本県経済の屋台骨を支えていると言っても過言ではない。県内メインバンクシェア1位の第一地銀・東邦銀行(福島市、佐藤稔頭取)のことだ。昨年末には大東銀行の株式を大量に取得し、筆頭株主に躍り出たことでも話題になった。業績も堅調に推移する。だが、その裏では「株主には絶対に知られたくない問題」に深く頭を悩ませる。本誌だからこそ知り得た、同行を憂鬱にさせる二つのトラブル。その真相に迫る。(佐藤仁)
【労基署から監督指導を受けた本店】元従業員が賃金返還を求めて提訴

筆者の手元に、福島労働局から開示された2通の公文書がある。1通は昨年12月、もう1通は今年1月に開示されたものだ。
それを見ると、ほぼ全面が黒塗りの「のり弁」状態だが、わずかに開示された文言から読み取れる事実がある。
「事案名 ㈱東邦銀行 本店に係る監督指導」
「件名 ㈱東邦銀行 本店に係る監督指導の監督復命書について」
「違反法条項・指導事項・違反態様等」
「是正期日・改善期日(命令の期日を含む)」
東邦銀行に法令違反が見つかったため、本店を監督指導し、いつまでを期限に是正・改善するよう命じた――と。
文書が「のり弁」なので、どういう法令違反があり、どんな監督指導が行われ、いつまでに是正・改善しなければならないのか、具体的な中身は一切分からない。ただ、1月に開示された2通目の公文書には「7頁から78頁まで全面不開示とする」と但し書きがあることから、労基署が広範囲にわたり東邦銀行を監督指導した様子がうかがえる。
実は、東邦銀行は労働基準法をめぐる問題に絡んで元従業員から訴えられている。労基署は労働基準法や最低賃金法など「労働関係法令」を管轄する機関。元行員が起こした裁判が、今回の監督指導と何らかの関わりがある可能性はゼロではない。
その裁判とは、いったいどういったものなのか。本誌が入手した裁判関連資料や関係者への取材で次のような事実関係が分かっている。
2021年12月1日付で東邦銀行に中途採用された上田武典さん(仮名)は同年10月に受け取った内定通知書で配属先、勤務地、勤務時間、休日、給与、保険加入などの条件を伝えられ、試用期間は「6カ月を予定」とされた。
ところが、試用期間が終わる前の2022年4月に人事面接があり、6カ月の契約更新を伝えられた。試用期間が終われば正社員になれると思っていた上田さんは、再び6カ月の有期雇用とすることを告げられ面食らった。「もしかして自分は正社員ではなく、契約社員として採用されていたのか?」――上田さんはそんな疑問を抱いた。
採用に当たり東邦銀行側から示された労働条件対照表には、雇用形態は正社員と明記されていた。「試用期間中に勤務態度に特段の問題(無断欠勤等)がなければ概ね正社員に登用」とも書かれていた。前職が生保会社勤務で会社都合で早期退職した上田さんは「次は長く勤められる正社員」を条件に再就職活動に臨み、いくつかあった候補の中から「正社員で採用してくれる東邦銀行」を選択し、他社に断りを入れた。面接を受けるきっかけになったリクルートエージェントからも正社員採用と説明を受けた。にもかかわらず、なぜ再び6カ月の有期雇用なのか。
裁判関連資料によると、東邦銀行の言い分はこうだ。同行の就業規則では、試用期間中の従業員は有期雇用、すなわち嘱託になると定めている。上田さんが2021年12月に受け取った辞令にも「専担嘱託」と記載されている。
契約社員と嘱託社員。どちらも企業と有期雇用契約を結んでいる非正規雇用社員のことを指すが、前者は基本的にフルタイム勤務、後者はフルタイムにするかパートタイムにするかを企業と労働者の合意のもとで選択できる、という違いがある。
つまり厳密に言うと、東邦銀行の試用期間中の従業員は上田さんの言う契約社員ではなく嘱託社員になるのだが、そのうえで上田さんの試用期間を当初予定からさらに6カ月延ばした理由を、同行は2022年5月6日付の専担嘱託雇用登用意見書にこう書いている。
「保険販売資格の登録に時間を要したことや、前任者との引き継ぎなどを理由に主だった実績・成果が上げられておらず、行員への登用を推薦する材料がそろわなかったことから、さらに6カ月、嘱託として雇用継続する」「今後の行員登用については、本人との話し合いによる具体的な実績目標と、本行が期待する行動計画の達成状況を見てあらためて判断したい」
