【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人

【小野町特養殺人】容疑者の素行を見過ごした運営法人『特別養護老人ホーム「つつじの里」』

介護業界の人手不足が招いた悲劇

 小野町の特別養護老人ホーム「つつじの里」に入所していた植田タミ子さん(94)を暴行・殺害したとして田村署小野分庁舎は12月7日、同施設の介護福祉士・冨沢伸一容疑者(41)を逮捕した。内情を知る人物によると、同施設では以前から容疑者に関する問題点が上司に告げられていたが、きちんとした対応が行われていなかったようだ。事件を受けて行われた県と同町の特別監査でも、運営状況に問題が見つかった。

*脱稿時点で冨沢容疑者は起訴されていないため、 この稿では「容疑者」と表記する

 「つつじの里」は2019年9月に開所。全室個室・ユニット型で定員29床。同施設を運営するのは社会福祉法人かがやき福祉会(小野町谷津作、山田正昭理事長)。

冨沢容疑者(同施設のホームページより)
冨沢容疑者(同施設のホームページより)
事件が起きた【小野町】特別養護老人ホーム「つつじの里」
事件が起きた「つつじの里」

 事件は容疑者逮捕の2カ月前に起きていた。

 昨年10月9日、個室のベッドで植田さんが亡くなっているのを冨沢容疑者が発見し、同施設の看護師に連絡した。嘱託で勤務する主治医の診断で、死因は「老衰」とされた。しかし、不審に思った施設関係者が翌日、警察に通報。警察は遺族から遺体を引き取り、11日に司法解剖を行った結果、下腹部などに複数のあざや皮下出血が見つかった。死因は一転して「外傷性の出血性ショック」に変わった。

 第一発見者の冨沢容疑者は10月8日夜から9日朝にかけ、同僚と2人で夜勤をしていた。警察は10日の通報で、冨沢容疑者による暴行の可能性を告げられたため、本人や職員を任意で事情聴取したり、防犯カメラの映像を解析するなど慎重に捜査を進めていた。同施設は事件後、冨沢容疑者を自宅待機させていた。

 冨沢容疑者は任意の事情聴取では事件への関与を否定。しかし、逮捕後の取り調べでは「被害者を寝付かせようとしたが、なかなか寝ずイライラした」「排泄を促すため下腹部を圧迫したが殺そうとはしていない」(朝日新聞県版12月10日付)と暴行を一部認めつつ殺意は否認した。

 「殺意はなかった? じゃあ、体中にあざができていた理由はどう説明するのか。殺意がなければ、あれほどのあざはできない」

 そう憤るのは、亡くなった植田タミ子さんの長男で須賀川市の会社役員・植田芳松さん(65)。芳松さんによると、遺体が自宅に戻った際、首元にあざを見つけ不審に思ったが、直後に警察が引き取っていったため体の状態を詳しく見ることができなかった。司法解剖を終え、あらためて自宅に戻った遺体を見て、芳松さん家族は仰天した。

 「(司法解剖した)腹は白い布が巻かれていて分からなかったが、腕、脚は肌の白い部分が見えないくらいあざだらけだったのです」(同)

 報道によると、冨沢容疑者は下腹部を押したと供述しているから、司法解剖された腹にも相当なあざが残っていたと思われる。

 「誰の目も届かない個室で、母は何をされていたのか。あれほどのあざは押した程度ではできない。日常的に殴る蹴るの暴行を受けていたのではないか」(同)

 そう話すと声を詰まらせ、その後の言葉は出てこなかった。実は、芳松さんはある後悔を拭えずにいた。

 タミ子さんが亡くなる3日前(10月6日)、ペースメーカーの検査のため病院に付き添った芳松さんは、タミ子さんの両手にあざがついているのを見つけた。しかし、原因を尋ねてもタミ子さんは答えなかった。

 「施設内での出来事や生活の様子は話すのに、あざのことを聞くと口ごもって何も言わなかった」(同)

