2020年1月に田村市で発生した交通事故の捜査に当たった警察官の男が、虚偽の捜査書類を作成したなどの罪に問われた事件の初公判が10月10日、福島地裁で開かれた。男は「虚偽の文書を作成していないし、嘘の情報を登録したこともない」と起訴内容を否認し無罪を主張。県警は7月に停職3カ月の懲戒処分を下しており、裁判がどのような結果になるか注目だ。
停職処分でも無罪の主張続ける真意
無罪を主張しているのは、高速道路交通警察隊の巡査長、青木優太被告(37)=郡山市・本籍会津若松市。短大卒業後の2010年に警察官を拝命し、事件時は田村署小野分庁舎交通課に配属されていた。20年1月2日午前10時ごろ、田村市内で発生した追突事故で、捜査を早く終わらせるために、けが人を少なく偽る捜査書類を作成。さらに県警の交通事故統合管理システムに登録して事務処理を誤らせたとして、虚偽有印公文書作成・同行使と公電磁的記録不正作出・同供用の罪に問われている。
発覚までには3年以上かかった。検察側の証拠によると、事故では被害に遭った車に乗っていたAさんとBさんの2人がけがを負った。現場に臨場した青木被告は、その日の当直班に「2人がけがを負った」と報告。Aさんは人身事故として処理してもらおうと、事故から5日後の同月7日に郡山市の病院から自身とBさんのけがの診断書を受け取り、翌8日に田村署小野分庁舎に提出した。本来は診断書に基づいて被害者2人がけがしたことを捜査書類に書き、県警内で共有する交通事故管理システムに登録する必要があったが、この時、青木被告はAさんのみがけがをしたと処理した。
事件発覚のきっかけは、被害者の異議申し立てだった。追突事故の加害者が不起訴になったことに納得がいかなかったBさんは、今年3月13日付で代理人を通して検察審査会に再捜査を申し立てた。調べる中で、警察官による公文書偽造の疑いが発覚。高速道路交通警察隊に異動していた青木被告は、7月31日付で停職3カ月の懲戒処分を受けた。
事故の加害者は、その後の再捜査で罰金の略式命令が出て有罪となった。けがを負った人物が1人か2人かが、加害者を起訴するかどうかの判断に影響を与えたのだろうか。青木被告の捜査書類の処理が、事故の起訴判断にどの程度影響を与えたかは不明だが、いずれにせよ検察審査会への申し立てで警察や検察の捜査や不起訴の判断に瑕疵があったことが示された。もしBさんが検察審査会に申し立てなかったら、公文書偽造は発覚しないままだった。
青木被告は「客観的に虚偽ではない」と法廷で争っている。これに対し、県警は公文書偽造があったと認定、懲戒処分を下した。「清廉潔白」と「無謬性」が一般の公務員以上に求められる警察は、絶対的な階級組織であり、人事は減点方式のため、懲戒処分を受けた者は昇格できず、居場所もなくなり、軒並み「自主退職」を余儀なくされる。
青木被告が上の決定に異議を唱え無罪を主張したのは異例。法廷で何を語るかが注目だ。次回公判は福島地裁で11月19日午後2時半から開かれる。