土湯温泉「向瀧」新経営者が明かす〝勝算〟

 2021年2月の福島県沖地震で損壊した福島市・土湯温泉の「ホテル向瀧」が新ホテルを建設する。前身の「向瀧」から数えて創業100年になる同ホテルは、20年8月に経営者が代わり再スタートを切った。厳しい経済状況の中、コロナ禍の影響を大きく受けたホテル業界に進出し、新施設まで建設する経営者とはどのような人物なのか。(佐藤仁)

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巨額借入で高級ホテルを建設

巨額借入で高級ホテルを建設【ホテル向瀧の建設予定地】
ホテル向瀧の建設予定地

 新型コロナの感染拡大でここ数年、閑散としていた土湯温泉。だが、今年の大型連休は違った。

 「どの旅館・ホテルも5月5日くらいまで満館でした。様相は明らかに変わったと思います」(土湯温泉観光協会の職員)

 職員によると、今年は例年より暖かくなるのが早かったこともあってか、3月ごろから目に見えて人出が増えていたという。

 国の全国旅行支援に加え、新型コロナが徐々に落ち着き、5月8日からは感染症法上の位置付けが2類相当から5類に引き下げられた。行動制限があった昨年までと違い、今年の大型連休はどの観光地も大勢の人で賑わいをみせた。

 そうした中、土湯温泉では今、新しいホテルの建設が始まろうとしている。筆者が現地を訪ねた5月9日にはまだ着工していなかったが、今号が店頭に並ぶころには資機材が運び込まれ、作業員や重機の動く様子が見られるはずだ。

 4月13日付の地元紙には、現地で行われた地鎮祭を報じる記事が掲載された。以下は福島民報より。

 《福島市の土湯温泉ホテル向瀧の地鎮祭は12日、現地で行われ、関係者が工事の安全を祈願した。2021(令和3)年2月の本県沖地震で被災したため建て替える。2024年3月末の完成、同年の大型連休前の開業を目指す。

 新ホテルは2022年にオープン予定だったが、世界的な資材不足の影響などで開業計画と建物の設計変更を余儀なくされた。新設計は鉄骨造り5階建て、延べ床面積は2071平方㍍。客室は9部屋で、全室に源泉かけ流しの露天風呂を完備する。向瀧グループが運営する。

 式には約20人が出席した。神事を行い、向瀧グループホテル向瀧・ワールドサポ
ート代表の菅藤真利さんがくわ入れした》

 現地に立つ看板によると「ホテル向瀧」は当初、敷地面積2730平方㍍、建築面積720平方㍍、延べ面積3520平方㍍、7階建て、高さ33㍍だったが、民報の記事中にある「設計変更」で実際の建物はこれより一回り小さくなる模様。設計は㈲フォルム設計(福島市)、施工は金田建設㈱(郡山市)が請け負う。

 ホテル向瀧は、もともと「向瀧」という名称で営業していた。法人の㈱向瀧旅館は1923年創業、61年法人化の老舗だが、2011年の東日本大震災で建物が大規模半壊、1年8カ月にわたり休館したことに加え、原発事故の風評被害で経営危機に陥った。その後、インバウンドで福島空港のチャーター便が増加すると、タイからの観光客受け入れルートを確立。ところが、回復しつつあった矢先に新型コロナに見舞われ、外国人観光客は途絶えた。

 向瀧旅館の佐久間智啓社長は、震災被害は国のグループ補助金を活用したり、金融機関の協力を得るなどして乗り越えた。だが、新型コロナに襲われると、収束時期が不透明で売り上げ回復も見通せないとして、更に借金を重ねる気力を持てなかった。コロナ前に起きた令和元年東日本台風による被害と消費税増税も、佐久間社長の再建への気持ちを萎えさせた。

向瀧旅館の業績

売上高当期純利益
2015年4億円――
2016年4億8900万円▲100万円
2017年4億5900万円2900万円
2018年4億6800万円1600万円
2019年4億6500万円――
※決算期は3月。―は不明。▲は赤字。

 今から3年前、向瀧は「2020年3月31日から5月1日までの間、休館と致します」とホームページ等で発表すると、5月2日以降も営業を再開しなかった。

 そんな向瀧に転機が訪れたのは同年8月。福島市のワールドサポート合同会社が経営を引き継ぎ、「ホテル向瀧」と名称を変えて営業を再開させたのだ。

 法人登記簿によると、ワールドサポートは2015年設立。資本金10万円。代表社員は菅藤真利氏。主な事業目的は①ホテル事業、②レストラン事業、③輸出入貿易業、輸入商品の販売並びに仲介業、④電子製品の製造、販売および輸出入並びに仲介業、⑤企業の海外事業進出に関するコンサルタント業、⑥機器校正メンテナンス業、⑦測定器の研究、開発、製造および販売――等々、多岐に渡る。

