専用のウェブサイトを通して、事業への寄付(出資)を募る「クラウドファンディング(CF)」。県内でも活用する事例が増えている。
いわき市の公益財団法人ときわ会常磐病院は、災害派遣医療チーム「DMAT」が使う救急車「DMATカー」の導入費用をCFで募った。
同市では震災・原発事故以降も台風・豪雨による水害が発生している。そのため、同病院は市内2つ目となるDMATを組織。1月の能登半島地震では、石川県珠洲市に派遣され、病院支援や搬送支援に当たった(本誌2月号参照)。
ただ、隊員として参加した澤野豊明医師によると、「道路状況が悪く、自衛隊のヘリコプターですら飛行できない悪天候で、入院患者を搬送できなかった。医学的ケアが必要な重症患者の長距離搬送はDMATカーでしかできない。当病院を含めて搬送できるチームが少なく、歯がゆい思いをした」という。
ただでさえ医師不足が顕著ないわき市。DMATカーがあれば、同市周辺の大規模交通事故などの局所災害時にも役立つので、同病院では購入を決意した。ただ、心電図モニターや人工呼吸器といった車内用医療設備の購入費も含めると総額約3000万円が必要となり、同病院が単独で負担するのは難しい。
そうした中、現状を広く知ってもらい、「地域医療を皆で支える」ということを形にしたいと考え、CFで資金調達することを決めた。
第一目標500万円、最終目標1500万円に設定し、2月19日から3月末までの期間、寄付を募った。その結果、最終目標には到達しなかったものの、212人が寄付に応じ、1233万円が集まった。
寄付の内訳は、個人部門が3000円70人、1万円100人、3万円16人、5万円13人、10万円12人、30万円3人、50万円3人、100万円4人。法人部門が30万円3団体、100万円1団体。1件当たりの金額の大きさに驚かされる。なお、寄付者にはお礼のメール、DMAT活動報告会への招待などのリターン(報酬)が与えられる。
応援コメントを見ると、市民や市内の企業、取引業者、医師などさまざまな人が寄付していることが分かる。控除が受けられることを見込んで、節税のために寄付した側面もあるだろうが、同市における自然災害対策・地域医療に対する関心の高さを反映していると言える。
新村浩明院長は「1カ月強という期間でこれだけのご寄付を賜ったことはありがたい。(寄付者の)ほとんどはいわき市民の方。幾度も災害に遭われているからこそ、準備の重要性、必要性を理解されたのだと思います。今後、DMATの活動を通して、しっかりとその責任を果たしていきたい」と述べた。
同病院ではDMATカーを今年中に購入し、大規模な自然災害などさまざまな場面で積極的に運用していく考え。納車された際にはあらためてお披露目する予定だ。
ちなみに、同市の企業では、老舗鮮魚店・おのざきも旗艦店「鮮場やっちゃば平店」の大規模改装費用をCFで募り、2カ月間で約500万円の資金を集めることに成功した。
地方においても、CFを使った資金調達の試みは増えつつあり、公共交通、スタジアム建設など、財源がネックとなる事業で挑戦しているケースも見られる。当然事業によって成否は分かれるだろうが、地方においても企業・団体が新事業を立ち上げる際の選択肢の一つとして定着していきそうだ。