【塙強盗殺人事件】裁判で明らかになったカネへの執着

【塙強盗殺人事件】裁判で明らかになったカネへの執着

(2022年10月号)

 塙町で75歳の女性を殺した後、奪ったキャッシュカードで現金計300万円を引き出したとして強盗殺人などの罪に問われていた鈴木敬斗被告(19)に9月15日、求刑通り無期懲役の判決が言い渡された。被告は被害者の孫。同17日付で控訴した。4月の改正少年法施行後、県内で初めて「特定少年」として、実名で起訴、審理された。判決は更生を期待する少年法は考慮せず、あくまで重罪に見合う刑罰を科した。被告は趣味の車の修理のため、手軽にカネを得ようと殺したと話すが、身勝手としか説明がつかない動機だ。なぜ祖母を殺そうとまで思ったのか、判決では触れられなかった事実を拾う。

逮捕見越して散財の異常性

 裁判で明らかとなった事件の経過をたどる。被害者は塙町真名畑字鎌田に住む菊池ハナ子さん。主要道路から離れた山奥の平屋に独身の長男と2人で暮らしていた。事件は今年2月9~10日の深夜に起こった。菊池さんと長男は、9日午後5時半ごろ夕食を取り、同9時半ごろまでテレビを見るなどして過ごした。

 長男は深夜勤務のため、同9時35分ごろに自家用の軽トラックで家を出た。長男の「行ってくっから」に「おう」と返す菊池さん。長男が最後に見たのはパジャマを着てテレビを見てくつろぐ姿だった。長男が出ていった後、鈴木被告は矢祭町内の自宅から菊池さんの家に車で向かった。車はレンタカーだった。

 犯行時刻は同11時45分ごろから翌10日の午前0時17分ごろの間。 茶の間のタンスの引き出しに入っていた現金を盗むのが目的だった。凶行に及ぶ約1時間前の9日午後11時ごろには、コンビニで防水の黒手袋を購入。自宅に戻り、倉庫から凶器となる長さ約55㌢、直径約3・2㌢、重さ約420㌘の鉄パイプを持ち出した。パイプは改造・修理中の自家用車の排気マフラーに使うために買った材料の残りでステンレス製。殴打に使った部分は斜めにカットされていた。法廷内では銀色に輝き、アルミホイルのような見た目だった。殴打で数カ所へこんだ部分が鈍く乱反射していた。

 鈴木被告は建築板金業を営む一人親方で趣味は車の改造だ。改造に使う部品や工具を買いそろえるためにカネが必要だったと動機を話す。犯行現場までの移動にレンタカーを使ったのも、被告によると自家用車を修理のために分解しており、乗ることができなかったからだという。

 鈴木被告はレンタカーの尾灯を消したまま、矢祭町の自宅から塙町まで車を走らせた。道路沿いの家の防犯カメラが車を記録していた。尾灯をつけないままヘッドライトのみを光らせて走るのは、無灯火のままライトのレバーを手前に引きパッシングの状態を続けることで可能だ。「車好き」なら思いつくのは当たり前のことなのだろう。

 鎌田集落に入った。菊池さん宅まで続く道は車1台通るのがやっとの幅で、すれ違いは困難だ。菊池さん宅近くの道の待避所に車を止めた。玄関前で飼っている犬に吠えられるのを避けるためだった。夜遅いので他の車はまず通らない。黒いパーカーの上に黒い合羽を着て黒手袋をはめ、夜陰に紛れて道を急いだ。手には鉄パイプを持っていた。菊池さん宅南側にある駐車場には菊池さんの長男が運転する軽トラが見当たらない。菊池さんは運転免許証を持っていないので、少なくとも長男はいないと鈴木被告は推測した。

 犬が吠えるのを恐れた鈴木被告は南側の玄関からは入らず、北側に回り、掃き出し窓から家に侵入しようとした。掃き出し窓は無施錠だった。侵入した際、利き手と反対の右手には鉄パイプを持っていた。寝室は豆電球一つしか明かりがついておらず薄暗かった。鈴木被告は、菊池さんが侵入者に気づき布団から上体を起こしたのが分かった。こちらを見ている。鈴木被告は右手の鉄パイプを菊池さんがいるところへ夢中で振り下ろした。5回程度殴った後に自分のしたことに気づいたが、なおも殴り続け、少なくとも計15回殴打した。

 菊池さんは頭や上半身から血を流し、倒れこんだ。倒れた時に背中を電気毛布のスイッチ部分にぶつけ、背中の肋骨も折れていた。ふすまには打撃でついたようなキズが残り、障子も破れていたが、鈴木被告は覚えていないと法廷で語った。長男が帰宅した際、菊池さんはまだ息があり救急搬送されたが、出血性ショックで亡くなった。

「足が付くのは分かっていた」

 「子ども時代に来た時は、ばあちゃんはここでは寝てなかったはずだ」と思った鈴木被告にとって、菊池さんが北側の窓に面した部屋にいたのは想定外だったという。だが、本来の目的である現金を盗もうと、うめき声を出して倒れている菊池さんを残して隣りの茶の間に向かった。タンスの引き出しには現金はなかったが、巾着袋の中に通帳とキャッシュカードがあった。暗証番号が書かれた紙も入っていた。巾着袋を奪うと、鈴木被告は侵入したのと同じ掃き出し窓から外に出て、止めていた車に戻った。犬は吠えなかった。