ワールドサポートの業績

売上高当期純利益
2018年400万円――
2019年700万円4万円
2020年2700万円▲1400万円
2021年1億0600万円――
2022年2000万円――
※決算期は3月。―は不明。▲は赤字。



 創業100年の老舗旅館を、設立10年にも満たない会社が引き継いだのは興味深い。ワールドサポートとはどんな会社で、代表の菅藤氏とは何者なのか。

好調な中国のレストラン

好調な中国のレストラン
イラストはイメージ

 菅藤氏はホテル業や運送業、保険業などに携わった後、中国で起業したが、その直後に東日本大震災が起こり、2011年9月、福島市内に放射線測定器を扱う会社を興した。だが、同社が県から委託されて設置したモニタリングポストに不具合が生じたとして、県は契約を解除。一方、別会社が菅藤氏の会社から測定器を納入し、県生活環境部が行う入札に参加を申し込んだところ、測定器が規定を満たしていないとして入札に参加できなかったが、県保健福祉部が行った入札では問題ないとして落札できた。そのため、この会社と菅藤氏は「測定器の性能に問題はなかった」と県の第三者委員会に苦情を申し立てた経緯があった。

 その後、菅藤氏は測定器の会社を辞め、親族と共に中国・大連市に出店した日本食レストラン(3店)の経営に専念。このころ、父親を代表社員とするワールドサポートを設立し、レストラン経営に対するコンサルタント料として同社に年数百万円を支払っていた。

 2019年にはワールドサポートでも飲食店経営に乗り出し、福島市内に洋食店を出店した。ところが翌年、新型コロナが発生し、洋食店はオープン数カ月で休業を余儀なくされた。ただ、中国の日本食レストランはコロナ禍でも100人近い従業員を雇うなど、黒字経営で推移していたようだ。

 菅藤氏の知人はこう話す。

 「菅藤氏の日本食レストランは中国のハイクラス層をターゲットにしており、新型コロナの影響に左右されることなく着実に売り上げを上げていました。あるきっかけで店を訪れたモンゴル大使館の関係者は『とても素晴らしい店だ』と気に入り、菅藤氏に『同じタイプのレストランをモンゴルに出したいので手伝ってほしい』と依頼。菅藤氏はコンサルとして出店に協力しています」

 ワールドサポートに「向瀧の経営を引き継がないか」という話が持ち込まれたのは洋食店が休業に入るころだった。もともとホテル経営に関心を持っていた菅藤氏に、前出・向瀧旅館の佐久間社長と代理人弁護士が打診した。

 この知人によると、法人(ワールドサポート)としてはホテル経営の実績はなかったが、菅藤氏は元ホテルマンで、休業していた洋食店の従業員にも元ホテルマンが多く、個々にホテル経営のノウハウを持ち合わせていたという。実際、同社がホテル向瀧として2020年8月から営業を再開させた際、総支配人に据えたのは、2019年に閉館したホテル辰巳屋で支配人・社長を務めた佐久間真一氏だった。

 本誌は3年前、ワールドサポートに経営が切り替わるタイミングでホテル幹部を取材したが、向瀧旅館から引き継ぐ条件として▽負債は佐久間社長が負う、▽不動産に付いている金融機関の担保も佐久間社長の責任で外す、▽身綺麗になった後、運営会社を向瀧旅館からワールドサポートに切り替える、▽それまではワールドサポートが向瀧旅館から不動産を賃借して運営する――等々がまとまったため、営業を再開したことを明かしてくれた。

 ワールドサポートは向瀧旅館の従業員を再雇用することにもこだわった。現場を知る人が一人でも多い方が再開後の運営はスムーズだし、コロナ禍で景気が冷え込む中では、従業員にとっても失業を回避できるのはありがたい。希望する従業員は全員再雇用した。ただし早期再建を図るため、給料は再雇用前よりカットすることで納得してもらった。従業員に給料カットを強いる以上は、役員報酬も大幅カットした。

