福島市【さくらゼミ】閉鎖の内幕

福島市【さくらゼミ】閉鎖の内幕

 福島市本町にある学習塾「さくらゼミ」が5月上旬に突如閉鎖し、受験の天王山である夏を前に塾生たちは行き場を失った。1年分の受講料を既に払った塾生もおり、返済が必要な額は500万円にのぼる。運営会社社長は保護者への「謝罪の会」で時期は明言しなかったが全額返金する方針を示した。業界関係者は、塾生を集める算段が付かず経営難に陥り、従業員も見切りを付けたのでは、と話す。

「社会保険未加入」で去っていった講師たち

 福島市の学習塾「さくらゼミ」の閉鎖は6月16日付の福島民報が最初に報じた。

 《福島市中心部の学習塾が年間受講料などを徴収しながら5月上旬以降、受講生に告知せず授業を中断していることが15日までの関係者への取材で分かった。保護者は受講料返還を求める集団訴訟なども視野に、法的手続きを検討している》

 さくらゼミのことだ。同記事によると、塾には小中高生約30人が在籍し、多くは1年分の受講料を一括で納めて今年度の授業を受ける予定だった。4月中はオンラインも交えて授業があったが、5月の大型連休明けから大方の生徒に事情が説明されないまま授業が打ち切られたという。

 さくらゼミの元従業員Aさんが語る。

 「さくらゼミは仙台市を拠点にする学習塾で教えていた佐藤団氏の個人事業として始まりました。3年前に会社組織を立ち上げ、運営がスタートしました」

 法人登記簿によると、さくらゼミを運営するのは「株式会社SAKURA BLACKS」。2020年1月29日設立。事業目的には、①学習塾の経営、②速読、読解力向上の為の学習指導、③語学、資格取得に関する学習指導、④教材用図書の出版がある。代表取締役は佐藤団氏。

 佐藤氏は市内で保護者向けに説明会を開いた。6月25日付の福島民友が詳しい。

 《福島市の学習塾が受講料を徴収後、説明や返金もないまま事業を停止している問題で、経営者の男性は24日、同市で説明会を開き、受講料の返済が必要な人が約40人おり、総額が約500万円に上ると明らかにした》

 男性とは佐藤氏のこと。同記事によると、佐藤氏は弁護士を通じて全額返金する意向を示したが、具体的な時期は明言しなかったという。佐藤氏の話として、塾は昨年12月の段階で経営難だったと伝えている。

 前出のAさんが続ける。

 「経営に関し、おかしいと思う部分はありました。私は従業員として授業を教えていましたが、一切、社会保険には入れてもらえなかった。佐藤氏は『お金がない』の一点張りでした。最盛期はアルバイトも含めると最大10人くらいいましたが、徐々に辞めていきましたね。私は以前、佐藤氏と一緒の塾に勤めていた同僚で、佐藤氏から『新しい塾をつくろう』と誘われてさくらゼミに参加しました。そういう事情もあって塾生たちに責任を感じ、限界まで残るつもりでしたが、昨年の夏にもう付いていけないと辞めることを決めました。高校受験生に悪影響が及ばないよう、今年2月まで授業を続け退職しました」

 現在、さくらゼミのホームページの講師紹介は、佐藤氏の顔写真しか載っていない。過去のホームページをたどると、佐藤氏の担当教科は国語、英語、社会。Aさんによると、塾の従業員がAさん1人になった後は、佐藤氏が算数・数学と理科も教え、状況によっては配信授業を活用する予定だったという。

 学習塾業界関係者Bさんの話。

 「塾関係者の間では、佐藤氏よりもAさんの方がベテラン講師として実績があり、児童・生徒、保護者から人気がありました。さくらゼミのロゴである桜の花びらのデザインはAさんが以前経営していた学習塾のものと同じで、ノウハウも業界関係者から見れば類似点が多い。Aさんは今春から福島市内で新たに学習塾を開いています。Aさんはさくらゼミでは一従業員の立場に過ぎなかったのかもしれないが、関係性の深さを見ていくと『責任はなかった』では済まされない気がします」

 筆者はAさんにこの話を伝え「業界関係者の中にはAさんが佐藤氏を表に立て、裏でさくらゼミを仕切っていたのではないかと疑う人がいるようだ」と問うたが、Aさんは「それはありません」と否定した。

 「佐藤氏と一緒にさくらゼミを始めたメンバーは私以外にもいます。仕切るどころか、社会保険に入れてもらえないなどのトラブルがあり、結局全員辞めてしまいましたが」(Aさん)

 そして、疲れた声でこう続けた。

 「むしろ私は、佐藤氏に悪者に仕立て上げられ困っているんです」

 どういうことか。

 「佐藤氏は私が辞める際、『塾生には何も言わず黙って辞めてくれ』と言い、私はそれに従いました。保護者から後で聞いた話ですが、佐藤氏は保護者・塾生との面談で『Aは勝手に辞めていった』と言ったそうです」(同)

 どのような意図があったのか。実は、Aさんはさくらゼミを辞める時点で新しい塾を開く予定だった。そのため「佐藤氏は塾生を取られることを恐れ、私が勝手に辞めたと事実と異なる説明をして、塾生に『Aに裏切られた』と思わせる狙いがあったのではないか」(同)。

 佐藤氏は配信授業を活用するなどして塾生が1人になっても事業を継続する意向だったが、5月上旬に突如閉鎖して以降は再開した様子はない。7月下旬、筆者は福島市本町にあるさくらゼミが入居していたビルを訪れたが、看板が残っているだけだった。新しいテナントも入っていない。

 佐藤氏はさくらゼミの閉鎖から1カ月以上経った6月24日、保護者向けに「謝罪の会」を開いたが、開催は保護者に執拗にせがまれてのことだったという。佐藤氏は保護者に、健康状態の悪化や資金繰りに困っていたことから閉鎖の連絡が遅れてしまったと釈明した。

塾生確保が困難か

 前出のBさんが語る。

 「佐藤氏が教えられるのは英語などの文系科目だけだったという時点で、他の講師が辞めたら閉鎖は避けられませんでした。受験の天王山と言われる夏を控える中、説明もなく突如閉鎖し、在籍していた塾生の引き受け先も確保しなかったため問題となりました。福島県は大学進学率が低いことから、学習塾にとっては高校受験を控える中学3年生が主な顧客です。塾は2月に現中学2年生の人数を見て、次年度の計画を立てます。毎年、新中学3年生の獲得に力を入れなければならない。次年度の経営状況は春には予想がつくと言っていい。報道によると、閉鎖時に小中高生が30~40人在籍していたとあったが、さくらゼミの規模だと60~70人はいないと黒字にならない。Aさんたち講師陣は、かねてから社会保険を未加入にされていた上、塾生の確保も難しいとあきらめ、見切りを付けたのではないか」

 授業が行えず、塾生を集められない以上、さくらゼミの運営会社は、塾生たちに先に徴収した授業料を返還したうえで破産するのが現実的だろう。

 佐藤氏はいま何を思うのか。筆者は7月平日の昼に福島市内にある自宅を訪ねたが、車はなく、家族によると「不在」とのこと。債権者への責任を果たすため、金策に走っていることを願う。

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