 その時は妙だなと思うだけだったが、事件が起きてみると「母の帰る場所は『つつじの里』で、そこには常に冨沢容疑者がいるから、誰かに告げ口すればもっと酷い目に遭わされるかもしれない。だから怖くて何も言えなかったのではないか」という推察が芳松さんの頭に浮かんだ。

 原因をきちんと究明しておけばよかった――息子として、そんな気持ちにさいなまれている。

 母親の命を奪った冨沢容疑者は当然許せないが、芳松さんは同施設の対応にも疑問を感じている。

 「母の世話は主に冨沢容疑者が見ていたのかもしれないが、他の職員だって世話をしていたはず。その際に母の体を見れば複数のあざに気付いただろうに、それが見過ごされていたのが不思議でならない」

 逆に、気付いていながら何の対処もされなかったとすれば、それもそれでおかしな話だ。

 最たる例の一つが、タミ子さんの死因をめぐる診断だ。前述の通り司法解剖では「外傷性の出血性ショック」と診断され、芳松さん家族が見ても全身あざだらけだったことは一目瞭然なのに、同施設の主治医はタミ子さんの死亡直後に「老衰」と診断していた。

 これについては、町内からも「きちんと診断したのか」と疑問の声が上がっており、「主治医は運営法人と親しく、運営法人にとって不都合になる診断を避けたのでは」というウワサまで囁かれている。

 主治医は町内で内科、小児科、外科などからなるクリニックを開設している。死因を「老衰」とした理由を聞くため同クリニックを訪問したが、「聞きたいことがあれば当院の弁護士を通じて質問してほしい」(看護師)と言う。ところが、弁護士の名前を尋ねると「手元に資料がなくて分からない」(同)と呆れた答えが返ってきた。

 「冨沢容疑者をはじめ職員の教育は行き届いていたのか、死亡診断書の件に見られるように運営体制に不備はなかったのか等々、施設側にも問題はなかったのか見ていくべきだと思います」(芳松さん)

 タミ子さんは2021年6月に同施設に入所。だが、新型コロナウイルスの影響で入所者以外は施設内に立ち入ることができず、芳松さんも着替えなどを届けるため入口で職員に荷物を手渡す程度しか同施設に近付いたことはなかった。タミ子さんと会えるのは、入所の原因となった脚の骨折やペースメーカーの検査で定期的に通院・入院する時の付き添いだった。その際、同施設から病院にタミ子さんを送迎していたのが冨沢容疑者とみられる。「みられる」と表記したのは、

 「施設内に入れないので、どの職員が母の世話をしているのか分からなかった。事件後、新聞に載った冨沢容疑者の写真を見て『確か病院に送迎していた人だ』と思い出した。名前も報道で初めて知った」(同)

告げられていた問題点

 冨沢容疑者とはどのような人物なのか。

 同町内にある冨沢容疑者の自宅を訪ねると、玄関先で女性から「何も分からないんで」と言われた。部屋の奥からは高齢男性の「うちは関係ないぞ」という声も聞かれた。

 同施設がマスコミ取材に語ったところでは、冨沢容疑者は開所時から介護福祉士として勤務。事件当時は職員の勤務調整や指導などを行うユニットリーダーに就いていた。

 同施設は冨沢容疑者を「物静かでおとなしく真面目だった」「勤務態度に問題はなく、入所者とのコミュニケーションも取れていた」と評している。だが、内情を知る人物はこれとは違った一面を指摘する。

 「『つつじの里』に来る前に数カ所の介護施設で勤務経験があるが、そのうち何カ所かで問題を起こし辞めたと聞いている。『つつじの里』に勤務する際、採用担当者は『こういう人を雇って大丈夫か』と心配したそうだが、運営法人幹部のコネが効いて採用が決まったという」

 これが事実なら、冨沢容疑者には事件を起こすかもしれない素地があったことになる。さらに言うと、タミ子さんが亡くなった直後に施設関係者がすぐに警察に通報したということは、内部で問題人物と見なされていた、と。

 実際、2021年春ごろには冨沢容疑者が担当していた別の入所者の腕にあざが見つかった。当時の内部調査に、冨沢容疑者は「車いすに乗せる際に力が入ってしまった。虐待ではない」と説明したが、