 また、休業していた洋食店は撤退を決め、新たにホテル向瀧のラウンジに入居させて再スタートを切った。

 不動産登記簿を見ると、向瀧旅館の佐久間社長はワールドサポートとの約束を着実に履行した形跡がうかがえる。

 ホテル向瀧の土地建物には別掲の担保が設定されていたが(債務者は全て向瀧旅館)、これらは2021年3月末までに解除された。

根抵当権1980年12月設定極度額6000万円、根抵当権者・福島信金
根抵当権1990年5月設定極度額13億円、根抵当権者・みずほ銀行
根抵当権1994年5月設定極度額1億5000万円、根抵当権者・みずほ銀行
根抵当権1994年5月設定極度額1億2000万円、根抵当権者・みずほ銀行
根抵当権1994年5月設定極度額1億2000万円、根抵当権者・福島信金
抵当権1994年6月設定債権額3億円、抵当権者・日本政策金融公庫
抵当権1998年3月設定債権額1億円、抵当権者・日本政策金融公庫
抵当権2013年9月設定債権額8100万円、抵当権者・福島県産業振興センター
※上記担保は2021年3月末までに全て解除されている。

 同年6月、向瀧旅館は商号を㈱MT企画に変更。3カ月後の同年9月1日、5億6800万円の負債を抱え、福島地裁から破産手続き開始決定を受けた。同社はワールドサポートから家賃収入を得ていたが、全ての担保が解除されたと同時に土地建物をワールドサポートに売却した。

20億円の借り入れ

20億円の借り入れ

 この時点でMT企画・佐久間社長はホテル向瀧とは一切関係がなくなったが、その後も「何らかのつながりがあるのではないか」と見る向きがあったのか、ワールドサポートでは同ホテルのHPで次のような注意喚起を行っていた。

 《ホテル向瀧は、株式会社向瀧旅館・土湯温泉向瀧旅館および株式会社MT企画とは一切関係ありませんので、ご注意下さいますようお願いいたします》

 そんなワールドサポートも順風な経営とはいかなかった。土地建物が自社名義になる直前の2021年2月に福島県沖地震が発生。震災に続きホテルは大規模半壊し、休館せざるを得なかった。

 菅藤氏は建て替えを決断し、金策に奔走した。その結果、2022年3月に三井住友銀行をアレンジャー兼エージェント、福島銀行、足利銀行、商工中金を参加者とする20億3500万円のシンジケートローンが締結された。だが、冒頭・民報の記事にもあるように、世界的な資材不足の影響で計画・設計の変更を迫られるなどスムーズな建て替えとはいかなかった。

 ちなみに、かつての向瀧は10階建て、延べ床面積1万0600平方㍍、客室は71室あった。これに対し、新ホテルは5階建て、延べ床面積2070平方㍍、客室は9室なので、団体客は意識せず、コロナ禍で進んだ個人・少人数の旅行客を受け入れようという狙いが見て取れる。

 ホテル向瀧が休館―解体―新築となる一方で、菅藤氏は同ホテルから徒歩5分の場所にあった保養施設の改修にも乗り出していた。

 閉館から年月が経っていた「旧キヤノン土湯荘」を2021年6月、ワールドサポートの関連会社㈱WIC(福島市、2021年設立、資本金400万円、菅藤江未社長)が取得すると、改修工事を施し、今年3月から「向瀧別館 瀧の音」という名称で営業を始めた。土地建物はWIC名義だが、運営はワールドサポートが行っている。

3月にオープンした瀧の音

 ここまでワールドサポートと菅藤氏について触れたが、巨額の売り上げを上げているわけでもなく、洋食店も始まった直後に新型コロナで休業し、ホテル経営も実績がない。そんな同社(菅藤氏)が、なぜ20億円ものシンジケートローンを組むことができたのか、なぜホテル向瀧だけでなく別館まで手を広げることができたのか、正直ナゾが多い。

 事実、他の温泉地の旅館・ホテルからは「バックに有力スポンサーが付いているのではないか」「中国資本が入っているのではないか」という憶測も聞こえてくる。
 実際はどうなのか、菅藤氏に直接会って話を聞いた。

菅藤氏が描く戦略

菅藤氏が描く戦略
イラストはイメージ

 向瀧旅館から経営を引き継ぎ、2020年8月に営業許可を受けた菅藤氏は、71室あった客室を15室だけ稼働させ、限られた経営資源を集中投下した。

 「まず『旅館』から『ホテル』にしたことで、仲居さんが不要になります。かつての向瀧を知るお客さんからは『部屋まで荷物を運んでくれないのか』『お茶を出してくれないのか』と言われましたが『ホテルに変わったので、そういうサービスはしていません』と。そうやって、まずは労働力・人件費を細部に渡りカットしていきました」(菅藤氏、以下断わりがない限り同)

 休業していた洋食店をホテル内に入居させたことも奏功した。

 「もともと腕利きの料理人を複数抱えていたので、ホテルの夕食は和食かフレンチをチョイスできる仕組みにしました。そうすることで、例えば夫婦で泊まった場合、旦那さんは和食で日本酒、奥さんはフレンチでワインが楽しめると同時に、翌日は逆のチョイスをしてみようと連泊してくださるお客さんが増えていきました」

