【いわき市】サラブレッドの再起支える〝聖地〟【JRA競走馬リハビリテーションセンター】

【いわき市常磐白鳥町】サラブレッドの再起支える〝聖地〟【JRA競走馬リハビリテーションセンター】

(2022年10月号)

 オグリキャップ、トウカイテイオー、テイエムオペラオーなど、競馬史に残る名馬が、現役時代に入所していた競走馬用の温浴・リハビリ施設がいわき市にある。〝競馬ファンの聖地〟ともなっている同施設に足を運んだ。

【いわき市常磐白鳥町】JRA競走馬リハビリテーションセンター

JRA競走馬リハビリテーションセンター地図

 いわき湯本温泉は古くから湯治の名所として栄えてきた温泉地で、有馬温泉(兵庫県神戸市)、道後温泉(愛媛県松山市)と並ぶ日本三大古泉だ。全国的に珍しい泉質で、その効能から「美人の湯」、「心臓の湯」、「熱の湯」とも呼ばれる。

 そんな同温泉の温泉街の西側に、競走馬専用の温泉を備えたリハビリ施設があることをご存じだろうか。

 1963(昭和38)年にJRA競走馬保健研究所常磐支所として開所した「競走馬リハビリテーションセンター」(小平和道所長)だ。屈腱炎・骨折など脚部に疾患を抱える現役競走馬を受け入れ、レース復帰に向けたリハビリの支援を行っている。

 広大な敷地の中には、ダートコースの調教馬場(1周400㍍)をはじめ、脚部に負担をかけず心肺機能を高められるスイミングプール(1周40㍍、深さ3㍍)やウオータートレッドミルなどの設備が設けられている。

馬場では脚の具合を見ながら徐々に速度を上げる
馬場では脚の具合を見ながら徐々に速度を上げる


 療養馬の回復状況に合わせてメニューが組まれ、朝8時から獣医師立ち合いのもと、各施設でリハビリが行われる。取材時の7月中旬現在、16頭の馬が入厩していた。馬房は40馬分あるものの、「人手不足で所属している厩務員に限りがあるので、現在はフルでは受け入れていない。そのため、順番待ちになることもある」(広報担当者)という。


 13時30分からスイミングプールでの調教が始まると、フェンス越しに見学に訪れた競馬ファンや子ども連れが集まってきた。楽し気に泳ぐ姿をイメージしていたが、近くで見ると、「ブルルッ」と鼻を鳴らしながら必死の表情で泳いでいた。厩務員は手綱を引いているほか、さまざまな道具を駆使して歩みを止めないようにしている。療養馬にとってはハードなリハビリの一環なのだろう。

プールで泳ぐ療養馬
プールで泳ぐ療養馬
フェンス外から見守る競馬ファン
フェンス外から見守る競馬ファン

 初めてプールに入るという馬に至っては、厩務員が押しても引いても10分以上その場から動こうとしなかった(もっとも、厩務員にとってこの行動は想定の範囲内で、この日は、水に慣れさせるのが目的だったようだ)。写真やほのぼのニュースの映像で抱いていた涼やかなイメージとのギャップに驚かされた。



 リハビリ終了後には、38~40度の足湯と打たせ湯で疲労を解消する。リハビリにより溜まったストレスを解消する効果もあるという。温泉でリラックスできるのは馬も人間も同じということだろう。

足湯と打たせ湯の温泉でリラックス

 慣れた手付きで馬を連れて回る厩務員はいずれも若く、女性の姿が目立った。競馬業界への就職を目指してここで勤めている人が多いという。

リハビリ支えるスタッフ

リハビリ支えるスタッフ【馬の懐に入り蹄鉄を打ち付ける兒玉さん】
馬の懐に入り蹄鉄を打ち付ける兒玉さん

 スタッフの一人に声をかけたところ、同センターに常駐する装蹄師・兒玉聡太さん(32)だった。

 装蹄師とは馬の蹄(ひづめ)に蹄鉄を打つ技術者のこと。体重400~500㌔の体で走るサラブレッドの脚には大きな負荷がかかっている。蹄が摩耗したり割れて変形すれば、パフォーマンスが下がるばかりか、ケガのリスクも高まる。そのため、その馬の蹄の形に合わせた蹄鉄を打ち、保護する必要がある。

 蹄鉄はアルミニウム合金製で、摩耗するため、3週間に1度のペースで打ち変えているという。

 兒玉さんは胴体の下に潜り込み、脚を上げさせて蹄を削る。蹄の形に合わせて蹄鉄を叩いて微調整し、釘で打ち付ける。テンポ良く進めているが、確かな技術と経験がないとできない仕事だ。こうした関係者のサポートにより競馬は成り立っているということだ。

 2021年、競走馬を擬人化したキャラクターを育ててレースで競わせるスマホゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」が大ヒット。ゲームから競馬に関心を持つ新規ファンが増え、競馬ブームにつながった。「競馬への注目度が高まるのはうれしい。当センターにもぜひ多くの人に見学に来てほしい」と広報担当者は語る。

 震災・原発事故、令和元年東日本台風など、災害により大きな被害を受けながら、復興を遂げているいわき市。そんな同市に同センターが設けられ、療養馬が再起を目指してリハビリに励んでいるのも運命的なものを感じる。

 秋になると中央競馬が盛り上がるシーズンが到来する。福島市の福島競馬場では、第3回福島競馬が11月5日から20日まで延べ6日間の日程で行われる。

 同センターは朝8時から17時まで見学を受け付けている(日曜日は休み、プール見学は夏季平日のみ、改修工事のため、完全閉鎖の時期あり)。秋の福島競馬に合わせて聖地を〝巡礼〟するのも、競馬文化の楽しみ方の一つと言える。

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