問われる【あぶくま高原道路】の意義

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問われる【あぶくま高原道路】の意義

 東北道の矢吹ICと磐越道の小野ICを結ぶ地域高規格道路の「あぶくま高原道路」。2001年3月に最初の区間となる矢吹IC―玉川IC間が供用開始となり、2011年3月に全線開通となった。この3月で全線開通から丸13年になる、あぶくま高原道路の効果などについて検証していきたい。(末永)

利用促進を妨げる有料区間

【あぶくま高原道路】地図
【あぶくま高原道路】地図

 あぶくま高原道路は、東北道矢吹ICと磐越道小野ICを結ぶ延長35・9㌔の自動車専用道路(高規格道路)。県道路公社が整備・維持管理し、路線名は「主要地方道矢吹小野線」だが、福島空港へのアクセス道路の意味合いが強いことから「福島空港道路」、あるいは東北道と常磐道を三角形で結ぶことから「トライアングルハイウェイ」などと呼ばれている。「あぶくま高原道路」は、公募によって決まった愛称。

 整備目的は、中通りと浜通りを結ぶ交通網の強化による地域間交流連携の促進、阿武隈地域の発展支援、県南・浜通りや栃木県をはじめとする北関東からの福島空港へのアクセスの向上、災害時の代替路線の確保、救急医療体制の支援など。

 整備効果としては、矢吹―小野間の所要時間短縮、福島空港へのアクセス性が高まり、空港利用者の利便性向上、小名浜港と県南地方の物流の円滑化、いわきから県南にかけて広範囲の観光スポットを効率的に周遊可能、市場への輸送時間短縮により地場産品の販路拡大、広域的な高速道路ネットワークの代替性強化、緊急時や災害発生時における緊急輸送ネットワーク形成などが挙げられている。

 当時のことを知る地元住民によると、「一番は福島空港へのアクセス道路の意味合いだね。もう1つは、かつて首都機能移転議論が巻き起こった際、栃木・福島地域が候補地に挙がり、いまあぶくま高原道路がある沿線周辺が調査対象地域になった。そんな中で、候補地としての優位性を高めるために、事業が進められた経緯がある」という。

 それだけが理由ではないだろうが、首都機能移転議論が同事業を加速させた一因であることは間違いないようだ。もっとも、あぶくま高原道路が全線開通したころには、首都機能移転議論は完全に沈静化していたが……。それよりも、この地元住民が最初に語っていた福島空港のアクセス道路の意味合いが強い。実際、事業着手当初は「福島空港道路」と言われており、いまでもそう表記されることもある。

 ちなみに、その福島空港だが、1993年に開港し、ピーク時の1999年には約75万人が利用していたが、昨年は約18万人と4分の1以下に落ち込んでいる。コロナ禍前の2019年は約25万人だったから、コロナの影響を差し引いたとしても、利用低迷は顕著になっている。近年は毎年5億円から6億円程度の赤字を出している。あぶくま高原道路ができて、アクセスが良くなったのは間違いないだろうが、それが利用促進につながっているとは言い難い状況だ。これについては、機会を見てあらためて検証したい。

 話を戻して、県土木部道路計画課によると、あぶくま高原道路の総事業費は約1300億円。このうち、矢吹中央IC―玉川IC間の6・6㌔は、早期開通のために、県道路公社が政府系金融機関や市中銀行から借り入れをして整備した。

 同区間を含む矢吹IC―玉川IC間は2001年3月に、最初に供用開始となった。同年は7月から9月にかけて、当時、県政史上最大のイベントと言われた地方博覧会「うつくしま未来博」が須賀川市で開催されることになっており、その会場までのアクセス道路として、早期開通させるために借り入れをして整備したのだ。

