「高市人気」で総取りの福島県内【衆院選挙区】

「高市人気」で総取りの県内衆院選挙区

高市早苗首相の電撃的な衆院解散で始まった第51回衆院選は、自民が公示前の198席から大きく伸ばす316議席(定数465)を獲得した。初の女性首相である高市氏の圧倒的な人気を背景に自民の「裏金問題」で支持を失っていた無党派層や一時離れた保守層を取り戻し、勝者総取り方式の小選挙区の妙で大勝。4小選挙区全てで自民が勝った福島県内ではどのような戦いが行われたのかを振り返る。(小池航)

中道改革連合が見落とした世代間対立と〝新しいリベラル〟

福島県内の全4小選挙区の結果は次ページの通り、自民候補が全勝した。前回2024年の衆院選では派閥で横行していた政治資金収支報告書の不記載、いわゆる「裏金問題」で信頼を失い、自民は福島4区でしか議席を得られなかった。今回は、高市早苗首相が初の女性首相という新奇な点で無党派層の支持を得た上、中国への強硬姿勢を示すことで、参政党に一時流れた保守層の支持を取り戻し、自民の大勝につながった。

実態は政治的争点や公約を選ぶ投票ではなく、高市首相が人気かどうかを測るものだった。NHKが行った調査では、比例代表で自民に投票した有権者は政策よりも高市首相の印象を評価したことが分かった。

自民に投票した人は31%が「党首の印象」を決め手と答え最も多く、次が「具体的な公約」(26%)だった。立民と公明が合わさって結成した新党・中道改革連合(中道)で最も多かったのは「政党のイメージ」(36%)で、次が「具体的な公約」(31%)だった。全体の数値では、36%が公約を決め手にしており最多(※分母は「投票した」と答えた人981人)。公約を見極める層は、自民や中道以外の政党に注目したと言える。

県内で高市人気に最もあやかったのは、自民支部長が空席だった福島1区から急遽出馬した元県議の西山尚利氏(61)だ。同区からは自民公認で元衆院議員の亀岡偉民氏(70)が支部長を務め出馬していたが、2024年に落選後、公選法違反疑惑で立件され離党。空席が続いていた。

高市首相が急遽衆院を解散したのは福島1区の自民候補にとって準備が間に合わずマイナス要素となった。さらに、亀岡氏を継いだ息子の偉一氏が無所属での立候補に踏み切ったため保守分裂の懸念があった。それでも西山氏は高市旋風を受けて勝利した。伊達地方が地盤の金子恵美氏(60)は93%の惜敗率で比例復活を果たすなど接戦だった。

福島1区を地方ごとに分けると、福島市と旧2区に属していた安達地方(二本松市・本宮市・大玉村)での支持が固かったことが自民に有利に働いたことが見えてくる。

福島1区の各地方別得票数

西山尚利(自民)金子恵美(中道)亀岡偉一
福島市62,04252,07815,317
伊達地方
伊達市9,32315,7283,700
桑折町1,8722,3781,712
国見町1,6942,143837
川俣町2,5862,958578
伊達地方 計15,47523,2076,827
安達地方(旧2区)
二本松市12,62410,9282,915
本宮市7,1275,5491,575
大玉村2,2631,709379
安達地方 計22,01418,1864,869
合計99,53193,47127,013
得票率44.30%41.60%12.00%
※投票者数は224,451人、投票率は59.97%


高市首相の等身大パネル

国政選挙の公示日には首相が原発事故被害を受けた福島県を訪れるのが通例となっている。高市首相も公示日1月27日に来県し、郡山市、そして二本松市を訪れた。

筆者は二本松文化センターで開かれた西山氏の集会を取材した。高市首相目当てにホールは1000人を超える聴衆にあふれ、「提灯祭り以外で二本松の街がこんなに人であふれることはない」との声が聞こえるほど。センター前の道路は送迎で渋滞した。平日にもかかわらず30~40代の男女が意外と多く、中には子連れもいた。

知名度で劣った元県議の西山尚利氏を当選に引き揚げた高市首相(1月27日に行われた二本松市の集会)
知名度で劣った元県議の西山尚利氏を当選に引き揚げた高市首相(1月27日に行われた二本松市の集会)