専担嘱託雇用登用意見書とは、上田さんの所属部署が人事部長に提出した書類だ。つまり所属部署は、上田さんの試用期間中の働きぶりを見た結果、正社員に登用するための判断材料に乏しいとして試用期間を6カ月延長し再度評価する、と人事部長に報告しているのだ。
この対応に上田さんは納得できなかった。なぜなら、採用前の面接で場合によっては試用期間が延長されるという説明がなかったからだ。「試用期間6カ月は正直長いが、無断欠勤などがなければ半年後には正社員になれる」というのが上田さんの認識だった。
正社員にこだわる理由


リクルートエージェントの担当者から上田さんに2021年10月に送られてきた「東邦銀行から正社員として内定が出た」というメールにもこう書かれている。
「他行の中途採用の場合は、試用期間は契約社員の銀行も多いため、嘱託社員ではあるものの正社員としての採用のため、比較的雇用は安心かと思いますが、少し不安なところは少なからずありますよね」
端折った表現になっているが、要するに、試用期間中は嘱託社員かもしれないけど、半年経てば正社員になれるのでよかったですね、という意味だ。上田さんは残業代なども出ることを確認したうえで、このメールに「確かに正社員であることを確認しました」と返信している。
もっとも、前出・専担嘱託雇用登用意見書には「当人(上田さん)も嘱託継続について了承済み」「今後、行員採用を目指して行動と成果を示していくとの決意表明あり」と書かれ、上田さんも試用期間の6カ月延長を了承していた様子がうかがえる。しかし、これに対する上田さんの主張は、2022年4月の人事面接で6人前後に囲まれた中、自分は契約社員なのかと抗議したら解約される恐れがあったので、その場はこらえたのだという。
上田さんが正社員にこだわった理由は、待遇の問題もあった。嘱託社員と正社員では、当然正社員の方が給与が高い。試用期間を経て正社員として給与をもらえると思ったら、思いも寄らない試用期間の6カ月延長。上田さんは、こうなる可能性があると最初から分かっていたら東邦銀行に入行することはなかったし、他社に断りを入れた結果、転職の機会を逸したとしている。
結局、上田さんは2022年8月末で退職した。業務内容や人間関係に不満はないが、事前の説明にはなかった雇用形態になったことや、入行してから55歳以降の給与水準が3割減になることなどを知り、最初から分かっていたら入行することはなかった等々を退職理由に挙げている。上田さんが正社員採用や給与水準にこだわるのは、高齢の両親を金銭的にも支えていかなければならない事情からだった。
その後、上田さんは別の会社に正社員として採用され、不満なく勤務しているが、東邦銀行に対しては6カ月の試用期間を終えた後は正社員採用の約束だったのに、事前説明にない試用期間の延長をされた結果、正社員として得られるはずの給与を受け取る機会を逸したとして、2024年6月、同行を相手取り50万円の賃金返還を求める訴えを神戸簡易裁判所民事部に起こした。
この中で、東邦銀行は上田さんをさらに激怒させる主張をする。同行は準備書面の中で「試用期間中の従業員(行員登用前の従業員)は嘱託就業規則に基づき有期雇用社員として勤務することになるので、正社員ではない」と言い切ったのだ。さらに、雇用形態を「正社員」と明記した労働条件対照表を作成したのはリクルートエージェントであり自分たちは無関係と言ったから、強く「正社員採用」にこだわっていた上田さんは精神的に傷ついた。神戸簡易裁判所に訴えを起こしたときの請求額は50万円だったが、2024年10月に神戸地裁に舞台を移して始まった訴訟では、精神的慰謝料などを含む260万円に増額。訴訟は現在も審理中だが、神戸地裁で争われていることもあり、この事実を知る福島県民はほぼいないと思われる。
社労士が非開示部分を推測
これを機に、上田さんはリクルートエージェントだけでなく、マイナビなど他の転職情報サイトに東邦銀行がどのような条件で求人票を出しているかを細かくチェックするようになった。その結果、やはり「正社員採用」と書かれ、最初の半年間は嘱託採用であることが示されていないことが分かった。上田さんは正しい労働条件ではないとして、各サイトに問い合わせをしている。
その結果、例えばマイナビ転職からは「東邦銀行に対し『将来の雇用状態ではなく、雇用契約時点での雇用状態で募集してください』と申し入れた」という回答を得るなど、自分と同じ目に遭う人が出ないよう監視活動をしている。
