【石川町官製談合事件】(画・Shangri-La)法廷で「勉強不足」を繰り返した塩田前町長

 石川町発注の工事を巡り、官製談合防止法違反などの罪に問われた前町長塩田金次郎氏(76)の初公判が開かれた。塩田氏は「勉強不足だった」と反省の弁を述べた。裁判では、賄賂を贈った町内の土木会社社員(当時)らが塩田氏から得た工事の設計金額=予定価格を地元業者間で共有して受注調整するのが常態化していたと判明。元社員らは、県福島空港事務所からも設計金額を聞いたとして県職員とともに入札妨害罪に問われている。玉川村の事情通は「空港近くの談合部屋が使われたのではないか」と疑い、事件が石川郡全域と須賀川市に波及するのを警戒する。

関連が噂される福島空港周辺の〝談合部屋〟

 石川町発注の公共工事を巡り、前町長の塩田金次郎氏は秘密事項の設計金額=予定金額を昵懇の業者に教えて落札させたとして官製談合防止法違反と公契約関係競売入札妨害に、さらに見返りを受けたとして収賄の罪に問われている。初公判は9月18日、地裁郡山支部で開かれ、塩田氏は罪を認めた。検察は懲役2年6月、追徴金42万1062円を求刑し結審。判決は11月18日午後2時から言い渡される。

 塩田氏は4月30日に逮捕され、町長選投開票日直前の6月28日夜に保釈された。納めた保釈金は600万円。法廷という公の場に約5カ月ぶりに姿を現した塩田氏は、町内の自宅で謹慎し庭仕事をしているためか、顔は黒々としていた。

 塩田氏は学法石川高卒、亜細亜大中退後、地元で農業や庭石の販売業に従事した後、テープレコーダー組み立ての塩田工業を創業した。事件後は代表取締役を娘に譲り、自身は取締役に残る。1986(昭和61)年から町議2期、1995年から県議4期を務め、2018年9月に町長に初当選。2期目の任期途中に逮捕され辞職した。

 官製談合と入札妨害に問われているのは、町道工事(表1)と町認定こども園用地の造成工事(表2)。2019年6月~2023年2月に町発注工事の入札で設計金額を町内の土木業志賀建設に教えた見返りに2020年2月~2023年3月に9回に渡って約42万円相当の缶ビールなどの飲料を受け取ったことが収賄に問われている。ビールは玉川村で開いた自身の後援会会合や塩田工業の社員旅行で消費された。

官製談合・入札妨害があった入札

表1 町道116号線 道路改良工事(2022年9月26日入札)予定価格=1262万4000円

応札業者入札額(万円)落札率(%)
㈱佐藤渡辺石川営業所126099.8
㈱志賀建設124598.62
水谷工業㈱125099.01
赤字は落札者

表2 認定こども園用地造成工事(2023年2月27日入札) 予定価格=1億7594万8000円

応札業者入札額(万円)落札率(%)
㈱志賀建設1億738098.77
水谷工業㈱1億741098.94
㈱福産建設1億743099.06
藤田建設工業㈱石川営業所1億750099.46
㈱佐藤渡辺石川営業所1億758099.91
赤字は落札者


 志賀建設に設計金額を教える関係は、町長初当選から9カ月後の2019年6月に始まった。築石橋橋梁補修工事の受注を狙っていた同社顧問の関根徳夫氏(69)と取締役管理部長の添田保雄氏(63)は、積算が難しく予定価格との差が大きくなってしまうことを懸念していた。

 関根氏らは塩田氏と関係が深い添田氏を通じて設計金額を聞き出すことを考えた。添田氏の父親は塩田氏が県議時代に地区の後援会長を務め、親族が塩田工業に勤務していた。添田氏自身が選挙運動を手伝うこともあった。塩田氏は添田氏の求めに応じて教え、工事は志賀建設が落札した(表3)。

塩田氏が志賀建設に設計金額を教えるきっかけとなった入札

表3 築石橋橋梁補修工事(2019年6月27日入札)予定価格=3995万1000円

応札業者入札額(万円)落札率(%)
㈱佐藤渡辺石川営業所394098.62
㈱志賀建設390097.61
㈱福産建設392598.24
水谷工業㈱391898.07
赤字は落札者