県議選では福島市からの選出だった元県議の西山氏は二本松市の人々にとっては正直「あのおじさんは誰?」という存在。高市首相の応援演説は、一気に「自民(西山氏)に入れよう」と流れを変える効果があった。西山氏は本誌のインタビュー動画撮影に応じる際、高市首相の等身大パネルを持ち出す徹底ぶり。中盤には高市首相の顔がラッピングされた選挙カーが登場した。

高市首相の等身大パネルと西山氏(本誌ユーチューブより)
高市首相の等身大パネルと西山氏(本誌ユーチューブより

2月1日に福島市で開かれた集会では、小泉進次郎防衛相、馬場雄基市長が応援に駆け付け、小泉氏を目当てに会場は満杯だった。西山氏は先の福島市長選で新人の馬場氏を応援していた。市長となった馬場氏から恩返しを受けた形だ。

高市人気の影響は受けつつも着実に支持を広げてきたのは前回苦戦した福島2~4区の自民候補だ。特に2区では、民主党政権時代に外務大臣を務めた玄葉光一郎氏(61)を前回敗れた根本拓氏(39)が破り、SNS時代の戦い方を展望する中で参考になる点が二つあった。

福島2区の得票数

根本拓(自民)玄葉光一郎(中道)大山里幸子(参政)丸本由美子(共産)遠藤雄大
128,94890,14620,6456,3951,780
51.40%36.00%8.20%2.60%0.70%
※投票者数は250,742人。投票率は60.02%

福島3区の得票数

上杉謙太郎(自民)小熊慎司(中道)金山 屯
107,64977,0114,084
55.50%39.70%2.10%
※投票者数は193,897人、投票率は61.03%

福島4区の得票数

坂本竜太郎(自民)斎藤裕喜(中道)山口洋太(国民)熊谷 智(共産)
100,79554,67238,53910,254
48.50%26.30%18.50%4.90%
※投票者数は208,009人、投票率は53.44%

ポイントは日頃から地域内を回り要望を聞く対面の活動をした上で、SNSでの発信を続けていたこと。県内では選挙が近いとSNSで発信する候補は多いが、たいていは選挙が終わると更新も止まる。根本氏の場合は若手で情報発信への感度が高いこともあるだろうが、対面に加え日頃からSNS発信を続けていた。演説会場をSNSで発信し、「会える候補」になることが肝要だ。

選挙中の食事を紹介する根本氏(本誌ユーチューブより)
選挙中の食事を紹介する根本氏(本誌ユーチューブより

二つ目は、事実上法規制がないSNSを活用した宣伝。ユーチューブなどの動画サイトに「政治活動」の体で広告を打つとお茶の間の「テレビ」に登場し、大人だけでなく子どもの目にも触れ、子ども同士や親に反響するなどして宣伝効果は抜群だった。

テレビには個人候補を応援するCMは打てない。からくりはこうだ。無党派層が比較的多い若年世代は、放送局が流すニュース番組は見ないが好みのネット動画は「テレビ画面」を通して見る。そこに広告が流れる。はがきやポスターなど旧来の方法は枚数に上限が定められているが、ユーチューブ広告の法規制は事実上ないため、想定外の「テレビでの個人候補応援」が生じた。

これを突き詰めていくと、お金を掛けられる政党や候補が人気を高め勝敗を決めることになる(その党や人物の好感度が高いことが前提)。事実、高市首相が登場する自民のユーチューブ広告は1億回超再生され、莫大な広告料を投じたとみられる。平等性を考えると法規制が必要になるが、高市首相が最もそれを戦略的に活用し大勝しただけに、国会ではその議論は進まないだろう。

「リベラル自認」は自民に

有権者の意識変化も自民大勝の背景にある。2月8日配信の朝日新聞デジタルは、政治の対立軸が従来の保守対リベラルでは語れないことを示している。

《衆院選をめぐり、朝日新聞が大阪大の三浦麻子教授(社会心理学)と実施したネット意識調査で、自らのイデオロギー(政治的立場)を左寄り(リベラル)と自認している人の投票先は、40代以下だと自民党が最多だったことがわかった。10~30代では34%に達し、次いで国民民主党が10%、中道改革連合を選んだ人は9%にとどまった。》

