今年2~4月に掛けて郡山市内の女子学生寮に複数回侵入したとして同市富田町向山の塾講師(当時)羽山達也(30)=本籍双葉町=が逮捕・起訴された。住居侵入罪と邸宅侵入罪(人が日常住んでいない場所への侵入罪)を問う公判が地裁郡山支部で開かれている。
暗証番号式ロックを突破した盲点
羽山被告は4月に女子学生寮に侵入した容疑で逮捕されたのを皮切りに、別の日にも侵入した容疑で再逮捕された。直近6月3日には、昨年12月上旬に市内の女性用トイレにスマートフォンを設置して撮影したとして性的姿態撮影処罰法違反の疑いで4度目の逮捕となった。盗撮行為には建造物侵入が付随することが多い。羽山被告が女子学生寮に侵入したのは、小型カメラを設置して盗撮するためだった。
6月6日に地裁郡山支部で開かれた公判に出廷した羽山被告は線が細く、髪は黒々としたまだ若い男だった。髪は伸びて目まで掛かり、白いマスクを着けていた。ねずみ色のジャージに身を包み、脇を2人の警察官に固められていた。
同日時点では、女子学生寮への住居侵入罪と邸宅侵入罪の起訴内容を審理するにとどまった。女性用トイレでの盗撮罪については後日改めて審理する見込み。
読み上げられた起訴状によると、2月23日(金・祝日)午前0時19分ごろから翌24日(土)午前0時26分ごろまでの間、郡山市の医療専門学校が借り上げて女子学生寮にしているアパートに侵入し、ドアの鍵の暗証番号を解除して女性の部屋に3回に渡って侵入した。別の起訴状によると、約1週間後の3月5日(火)午前0時40分ごろに同じ女子学生寮に侵入した。
菊地真帆裁判官から起訴内容を認めるかどうか問われ、羽山被告は「間違いありません」と答えた。
女子学生寮ということもあり、鍵は暗証番号式でセキュリティは整っているはずだった。だが羽山被告は裏をかいた。
羽山被告の目的は女子学生寮に入居する女性の部屋に侵入して盗撮カメラを設置することだった。今年2月ごろから、小型カメラを目的の部屋の前の廊下の天井にある蛍光灯の土台に設置して、入居者たちが暗証番号を入力するのを盗撮した。
使ったカメラは「モバイルバッテリーカメラ」と呼ばれ、スマホのバッテリーに偽装して人知れず撮影ができる。本来は捜査機関などが証拠集めに使う物だが、実態は盗撮に悪用されているケースがほとんどだろう。ネット通販で入手できる。製造者、販売者は悪用の責任を取れるのか。
難なく暗証番号を知った羽山被告は2月23日午前0時過ぎに女性が住む部屋に侵入し、リビングのコンセントに暗証番号を盗み見たカメラとは別の小型カメラを差し込んだ。プラグやバッテリーに偽装し、遠隔で映像を送れるタイプのカメラだろう。入居者たちがカメラを抜き取ったため、羽山被告は盗撮できず、同日深夜に再び侵入した。リビングのテーブルに外された盗撮カメラが置かれていたのを発見した羽山被告は、今度は女性の個室に侵入してコンセントに差し込み、一端その場を後にした。
1時間もしないうちに、羽山被告は「現金を渡せば女性が性行為をしてくれるかもしれない」と思い、現金1万円を入れた封筒にメッセージを書き、再び侵入して個室のテーブルに置いた。メッセージは「鍵を開けておいて」という内容だが、汚辱と侮蔑、ストーカー心理が込められた表現が書かれているため、記事にするのが憚られる。
住居侵入だけでも重大な罪だ。居住者は侵入者とばったり遭遇したら、証拠隠滅を目的に暴行を受けて脅されたり殺されたりする危険もある。侵入者が置いていった現金入り封筒は恐怖以外の何物でもないだろう。次なる被害から逃れるため、被害者たちは引っ越しを迫られた。
羽山被告は3月4日から5日の夜に掛けて、無施錠の入り口から女子学生寮に侵入し、再び女性の居室に侵入しようとしたが、女性は3日前の同1日に学校に相談し、暗証番号が変えられていた。羽山被告はそれでも諦めず、近くに停めていた車に戻ってモバイルバッテリーカメラを天井に設置した。一連の犯行が、学校側が共用部分に設置した防犯カメラに記録され、羽山被告は逮捕された。自分は盗撮用カメラを設置していたのに、防犯カメラが設置されているとは思わなかったのだろうか。
次回公判は7月18日午前10時に開かれる予定。女性用トイレでの盗撮罪が審理される見込みだ。
日本版DBSが開始