 事件から約3週間後の3月1日、鈴木被告は盗んだキャッシュカードを使って現金計300万円を引き出したとして窃盗容疑で棚倉署に逮捕された。同22日には、前述した強盗殺人の罪で再逮捕。家裁郡山支部から逆送され、地検郡山支部が強盗殺人罪などで起訴し実名を公表、裁判員裁判で成人と同じように裁かれたというわけだ。

 逮捕されるまでの間、鈴木被告には罪に向き合う機会もあったが、傍目には自身の行為を悔いていない行動を取った。まずは証拠隠滅。犯行日の2月10日に茨城県内の川で、橋の上から凶器の鉄パイプを捨てた。菊池さんの葬式にも平然と出席していた。奪ったキャッシュカードで同10~16日の間に県南、いわき市、茨城県内のコンビニのATМで18回に分けて計300万円を引き出した。車の部品や交際相手にブランド品や服を買ったほか、クレジットカードの返済に使い切った。鈴木被告は「足が付くのは分かっていた。捕まるまで自由にしようと思った」と法廷でその時の心情を振り返った。

 ここで鈴木被告の成育歴を振り返る。2002年生まれの鈴木被告は3人きょうだいの2番目。小学5年生の時に両親が別居し、2015年に離婚した。きょうだい3人は母親が引き取った。父親は別の家庭を持っている。殺害した菊池さんは父方の祖母に当たり、菊池さんと暮らしていた長男は、鈴木被告にとって伯父に当たる。

 鈴木被告は矢祭町内の中学校を卒業後、建築板金の職人として茨城県で働き始めた。職場の人間関係に悩み、矢祭町に戻ってきた。技術を生かそうと町内の建築板金業で働き、昨年秋に独立して一人親方となった。平均月40万円は稼いでいたという。町内の母方の実家で母親とは別に暮らしていた。

 収入は、経費や健康保険代、税金などが引かれるとしても、家賃を支払う必要がないと考えれば十分な額だ。それでも菊池さんに十数万円の借金をしていた。借金について、鈴木被告は「車や仕事道具に出費し管理ができなかった」「ばあちゃんには甘えているところがあった」と述べている。

 菊池さんの口座に大金があると知ったのは、状況から見て1年前にさかのぼる。矢祭町に帰ってから、菊池さんの資金援助を得て運転免許証を取得した被告は、昨年9月に運転ができない菊池さんに頼まれ、塙町内の金融機関へ現金を引き出しに連れていった。ATMの前で、操作方法を菊池さんに教える鈴木被告の画像が残されている。そこで、口座にある金額を知ったというわけだ。

 今年1月20日には、鈴木被告は交際相手を連れて菊池さんを訪ね、カネを無心している。「妊娠したので検査費用が必要」と話したという。 この話は、菊池さんが、栃木県へ嫁いだ自身の妹に電話で伝えていた。殺害される3日前の2月6日の電話では、1月の借金は「断った」と話した。交際相手とのその後について、裁判官が鈴木被告に質問したが「自分はもう分からない」と答えた。裁判中にそれ以上聞かれることはなかった。

情状酌量は一切なし

情状酌量は一切なし【事件現場となった被害者の自宅】
事件現場となった被害者の自宅

 鈴木被告は「車の修理代にカネが欲しかった」と言っており、菊池さんに断られた時点で盗むしかないと考えた。これだけでも身勝手ではあるが、鉄パイプを持ち込んだことで取り返しのつかない事件を起こしてしまったというわけだ。

 菊池さんの次男に当たる鈴木被告の父親は、弁護側の証人として出廷し、「事件については整理できず何とも言えない」と複雑な立場にある心情を話した。「バカ親と言われるのは仕方ない」と断ったうえで「家族間の事件」と捉えていると打ち明けた。そして、「できれば息子が罪を償った後は引き取りたい」と訴えた。母親も出廷し、幼少期から暴力とは無縁だったと証言した。

 一方、同居する母親を殺された長男は「家族間の事件」では済まないと代理人を通して思いを伝えた。鈴木被告にとって「かあちゃん(菊池さん)は弱く、身近で簡単にカネを取れる存在だった」と指摘し、「どうして高齢の女性にあんなひどいことができるのか。敬斗は社会一般では私の甥かもしれないが、私からすれば『犯人』に他ならない」と刑務所行きの厳罰を求めた。

 地裁郡山支部で9月15日に開かれた判決公判には約35の一般傍聴席に対し70人近くが抽選に並んだ。筆者は同7日の初公判と、翌8日の被告人質問は傍聴券を手にしたが、肝心の判決は約2倍の倍率に阻まれた。判決は抽選に当たった傍聴マニアから聞いた。彼によると、

 「少年だとか情状酌量とかは一切なかったね。裁判長は判決とは別に、被告に『立ち直れると期待している』と言っていたよ。でも、判決は無期でしょ。それはそれ、これはこれなんだろうね」

 強盗殺人罪の法定刑は死刑か無期懲役だ。無期懲役は仮釈放が認められるまでに最低30年はかかると言われている。鈴木被告は仙台高裁に控訴中。まだ若い被告にとって納得できない判決だろう。

 鈴木被告の最後の支えとなるのは、証人として出廷した両親しかいない。最後まで味方でいてくれる肉親の温かさを感じれば感じるほど、鈴木被告は、最も大切で頼りにしていた家族(菊池さん)を殺された長男の気持ちに向き合わなければならない。一度は自分自身を徹底的に否定する心情になることは必至で、全人生に付きまとうだろう。

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