 連泊すると、宿泊客は部屋の掃除を遠慮するケースが多い。そうなるとリネンを交換する必要もなく、その分、経費は浮くことになる。

 「旅館では当たり前の布団を敷くサービスも廃止し、お客さんに敷いてもらうようにして、代わりに1000円キャッシュバックのサービスを行いました。その結果、1000円がお土産代などに回る好循環につながりました」

 従業員は十数人なので、15部屋が満室になったとしても満足なサービスを提供できる。そうやって今までかかっていた経費を抑えつつ、限られた人数で一定の稼働率を維持したことで、営業再開当初から単月の売り上げは二千数百万円、利益は数百万円を上げることに成功した。

 ところが前述した通り、2021年2月の福島県沖地震で建物は大規模半壊。休館―解体を余儀なくされた中、菅藤氏が頭を悩ませたのは従業員の雇用維持だった。
 考えたのは、新ホテルの開設準備室として使っていた前出・旧キヤノン土湯荘をホテルとして再生させ、新ホテルがオープンするまで従業員に働いてもらうことだった。

 「もともと保養所だったので、風呂とトイレは各部屋になく、フロアごとに設置されていました。ここをリニューアルすれば、学生の合宿に使い勝手が良い施設になるのではと考え、リーズナブルな料金設定にして営業を始めました」

 建物は2021年に続き22年3月の福島県沖地震でダメージを受けていたため、リニューアルは簡単ではなかったが、今年3月に瀧の音としてオープン以降は従業員の雇用の場になると共に、新たな宿泊層を呼び込むきっかけにもなった。

 「今年の大型連休は、県内外の中学・高校生に大会の宿舎として利用していただきました。ダンススクールの子どもたちの合宿もあり、4連泊と長期宿泊もみられました。客室は9室と少ないので、サービスが滞る心配もありません」

 今後は各部屋にユニットバスとトイレを設置し、使い勝手の向上を図る予定だという。

 新型コロナが収束していない中、2軒目の経営に乗り出すとは驚きだが、気になるのは、新ホテルを建設し、徒歩5分のエリアに別館もオープンさせて足の引っ張り合いにならないのかということだ。

 「新ホテルはインバウンドや首都圏のお客さんをターゲットに、瀧の音とは全く異なる料金プランを設定する予定です。稼働率も25%程度を想定しています」

 要するに、新ホテルは高級路線を打ち出し、別館とは住み分けを図る狙いだ。今後、別館のリニューアル(ユニットバスとトイレの設置)を行うのは、今まで向瀧を訪れていた地元の人たちが高級ホテルに宿泊するとは考えにくいため、合宿以外の地元利用につなげたい考えがあるのだろう。

 それにしても驚くのは25%という稼働率の低さだ。旅館・ホテルは稼働率60~70%が損益分岐点と聞くが、25%で黒字に持っていくことは可能なのか。

 「例えば客室が100室あって稼働率25%では、空きが75室になるので赤字です。だが、新ホテルは9室なので25%ということは2部屋稼働させればいい。大きな旅館・ホテルは、春秋の観光シーズンや夏休みは一定の入り込みが見込めるが、シーズンオフは企画を立てたり、料金を下げても稼働率を維持するのは容易ではない。しかし、お客さんのターゲットを明確に絞り、全体で9室しかなければ、観光シーズンか否かに左右されず一定の稼働率を維持できると考えています。ましてや最初から25%と低く設定し、それで黒字になるなら、ハードルは決して高くないと思います」

 新ホテルに明確なコンセプトを持たせつつ、別館は学生や地元客の利用を意識するという菅藤氏のしたたかな戦略が見て取れる。

 「ホテル管理システムも、スマホで予約や決済が可能な最新のものを導入しようと準備を進めています。削る部分は削るが、かける部分はかけるというのも菅藤氏の戦略なのでしょう」(前出・菅藤氏の知人)

見えない信用力

 それでも記者が「厳しい経済状況の中、高級路線のホテルは需要があるのか」と意地悪い質問をすると、菅藤氏はこう断言した。

 「あります。首都圏では某有名ホテルチェーンで1泊数万円でも連日予約が埋まっているし、有名観光地では1泊1食付きで数十万~100万円の旅館・ホテルの人気が高い。地方の温泉地でも知恵を絞り、魅力的なサービスを打ち出せば外国人旅行者や首都圏の富裕層に関心を持ってもらえると思います」