羽山被告は女子学生寮にたびたび侵入し盗撮を繰り返していた点、昨年12月時点で女性用トイレに侵入し盗撮カメラを設置した余罪があった点から、侵入盗撮の常習犯である可能性が高い。近年、カメラは小型化しハイテクになっているので露見しにくくなっている。明らかになっていない盗撮は他にもあると思われる。
羽山被告は4月の1回目の逮捕時には学習塾の講師だった。起訴後は無職になっているので、塾から解雇されたか自ら辞職したとみられる。当該塾に被害者はいなかったのかどうかが、目下子どもを通わせる保護者の関心事だ。
羽山被告が問われている住居侵入罪は盗撮目的だったため、性犯罪に付随して犯した罪だ。塾講師という教育関係者が起こした性犯罪は、より重大な結果を及ぼす。6月19日には、子どもと接する職場で働く人の性犯罪を確認する制度「日本版DBS」を盛り込んだ「こども性暴力防止法」が成立した。
DBSとは、Disclosure and Barring Serviceの略で「犯罪証明管理および発行システム」と訳される。英国で2012年に確立された。日本では、過去に子どもにわいせつ行為をした教員が他県で教員として採用され、再び子どもにわいせつ行為をした事件が発生し、性犯罪歴を共有する重要性が高まった。
制度開始は重要な一歩だが課題は残る。学校や保育所、児童相談所が職員を採用する際に性犯罪歴を照会するのは義務だが、学習塾や放課後児童クラブ、スポーツクラブなど民間事業者は任意であることだ。性犯罪歴を照会しない学習塾であれば、前科持ちの塾講師は犯罪歴を申告することなく再就職できる。
他にも問題がある。罪を認めて被害者と示談が成立し、不起訴となった事件はデータベースに記録されない点だ。過去に性犯罪を行ったかどうかが重要なのに、事実を認めて不起訴になったら記録されないようではデータベースの意味がなくなる。
さらに、男子に対する昔の性加害は問われない可能性もある。10年以上前は男子へのわいせつ行為は「いたずら」と軽くみられ、教育現場では犯罪とみなされなかった。旧ジャニーズ事務所創業者による性虐待が英BBCに報じられることで、教育現場や職場の考えが改まった。被害者が男子であろうが性的少数者であろうが犯罪と扱われるようになったのだ。
福島市内のある学習塾関係者は、男子へわいせつ行為をしたにもかかわらず学習塾に勤めている講師がいると打ち明ける。
「市内のある学習塾には以前公立中学校で男子生徒にわいせつ行為をして停職処分を受けた元男性教諭が勤めています。当時は男子に対するわいせつ行為は『いたずら』と軽く見られ、強制わいせつに問われず懲戒処分で済んだ。採用した塾では、子どもと1対1で接しないように取り決めているようですが、実効性があるかは疑問です。一般的に教室にはカメラが設置してありますが、塾は個別指導を売りにしており、横に立って教える場合も多く、死角ができやすい」
また子どもの支援団体を運営する県内の男性は、ボランティアを希望する男性に闇を感じるという。ボランティア団体が日本版DBSを利用するのは任意となる。
「素性を明かさずに手伝いたいと言ってくる中高年の男性が割といます。ボランティア活動は頻繁にあり、近場だとありがたいので居住地を尋ねると、答えないし名前も明かさない。かろうじて教えてくれた人は、福島県に来るのに何時間も掛かる県外在住でした。遠くから来てもらうのは申し訳ないので断ると、『それでも来たい』と言う。どのような手伝いができるのかと尋ねると、子どもたちに勉強を教えたり一緒に遊んだりと触れ合う仕事にこだわります。素性を明かさないボランティア希望者が相次ぎ、不信を抱いたので、採用には慎重になっています」(子ども支援団体の運営者)
支援団体の多くは民間だ。人員と資金が乏しいので、ボランティアや寄付を呼び込もうとネットやSNSで活動を発信しているところが多い。この運営者は「ネットに写真を上げたのが仇になった」と振り返る。ネットに上がっている活動写真から子どもやボランティアの大学生の人数を把握し、それを性的対象に見るボランティア希望者(全員男性で大半が素性を明かさなかった)を引き寄せたと考える。
日本版DBSにより、子どもに関わる仕事から性犯罪歴がある人物を遠ざける仕組みは法制化されたが、不備は多い。子どもが再び被害に遭うのを避けるには、現状では「口伝えによる情報共有」が欠かせないということだ。