二本松市役所に蔓延する深刻なパワハラ

【二本松市】パワハラ部長「突然の退職劇」

 二本松市役所で産業部長によるパワハラ・モラハラが横行している。被害者が声を上げないため公には問題になっていないが、部下の課長2人が2年連続で出先に異動し、部内のモチベーションは低下している。昨今は「ハラスメントを許さない」という考えが社会常識になっているが、三保恵一市長はこうした状況を見過ごすのか。そもそも、三保市長自身にもパワハラ疑惑が持ち上がっている。(佐藤仁)

「城報館」低迷の責任を部下に押し付ける三保市長

 まずは産業部内で起きている異変を紹介したい。同部は農業振興、商工、観光の3課で組織されるが、舞台となったのは観光課である。

 2021年4月から観光課長に就いたA氏が、1年で支所課長として異動した。その後任として22年4月から就いたB氏も半年後に病休となり、11月に復職後は住民センター主幹として異動した。課長から主幹ということは降格人事だ。

 B氏の後任は現在も決まっておらず、観光課長は空席になっている。

 菊人形、提灯祭り、岳温泉など市にとって観光は主要産業だが、観光行政の中心的役割を担う観光課長が短期間のうちに相次いで異動するのは異例と言っていい。

 原因は、荒木光義産業部長によるハラスメントだという。

 「荒木部長の言動にホトホト嫌気が差したA氏は、自ら支所への異動を願い出た。『定年間近に嫌な思いをして仕事をするのはまっぴら。希望が通らなければ辞める』と強気の姿勢で異動願いを出し、市に認めさせた。これに対し、B氏は繊細な性格で、荒木部長の言動をまともに受け続けた結果、心身が病んだ。問題は1カ月の病休を経て復職後、主幹として異動したことです。職員の多くは『被害者が降格し、加害者がそのまま部長に留まっているのはおかしい』と疑問視しています」(市役所関係者)

 荒木部長のハラスメントとはどういうものなのか。取材で判明した主な事例を挙げると①感情の浮き沈みが激しく、機嫌が悪いと荒い口調で怒る。②指導と称して部下を叱責する。いじめの部類に入るような言い方が多々みられる。③陰口が酷く、他者を「奴ら」呼ばわりする。④自分だけのルールを市のルールや世間の常識であるかのように押し付け、部下が反論すると叱責する。⑤部下が時間をかけて作成した資料に目を通す際、あるいは打ち合わせで部下が内容を説明する際、自分の意図したものと違っていると溜息をつく。⑥「なぜこんなこともできない」と面倒くさそうに文書の修正を行う。ただし、その修正は決して的確ではない。⑦上司なので上からの物言いは仕方ないとして、人を馬鹿にしたような態度を取るので、部下は不快に感じている。⑧親しみを込めているつもりなのか部下をあだ名で呼ぶが、それによって部下が不快な思いをしていることに気付いていない。

 分類すると①~③はパワハラ、⑤~⑧はモラハラ、④はモラパワハラになる。

 さらにモラハラについては▽文書の直しが多く、かつ細かすぎて、最後は何を言いたいのか分からなくなる▽30分で済むような打ち合わせを2、3時間、長い時は半日かけて行う▽同じ案件の打ち合わせを何度も行う▽市長、副市長に忖度し、部下はそれに振り回されている▽予算を度外視した事業の実施や、当初・補正予算に高額予算を上げることを強要する――等々。おかげで部下は疲弊しきっているという。

 そんな荒木部長の機嫌を大きく損ねている最大の原因が、市歴史観光施設「にほんまつ城報館」(以下、城報館と略)の低迷である。

低迷する城報館
低迷する城報館
城報館2階部分から伸びる渡り廊下
2階部分から伸びる渡り廊下

 城報館は昨年4月、県立霞ヶ城公園(二本松城跡)近くにオープンした。1階は歴史館、2階は観光情報案内というつくりで、2階には同公園との行き来をスムーズにするため豪華な渡り廊下が設置された。駐車場は大型車2台、普通車44台を停めることができる。