ここまでの稿は、あるルートから入手した裁判関連資料や関係者への取材に基づいたもので、上田さん本人は「係争中なので取材には応じられない」としている。ただ、筆者の質問には「概ね当たっています」と繰り返し「希望を持って入行した人を落胆させるような採用はやめてほしい」とだけ言った。
こうした状況を踏まえ、あらためて冒頭に紹介した福島労働局の「のり弁」公文書を見ていきたい。入手ルートは伏せるが、趣旨としては、労働基準法の違反事案をめぐり労基署が実際に東邦銀行に監督指導や処分を行ったのかを確認するため、関連する公文書一式の開示を求めたものだ。その結果、出てきたのがほぼ全面黒塗りの公文書だったわけ。
黒塗りの下には、いったい何が書かれているのか。本誌は労基署勤務を経て独立した社会保険労務士に公文書を見せて推測してもらった。
「復命書とは役人が対外活動をする際に役所に提出する書類。その復命書に監督指導と明記されていることから、労基署が東邦銀行に対して何らかの監督指導に臨場した事実が読み取れます」(社会保険労務士)
復命書に監督指導と書かれている時点で、労基署は何らかの法令違反があると根拠を持って東邦銀行に臨場しているのだという。ただし具体的な違反・是正の内容は企業や第三者に関わる情報のため、非開示(黒塗り)が原則とのこと。
「企業に違反行為などが見つかれば、労基署は指導あるいは是正を促します。指導は直ちに違反とまでは言えないが改善を求める動きです。一方、是正は法令違反を特定し、期限までに是正を求める強い行政指導です。この(黒塗りの)公文書を見る限りは、是正段階まで至っている可能性が高いと思われます」(同)
労基署は労働基準法や最低賃金法など「労働基準関係法令」を管轄するが、パワハラや労働条件の不利益変更、正社員採用と説明されたのに契約社員扱いされたといった雇用区分の齟齬などは民事の領域になるため、労基署の直接的な権限からは外れるという。
そうなると、上田さんにまつわる労働条件を明示していなかった点は労働基準法第15条に抵触する可能性がある一方、労基署の権限外と判断される場合もあるという解釈になる。
「ただ、労基署にかなり強い情報提供があり、監督指導する目的で東邦銀行に臨場したところ、雇用区分の齟齬は民事に委ねると判断した一方、別の明確な労基法違反が見つかったため、是正を求める行政指導をした可能性は残ります」(同)
考えられるのは賃金未払いや割増賃金の不払い、あるいは銀行業では典型例として知られる、支店長を管理監督者と位置づけて残業代を払っていないケースだ。
「いくら労基署といえども県内最大手の東邦銀行に深く切り込むのは難しい。しかし、それでも監督指導したということは結構重めの申告が寄せられ、労基署は『これはやるしかない』と覚悟を決めて立ち入り検査をしたのかもしれません。年間計画の中に最初から同行が入っていたら単なる定期検査に過ぎないが、立ち入り検査は言い換えると『敵視』になるため、普通は避けたい心理が働くからです」(同)
県内でも優良企業に位置づけられる東邦銀行だが、県民の見えないところでは従業員に法令違反の負担を強いているのかもしれない。上場企業にとって、ブラックな労働環境は株価に影響する恐れもある。今後開かれる株主総会で、コンプライアンスを重視する株主から何らかの質問があっても不思議ではない。
東邦銀行総合企画部に上田さんとの訴訟と、労基署がどういう目的で監督指導に入ったのか、法令違反の中身について問い合わせると「詳細を調べるので少しお時間をいただきたい」とのことだった。本稿締め切りまでに返答がなかったため、回答が届き次第、次号以降で紹介することにしたい。
【市民団体が東邦銀行の株式を取得】 株主総会で先達山メガソーラー施設 融資の責任追及


月刊情報誌『選択』1月号に興味深い記事が載った。東邦銀行が福島市の先達山メガソーラーに融資したことで、とんだ騒動になっているというものだ。
先達山メガソーラーをめぐっては本誌でも問題点を散々報じてきた。地元紙で関連記事をほとんど見ない半面(最近になって福島民報が報じるようになった)、全国紙の福島県版や地元テレビ局が積極的に取り上げている。大手メディアも特集を組むなどしたことで、北海道・釧路や千葉県・鴨川のメガソーラーと並んで大きな関心を呼ぶことになった。
