田村市の路上で2020年11月、当時17歳の女性にわいせつな行為をしてけがを負わせたなどとして強制わいせつ致傷などの罪に問われた伊達市の元会社員鈴木喜也被告(39)に7月17日、福島地裁で開かれた裁判員裁判で懲役3年、保護観察付き執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決が言い渡された。
3年半も野放しだった痴漢会社員

夜間に見知らぬ女性にわいせつ行為を繰り返していた鈴木被告の一連の犯行は、伊達市での住居侵入をきっかけに明らかになった。背景には不倫がバレて妻から離婚を突き付けられたことによるストレスがあった。ストレスと性欲解消をこじらせて犯行はエスカレートし、被害者が増え続けた。
鈴木被告は、古い順から田村市での強制わいせつ致傷、伊達市での強制わいせつ、同市での住居侵入の三つの罪に問われた。黒のスーツに紺色のネクタイ姿で法廷に現れた鈴木被告は、坊主頭で黒縁眼鏡を掛け、おとなしく神経質そうな印象を受けた。見ず知らずの人にわいせつ行為をするような大胆さは感じられない。犯行に至ったのは、大半が夜中に酒を飲んで気が大きくなった時だった。
強制わいせつ致傷事件は2020年11月13日午後11時ごろ、田村市船引町のJR船引駅から出て来た当時17歳の女子高校生の後をつけ、人けのない場所にたどり着いたところを後ろから抱きつき、履いていた下着を剥ぎ取った。強奪する過程で女子高校生は左ひざに蹴られたような痛みを感じ、2日間歩けないほどのけがを負った。

鈴木被告は大学院を卒業した後、県内に営業拠点がある電力会社に勤務。田村市での犯行の際は市内に住み、郡山市の事務所に通っていた。
犯行のきっかけは、この年に妻に離婚を突き付けられて一人暮らしを始め、ストレスが溜まっていたことにあったが、離婚は自業自得の面がある。前年に複数の不倫がバレた。元妻は探偵事務所に不倫調査を依頼し、証拠を突き付けた後は、田村市船引町の自宅で家事など必要最低限のことはするが会話のない「仮面夫婦生活」が始まったという。離婚調停が成立し、思い出の自宅で寂しい一人暮らしが始まった。
鈴木被告は法定で「妻が探偵に大金を払ってまでの覚悟で着々と離婚準備していたのがショックだった」と語った。
もともと他者とのコミュニケーションが不得手だったと振り返った鈴木被告。本人によると、離婚のショックによるストレスと性欲が溜まったことで、2020年8月下旬~9月ころに、船引駅前で見ず知らずの女性に背後から迫り、足を触るという初めてのわいせつ行為をした。
後ろめたさは感じつつも、犯行が特定されず立件されなかったことで通り魔的わいせつ行為はエスカレートした。当時通勤に使っていた船引駅は、いつしか降車したターゲットを物色する場になった。強制わいせつ致傷事件では、被害女性が大きな悲鳴を上げたため、「やりすぎた」と下着を強奪した重大さにようやく気付き、一時的に犯行から遠のいたという。
2021年8月に転勤で伊達市に引っ越した。わいせつ行為は鳴りを潜めていたが、22年の春ごろに不倫相手と切れると、かつての性欲が込み上げてきた。立件された2件目の強制わいせつ事件は翌23年1月31日午後11時55分ごろに起こった。JR伊達駅の終電を降りた女性(当時20歳)を尾行し、人けのないところで後ろから抱きつき、唇を相手の唇に押し付けた。被害女性に手で跳ねのけられると、伊達駅方面に逃走した。
鈴木被告によると、再犯のきっかけは「寂しさ」だったという。
鈴木被告は法廷で「元妻と自分が好きだったバンドのライブを聞いた帰りだった。昔を思い出し、独り身の自分が寂しくなった」と述べた。この時も酒を飲み、気が大きくなっていたという。
その日から伊達駅周辺は、3年前の船引駅周辺と同じようにターゲットを物色する場になった。
鈴木被告によると、立件はされていないが、それ以降10件くらい目に留まった女性を尾行し、足を触ったり抱きついて服の上から胸を触るなどの犯行を3回はしたという。
「ストレスと性欲がきっかけ」という鈴木被告の犯行が止まったのは、伊達市の強制わいせつ事件から7カ月後の2023年8月、市内の女性のアパートに侵入を繰り返し足が付いたからだった。
鈴木被告はジョギングをしていた7月下旬に、ある女性をターゲットにした。尾行して住居を突き止め、8月1日に塀を乗り越えてベランダに侵入。部屋の様子を盗撮した。同3日、再び侵入した際に女性に気づかれた。鈴木被告の自宅近くでわいせつ事件が頻発していたことから事件が結びつき、今年1月に逮捕された。
鈴木被告は逮捕・起訴を受けて電力会社を懲戒解雇され、退職金は半額だけ支給された。自己資金で被害者3人に示談を持ち掛け、うち2人からは前向きな返事をもらっているという。
自業自得で離婚を突き付けられ、ストレスから犯行を繰り返したのは身勝手としか言いようがない。被害者たちの中には、被害を打ち明けることを苦痛で恥と感じ、被害届を出すのを躊躇して被害申告に時間が掛かったケースもあった。いくつかのわいせつ行為は埋もれ、鈴木被告の転居もあったため、最初の犯行から逮捕まで3年半も野放しになった。