塩田氏から金額を聞き受注調整した入札


表4 町道222号線 道路改良工事(2022年9月26日入札)予定価格=2904万9000円

応札業者入札額(万円)落札率(%)
㈱佐藤渡辺石川営業所289099.48
㈱志賀建設290099.83
水谷工業㈱2905(超過)100
赤字は落札者

表5 町道3042号線 道路改良工事(2022年9月26日入札)網掛けは落札者

応札業者入札額(万円)落札率(%)
㈱佐藤渡辺石川営業所3345(超過)100.04
㈱志賀建設333799.8
水谷工業㈱333099.59
赤字は落札者

 検察が町内の建設業者に聞き取ったところ、地元の建設業者間では受注調整(談合)が常態化していたという(表4、5)。石川町発注工事では予定価格と設計金額は同額で、入札の1カ月前には設計金額は決まっていた。決裁権者の町長は知りうる立場にあるが、「塩田氏に呼ばれて設計金額を教えたことがある」(当時の都市建設課長の取り調べでの証言)と塩田氏は担当課長にわざわざ聞く怪しい動きをしていた。

 石川町の指名競争入札では、指名委員会が応札業者と設計金額を決める。町長といえども秘密事項の応札業者一覧と設計金額を記した文書を持ち帰れるわけではない。

 塩田氏は当時の総務課長が決裁をもらうために持参した一覧表を見て業者と設計金額を記憶し、課長が戻った後にメモするやり方を取った。町外の業者が入っていることを知ると警戒し、すぐに口頭で添田氏に伝えたという。

 受注調整を主導していたのは志賀建設顧問の関根氏だった。同業他社に携帯電話で持ち掛け、録音していた。添田氏が塩田氏に設計金額を教えるよう依頼した電話も録音しており、教えてもらった内容を添田氏が関根氏に報告したチャット記録と併せて、検察が官製談合・入札妨害の証拠として提出した。

「金額聞いてっからしょうがないべ」

法廷で証言台に呼ばれるのを待つ塩田氏(画・Shangri-La)
法廷で証言台に呼ばれるのを待つ塩田氏(画・Shangri-La)

 関根氏と塩田氏をつなぎ、受注調整の要となっていた添田氏だが、危ない橋を渡っていると自覚していなかったわけではない。2020年2月、塩田氏から瓶ビール5ケースを自身の後援会会合に差し入れてほしいと頼まれた際、賄賂になるのではないかと関根氏に相談した。関根氏は「金額聞いてっからしょうがないべ。出しておけ」と答えたという。 添田氏はその後も志賀建設の交際費名義で町内の酒販店やギフト店からビールを買い、塩田氏の求めに応じて差し入れるようになった。

 石川町の官製談合事件は、贈賄側の志賀建設を起点に県職員の入札不正摘発にまで波及した。8月に県福島空港事務所建設課の志田欣也課長(55)と福田等主査(50)が、志賀建設に非公開となっている設計金額を漏らしたとして官製談合や入札妨害に問われ起訴された。志田課長には罰金50万円の略式命令。福田主査は、志賀建設の関根氏、添田氏、緑川家司氏(70)とともに在宅起訴され公判を待っている。

 空港が立地する玉川村の事情通は「談合部屋」と思しき建物の存在を明かす。

 「玉川村には空港の整備事業を委託されている『いしかわ施設敷地管理事業協同組合』がプレハブの事務所を置いているが、塩田氏が逮捕された数日後に急に取り壊された。談合の場だったのではないか」

 同組合加盟事業者の中には、志賀建設など石川町の受注調整に関与した事業者がいる。一方で、福島地検は福島空港の事件について「石川町の事件とは関係ない」と明言している(8月9日付福島民友)。だが、志賀建設の捜査線上に二つの事件があったのは確か。石川町の事件の余波が石川郡と須賀川市のどこまで広がるかが注目だ。

 最後に9月18日の初公判で行われた被告人質問のやり取りを抜粋する。「――」の後に続くのは弁護人や検察官、裁判官から塩田氏への質問。

 ミヤモトタカオと名乗る弁護人

 ――なぜ設計金額を教えたのか。

 「県議時代に添田保雄君の父親が地区後援会長を務めていた。保雄君の叔父には塩田工業に30年近く勤めていただいた。後に保雄君の奥さんとなる方もうちの会社に勤めていた経緯がある。恩義があり何回もお願いされれば断り切れなかった」

