会津若松市の市立中学校敷地内で、市内の中学生が別の中学校の生徒に暴行を加える動画がSNSなどで拡散され、話題となった。舞台となった中学校の新入生保護者は「こんな学校に通わせたくない」と不安を漏らすなど、波紋が広がっている。
新入生の保護者が学校対応に不信感

パジャマのような服を着た女性が屋外で正座し、別の女性から罵声を浴びせられながら顔面を蹴り飛ばされる――。1月末、凄惨な暴行動画がSNSに投稿されて話題になった。県民にとって衝撃だったのは、ここに映っていた被害者・加害者がともに会津若松市内在住の中学生だったということだ。
被害生徒・加害生徒双方に言い分があるためか、SNS上で真偽不明の情報が飛び交っている。そのため本稿では報道された内容や、公的機関の発表、複数の関係者に確認した事実をもとに経緯を追っていく。
動画は冬休み期間中の昨年12月31日早朝、加害者が通う市内の中学校で撮影されたもの。関係者によると、市立第五中学校(以下、五中と表記)だという。被害生徒は別の中学校に通っているが、加害生徒から五中に呼び出され、暴行を受けた。動画では被害生徒が土下座を強要され、加害生徒が足で頭を複数回踏みつけるシーンが収められていた。同日に撮られたとみられる写真には、男女複数人が立ち、被害者が地面に座り込んでいる様子も撮影されていた。
暴行を受けた生徒は帰宅後、救急車で病院に搬送されたが、幸い重篤な状態ではなかったという。
動画の撮影者や流出元は不明だが、X(旧ツイッター)で影響力を持つ暴露系アカウント「DEATHDOL NOTE(デスドルノート)」がそれらの動画を入手し、1月30日に投稿した。
同アカウントでは「いじめ撲滅委員会」と称し、いじめに関する情報提供を呼び掛けている。栃木県の県立高校の校内で生徒が他の生徒を暴行している動画がSNSで拡散・炎上した事案では火付け役となった。今回の件も拡散されることを期待して誰かが情報提供したのだろう。ただ、今回の被害生徒と加害生徒の関係は、単純な「いじめ」の構造ではなかったという指摘もある。
「いじめ撲滅委員会」の活動に共鳴しているのが、奈良市議で元迷惑系ユーチューバーのへずまりゅう氏。会津若松市の事案に関心を寄せ、投稿直後に同市に足を運んで、被害者とその両親と面会した。その一部始終をXで報告したこともあって、動画は広く拡散され、加害生徒とみられる生徒の個人情報などが投稿される事態となった。
2月2日月曜日には、会津若松市教委が記者会見を開き、暴行が市立中学校で起きていたことを認めた。
《市教委は1月30日に動画の拡散を把握し、31日には加害生徒の学校で臨時保護者会を開き、動画の内容などを説明した。2日は臨時校長会を開き、寺木誠伸教育長が各校長に「暴力は許される行為ではない。心身に多大な傷を残す」と児童生徒に伝えるよう求めた。スクールカウンセラーの派遣も県に依頼した》(福島民報2月3日付)
被害生徒の被害届を受けて県警会津若松署が傷害の疑いで捜査しているが、単発的な事案か継続的ないじめかは調査中とした。
報道によると、市教委は1月初めの時点で暴行事案を把握し、被害生徒のケア、学校を通じて加害生徒への事情聴取を進めていた。その際、加害生徒は暴力をふるったことや動画を撮ったことを認めたという。
さらに2月5日には、暴行動画拡散のかげで、五中内で生徒の水筒に異物が混入したとして、保護者から連絡が寄せられ、市教委が事実関係を調査していることが報じられた。
《学校によると、1月30日に「異物を混入された」とされる生徒の保護者から連絡があり、31日に全校生の保護者にメールで事情を報告したという。市教委によると、混入の事実の有無や誰の行為かなどは特定できておらず「警察と連携して対応する」としている》(福島民報2月6日付)
こうした中、「正直こういう学校には子どもを行かせたくない」と語るのが、五中への入学を予定している新入学生の保護者だ。
匿名を条件に取材に応じてくれたある保護者女性はこのように語る。
「もともと五中は市内でも比較的ガラが悪い学校と言われていたが、自分が育った地域も似たようなものだったので問題ないと考えていた。ただ、授業妨害をする生徒がいたり、学校給食の時間に〝トラブル〟が起きないよう保護者が仕事を休んで見守りしていたり、学校の敷地内外で当たり前のように喫煙する姿が見られたりと、度を越して荒れている様子が聞こえていた。自分の子どもがトラブルに巻き込まれ被害者になる可能性があると思うと心配です」
実際に別の中学校に通わせる決断をした新入生もいるようだが、「2月から転入を申し込んだり、別の学区に引っ越すのは現実的ではない。子どもも『友達と離れたくない』と話すので、多くの保護者は心配しつつも子どもを予定通り通わせることしかできません」(保護者女性)。
保護者の不安を増大させたのは、2月3日の新入生向けオリエンテーションでの学校側の対応だった。
「暴行動画の件について、詳細な説明はなく、代わりにスクールカウンセラーによる『SNSに気を付けましょう』という講義が数十分行われました。まだ入学もしていないのに、そんなことを言われても……。校長あいさつの中で、暴行動画の件を『SNS事件』と表現していたのも、問題をすり替えている印象で、違和感を抱きました」(同)
質疑応答の時間も設けられず、最後に同校の職員から「何かお聞きしたいことがあれば、小学校の担任の先生までお願いします」と言われて、オリエンテーションは幕を閉じた。
保護者と学校側の温度差