 その後、2003年に玉川IC―福島空港IC間、2004年に平田IC―小野IC間、2009年に福島空港IC―石川母畑IC間、2011年に最後の区間が供用開始となり、全線開通となったわけだが、前述のような事情から、矢吹中央IC―玉川IC間だけは有料区間となっている。料金は普通車310円、大型車520円、特大車890円。

早期無料化を要望

あぶくま高原道路の起点
あぶくま高原道路の起点

 地元住民によると、「それがこの道路を使いにくくしている」という。

 「例えば、小野方面から矢吹方面に向かう際、ほとんどは(有料区間手前の)玉川ICで降ります。そこから、(一般道で)矢吹方面に向かうのですが、そこはあまり広い道路ではないので、いつも『危ないな』と思って見ています。結構、大型車両も多いんでね」(玉川村の住民)

 ほかにも、沿線・近隣住民に話を聞くと、「玉川IC―小野IC間は使うけど、有料区間は使わない」という人がほとんどだった。

 もっと言うと、地元住民はどこが有料区間で、どこが無料区間かを分かっているが、たまにその近辺を走行する程度の人はそれを把握していない人も少なくない。そのため、玉川村―小野町間を走行する際、「あれ? あぶくま高原道路を使うとお金がかかるんだっけ? よく分かんないから、一般道で行こう」となる人も多いのではないか。

 地元市町村でつくる「あぶくま高原道路利活用促進協議会」という組織がある。構成メンバーは、ICがある矢吹町、玉川村、石川町、平田村、小野町のほか、白河市(※もともとは大信村だったが、合併によって同市が構成メンバーになった)、泉崎村、中島村、田村市、三春町、古殿町、浅川町の12市町村長。事務局はあぶくま高原道路の起点となっている矢吹町にあり、同協議会長には蛭田泰昭矢吹町長が就いている。

 同協議会では福島空港や北関東などでPR活動を行ったり、県と合同でマスコットキャラクター「とうろく君」を作成するなどして、周知・広報活動を行っている。ちなみに、「とうろく君」という名称は、平成の大合併前に同協議会構成メンバーが16(とうろく)あったことに由来する。沿線の西白河郡、石川郡、田村郡の形が犬のようだから、そうした見た目になっている。

とうろく君


 同協議会事務局(矢吹町都市整備課)によると、今年度は昨年7月31日に4年ぶりに対面での総会を開催したという。

 「コロナ禍では、対面の総会やPR活動はできませんでしたが、昨年は久々に対面での総会を開催し、あらためてイベントに参加したり、各種PR・広報活動をしていくことを確認しました」(同協議会事務局の担当者)

 一方で、同協議会総会でも、やはり「有料区間の早期無料化」を求める声が出たという。

 「より使いやすくするためにも、有料区間を早く無料化してほしいということで、協議会として県に要望を提出しました」(同)

 「有料区間の早期無料化」は以前から同協議会で出ていた話で、今回あらためて県に対して要望したのだという。

 沿線の住民は「例えば、東北中央道の相馬―福島間、福島―米沢間は無料で通行できます。東北中央道沿線の知り合いに聞くと、『何かお目当てがあるわけではないけど、タダで使えるから、相馬(あるいは米沢)までドライブがてら遊びに行った』という話をよく聞きます。あぶくま高原道路もそういうふうになればいいんですけど」と話す。

 こうして聞いても、「有料区間がなければ」と思っている人が多いことが分かるが、それを裏付けるデータがある。別表は国土交通省「令和3年度 全国道路・街路交通情勢調査」をもとに作成したもの。あぶくま高原道路の1日の交通量は約4000台だが、有料区間の矢吹中央IC―玉川IC間だけは約1600台と極端に少なくなっている。

あぶくま高原道路の区間別交通量

区間24時間交通量
(上下合計)
矢吹IC-矢吹中央IC4239台
矢吹中央IC-玉川IC1684台
玉川IC-福島空港IC4135台
福島空港IC-石川母畑IC4135台
石川母畑IC-平田西ICデータなし
平田西IC-平田IC4409台
平田IC-小野IC4409台
国土交通省「令和3年度 全国道路・街路交通情勢調査」を基に本誌作成

