。初期から入居しているテナントは、家賃は契約時のままで、コロナで赤字になってもなかなか引き下げてもらえなかった。コロナ禍ではどこのビルも空室が増え、オーナーは家賃を下げて新規入居者を募集。余力のあるスナックはより良い条件のビルに移転したという。

 ベテランママは引退を見据える年齢に差しかかっている。苦境でも店を続ける理由は何か。

 「コロナが収束するまではやめたくない。閉店した店はどこもふっと消えて、周りは『コロナで閉めた』とウワサする。それぞれ事情があってやめたのに、時代に負けたみたいで嫌だ。私にとっては、誰もがマスクを外して気兼ねなく話せるようになったらコロナ収束ですね。最後はなじみのお客さんを迎え、惜しまれながら去りたい」

 ベテランママの願いはかなうか。

小池 航

こいけ・わたる

1994(平成6)年生まれ。二本松市出身。
長野県の信濃毎日新聞で勤務後、東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
福島県内4都市スナック調査(4回シリーズ)
地元紙がもてはやした双葉町移住劇作家の「裏の顔」(2023年2月号)

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