事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設

事業費増大が止まらない福島駅前拠点施設

 JR福島駅前で進む市街地再開発事業。事業主体は地権者らでつくる再開発組合だが、福島市は同所に建設される複合棟に入る「福島駅前交流・集客拠点施設」を公共施設として買い取ることになっている。しかし、事業費が昨年5月時点で当初計画より増え、今後さらに増えそうな見通しのため、市の財政に深刻な影響を与える懸念が浮上している。

大型事業連発で危機的な福島市財政

複合棟の断面イメージ

 福島駅東口地区第一種市街地再開発事業は駅前通りの南側1・4㌶に複合棟(12階建て)、駐車場棟(7階建て)、住宅棟(13階建て)を建設する計画で、一帯では現在、既存建物の解体工事が行われている。

 事業主体は地権者らでつくる福島駅東口地区市街地再開発組合(加藤眞司理事長)だが、福島市も同事業に二つの面から関わっている。一つは巨額の補助金支出、もう一つは複合棟に入る「福島駅前交流・集客拠点施設」(以下、拠点施設と略)を公共施設として同組合から買い取ることだ。

 拠点施設は複合棟の3・4階に整備される。メーンは4階に設けられる1500の客席と広い舞台を備えた大ホールだが、客席を収納することで展示ホールとして使えたり、800席のホールと中規模の展示ホールを併用することもできる。3階には多目的スタジオや練習スタジオ、会議室が設けられる。

 同事業に市がどの程度関わっているか、まずは補助金から見ていく。

 同組合設立時の2021年7月に発表された事業計画では、事業費473億円、補助金218億円(国2分の1、県と市2分の1)となっていた。単純計算で市の負担は54億5000万円となる。

 ところが、昨年5月に市議会全員協議会で配られた資料には、事業費が19億円増の492億円、補助金が26億円増の244億円(同)と明記されていた。これにより、市の負担も6億5000万円増の61億円になる見通しとなった。

 理由は、延べ床面積が当初計画より90平方㍍増えて7万2540平方㍍になったことと、建設資材の高騰によるものだった。

 これだけでも市にとっては重い負担だが、さらに大きな負担が待ち構えている。それが、二つ目の関わりである保留床の取得だ。

 市は拠点施設を「公共施設=保留床」として同組合から買い取るが、当初計画では「150億円+α」となっていた。しかし前述・市議会全員協議会で配られた資料には190億円かかると明記されていた。このほか備品購入費も負担する必要があるが、その金額は「開館前に決定」とされているため、市は総額「190億円+α」の保留床取得費を支出しなければならないのだ。

 前述の補助金と合わせると市の負担は「251億円+α」となるが、問題はこれが最終確定ではなく、さらに増える可能性があることだ。

 市議会の昨年12月定例会で、斎藤正臣議員(2期)が次のような一般質問を行っている。

   ×  ×  ×  ×

 斎藤 原料や資材の高騰が事業計画に与える影響は。

 都市政策部長 影響は少なからずあるが、具体的な影響は福島駅東口地区市街地再開発組合で精査中だ。

 斎藤 5月の全員協議会では事業費492億円、補助金244億円と示されたが、ここへの影響は。

 都市政策部長 事業費への影響は少なからずあるが、具体的な影響は同組合で精査しており、市はその結果をもとに補助金への影響を精査する予定だ。

 斎藤 保留床取得費も昨年5月の全員協議会で当初計画より上がっていたが、ここへの影響は。

 商工観光部長 保留床取得費への影響も避けられないと考えている。具体的な影響は同組合で精査中だ。

 斎藤 保留床取得費は令和5年度から予算計上し、今後年割で払っていくと思われるが、年度末まで残された日時が限られる中、取得費が確定しないと新年度予算に計上できないのではないか。

 商工観光部長 現時点で保留床取得費が明らかになる時期は申し上げられないが、新年度予算への計上に向けて協議を進めており、タイミングを見て議会にもお示しできると考えている。

   ×  ×  ×  ×

 詳細は同組合の精査後に判明するとしながら、市は補助金と保留床取得費がさらに増える可能性があることを認めたのだ。

 ロシアによるウクライナ侵攻と円安で原材料費やエネルギー価格が高騰。それに伴い、建設業界でも資材価格の上昇が続いている。国土交通省や一般財団法人建設物価調査会が発表している資料などを見ると、2020年第4四半期を100とした場合、22年第4四半期は建築用資材価格で126・3、土木用資材価格で118・0とわずか2年で1・2倍前後まで上昇している。

 とはいえ、こうした状況は他地域で行われている大型事業にも当てはまるが、福島市の場合は「別の懸念材料」も存在する。

3年後には基金残高ゼロ

 市が昨年9月に発表した中期財政収支の見通し(2023~27年度)によると、市債残高は毎年のように増え続け、27年度は1377億円と18年度の1・6倍に膨らむと試算されている(別表参照