 「職員たちはその後、冨沢容疑者に関する問題点を上司らに告げていた。しかし、施設側は真摯に聞き入れず、冨沢容疑者に口頭で注意するだけだったそうです」(同)

 昨年春には、そんな運営状況に嫌気を差した職員数人が一斉に退職したこともあったという。

 「辞めた職員からは『問題点を指摘しても、上層部がそれをどの程度深刻に受け止めたか分からない』という不満が漏れていた」(同)

 施設顧問とは、事件後に取材対応などを行っている阿部京一氏のことだ。阿部氏は小野町の元職員で、大和田昭前町長時代には副町長を務めていた。しかし、2021年3月に行われた町長選で大和田氏が現町長の村上昭正氏に敗れると副町長を辞職。その後就職したのが、同年9月に開所した「つつじの里」だった。

 阿部氏は同町職員時代、健康福祉課に勤務したことがあるが、専門知識や現場経験を豊富に備えていたかというと疑問が残る。そうした心許なさが、職員から問題点を指摘されても深刻に受け止め切れない原因になったのかもしれない。ちなみに、運営法人理事長の山田正昭氏も元政治家秘書。

 施設側の対応のマズさという点では、本誌が芳松さんを取材した12月中旬時点で、同施設は遺族に事件に関する説明をしていなかった。まだ容疑者の段階で、犯人と断定されたわけではないとはいえ、でき得る範囲での説明や謝罪は行うべきではなかったか。芳松さんの義母はタミ子さんと同い年で、昨年夏に別の施設で亡くなったが、この時施設側から受けた温かみのある対応との差も同施設への不信感を増幅させている。

 今回の事件を受け、同町は12月16日、県と合同で同施設に特別監査を行った。同町総務課によると、本来はもっと早く行う予定だったが、同施設で新型コロナウイルスのクラスターが発生し、後ろ倒しになった。

 社会福祉法人に対する指導監査には一般監査と特別監査がある。一般監査は実施計画を策定したうえで一定の周期で行われる。これに対し特別監査は、運営等に重大な問題を有する法人を対象に随時行われる。

 特別監査が行われると、対象法人に改善勧告が出され、勧告に従わないと行政処分に当たる改善命令、業務停止命令、それでも従わないと最も重い解散命令が科される。

 「特別監査では施設内でどのような生活を送っているか、虐待や拘束を受けていないかなどを入所者から直接聞き取ります。書類や記録簿などもチェックし、専門家の意見を仰ぎます。町は介護保険法、県は老人福祉法の観点から調査します。改善勧告の時期は明言できないが、多くの町民が心配しているので早急に結論を出したい」(同町総務課)

規定より少なかった職員数

 そして行われた特別監査では《入所者の虐待防止のための研修は行われていたものの、対面での研修はなく、書類を回覧するだけで済ませていた》《施設の規定では職員数は14人以上必要としていたが、現時点では10人だけで入所者に十分なサービスを提供できていない可能性があることもわかった》(朝日新聞デジタル版12月18日付)として、県と同町は同施設に対し虐待防止研修の強化や職員の増員を指導した。

 同施設に取材を申し込むと、運営法人から「施設顧問に対応させる」と言われたが、締め切りまでに阿部氏から連絡はなかった。

 介護業界は重労働なのに低賃金で慢性的な人手不足に陥っている。同施設も運営規定で職員14人以上を適正規模と謳っているが、実際は10人しかいなかった。

 求人を出しても募集は来ない。今の給料より高い求人があると、職員は即移籍してしまう。そうなると素行に問題のある職員でも、人手の充足を優先し、雇用が継続されてしまう実態がある。その結果、トラブルが起こり、余計に人手不足になる悪循環に陥っている。

 すなわち今回の事件は、介護業界の弊害が招いたものと言える。

 前出・芳松さんは「誰もが特別養護老人ホームを利用する可能性がある。高齢化が進む社会にとって必要不可欠な施設を安心・安全に利用できるよう事件の原因究明と再発防止策が求められる」と指摘するが、まさしくその通りだ。

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