本誌でこの間報じてきた小野町の特別養護老人ホーム「つつじの里」で発生した傷害致死事件。2022年10月に入所していた須賀川市の女性(94)=当時=を暴行し死亡させたとして起訴された同施設の元職員冨沢伸一被告(42)は昨年11月、一審の地裁郡山支部で行われた裁判員裁判で懲役8年を言い渡されたが、判決を不服として控訴していた。
控訴審の初公判は4月16日、仙台高裁で開かれ、冨沢被告の弁護側は事実誤認と量刑不当を主張、検察側は控訴棄却を求めて即日結審した。判決公判は5月16日に開かれる。
「事実誤認、量刑不当と聞いて呆れた」と話すのは小野町内の介護事業関係者だ。
「冨沢氏は一審で一貫して無罪を主張していたので『警察、検察、裁判員は事実を見過ごしている』、『懲役8年は重すぎる』と言いたいのだろうが、反省の様子が一切みられないのは本当に腹が立ちます」(同)
一方、つつじの里を運営する社会福祉法人「かがやき福祉会」をめぐっては、県と小野町が特別監査を実施。町は昨年10月、介護保険法に基づき同特養に今年4月18日まで6カ月間の新規入所者受入停止処分を科し、同法人に改善勧告を出した。
かがやき福祉会は2018年設立。事件時の役員は理事長・山田正昭、理事・猪狩公宏、阿部京一、猪狩真典、斎藤升男、先﨑千吉子の各氏。資金収支内訳表を見ると、23年3月期は620万円の赤字。
本誌は今年1月号「運営法人の怠慢が招いた小野町・特養暴行死」という記事で「現在の理事体制で施設の運営が改まるとは思えない」、「今回の傷害致死事件も法人がきちんと対応していれば未然に防げた可能性が高かった」という田村地域の特養ホームに詳しい事情通のコメントを紹介した。
かがやき福祉会がこの記事をどう受け止めたかは分からないが、あらためて法人登記簿を確認すると、理事長の山田氏が今年2月22日付で辞任し、後任には同日付で吉田英一氏が就任していたことが分かった。
吉田氏は元田村市職員で、保健福祉部長などを務めて退職した。本誌はかつて、公職選挙法違反の罪に問われた元田村市長・本田仁一氏が現職時代、同級生だった吉田氏を重用していたと報じたことがある。
それはともかく、理事長交代の背景には何があったのか。
「遅まきながら、今の理事体制では施設の運営は改まらないし、対外的にも示しがつかないと悟ったようです」(前出・介護事業関係者)
社会福祉法人は法人登記簿の役員欄に理事長しか載っていないため、他の理事に変更があったかどうかは現時点で不明。ただ、事件時にマスコミ対応に当たっていた元小野町副町長で施設顧問・阿部京一氏は「既に施設を去っている」(同)というから、前記理事の顔ぶれも一新されているかもしれない。
もっとも、ある評議員に話を聞くと「えっ、理事長が代わったんですか? 法人からは何の連絡もないんだけど」。理事長変更という法人の重要事項が、評議員に一切伝わっていないのは問題だ。
新規入所者受入停止処分が解けるタイミングで、新理事長の吉田氏に今後の施設運営について話を聞こうとしたが「新年度が始まったばかりで忙しく、取材は別の機会にしてほしい」(施設長)と断られた。
前出・介護事業関係者によると、処分が解けるのに合わせ、県に新たな施設運営に関する報告書を提出しなければならず、その作業でバタバタしているのだとか。
人手は相変わらず不足しており、事件の影響で就職活動中の介護従事者からも敬遠されがちというつつじの里。理事交代で安心・安全な施設に生まれ変わることができるのか。