田村市の一連の贈収賄事件に関わったとして受託収賄と加重収賄の罪に問われた元市職員に執行猶予付きの有罪判決が言い渡された。賄賂を贈った市内の土木建築業の前社長にも執行猶予付きの有罪判決。事件に関わる裁判は終結したが、有罪となったのは氷山の一角に過ぎない。「不正入札の常態化」を作り上げた歴代の首長と後援業者、担当職員の責任が問われる。
執行部・議会は真相究明に努めよ
元市職員の武田護氏(47)=郡山市在住、旧大越町出身=は二つの贈収賄ルートで罪に問われていた。贈賄業者別に一つは三和工業ルート、もう一つは秀和建設ルートだ。
三和工業ルートで、護氏は同社役員(当時)武田和樹氏(48)=同、執行猶予付き有罪判決=に県が作成した非公開の資材単価表のデータを提供した見返りに商品券を受け取っていた。単価表は入札予定価格を設定するのに必要な資料で、全資材単価が記された単価表は、受注者側からすると垂涎ものだ。
近年は民間業者が販売する積算ソフトの性能が向上し、個々の業者が贈賄のリスクを犯して入手するほどの情報ではなかったため、当初から背後にソフト制作会社の存在が囁かれていたが、主導していたのは仙台市に本社がある㈱コンピュータシステム研究所だった。営業担当者が和樹氏を通して、同氏と中学時代からの友人である護氏からデータを得ていた。和樹氏は、同研究所から見返りに1件につき2万円分の商品券を受け取り、護氏と折半していた。ただ、同研究所と和樹氏の共謀は成立せず、贈賄側は和樹氏だけが有罪となった。
求人転職サイトを覗くと、同研究所の退職者を名乗る人物が「会社ぐるみで非公開の単価表の入手に動いていたが、不正を行っていたことを反省していない」と「告発」している。本誌は同社に質問状を送ったが「返答はしない」との回答を寄せたこと、昨年12月号の記事「積算ソフト会社の『カモ』にされた市と業者」に対して抗議もないことから、会社ぐるみで不正を行い、入手した単価表のデータを自社製品に反映させていた可能性が高い。「近年は積算ソフトの性能が上がっている」と言っても、こうした業者の「営業努力」の結果に過ぎない面もある。
もう一つの秀和建設ルートは、市発注の除染除去物端末輸送業務の入札で起こった。武田護氏は同社の吉田幸司社長(当時)とその弟と昵懇になり、2019年6月から9月に行われた入札で予定価格を教えた。見返りに郡山市の飲食店で総額約30万円の接待を受けた。
護氏は裁判で「真面目にやっている人が損をしている。楽に仕事を得ようとしている人たちを思い通りにさせたくなかった」と動機を述べていた(詳細は本誌1月号「裁判で暴かれた不正入札の構図 汚職のきっかけは前市長派業者への反感」参照)。護氏からすると、「真面目にやっている人」とは今回罪に問われた三和工業や秀和建設。一方、「楽に仕事を得ようとしている人たち」とは本田仁一前市長派の業者だった。
本田前市長派業者の社長らは田村市復興事業協同組合(現在は解散)の組合長や本田後援会の会長を務めていた。検察はこの復興事業協同組合が受注調整=談合をしていた事実を当人たちから聞き出している。組合長を務めていた富士工業の猪狩恭典社長も取り調べで認めたという。同市の公共工事をめぐっては、かねてから談合のウワサはあったが、裁判が「答え合わせ」となった形。
護氏は、一部の業者が本田前市長の威光を笠に着て、陰で入札を仕切っていたことに反感を抱いていたのだろう。
もっとも、不正入札を是正しようと三和工業や秀和建設に便宜を図ったとしても、それは新たな不正を生んだだけだった。護氏は裁判で「民間企業にはお堅い役所にはない魅力があった」と赤裸々に語り、ちゃっかり接待を楽しんでいた。こうなると前市長派業者への反感は、収賄を正当化するための後付けの理由にしか聞こえない。裁判所も「不正をした事実に変わりはない」と情状酌量はしていない。
政治家に翻弄される建設業者
市内の業者は、長く政治家に翻弄されてきた。本田前市長派業者に従わなければ仕事を得られなかったことを示すエピソードがある。田村市船引町は玄葉光一郎衆院議員(58)=立憲民主党=の出身地で強固な地盤だ。対する本田前市長は自民党。県議時代は党県連の青年局長や政調会副会長などを務めた。
三和工業の事務所では、冨塚宥暻市長の時代、玄葉氏のポスターを張っていた。冨塚氏は玄葉氏と近い関係にあった。しかし、県議を辞職して市長選に挑んだ本田氏が冨塚氏を破ると、冨塚氏や玄葉氏を応援していた業者は次第に本田派業者から圧力を掛けられ、市発注の公共工事で冷や飯を食わされるようになったという、ある建設会社役員の証言がある。
三和工業に張られていた玄葉氏のポスターが剥がされ、本田氏のポスターに張り替えられたのはその時期だった。「三和もとうとう屈したか」とその役員は思ったという。
本田前市長とその後援業者が全ての元凶と言いたいのではない。裁判では、少なくとも冨塚市長時代から不正入札が行われていたことが判明した。自治体発注の事業が経営の柱になっていることが多い建設業は、政治家に大きく左右されるということ。極端な話、政治は公共事業の便宜を図ってくれそうな立候補者が建設業者の強力な支援を得て、選挙に勝ち続ける仕組みになっている、と言えなくもない。
田村市の贈収賄事件は、本田前市長とその後援業者が露骨に振る舞った結果、ただでさえ疑念にあふれていた入札がさらに歪んで起きた。
田村市は検察、裁判所という国家機関の介入により全国に恥部をさらすことになった。事件を受け、市民は市政に対する不信感を増幅させており、市職員のモチベーションは下がっているという。
護氏は、自分以外にも入札価格を漏洩する市職員がいたこと、本田前市長とその意向を受けた市幹部が不必要と思える事業を作り、本田前市長派業者が群がっていたことをほのめかしているから、現役の市職員が戦々恐々とし、仕事に身が入らないのも分かる。時効や立証の困難さから護氏以外の職員経験者が立件される可能性は低いが、市は今後のために内部調査をするべきだろう。白石高司市長にその気がないなら、市議会が百条委員会を設置するなどして真相究明する必要がある。
原稿執筆時の1月下旬、県職員とマルト建設(会津坂下町)の社長、役員が入札に関わる贈収賄容疑で逮捕された。入札不正を根絶するためにも、田村市は率先して調査・改善し、県や他市町村の参考になり得る「田村モデル」をつくるべきだ。
「過ちて改めざる是を過ちという」。誇りを取り戻すチャンスはまだある。