地域おこしで移住した長友海夢氏【猪苗代町】【若手新人議員】

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地域おこしで移住した長友海夢氏【猪苗代町】【若手新人議員】

地域おこしで移住した長友海夢氏

地域おこしで移住した長友海夢氏

 猪苗代町は、6月に町長選が行われ、そこに佐瀬誠氏、佐藤悦男氏の2人が議員を辞職して立候補したほか、二瓶隆雄氏が在職中の2021年4月に亡くなったことで欠員3となっていた。

 そのため、町長選と同時日程(6月13日告示、18日投開票)で議員補欠選挙が行われた。町議補選には、長友海夢氏(27)、山内浩二氏(68)、松江克氏(68)の3人が立候補し、無投票での当選が決まった。ちなみに、町長選は前述の佐瀬氏、佐藤氏のほか、二瓶盛一氏、高橋翔氏の新人4人が立候補し、二瓶氏が当選を果たした。

 議員任期は来年2月までで、今年6月の町議補選で当選しても、任期は約8カ月しかない。そんな事情もあり、町内では「この時期の補選では、なかなか立候補しようという人が出てこない」と言われていた。

 実は、4年前の町長選の際も、現職町議が町長選に立候補したことと、現職議員の死去によって欠員2が生じ、町議補選が行われた。ただ、事前の立候補予定者説明会では出席者がゼロで、告示日当日になっても、「立候補者が出てこず、欠員のままになるのではないか」と囁かれていたほど。最終的には急遽2人が立候補し、無投票で当選が決まったが、なり手不足を嘆く町民は少なくなかった。

 今回の町議補選前も、「時期(残任期が短い)的なこともあり、なかなかなり手がいない」と言われていたが、選挙戦にはならなかったものの、欠員3を埋めることができた。

 その中で注目されるのが長友氏だ。選挙時は27歳で、県内最年少議員になる。

 長友氏はどんな人物なのか。町内複数人に聞いてみたが、「分からない」という人がほとんど。知っている人でも「地域おこし協力隊でこっちに来た人のようだね」という程度で、「それ以上のことは分からない」とのこと。

経歴と移住の経緯

経歴と移住の経緯
ひし駆除(採取)の様子=長友氏提供

 長友氏に話を聞いた。

 1995年8月生まれ。現在28歳(選挙時は27歳)。栃木県出身だが、アルペンスキーをやっており、猪苗代町を練習拠点にしていた。小学5、6年生のときは同町内の小学校に通っていた。

 その後、中学校は地元栃木県の学校に通い、高校は日大山形高校、大学は日大体育学科でスキーを続けた。競技者としては大学までで一区切りとし、卒業後は通信系の会社に就職した。

 そこで3年ほど働いたが、ひたすら自社の利益だけを求められる環境だったようで、「収入(高収入を得ること)よりも、人や地域の役に立つ仕事がしたい」と思うようになったという。

 そんな折、猪苗代町で地域おこし協力隊員を募集していることを知り、「思い入れのある猪苗代町で、地域のために仕事がしたい」と応募、2020年4月から3年間の任期で地域おこし協力隊員(※総務省HPに掲載されている地域おこし協力隊の概要を別掲)になり、移住した。

地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に住民票を異動し、地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取り組みです。隊員は各自治体の委嘱を受け、任期はおおむね1年から3年です。

 具体的な活動内容や条件、待遇等は各自治体により様々ですが、総務省では、地域おこし協力隊員の活動に要する経費に対して隊員1人あたり480万円を上限として財政措置を行っています。また、任期中は、サポートデスクやOB・OGネットワーク等による日々の相談、隊員向けの各種研修等様々なサポートを受けることができます。任期終了後の起業・事業継承に向けた支援もあります。

 令和4年度で6447名の隊員が全国で活動していますが、地方への新たな人の流れを創出するため、総務省ではこの隊員数を令和8年度までに1万人とする目標を掲げており、目標の達成に向けて地域おこし協力隊の取り組みを更に推進することとしています。

 長友氏は、その任期中の昨年7月に㈱いなびしを設立した。

 「猪苗代湖の水質環境保全事業を行っているのですが、毎年、夏になると大量の『ひし』(水草)が発生します。それを放っておくと腐敗してヘドロになるなど、水質汚濁の原因となってしまいます。そのため、ひしの駆除を行うのですが、それを有効活用する目的で設立したのが『いなびし』です」(長友氏)

②ひし駆除(採取)の様子=長友氏提供
ひし駆除(採取)の様子=長友氏提供

 社名は、地名(猪苗代)とひしから取ったもの。ひしは湖にとって厄介者で、行政が船を出すなどして駆除し、それを運搬・処分していた。当然そのための費用がかかる。長友氏(いなびし)は、その厄介者を資源にできないかと考え、「猪苗代湖産ひし茶」として商品化した。本誌記者も取材中にいただいたが、味はそば茶と似ている。

猪苗代湖産ひし茶=長友氏提供
猪苗代湖産ひし茶=長友氏提供

 「現在は、道の駅猪苗代で販売しているほか、町内のカフェや旅館、アクティビティー施設などで使ってもらっています。クセがなく飲みやすいので、食事、特に和食に合うと思います。商品の売り上げの一部は水質環境保全事業に寄付しています」(同)

 今後は海外への販売も視野に入れている。ひしの実は、乾燥するとかなりの硬度になり、古くは忍者が敵の足元に撒き、動きを鈍らせるための道具「マキビシ」の元になっていたとも言われているという。ひしを撒くから「マキビシ」というわけ。

 「どの国に、どんな形で売り出すかはまだこれからですが、海外で忍者人気は高いですから、マキビシエピソードと絡めて『ニンジャティー』といった形で売り出せば、海外の人にも興味を持ってもらえるのではないかと考えています」(同)

 このほか、郡山市の猪苗代湖畔に畑を借り、ひしの実を肥料化する取り組みも進めている。また、町内新町の空き店舗を借りて事務所兼店舗にしており、ひし茶の製造のほか、教育旅行・ツアー等の体験コンテンツ提供、そば店、そば打ち体験、夏季の日曜日限定のかき氷販売などを行っている。

 これら事業は、新しいビジネスへの挑戦や、地域課題の解決に取り組むビジネスプランを表彰する「ふくしまベンチャーアワード2022」で優秀賞に輝いた。

議員になったきっかけ

ひしの実
ひしの実

 こうした事業を営むかたわら、議員に立候補しようと思ったきっかけは何だったのか。

 「会社勤めをしていた時に、取引先企業の担当者が政財界とつながりがあり、私もそうした場に行くことがありました。その時は、議員になろうとかではなく、それまで縁遠かった議員について認識することができました。その後、会社を辞めて、地域おこし協力隊に応募した際、役場の課長さんの面接があったのですが、その時に『ここで、地域のためになる仕事がしたい』、『いずれは起業したいし、議員として地域のために働きたいと考えている』ということを伝えました。今年3月に地域おこし協力隊の任期が終わり、この機会だと思って立候補しました」

 長友氏によると、県内他地域では地域おこし協力隊で移住し、後に起業するという事例が、もっと活発に行われているところもあるという。そのため、「議員として、地域おこし協力隊のさらなる活性化に加えて、自分が空き店舗を借りて事務所兼店舗にした経験から、空き家・空き店舗の有効活用、移住促進、統廃合によって空いた学校の有効活用などに取り組みたい」と意気込む。

 9月は議員になって初めての定例会が行われる。そこで、一般質問デビューを果たすべく、いま(本誌取材時の8月下旬)は、数ある課題の中から何を取り上げるか、限られた時間で効率よく質問するためにはどうするか等々を思案中という。

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