この先達山メガソーラーに東邦銀行は融資をしている。SBI新生銀行がアレンジャーとなって組成したシンジケートローンに参画。事業主体であるカナダの再エネ投資会社・Amp Energy(以下、アンプ社と略)がつくったAC7合同会社に2022年3月、プロジェクト資金として20億円を供与した。同ローンにはSBI新生銀行も74億円を融資しているほか、静岡銀行が30億円、新生信託銀行が17億円、秋田、七十七、鳥取、福井の各行がそれぞれ10億円、東北銀行が5億円を供与している。総額186億円に上る。
先達山は吾妻山の一角にある。吾妻山は春になると、融雪に伴ってうさぎの形を模した「雪うさぎ」の模様が山肌に現れる。福島市を代表する景色として、誇りに思う市民は多い。その吾妻山(先達山)の木を広大に切り倒し、大量のパネルを敷き詰める工事が始まると、市民から事業に反対する声が相次いだ。これまでに緑化が不十分だったり、大雨で周辺の道路に土砂が流出したり、パネルが強烈に反射する光害の問題などが露呈している。
「吾妻山の景観を壊し、周辺に災害をもたらす恐れのあるメガソーラーに巨額の融資をするのは、地元の銀行としていかがなものか」

先達山メガソーラーの問題点を追及している市民団体「先達山を注視する会」(代表・松谷基和東北学院大学教授。以下、先注会と略)は昨年1月、8月、11月と3回にわたり東邦銀行に公開質問状を送付。それに対する佐藤稔頭取名の回答は全て先注会のホームページに公開されているが、「地域住民の懸念を解消するよう最善を尽くすことを、エージェント(SBI新生銀行)を通じて事業者(アンプ社)に求めている」「遵法性を維持して事業を継続していく限りは融資金の返済を求めることは考えていない」と繰り返している。
「株主にも考えてほしい」
こうした流れを受けて『選択』1月号は以下のように報じているのだ(※は本誌注釈)。
《東北学院大学の松谷基和教授らが主導する市民団体「先達山を注視する会」は(※中略。東邦銀行に公開質問状を送り、AC7合同会社への融資金を早期回収するよう要求し)聞き入れられなければ「株式を買いまくるぞ」というわけである。
東邦銀の株価は足元530円前後。最低投資単位は100株とされているから株式取得には少なくとも1人約5・3万円の資金が必要となる。仮に発行株の5%以上を掌握しようとすれば67億円超もの元手がかかることから「現実的な選択肢とは思えない」(地銀筋)ものの、事業基盤を福島県に委ねている以上、「地元株主の意向を全く無視するわけにもいかない」(東邦銀幹部)》
もし株式取得が実現すれば、株主の前で佐藤頭取に厳しい質問が浴びせられるかもしれない。これまでは書面回答でお茶を濁してきたが、直接対峙となれば再質問、再々質問を受けることは免れられない。仮に東邦銀行が質問を打ち切る暴挙に出たとしても、来年以降の株主総会で再び同じ光景が繰り返される可能性がある。
ただ、気になるのは『選択』の記事に松谷氏のコメントが一切ないことだ。先注会が東邦銀行の株式を買い進めているのは事実なのか。松谷氏に確認すると「そのとおりです」とあっさり認めた。数カ月前に100株を購入。先注会の他のメンバーも購入しているそうだ。『選択』が報じたことは「取材を受けていないため知らなかった」(同)。
株式取得の狙いを、松谷氏はこう説明する。
「アンプ社は私たちとの対話を一切遮断している(本誌2025年9月号参照)。林地開発許可などを出した県や市は、私たちの問いかけにまともに答えようとしない。であれば地元で質問する相手は『SBI新生銀行を通じてアンプ社に対応するよう要請している』と答える東邦銀行しかいない」
とはいえ、東邦銀行と敵対するつもりは一切ない。
「『選択』は吊るし上げなどと対立を煽るような書き方をしているが、大切なのは私たちが感じている疑問を他の多くの方に共有してもらうことだ。もし私が株主総会で質問した時、他の出席者から『やめろ』みたいな雰囲気が出てはまずい。東邦銀行にとってこの融資はいいのかどうかを、株主の皆さんにも考えてもらう機会にしたい」(同)
東邦銀行の業績は堅調だが、松谷氏いわく「地元をないがしろにして儲ける銀行というイメージは良くない」。短期的には魅力的な融資かもしれないが、長期的に見て地元の信頼を落とす結果になれば、融資の実行を決断した現経営陣の責任は重い。
波乱も予想される株主総会(例年6月招集)の行方に注目だ。

