新入生保護者の声をどう受け止めるのか。市教委と五中にコメントを求めたところ、次のように回答した。
「動画による投稿拡散で本市の中学校の名前が全国で名指しされる状況になったということで、生徒や保護者にご心配をおかけしてしまい、本当に申し訳なかったです。臨時の保護者会を開き、PTAや学校運営協議会、地域の皆様とも現状を共有し、現在、学校内は非常に落ち着いた状況です。警察とは連携して対応しています。新入生の保護者からも確かに不安の声をいただいていますが、安心して子どもたちが学校に通えるように、保護者の皆様にも協力していただけているので、いい方向に向かっていくために一生懸命にやるだけです」(市教委学校教育課の酒井央課長)
「厳しい意見の一方で、励ましの声も多くいただきました。保護者の皆様には学校給食の時間に限らず、学校行事や授業などさまざまな形で〝教育活動のサポーター〟として協力していただいています。一生懸命頑張っている生徒もいるのですが、こうした事案が起きるとどうしてもそちらがクローズアップされてしまいます」(本多康夫校長)
暴行動画に衝撃を受け危機感を抱く新入生保護者と、「落ち着きを取り戻しつつある」と説明し、前向き姿勢を強調する市教委と五中。事態の受け止め方に温度差がある印象だ。
被害生徒を支援する立場の男性は「暴行動画拡散により見えたさまざまな問題と真正面から向き合うべきだ」と指摘する。
「加害生徒は少年法の枠組みで在宅で捜査を受けている状況のようだが、どんな動きをするか分からない中で、被害生徒が安心して過ごす権利や教育を受ける権利が保障されていると言えるのか。加害生徒に関しても、従来の学校に通学させたまま更生できるのか、直接関わりがない生徒が心に負担を抱えたり学習面で影響を受けることはないのか。新たな仕組みづくりを考える必要があると思います」
いま市内の教育関係者の間で問題視されているのが、「さらしアカウント」による誹謗中傷だ。インスタグラムなどのSNSで、個人のプライベートな写真や悪口を掲載する。〝捨て垢〟(匿名のアカウント)なので誰が情報を流しているのか特定できない。交際相手に送った写真などもネットで拡散されるため、思春期の子どもたちは精神的ダメージを受ける。今回の暴行動画拡散の背景にもさらしアカウントをめぐる問題があったとする声もある。
「私が相談を受けただけでも30人以上が被害にあった。警察に相談しても犯人が分からないのでお手上げ状態です」。市内で子どもたちをさまざまな形で支援している特定非営利活動法人ミナクルの関係者はこのように語る。
暴行事件が発生し、警察の捜査が始まって以降、投稿は控えられているとのことだが、同法人では「さらしアカウントで誹謗中傷することは犯罪に当たる」という内容のチラシを配布して、警鐘を鳴らしている。要するに、暴行動画は氷山の一角に過ぎず、子どもたちが安全・安心に暮らせる環境が侵害されつつあるということだ。
根本的対策を議論すべき

「デスドルノート」の投稿後、五中の内情がマスコミやネットで大きく取り上げられ、問題視されるようになった。そのため、ネットでは「正義の味方」のように評価する声が散見される。実際、そのように感じる読者もいるだろう。
しかし、同アカウントは過去に誤情報に基づき動画をアップして、批判を受けたこともある。
最大の問題は投稿した動画をきっかけに、ネット閲覧者の〝正義感〟を刺激し、誹謗中傷や嫌がらせ行為を誘発するようになる点だ。実際、前出の暴行事件と異物混入事件については、加害生徒やその両親の個人情報が詳細に書き込まれたほか、被害生徒と加害生徒の関係、暴行に至った理由、異物混入させた理由や異物の内容など、さまざまな情報・憶測がSNSやユーチューブなどに投稿されている。こうなると、あらゆる人を傷つけているわけで、「正義の味方」とは言い難い。
ただ暴力行為があったのは事実であり、もっと言えば、市教委・五中に任せていたのでは解決は期待できないと思われたからこそ、「デスドルノート」に情報提供されたと考えられる。1月14日には、文科省が見過ごされている暴力行為やいじめがないか点検するように都道府県・政令指定都市の教育長に呼び掛けた。市教委・五中でも根本的な改善策を議論する必要がある。そうでなければ、新入生の保護者らの不安が解消されることはない。
会津藩では、藩士の男児たちに心構えを説く「什の掟」として、「ならぬことはならぬものです」という言葉が教えられていた。市の青少年育成の指針「青少年の心を育てる市民行動プラン〝あいづっこ宣言〟」にも盛り込まれている。その教えを行動で示さなければならない。
会津若松市の小中学校に関しては、「子どもがいじめに遭ったが、加害者の言い分ばかり聞いて、誠実に対応してもらえなかった」との声も本誌に寄せられている。
理念と現実の隔たりをどう埋めるのか。会津若松市の教育現場はいま、その覚悟を問われている。

