 事業費は17億1600万円。財源は合併特例債9億8900万円、社会資本整備総合交付金5億3600万円、都市構造再編集中支援事業補助金1億3900万円を使い、残り5000万円余は市で賄った。

 市は年間来館者数10万人という目標を掲げているが、オープンから10カ月余が経つ現在、市役所内から聞こえるのは「10万人なんて無理」という冷ややかな意見である。

 「オープン当初こそ大勢の人が詰めかけたが、冬の現在は平日が一桁台の日もあるし、土日も60~70人といったところ。霞ヶ城公園で菊人形が開催されていた昨秋は菊人形と歴史館(※1)を組み合わせたダブルチケットを販売した効果で1日200人超の来館者数が続いたが、それでも10万人には届きそうもない」(ある市職員)

※1 城報館は入場無料だが、1階の歴史館(常設展示室)の見学は大人200円、高校生以下100円の入場料がかかる。

 市観光課によると、昨年12月31日現在の来館者数は8万6325人、そのうち有料の常設展示室を訪れたのは4万2742人という。

 市内の事業主からは「無駄なハコモノを増やしただけ」と厳しい意見が聞かれる。

 「館内にはお土産売り場も飲食コーナーもない。2階に飲食可能な場所はあるが、自販機があるだけでコーヒーすら売っていない。あんな造りでどうやって観光客を呼ぶつもりなのか」(事業主)

 市は昨年秋、菊人形の来場者を城報館に誘導するため、例年、菊人形会場近くで開いている物産展を城報館に移した。三百数十万円の予算をかけて臨時総合レジを設ける力の入れようだったが、物産展を城報館で開いているという告知が不足したため、菊人形だけ見て帰る人が続出。おかげで「ここはお土産を買う場所もないのか」と菊人形の評価が下がる始末だったという。

 「城報館に物産展の場所を移しても客が全然来ないので、たまりかねた出店者が三保市長に『市長の力で何とかしてほしい』と懇願した。すると三保市長は『のぼり旗をいっぱい立てたので大丈夫だ』と真顔で答えたそうです」(同)

三保恵一市長
三保恵一市長

 本気で「のぼり旗を立てれば客が来る」と思っていたとしたら、呆れて物が言えない。

 オープン前の市の発表では、年間の維持管理費が2300万円、人件費を含めると4400万円。これに対し、主な収入源は常設展示室の入場料で、初年度は950万円と見込んでいた。この時点で既に3450万円の赤字だが、そもそも950万円とは「10万人が来館し、そのうち5万人が常設展示室を見学する=入場料を支払う」という予測のもとに成り立っている。10万人に届きそうもない状況では、赤字幅はさらに膨らむ可能性もある。

上司とは思えない言動

 前出・市職員によると、常設展示室で行われている企画展の内容は素晴らしく、二本松城は日本100名城に選ばれていることもあり、歴史好きの人は遠く関東や北海道からも訪れるという。しかし、歴史に興味のない一般の観光客が訪れるかというと「一度は足を運んでも、リピーターになる可能性は薄い」(同)。多くの人に来てもらうには、せめてお土産売り場や飲食コーナーが必要だったということだろう。

 「施設全体で意思統一が図られていないのも問題。城報館は1階の歴史館を市教委文化課、2階の観光情報案内を観光課が担い、施設の管理運営は観光課が行っているため、同じ施設とは思えないくらいバラバラ感が漂っている」(同)

 筆者も先月、時間をかけて館内を見学したが(と言っても時間をかけるほどの中身はなかったが……)、もう一度来ようという気持ちにはならなかった。

 早くもお荷物と化しそうな雰囲気の城報館だが、そんな同館を管理運営するのが観光課のため、批判の矛先が観光課長に向けられた、というのが今回のハラスメントの背景にあったのである。