中期財政収支の見通し

 ある市職員OBによると「瀬戸孝則市長(2001~13年)は借金を減らすことを意識し、任期中の市債残高は1000億円を切っていた。そのころと比べると、市債残高は急増している印象を受ける」というから、短期間のうちに財政が悪化していることが分かる。

 事実、中期財政収支の見通しの中で、市は次のような危機を予測している。

 ▽拠点施設整備をはじめとする大型事業の本格化などにより投資的経費の額が高水準で推移し、その財源に市債を活用することから、公債費および市債残高の増加が続く。

 ▽各年度に20~50億円余の財源不足が見込まれ、財政調整基金と減債基金で補う必要があるが、2026年度には両基金の残高がなくなり財源不足を埋められず、必要な予算が編成できなくなる見通し。

 ▽市債発行に当たっては地方交付税措置のある有利な起債の活用に努めているが、それでもなお実質公債費比率は2027年度には5・5%まで上昇し(18年度は1・1%)、公債費が財政運営を圧迫することが予測される。

 ▽試算の結果、2026年度以降の財源を確保できない見通し。公設地方卸売市場や市立図書館、学習センターの再整備など、構想を開始していても実施時期や概算事業費、一般会計への影響が未定で今回の試算に組み込まれていない大型事業もあるため、今後の財政運営は試算以上に厳しい状況に直面する可能性がある。

 「基金残高がなくなる」「必要な予算が編成できない」「財源を確保できない」等々、衝撃的な言葉が並んでいることに驚かされるが、ここまで市の財政がひっ迫している要因は大型事業が目白押しになっていることが挙げられる。

 市役所本庁舎の隣では2024年度中の完成を目指し、事業費70億円で(仮称)市民センターの建設計画が進められている。このほか新学校給食センター、あぶくまクリーンセンター焼却工場、消防本部などの整備・再編が予定されるが、これ以外にも公設地方卸売市場や市立図書館など建て替えが必要な施設は少なくない。そうした中、市最大の事業に位置付けられるのが拠点施設の買い取りなのだ。

 「2011年1月に開庁した本庁舎は事業費89億円だが、これが市にとって過去最大のハコモノ事業だった。しかし、拠点施設は本庁舎を大きく上回る190億円+αで、資材価格や人件費によってはさらに増えるというから、市の財政を心配する声が出てくるのは当然です」(前出・市職員OB)

 市職員OBは今後の懸念材料として①事業費全体が上がると保留床取得費だけでなく、例えば住宅棟(マンション)の価格も上がり、投機目的の購入が増えるのではないか。そうなると、せっかく整備した住宅棟に市民が入居できず、空き家だらけになる恐れもある。②これ以上の事業費増加を防ぐために計画を見直せば、拠点施設が期待された機能を発揮できず、駅前に陳腐な施設が横たわることになる。③拠点施設は東日本大震災で被災した公会堂の後継施設となるが、さらに保留床取得費が増えると「現在地で建て替えた方が安く済んだのではないか」という意見が出かねない、④駅前ばかりに投資が集中すると、行かない・使わない市民から反発の声が出てくる――等々を挙げる。

 「市は時に、借金をしてでもやらなければならない事業があるが、その前提となるのは納税者である市民の理解が得られるかどうかだ。自分が行かない・使わない施設に巨額の税金を投じることに納得する市民はいない。市には、大勢の市民が行きたくなる・使いたくなるような施設の整備が求められる」(同)

 計画が既に動き出している以上、大幅な見直しは難しいが、拠点施設を多くの市民に利用してもらえるような工夫や仕掛けはまだまだ検討の余地があるということだろう。

投資に見合う施設になるか

 市が2020年3月に発表した計画によると、拠点施設の年間の目標稼働率は大ホールが80%、展示ホールが60%、目標利用者数は32万人を掲げている。一方、年間の管理運営費は4億円。素人目にも目標達成のハードルは高く、管理運営費も高額な印象を受ける。

 「管理運営はPFI方式で民間に任せるようだが、稼働率や利用者数を上げることを意識し、多くのイベントや会議を誘致した結果、市民が使いづらくなっては意味がない。拠点施設は公会堂の後継施設ということを踏まえると、市民が使いたい時に使える方策も必要です」(同)

 市コンベンション施設整備課に取材を申し込むと

 「昨年5月の全員協議会で示した資料が最新の計画で、そこに書かれている以上のことは話せない。補助金や保留床取得費がどうなるかは、同組合の精査後に見極めたい」

 とのことだった。昨年12月定例会では「福島駅前交流・集客拠点施設の公共施設等運営権に係る実施方針に関する条例」が可決され、今後、施設運営に関する方針が決まる。

 251億円+αの投資に見合う施設になるのかどうか。事業の本格化に合わせ、市民の見る目も厳しさを増していくと思われる。

福島市のホームページ

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