【南会津】放射能検査団体「着服事件」の背景

【南会津】放射能検査団体「着服事件」の背景

 同協議会は10月24日に女性臨時職員による着服があったことを公表し、翌25日付の地元紙でこの問題が報じられた。以下は、同日付の福島民友より。

コメ全量検査終了で組織に緩み!?

コメ全量検査終了で組織に緩み!?


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 農産物の放射性物質検査などを行っている「南会津地域の恵み安全対策協議会」は24日、臨時職員が685万7127円を着服していたことが判明したと発表した。着服が分かった職員は40代女性で、10日付で懲戒解雇となった。全額返済していることなどから、同協議会は刑事告訴は行わないとしている。

 同協議会は福島県南会津町、下郷町、只見町、JA会津よつばなどで構成。南会津町に事務所を置き、同JAが事務局を担当している。

 同JAによると、女性は会計事務を担当し、2021年5月~22年9月に数十回に分けて同協議会の貯金口座から現金を払い戻して、着服した。

 1回の着服額は少ない時で数百円、多い時で約30万円だった。通帳などは金庫に入れられ、金庫の鍵は上司の机にしまってあったが、上司がいないタイミングで鍵を取り出し通帳を出し入れしていた。着服した金は生活費などに充てていたという。

 県から、同協議会が交付金を受けているのに決算額の繰越金が少ないのはなぜかと指摘があり、調査を進めてきた。

 出納帳が任意の形式だったことなどから時間を要し、女性の関与が強まったとして今年9月に聞き取り調査を始め、今月2日に女性が着服を認めた。

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 この記事を見た際の最初の印象は、

「現在は農産物の放射能検査は以前ほど行われていないため、予算規模も縮小しているはずだから、着服があればすぐに分かりそうなものだが……」ということだった。

 原発事故後の2012年に、県を事務局とする「ふくしまの恵み安全対策協議会」という組織が立ち上げられた。その規約には、「福島第一原子力発電所事故に伴い、本県の農林水産物は出荷制限や風評被害など深刻な被害を受けており、今後、農林水産物の安全性の確保が最大の課題となっている。このため、本協議会は、産地が主体となったより綿密な放射性物質の検査を推進するとともに、検査結果や農産物の生産履歴情報等を消費者等に提供することによって、本県産農林水産物の安全性の確保と消費者の信頼確保を図ることを目的とする」とある。

 この県組織の協議会と並列する形で、各地域に協議会が設立された。地域協議会が放射性物質検査を実施し、県組織の協議会が結果の取りまとめ・公表を行う、といった形である。

役割を終えた協議会

「南会津地域の恵み安全対策協議会」の事務局を務めるJA会津よつば
「南会津地域の恵み安全対策協議会」の事務局を務めるJA会津よつば

 今回、着服事件があった「南会津地域の恵み安全対策協議会」も地域協議会の1つ。各地域協議会はおおむね、市町村単位で設立されているが、南会津地域は、南会津町、下郷町、只見町の3町で構成される。事務局は、市町村単位で地域協議会を組織しているところは、当該市町村が担うケースが多いが、南会津地域は以前は3町持ち回りで、2018年からJA会津よつばが担当するようになったという。

 そうした点からして、ほかの地域協議会とは少し成り立ちが違うわけだが、ともかく、この地域協議会が農産物の放射能検査を行ってきた。特に大きな役割を担ったのが米の検査である。県内では2012年度産米から、全量全袋検査を実施してきた。それを担ってきたのが地域協議会で、各地域協議会の構成メンバーを見ると、行政(当該市町村)、農業団体のほか、地元の米穀店などが入っている。そこからしても、地域協議会は米の全量全袋検査のための組織であることがうかがえる。

 ただ、2019年度産米までは全量全袋検査が実施されてきたが、5年以上基準値超過(1㌔当たり100ベクレル以上)が出ていないことから、避難指示が出されていた区域を除き、2020年からはモニタリング(抽出)検査に切り替えられた。

 これに伴い、地域協議会はほぼほぼ役割を終えた、と言っていい。実際、塙町協議会(塙地域の恵み安全対策協議会)は2021年7月に解散しており、「協議会としての役割を終えた」との判断から解散に至ったのだという。

 全量全袋検査が行われていたときは、県全体で数十億円の費用がかかっており、米の収穫時期(検査時期)に合わせて人を雇うなど、言わば〝産業〟になっていた。それがなくなり、当然、地域協議会の予算規模は少なくなっているから、前述のような疑問が浮かんだのである。そもそも、地域協議会に仕事が残っているのか、との疑問もある。

 この点について、南会津地域協議会の事務局を務めるJA会津よつばの担当者はこう説明した。

 「業務としては、園芸品の検査(自主検査)や清算業務が残っています。そうした中で、今回の事件が起きてしまいました。今後は、管理の徹底や、JAとして内部監査の受託契約をしてもらうなどして再発防止に努めたい」

 自主検査・モニタリング検査や清算業務などが残っているとのことだが、一方で、女性臨時職員は協議会の事務経費の口座管理を1人で任せられていたようだから、内部体制に問題があったということだろう。役割を終え、今後は解散に向かうであろう組織だけに、「緩み」もあったのではないかと思えてならない。少なくとも、業務が減少したのは間違いないから、そうなると、悪事を働く余裕も出てきてしまうものだ。

検査機器は廃棄物に

検査機器は廃棄物に

 最後に。塙町では「役割を終えた」との判断から、2021年7月に地域協議会を解散したことを前述した。そこで気になるのが、検査機器をどうしたのか、ということだが、同協議会の事務局を務めていた町農林推進課によると、「業者に委託して処分した」とのこと。産業廃棄物扱いになるが、「処分費用は東京電力に賠償請求した」という。

 今後、各地域協議会でも、「全量全袋検査が行われていたときは、検査機器数十台体制だったが、抽出検査のために、数台を残して処分する(あるいは全台処分)」ということになろう。各地域協議会には検査機器の処分と、東電への賠償請求といった業務が残っているわけ。東電からしたら、その賠償額も相当なものになるのではないか。加えて、当初は検査機器が足りない状況だったが、いまでは「廃棄物」になっているのだから、それだけ状況が変わったということでもある。

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