 関係者の話を総合すると、A氏が課長の時は城報館のオープン前だったため、この件でハラスメントを受けることはなかったが、B氏はオープンと同時に課長に就いたため、荒木部長だけでなく三保市長からも激しく叱責されたようだ。

 「荒木部長は『オレはやるべきことをやっている』と責任を回避し、三保市長は『何とかして来館者を増やせ』と声を荒げるばかりで具体的な指示は一切なかった。強いて挙げるなら、館内受付の後方に設置された曇りガラスを透明ガラスに変え、その場にいる職員全員で客を迎えろという訳の分からない指示はあったそうです。挙げ句『客が来ないのはお前のせいだ』とB氏を叱責し、荒木部長はB氏を庇おうともしなかったというから本当に気の毒」(前出・市役所関係者)

 観光課が管理運営を担っている以上、課長のB氏が責任の一部を問われるのは仕方ない面もあるが、上司である荒木氏の責任はもっと重いはずだ。さらに建設を推し進めたのが市長であったことを踏まえると、三保氏の責任の重さは荒木部長の比ではない。にもかかわらず、荒木部長はB氏を庇うことなく責任を押し付け、三保市長は「客が来ないのはお前のせいだ」とB氏を叱責した。上司のあるべき姿とは思えない。

 もともと城報館は新野洋元市長時代に計画され、当時の中身を見ると1階は多言語に対応できる観光案内役(コンシェルジュ)を置いてインバウンドに対応。地元の和菓子や酒などの地場産品を販売し、外国人観光客を意識した免税カウンターも設置。そして2階は歴史資料展示室と観光、物産、歴史の3要素を兼ね備えた構想が描かれた。管理運営も指定管理者や第三セクターに委託し、館長がリーダーシップを発揮できる形を想定。年間来館者数は20万人を目標とした。

加害者意識のない部長

 しかし、2017年の市長選で新野氏が落選し、元職の三保氏が返り咲くと、この計画は見直され、1階が歴史、2階が観光と逆の配置になり、物産は消失。管理運営も市直営となり、観光課長が館長を兼ねるようになった。

 新野元市長時代の計画に沿って建設すれば来館者が増えたという保障はないが、少なくとも施設のコンセプトははっきりしていたし、一般の観光客を引き寄せる物産は存在していた。それを今の施設に変更し、議会から承認を得て建設を推し進めたのは三保市長なのだから、客が来ない責任を部下のせいにするのは全くの筋違いだ。

 自治労二本松市職員労働組合の木村篤史執行委員長に、荒木部長によるハラスメントを把握しているか尋ねると次のように答えた。

 「観光課長に対してハラスメント行為があったという声が寄せられたことを受け、組合員230人余に緊急アンケートを行ったところ(回答率7割)、荒木部長を名指しで詳述する回答も散見されました。組合としては現状を見過ごすわけにはいかないという立場から、結果を分析し、踏み込んだ内容を市当局に伝えていく考えです」

 ハラスメントは、一歩間違えると被害者が命を失う場合もある。被害者に家族がいれば、不幸はたちまち連鎖する。一方、加害者は自分がハラスメントをしているという自覚がないケースがほとんどで、それが見過ごされ続けると、職場全体の士気が低下する。働き易い職場環境をつくるためにも、木村委員長は「上司による社会通念から逸脱した行為は受け入れられない、という姿勢を明確にしていきたい」と話す。

 筆者は荒木部長に事実関係を確認するため、電話で「直接お会いしたい」と取材を申し込んだが「私から話すことはない」と断られた。ただ電話を切る間際に「見解の違いや受け止め方の差もある」と付言。ハラスメント特有の、自分が加害者とは認識していない様子が垣間見えた。

 ちなみに、荒木部長は安達高校卒業後、旧二本松市役所に入庁。杉田住民センター所長、商工課長を経て産業部長に就いた。定年まで残り1年余。

 三保市長にも秘書政策課を通じて①荒木部長によるハラスメントを認識しているか、②認識しているなら荒木部長を処分するのか。またハラスメント根絶に向けた今後の取り組みについて、③今回の件を公表する考えはあるか、④三保市長自身が元観光課長にパワハラをした事実はあるか――と質問したが、

