【原町商工会議所】高橋隆助会頭インタビュー(2024.12)

【原町商工会議所】高橋隆助会頭インタビュー(2024.12)
経歴

たかはし・りゅうすけ 1951年生まれ。原町高、拓殖大卒。㈱高良代表取締役。原町商工会議所副会頭を経て2010年11月から現職。現在5期目。

 人手不足、事業承継、賃上げ、価格転嫁など地方の小規模事業者が抱える問題は多岐にわたる。根本的な解決は国に委ねられるが、側面からの支援は地域の実情を知る各地の商工会議所に期待する面が強い。こうした中、震災の被災地に立地する原町商工会議所はどのような役割を果たそうとしているのか、高橋隆助会頭にインタビューした。

経営者が困った時の「駆け込み寺」としての使命を果たしていく。

 ――人手不足や事業承継の問題が深刻です。

 「人手不足や事業承継については全国の商工会議所会員事業所に対して調査した結果を日本商工会議所がまとめています。今年3月にまとめられた『事業承継に関する実態アンケート』では現代表者年齢が60歳以上の企業で『すでに後継者を決めている』と回答した企業が50%超、後継者不在と回答した企業が20%超でした。ただし後継者のいる企業でも黒字は約6割で、今後の経営状況によっては後継者の意思決定にも影響があることが懸念されます。

 一方、今年9月にまとめられた『人手不足の状況及び多様な人材活躍等に関する調査』では『人手が不足している』との回答が6割超に上り、そのうち6割超が『事業継続に支障が出るおそれ』としており、厳しい状況が浮き彫りになっています。

 日本の経済成長を支えてきた団塊世代が75歳超を迎えることで様々な問題が発生する、いわゆる2025年問題が間もなくやって来ます。すでに超高齢社会へと移行している我が国では、働き手の減少に伴う社会保障負担の増加や深刻な人材不足が問題視されています。多くの企業経営者が75歳以上になることで、2025年問題は事業承継にも深刻な影響を与えることが予想されます。

 人手不足と事業承継の問題を考える時、共通して必要なのが企業価値の向上です。事業承継では一般的に経営権、経営資源、資産などを承継しますが、後継者の意思決定においても企業価値のより高い事業所の方が承継しやすくなります。人材確保についても従業員のやりがい、高賃金、充実した福利厚生なども含め、事業所の安定とより高い企業価値を有する企業に人材が集まっていくのではないかと思っています」

 ――政府は企業に対し賃上げを要求しています。

 「国内全企業数のうち小規模事業者の占める割合は約85%に上り、その割合は地方ほど高い。地方都市において小規模事業者は雇用、生産、消費、租税公課など地域経済の担い手です。また、地域住民から見ても生活インフラ、消費インフラ、地域コミュニティーなどを担っており、まさに地域を支える大きな柱です。

 一方で、小規模事業者の労働分配率は8~9割にも及んでおり、(労働分配率を)これ以上高くすることは事業所の存続にも関わってきます。賃上げを実現するには事業所の売り上げを向上させ、製造原価や経費を削減して利益を増やし、賃上げにつなげていく流れが必要です。

 そのために言われているのが価格転嫁、生産性向上、販路拡大、新商品開発、新分野進出、デジタル化などです。しかし、小規模事業者にはこれらに取り組む資金や人材が大企業と比較して圧倒的に不足しています。事業所も事業再構築などをはじめさまざまな課題に取り組まなければなりません。会議所でも引き続き精いっぱいの支援をしますが、合わせて行政機関の支援拡充も不可欠と考えています」

 ――価格転嫁はできていますか。

 「事業所経営においては受注側にもなれば発注側にもなりますし、最終消費者と取り引きすることもあります。最近の商品値上げに関する報道の通り、価格転嫁された金額は最終消費者が負担することになります。そこで賃上げの考え方が必要になるのですが、その前提として企業経営に欠かせないのは価格転嫁の仕組み(循環)です。川上から川下への円滑な価格転嫁ができる仕組みが整わないまま賃上げをせざるを得ない状況になれば、経営悪化に直面する事業所も出てきます。そこから後継者の事業承継意思の消滅や人材不足の問題へと悪循環が続くことが危惧されます。

 価格転嫁、賃上げ、デジタル化、販路拡大、事業承継、自社が立地するまちのにぎわいづくりなど、私たちが抱える課題は数多くあります。商工会議所は経営者が気軽に相談できる、困った時の『駆け込み寺』としての使命を果たしていきたいと思います」

 ――「相馬野馬追」が今年初めて5月に開催されました。

 「7月開催が長く続いたこともあり、慣れるまでは今しばらく時間がかかると思います。ただ、これまでの猛暑と違い、出場する騎馬武者にも観覧者にも過ごしやすい環境だったとの意見は聞いています。周知期間が短かったことで入り込み客数の減少も懸念されましたが、執行委員会によると昨年の7月末開催と比較して観覧者が約9000人増加したとのことで、5月開催の効果が出たと思います。今後はゴールデーンウイーク明けの5月末開催なので、入り込み客数がどのように変化していくか注視していく必要があります」

 ――来年4月に福島国際研究教育機構(F―REI=エフレイ)と福島ロボットテストフィールドが統合されます。

 「F―REIは浜通り地域などを中心に『世界に冠たる創造的復興の中核拠点』として『世界でここにしかない研究・実証・実装の場』を実現させ、地域における産業集積、人材育成、まちづくりなどを推進し創造的復興を目指しています。来年4月に福島ロボットテストフィールドと統合されることで、F―REIのさらなる発展と活用促進につながっていくものと期待しています」

 ――政府に求める経済・税制対策について。

 「地方の小規模事業者は先述した事業承継、賃上げ、デジタル化、生産性向上など様々な難問を抱えています。これに加えて南相馬市の事業所はALPS処理水の海洋放出が将来にどのような影響を及ぼすのかが不透明な状況です。そうした中で政府に期待したいことが二つあります。

 一つは地域商工業者の稼ぐ力の強化に向けた支援です。生産性向上やデジタル化促進のための設備投資を支援する補助金や税制面の配慮、適正価格に基づく取り引きの促進に向けた支援を求めたい。

 もう一つは事業承継・継続のための支援です。事業承継税制の恒久化はもちろん、中小零細企業の法人税や青色申告者の所得税の軽減、さらには原子力災害からの復興に向けた支援の継続をお願いしたいです」

 ――今後の抱負。

 「南相馬市原町区の商工業者が事業を継続し、雇用を守り、地域から期待される役割を果たせるように、原町商工会議所は会員事業所と一緒になって問題解決に努めていきたいと思います」

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