新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが、5月8日から季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げられた。かつての日常に戻りつつある中、店での飲食は動向が大きく変わった。客の重視は「飲む」から「食べる」に変化。職場の宴会は減り、あっても1次会のみ。酒の提供がメインで接待を伴うスナックは2次会以降を当てにしているため、客数減による淘汰が進む。第3弾となる夜の街調査は、いわき市を巡った。
客足戻ってもスナックに波及せず
本誌はこれまで郡山市と福島市にあるスナックの数を、電話帳を基にコロナ前と後で比較してきた。電話や訪問で営業状況を確認し、ママやマスターに聞き取り調査を重ねた。
第3回となる今回は、経済規模が県内2番目のいわき市(表1参照)の夜の街を調べた。新型コロナが5類に引き下げとなって初めての土曜日(5月13日)夜に、本誌記者2人がJRいわき駅前(平地区)の店を訪問し、店主から聞き取った。
表1 県内の経済規模上位5市
市町村内総生産 | 県全体の構成比 | |
---|---|---|
郡山市 | 1兆3635億円 | 17.10% |
いわき市 | 1兆3577億円 | 17.00% |
福島市 | 1兆1466億円 | 14.40% |
会津若松市 | 4553億円 | 5.70% |
南相馬市 | 3307億円 | 4.10% |
現地調査の前に店の増減を電話帳から把握する。新型コロナ感染拡大前の2019年11月時点と感染拡大後の21年10月時点の電話帳(NTT発行『タウンページいわき市版』)で掲載数を比較した。
2021年時点で20軒以上ある業種を挙げる。業種は店からの申告に基づき重複がある。多い順に次の通り(カッコ内は減少率)。
スナック 273店→221店(19・0%)
飲食店 201店→180店(10・4%)
居酒屋 168店→148店(11・9%)
食堂 83店→68店(18・0%)
すし店(回転ずし除く) 69店→64店(7・2%)
レストラン(ファミレス除く) 72店→62店(13・8%)
ラーメン店 67店→62店(7・4%)
喫茶店 61店→54店(11・4%)
焼肉・ホルモン料理店 38店→37店(2・6%)
中華料理店 38店→37店(2・6%)
バー・クラブ 48店→36店(25・0%)
焼鳥店 34店→33店(2・9%)
うどん・そば店 30店→28店(6・6%)
日本料理店 28店→25店(10・7%)
ファミレス 25店→24店(4・0%)
カフェ 23店→21店(8・6%)
減少数・率ともに大きいのはスナックだった。53店が電話帳から消え、1店が新規掲載。差し引き52店減少した。もともとの店舗数はスナックや居酒屋に比べれば少ないが、減少率が最も大きかったのはバー・クラブの25・0%。12店が電話帳から消え、新規掲載はなかった。
酒と接待の場を提供するスナックやバー・クラブの減少が著しいのは郡山・福島両市も同じだ。
郡山市
スナック 202店→159店(減少率21・2%)。消滅48店、新規掲載5店
バー・クラブ 45店→42店(減少率6・6%)。消滅5店、新規掲載2店
福島市
スナック 194店→145店(減少率25・2%)。消滅50店、新規掲載1店
バー・クラブ 42店→35店(減少率16・6%)。消滅7店、新規掲載なし
スナックの数はコロナ前も後も3市の中でいわき市が最も多い。にもかかわらず減少率は19%と他2市と比べて2~5㌽低い。理由は飲食店街が分散していることが考えられる。スナックが10店舗以上ある地区は表2の通り。市内最大規模の飲食店街は平・田町でスナック約120店舗がひしめく。平地区のスナックの減少率は21%で、郡山・福島とあまり変わらない。減少幅の小さい小名浜や植田など周辺地区が平の減少率を緩和している形だ。
表2 いわき市のスナックの店数
2019年 | 2021年 | 減少率 | |
---|---|---|---|
平地区 | 152 | 120 | 21% |
小名浜地区 | 45 | 37 | 17% |
植田地区 | 42 | 34 | 19% |
常磐地区 | 15 | 12 | 20% |
「回復とは言えない」
平・白銀町でバー「QUEEN」を経営するマスター加藤功さん(65)=平飲食業会・社交部会部会長=は、叔母から店を引き継いで計63年続けている。
「客の入りは回復しているとは言い難いですね。土曜日でも空席がある。ライブを開催し、大物ミュージシャンを呼んでもチケットは完売になりませんでした。みんな出不精になったのかな」(加藤さん)
コロナ禍で閉店する店が増えたことについては、
「跡継ぎがいないというかねてからの問題があります。コロナ禍が閉店に踏み切るきっかけになった。私の店も後継者はいません。酒を提供する店でも料理がメインのところは回復力が強い。純粋にお酒を愉しんだり、女性が接待する店はまだまだ厳しい」(同)
別のバーの男性オーナーAさんは
「うちは仲間内で楽しむ雰囲気の店です。美味しいものを味わってもらうというより、1人3000円くらいでサンドイッチなど軽食を用意し、腹いっぱいになって帰ってもらう。昔は公務員が多く来ていたが、コロナ以降は全然ですね」
平競輪場が近いこともあり、店内には競輪のグッズが飾ってあった。
「今は送別会をやる選手もいません。余裕がないんでしょうね。お客さんも店も一緒です。やめちゃった店は多分、コロナ禍の間に運営資金を4、500万円くらい借りてあっぷあっぷになったんじゃないか。俺もいつやめてもおかしくない。あと1年、あと1年とマイナスの状況で続けてきた。貯金はみんな食いつぶしたよ」(同)