 ――町の活性化との関連は。

 「町長を務めていた時に水害があった。新型コロナの感染拡大があった。建設業界も厳しい状況であり、地元の業者が落札できれば町の活性化になると思った」

 ――町議、県議、町長と順調に地位を高め、調子に乗っていたのでは。

 「調子に乗ったというか、甘いというか驕りがあったのだと思う」

 ――添田氏以外には教えたか。

 「ない」

 ――設計金額を教えることで金儲けすることは考えたか。

 「一切ない」

 ――初めて教えた時、ビールをもらおうという気持ちはあったか。

 「ない」

塩田氏「隠居して静かに暮らしたい」

塩田金次郎氏(昨年10月撮影)
塩田金次郎氏(昨年10月撮影)

 ――賄賂になると考えたか。

 「あまり考えていなかった。危ないのではないかという気持ちはあったが、缶ビールくらいは許されるだろうと甘い気持ちだった。勉強不足だった。『集会への協賛だから大丈夫』と身勝手な気持ちがあった」

 ――志賀建設にビールの礼状を書いた。

 「書いた」

 ――志賀建設に便宜を図っており、そこからビールをもらうのが賄賂になると今は理解しているか。

 「勾留されて取り調べを受け、缶ビールでも賄賂になると教えられ、はっきりと認識した」

 ――今後の生活は。

 「もう76歳なので役職に就くことはない。昔で言えば隠居。静かに暮らしていきたい」

 ――体調はどうか。

 「60日間の勾留はとてもきつかった。体重が4、5㌔減った。現在は体調が戻り朝1時間程度のウオーキングができるようになった」

 ハシモトと名乗る検察官

 ――頼みを断らなかった。

 「(添田氏に)恩義があった」

 ――何度もお願いされて断れなかったわけではない。

 「明確に覚えていないが、何回もせがまれて断れなかったと思う」

 ――それはあなたの内心の問題ということでよいか。

 「はい」

 ――添田氏からすれば、あなたに悪いかなと思いつつ聞いている。「君だけだ」と添田氏に教えたのでは。

 「ちょっと分からない」

 ――主催する会合では、会費で賄いきれない経費が掛かっていた。

 「掛かっていた」

 ――ビール提供を「協賛」としているが、経費が浮くと考えたのでは。

 「その通りだ」

 ――金銭をもらったわけではないが利得はあった。

 「負担は軽くなった」

 ――入札の設計額を教えて見返りとしてビールをもらった。どのような犯罪に当たると認識していたか。

 「勉強不足、身勝手な考えだった」

 ――「どのような犯罪に当たると考えたか」と聞いている。

 「深く考えていなかった」

 ――取り調べでは「公選法違反になる」と答えている。

 「そこまで考えていなかった」

 ――取り調べでは「賄賂になると思っていた」と答えている。

 「先ほど申し上げたように身勝手な考えがあった」

 ――そんなことは聞いていない。

 「(賄賂になると考えたと)話したと思う」

 シカマと名乗る検察官

 ――設計金額を教えていた動機は地元企業を元気にするためだと言うが、町認定こども園の入札を除いて応札者は全て町内の業者だった。町の業者に仕事が回るのでは。

 「その通りだ」

 ――設計金額を教えることと地元を元気にすることは関係ない。

 「地元に仕事を発注すればそれだけ町が活性化すると思った」

 ――公共工事を発注することは活性化につながるが、設計額を特定の業者に教えることと関係はない。

 「そう言われればそうだ」

 ――添田氏に恩を返すため教えたというが、缶ビールを要求している。

 「『お願いがあったら言ってください』と言われたので、協賛としてビールをお願いした」

 ――持ちつ持たれつの関係だったのでは。

 「そう言われればそうだ」

 ――町民の信頼を損なうとは考えなかったのか。

 「先ほど申したように勉強不足で身勝手な考えがあった」

 下山洋司裁判長

 ――勉強不足を繰り返すが、具体的に何を勉強すればよかったのか。

 「賄賂と知りながら、『これくらいは大丈夫』というマンネリがあった」

 ――いわゆる「お勉強」というよりはモラルの問題ということか。

 「そういうことだ」

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