記事によると、中道は「右にも左にも傾かない」(野田佳彦共同代表・当時)ことを掲げ、立民と公明が立ち上げた新党だったが、政治的立場を中間と自認する人は14%しか選ばなかったという。一方、自民は右寄りを自認する人の42%から選ばれた上、中間を自認する人の間でも中道を上回る23%、さらに左寄りの16%からも選ばれた。

従来とは違うリベラルの自認と、その中から少なくない有権者が、今回の選挙で高市首相率いる自民を選んだことを考えるうえで欠かせない著書が昨年発行された。

「新しいリベラル」―大規模調査から見えてきた「隠れた多数派」』(橋本努、金澤悠介、ちくま新書、2025年6月刊)は、戦後長らく政治の対立軸が保守対リベラルに規定されてきた中で、従来のリベラル像に当てはまらない最多派が浮かび上がってきたことを7000人対象の社会調査から導き出した。

次ページ図は同著252ページより引用。新しいリベラルについて論じた金澤氏によると、その特徴は簡単にまとめると3点あるという。

新しいリベラル 図

①従来型リベラルの多くは、社会的に不利な立場に置かれた人のための生活保障(弱者支援型の福祉国家)を支持するのに対して、新しいリベラルの多くは、全ての人の成長のための社会福祉政策(社会的投資型の福祉国家)を支持する。

②従来型リベラルの多くは、高齢世代への支援を重視するのに対して、新しいリベラルの多くは、子世代・孫世代への支援を望んでいる。

③従来型リベラルの多くは反戦平和主義や反権威主義といった〈戦後民主主義〉的な価値観を抱いているのに対して、新しいリベラルの多くは、この価値観に強くコミットしない。

図中の「社会的投資」は、出産・育児支援や奨学金制度拡充、社会人のスキルアップ支援や成長分野への投資などを含む。富の再分配や社会的弱者に特化した支援ではなく、子どもや成長分野への積極的な投資を意味する。

「ハンディキャップ補償」や「役職クオータ制」とは女性の不平等解消や活躍促進に対する施策。前者はキャリアに伴うハンディを取り除くこと、後者は会社役員や議員に一定の女性枠を設けることなどを意味する。

同著はグループのライフスタイルも分析している。新しいリベラル(23%)の人物像をことさら単純化すると「安定した生活を送る子育て世帯」、従来型リベラル(18%)は「生活がやや苦しい女性高齢層」、成長型中道(13%)は「仕事に打ち込む女性中年層」、福祉型保守(16%)は「安定した生活を送るリタイア層」、市場型保守(9%)は「安定した生活を送る男性中年層」、そして政治的無関心(20%)は「独身の男性中年層」となる。

成長と未来への投資を重視

旧来の保守対リベラルの対立軸は成り立たなくなっている。拓殖大政経学部の河村和徳教授によると、代わりの対立軸となるのが、若年・現役世代を重視するか、高齢世代を重視するかの構図という(本誌1月号)。

世代間の対立軸の中で、富の再分配よりも全ての世代の成長や将来への投資を重視し、戦後民主主義にコミットしない「新しいリベラル」の存在が最多層に浮かび上がった。2025年7月の参院選で「現役世代の手取りを増やす」と掲げた国民民主の躍進、今回の衆院選で「未来に向けた成長」が求心力を得たチームみらいが議席を大幅に増やしたことと無縁ではないだろう。

今回の衆院選では、高市首相が無党派層にも広がる人気を背景に、有利なタイミングで解散総選挙に踏み切った時点で、他党が票を伸ばすことは困難だったろう。仮に立民、公明が合併しなくとも双方の勢力は退潮気味だったため、自民大勝の結果は変わらなかったとみる。

中道は「政治的立ち位置は真ん中」と強調することで幅広い支持を狙ったが、最多派の「新しいリベラル」に代表されるグループは政治的立ち位置ではなく全ての世代の「成長」や「社会的投資」を重んじる。中道は新党ゆえの認知度不足に加え、ベテランの男性議員2人からなる党首体制が「守旧派」に映った。実態はともかく、成長や進歩のイメージを重視する層の票が、女性活躍の文脈で人気の高市首相が率いる自民に、そして未来志向を表す党名のチームみらいに流れたと考えられる。

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