2020年に田村市で発生した交通事故を捜査した田村署小野分庁舎の警察官が、虚偽の捜査書類を作成したなどの罪に問われ、無罪を主張している事件の裁判が大詰めを迎えている。11月に福島地裁で開かれた第2回、第3回公判では、被告警察官の上司や事件を捜査した警察官が、被告の事務処理が虚偽文書作成であることを示すために証言。証言からは、田村署や小野分庁舎内でのチェック体制の不備も明らかになった。
起訴判断歪めたチェックの抜かり
高速道路交通警察隊郡山分駐隊所属の巡査長、青木優太被告(37)=郡山市、本籍会津若松市=は、2020年1月2日に田村市内で発生した追突事故で、けが人は2人なのに1人と偽る捜査書類を作成、さらに県警の交通事故総合管理システムに登録して事務処理を誤らせたとして、虚偽有印公文書作成・同行使と公電磁的記録不正作出・同供用の罪に問われている。
この事件の本質は、警察官による不適切な書類作成、さらに警察内のチェックの抜かりから、検察に事実に沿った情報が届かず、起訴判断を歪めてしまった点にある。
事件発覚のきっかけは、交通事故被害者の異議申し立てだった。追突事故の被害車両を運転していたAさんと同乗者のBさんがけがを負った。事故直後は、Bさんのみが救急搬送され、Aさんと加害者は残って実況見分に立ち会った。5日後、Aさんもけがしていたので、Bさんと合わせて2通の診断書を医師に発行してもらい、事故を捜査した田村署小野分庁舎に届けた。だが、加害者は不起訴になった。
Bさんは納得がいかず、今年3月に検察審査会に申し立てた。再捜査の結果、警察が作成した「交通事故事件簿」と「捜査報告書」には、Aさんのけがのみで、Bさんのけがは記されていないことが分かった。
捜査報告書は、事故・事件を検察に送致する際に提出し、検察はこれを基に起訴するかどうかを決める。田村市の事故では、本来は診断書に基づきAさんとBさん2人のけがを報告するべきなのに、なぜかBさんは「けがなし」となっていた。
被害者が2人になり、罪が増したのだろうか。1度不起訴となった加害者は、再捜査後に罰金の略式命令が出て有罪となった。
「誰が事実と異なる書類を作成したのか」が問題になる。当時、青木被告は田村署小野分庁舎地域交通課に所属し、現場に臨場して報告書類をまとめる役目だった。現場には、同署の自動車警ら担当警察官2人が先にいた。検察が法廷で示した、警ら担当者が書いたメモには、Bさんが病院に搬送されたことが記してある。青木被告と警ら担当の警察官たちの名で提出された当直日誌にもAさんとBさんのけがが記録されている。
捜査報告書の時点で事実が歪められたことが分かり、作成者の青木被告に虚偽内容記入の嫌疑が掛かった。今年7月に青木被告は停職3カ月の懲戒処分を受けた。
青木被告の上司、小野分庁舎地域交通課長代理の決裁段階では、不備がないかを確かめるチェック表記入があった。県警は監督責任を問い、いずれも当時の小野分庁舎所長(現いわき東署警視)を業務指導、田村署地域交通課長(現福島北署警部)と小野分庁舎同課長代理(現県警本部警部)を本部長口頭注意とした。チェックに抜かりがあったのは否めない。
青木被告は裁判で「虚偽の文書を作成したことはない」と無罪を主張している。診断書の提出があったかどうかも争っている。事実と異なる書類を作成した真意は、被告人質問で明かされるだろう。
次回は12月16日午後1時半開廷。AさんとBさんの証人尋問がある。