 「人事管理上の事案であり、職員のプライバシー保護という観点からコメントは控えたい」(秘書政策課)

 ただ、市議会昨年12月定例会で菅野明議員(6期、共産)がパワハラに関する一般質問を行った際、三保市長はこう答弁している。

 「パワハラはあってはならないと考えています。そういう事案が起きた場合は厳正に対処します。パワハラは起こさない、なくすということを徹底していきます」

疲弊する地方公務員

 荒木部長は周囲に「定年まで残り1年は安達地方広域行政組合事務局長を務めるようになると思う」などと発言しているという。同事務局長は部長職なので、もし発言が事実なら、産業部長からの横滑りということになる。被害者のB氏は課長から主幹に降格したのに、加害者の荒木氏は肩書きを変えて部長職に留まることが許されるのか。

 「職員の間では、荒木氏は三保市長との距離の近さから部長に昇格できたと見なされている。その荒木氏に対し三保市長が処分を科すのか、あるいはお咎めなしで安達広域の事務局長にスライドさせるのかが注目されます」(前出・市役所関係者)

 地方公務員の職場実態に詳しい立教大学コミュニティ福祉学部の上林陽治特任教授によると、2021年度に心の不調で病休となった地方公務員は総務省調査(※2)で3万8000人を超え、全職員の1・2%を占めたという。

※2 令和3年度における地方公務員の懲戒処分等の状況
  (令和3年4月1日~令和4年3月31日)調査

 心の不調の原因は「対人関係」「業務内容」という回答が多く、パワハラ主因説の根拠になっている。

 身の危険を感じた若手職員は離脱していく。2020年度の全退職者12万5900人のうち、25歳未満は4700人、25~30歳未満は9200人、30~35歳未満は6900人、計2万0800人で全退職者の16・5%を占める。せっかく採用しても6人に1人は35歳までの若いうちに退職しているのだ。

 そもそも地方自治体は「選ばれる職場」ではなくなりつつある。

 一般職地方公務員の過去10年間の競争試験を見ると、受験者数と競争率は2012年がピークで60万人、8・2倍だったが、19年がボトムで44万人、5・6倍と7割強まで激減した。内定を出しても入職しない人も増えている。

 地方公務員を目指す人が減り、せっかく入職しても若くして辞めてしまう。一方、辞めずに留まっても心の不調を来し、病休する職員が後を絶たない。

 「パワハラを放置すれば、地方自治体は職場としてますます敬遠されるでしょう。そうなれば人手不足が一層深刻化し、心の不調に陥る職員はさらに増える。健全な職場にしないと、こうした負のループからは抜け出せないと思います」(上林氏)

 地方自治体は、そこまで追い込まれた職場になっているわけ。

 定例会で「厳正に対処する」と明言した三保市長は、その言葉通り荒木部長に厳正に対処すると同時に、自身のハラスメント行為も改め、職員が働き易い職場づくりに努める必要がある。それが、職員のモチベーションを上げ、市民サービスの向上にもつながっていくことを深く認識すべきだ。

 ※被害者の1人、B氏は周囲に「そっとしておいてほしい」と話しているため、議員はハラスメントの実態を把握しているが、一般質問などで執行部を追及できずにいる。昨年12月定例会で菅野明議員がパワハラに関する質問をしているが、B氏の件に一切言及しなかったのはそういう事情による。しかし本誌は、世の中に「ハラスメントは許さない」という考えが定着しており、加害者が部長、市長という事態を重く見て社会的に報じる意義があると記事掲載に踏み切ったことをお断わりしておく。

佐藤 仁

さとう・じん

1972(昭和47)年生まれ。栃木県出身。
新卒で東邦出版に入社。

【最近担当した主な記事】
ゼビオ「本社移転」の波紋
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