ただ、公務員や地域行事の打ち上げが戻ってきたことで、感染の収束を感じるとも話す。
「ようやく4月から警察関係の人たちが飲み歩き始めた。いい兆しです。だが、うちはPTAや保護者会などの団体さんが動き出さないと経営は厳しい。コロナ前は野球、サッカー、学校行事などが終わった後は打ち上げがお決まりでした。消防団もお得意さんですね。年間行事が決まっているので、安定した集客が見込めます」(同)
パートで本業を支える
筆者は別の店主から「昼間にパートに出て本業(スナック)を支えている店もあった」と聞いた。
あるスナックのベテランママBさんも「他人事ではない」と話す。
「店を閉めるには借金を清算しなくてはなりません。でも、この年になったら働き口がないので店を続けるしかない。お客さんの数はコロナ前の水準には戻らないけど、常連さんが来てくれるのでかろうじてやっていけます」
前出のマスター加藤さんは、コロナ後の客の飲み方に明らかな変化を感じているという。
「大型連休中はお客さんがコロナ前の7割程度まで戻った。ただし、1次会だけで終わるケースが多い。帰りの運転代行のピークは20~21時の間です」
5月13日の土曜日、本誌記者2人は19時を待ち、電話帳から消えたスナックやバー・クラブを訪ね開店状況を調べた(結果は別表参照)。20~21時の間は平・田町の路地を団体客が通り、客引きが2次会の場所を紹介しようと賑わっていた。だが21時を過ぎると客足は減り、客引きの方が多くなった。女性従業員がペアになり、いわき駅方面に向かう男性客を呼び止めるが、人の流れが止まる気配はなかった。
電話帳から消えたいわき市平のスナック、バー・クラブ
○…5月13日(土)に営業確認 ×…営業未確認
地区 | 店名 | 最後の所在地または移転先 | 営業状況 |
---|---|---|---|
田町 | スナックMajo | 新田町ビル | 〇 |
桐子 | × | ||
cantina | × | ||
COOL | 田町MKビル | × | |
Sweethome | ミヨンビル | 〇 | |
LOVERING | ミヨンビル→泉に移転集約 | 〇 | |
スナック・汐 | 第2紫ビル | × | |
スナック美穂 | 志賀ビル | × | |
チェンマイ | × | ||
歩楽里 | × | ||
スナック僕 | × | ||
Boro | ルネサンスビル | × | |
サムライ | サンスマイルビル2 | 〇 | |
ラソ(Lazo) | アマーレビル→田町鈴建ビル | 〇 | |
ビージェイオセーボ(BJOSEBO) | サンスマイルビル1 | × | |
スナックむげん | 梅の湯ビル | × | |
DREAM | 移転の情報 | × | |
WITH | 二葉館ビル | 〇 | |
くおん | 田町ビル | 〇 | |
夕凪 | × | ||
きなこ | 寺田ビル | × | |
スナック・杏 | 第3紫ビル | × | |
Materia | × | ||
スナックパルティール2 | × | ||
パブスナックキャットハウス | × | ||
ROAD | 鳥海ビル | 〇 | |
カマ騒ぎ | × | ||
BAR BLUE | 〇 | ||
Berry・Berry | タマチビレッジ | × | |
二町目 | 上海新天地 | 紅小路ビル | × |
スナックきよみ | × | ||
スナック北京城 | ひかりビル | × | |
スナック戀(れん) | × | ||
白銀 | アジエンス | × | |
クイーン | 〇 | ||
酒処さかもと | × | ||
五町目 | プラス・ワン | 移転の情報 | × |
パークサイド | × |
22時を過ぎると「お兄さん、マッサージいかがですか」と片言で誘ってくる女性が増えてきた。前出のベテランママBさんによると、中国人グループが組織的に行っているという。
土曜の夜でも22時には客が引けてしまう。スナックやバー・クラブにとっては本来、この時間帯からが勝負だが、そもそも2次会の客が減っているので、賑わう店とそうでない店の二極化が進んでいる。
期待が薄い駅前再開発
業界として打つ手はあるのか。
「徐々に暑くなり、街中でのイベントが再開されれば人通りは多くなります。それを飲食店街にどう呼び込むか。今夏、いわき駅前では七夕まつり、小名浜では花火大会がコロナ前の規模で開催されます。昨年末には、いわきFCのJ3優勝とJ2昇格を祝うパレードも同駅前でありました。いわきFCに関してはイベントが始まったばかりということもあり、飲食店街の賑わいにどうつなげるか手探りです」(前出・加藤さん)
いわき駅前は再開発でホテルやマンションの建設が進む。今後、宿泊しながら飲食する人は増えることが予想され、飲食店街にとっては好材料になるのではないか。
ただ、各店主に話を向けると「そうなればいいですね」「そんなに関係ないな」と、あまり期待していない様子だった。
田町で店の営業状況を調べていると、客引きの女性従業員から「どの店もいつ潰れてもおかしくない。もっといいように書いてくださいよ」と注文を受けた。
正直、プラスの材料を探すのは難しい。早く調査を終わらせようと、女性従業員にリストに載っている店が今もやっているか尋ねた。
「その店は昨年9、10月ころにはなくなったよ。ママが『売り上げがないから疲れちゃった』って。ママが亡くなって閉めた店もあります」
本誌がリストに載せた店は、消えた店の方が多かった。
「私らは最後までやるつもりですよ。それこそ死ぬまでね」
と女性従業員。覚悟を決めた人の言葉だった。