 前出・玉川村の住民は「みんなここ(玉川村)で降りるから、玉川IC付近は交通量が多くて危ない」と語っていたが、これを見てもそれが分かる。

償還期間は31年まで

あぶくま高原道路の料金所
あぶくま高原道路の料金所

 あらためて、県に「地元関係者からは早期無償化を求める声が出ているが」と尋ねると、県土木部道路計画課の担当者はこう話した。

 「そうした声があることは認識していますが、この区間は国の承認を得て、公社で借り入れをして有料道路として開通させたもので、料金収入が上がるように各種PR等をしながら利用促進していきたい」

 同区間のみの事業費は31億6000万円で、借り入れの償還期間は2031年3月(30年間)。昨年3月末時点で約28億円を償還済みだが、約8億円は県から公社への出資金、約20億円は長期債務として県から公社に支出したもの。公社単体でどうにかできる状況でないことが分かる。少なくとも、繰り上げ償還ができる状況でないのは明らか。

 ところで、あぶくま高原道路の〝売り〟の1つに、県南方面からいわき方面、あるいはその逆の行き来で、東北道―磐越道―常磐道経由より、時間が短縮できる、ということがあるが実際はどうなのか。ナビゲーションシステムを使ってシミュレーションしてみた(別図参照)。

 白河ICを始点に、いわき中央ICまで行く際、あぶくま高原道路経由だと所要時間は1時間06分、料金は2150円。一方、あぶくま高原道路を経由しないルートだと、所要時間は1時間24分、料金は3400円。所要時間は18分短縮され、料金は1250円安い。ただ、あぶくま高原道路経由だと、矢吹IC、矢吹中央IC、いわき中央ICと3つの料金所を通過しなければならない。料金所の混み具合によっては多少の時間ロスが生じることもあるだろう。

「未来博」の影響

 なお、あぶくま高原道路はETCが使えない。これについても、利用者からは「ETCを使えるようにしてほしい」といった声があるが、「投資が大きい」(前出の県土木部道路計画課の担当者)とのこと。すなわち投資をしてETCを使えるようにしても、それに見合った収入(交通量)が見込めないとして実現に至っていない。

 本誌は2月中旬、東北道経由であぶくま高原道路を走行してみた。東北道矢吹ICで降りると、すぐ先にあぶくま高原道路と国道4号方面の分岐があり、あぶくま高原道路へ。少し走ると、「この先有料」といった掲示板があり、矢吹中央ICを過ぎた当たりに料金所がある。それを超えると、あとは無料区間だが、現在(3月まで)は平田IC―小野IC間が工事中で通行止めになっているため、平田ICから先は一般道で小野ICに。そこからは磐越道でいわき方面に行ける。

 関東方面から来た人を含め、白河(県南)―いわき間を行き来する機会(理由)がどれだけあるかは不明だが、所要時間が短縮され、料金も安くなることから、使い方によっては便利になる。

 ただ、生活道路として使うには、有料区間の存在が邪魔になる。前述したように、有料区間が生まれた一因として「うつくしま未来博」の開催に合わせ、早期開通させるために借り入れをしたという事情があるが、未来博開催については当時の本誌記事でも懐疑的な見解を述べており、実際、来場者は当初見込みに遠く及ばない結果に終わった。大仰に言うと、当時、開催意義を疑われた「うつくしま未来博」が、あぶくま高原道路を使い勝手の悪いものにしたということになる。

この記事を書いた人

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末永武史

すえなが・たけし 1980(昭和55)年生まれ。南相馬市出身。 新卒で東邦出版に入社。 【最近担当した主な記事】 合併しなかった県内自治体(6回シリーズ) 原発事故追加賠償の全容(2023年3月号) 阪神タイガースの熱狂的なファン

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