 このように戦略の一端が見えた一方、やはり気になるのは金策だ。三井住友銀行によるシンジケートローンは前述したが、失礼ながら事業実績に乏しいワールドサポートに巨額融資を受ける信用があるようには見えない。その点を菅藤氏に率直に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

 「最初、地元金融機関に融資を申し込んだところ、事業計画を吟味することなく『当行は静観します』と断られました。その後、紆余曲折があり三井住友銀行さんに行き着いたが、同行は事業計画をしっかり評価してくれました。同行はグループ会社でホテル経営をしており、五つ星ホテルもあるから、ホテル向瀧のコンセプトにも理解を示してくれたのだと思います。『婚礼はやらない方がいい』など具体的なアドバイスもしてくれました」

 とはいえ、事業計画がいくら立派でも、信用面はどうやって評価してもらったのか。

 「中国の日本食レストランはオープン9年になるが、その業績と資産価値を高く評価してもらいました。三井住友銀行さんに現地法人があったことが、正確な評価につながったのでしょう。融資を断られた地元金融機関は現地法人もなければ支店・営業所もないので、(日本食レストランを)評価しようがなかったのかもしれません」

 記者が「バックに有力スポンサーがいるとか、中国資本が入っていると見る向きもあるが」とさらに突っ込んで聞くと、菅藤氏はきっぱりと言い切った。

 「仮に有力スポンサーが付いていたとしても、ワールドサポートと実際の資本関係がなければ銀行は信用力が上がったとは見なさない。しかし登記簿謄本を見てお分かりのように、当社は資本金10万円の会社ですから、スポンサーとの資本関係はありません。中国資本についても同様です」

 スポンサー説や中国資本説はあくまでウワサに過ぎないようだ。

 これについては前出・菅藤氏の知人もこう補足する。

 「菅藤氏の周囲には数人のブレーンがいて、これまでも彼らと知恵を出し合いながら事業を進めてきた。ホテル経営に当たっても資金づくりが注目されているが、私が感心したのは様々な補助金を駆使していることです。一口に補助金と言うが、実は省庁ごとに細かい補助金がいくつもあり、その中から自分の事業に使えるものを探すのは簡単ではない。それを、菅藤氏はブレーンと適宜見つけ出しては本館・別館の改修に充てていたのです」

 地方の温泉旅館で富裕層を狙う戦略が奏功するのか、急速な事業拡大は行き詰まりも早いのではないか、巨額融資を受けられた別の理由があるのではないか――等々、お節介な心配は挙げれば尽きないが、今後、ワールドサポート・菅藤氏のお手並みを拝見したい。

「別の仕掛け」も検討!?

 ワールドサポートでは向瀧旅館と取り引きしていた仕入れ先から引き続き食材等を調達しているが、当初は現金払いを求められたという。向瀧旅館が再三休館し、最後は破産したわけだから、ワールドサポートも信用面を疑われるのは仕方がなかった。だが、再開当初から経営が軌道に乗り、シンジケートローンが決まると「月末締めの翌月払い」に変更されたという。同社が仕入れ先から信用を得られた瞬間だった。

 「向瀧旅館(MT企画)が破産したことで、仕入れ先の債権(買掛金など)がどのように処理されたのかは分かりません。当社としては仕入れ先に迷惑をかけず、地元企業にお金が回るようホテルを経営していくだけです」(菅藤氏)

 その点で言うと、もし地元金融機関から融資を受けられれば施工は福島市の建設会社に依頼する予定だったが、融資を断られたため、三井住友銀行の紹介で接点ができた前述・金田建設に依頼した。菅藤氏は「今後も可能な限り地元企業にお金が回るようにしたい」と話している。

 建設中の新ホテルは来年3月末に完成し、大型連休前のオープンを目指しているが、災害時には避難所として利用できるよう福島市と協定を締結している。瀧の音をオープンさせた狙いの一つ「地元貢献」を新ホテルでも果たしつつ、

 「菅藤氏は更に『別の仕掛け』も考えており、これが成功すれば低迷する各地の温泉地を再生させるモデルケースになるのでは」(前出・菅藤氏の知人)

 というから、本誌の取材には明かしていない構想が菅藤氏の念頭にはあるのだろう。

 昨年創業100年を迎えたホテル向瀧がどのように生まれ変わり、菅藤氏が描く「仕掛け」が土湯温泉全体にどのような影響をもたらすのか、注目点は尽きない。


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佐藤 仁

さとう・じん

1972(昭和47)年生まれ。栃木県出身。
新卒で東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
ゼビオ「本社移転」の波紋
丸峰観光ホテル社長の呆れた経営感覚

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